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ミッドウェーでは、多聞の意見具申を退けたところから、「兵は拙速を尊ぶ」を
引き合いに出して非難することがよく見られる。
「こうした時点で誤ってはならないことは、手順であろう。
戦後、南雲部隊の作戦参謀であった源田中佐は”帰って来たミッドウェー島
攻撃隊を早く降ろしてやりたいという恩情が仇になった”などと述懐しているが、
この判断ミスは彼我切迫した時は、『巧遅より拙速を尊ぶ』の鉄則を信じない
実戦の修羅場を体験していない者の誤判断の典型であり、この修羅場に於て
恩情などとは戦闘以前のものの考え方である」 (『零戦の運命』坂井三郎/著)
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しかし、本職はこの言葉があまり好きではない。
「故に兵は拙速を聞くも、未だ巧久しきを賭(み)ず」(『孫子』)
「兵には拙速を聞くも、巧遅を聞かず」(『晋書』)
出典はれっきとした史書・兵法書ですから、デタラメだと言うつもりは毛頭ない。
そもそも「作戦篇」の冒頭を確認すればお分かりの通り、『孫子』の言う「拙速」とは
「兵力集中による短期決戦」を意味しており、長期戦による国力疲弊を戒めたもの。
更に古今の戦史を振り返れば、拙速(決断が速いという意味)で成功したのと同じ
くらい拙速で失敗した戦例が存在する。ガ島の一木支隊などその代表例でしょう。
もちろん「山口少将の意見具申は誤りだった」と主張するものではありません。
「兵は拙速を尊ぶだから、即時発進を採用すべきだった」といった論法には賛同
しかねるという意味です。
刻々と戦況が変化する戦場において、「拙速」と「巧遅」の二者択一が成立すると
考えている方が、本職にとっては危険に思えますね。