三菱重工業・名古屋航空宇宙システム製作所。先の大戦時、世界の航空関係者を驚かせた傑作「零戦(れいせん)」
を生み出した、わが国有数の防衛産業拠点として知られる。
その名門で「新世代の零戦」づくりに挑み続ける男たちがいる。
先進技術実証機「心神」の設計・開発を担当するプロジェクトチームのリーダーは大阪府立大学で航空工業・流体力学
を学び、そのまま三菱・名航の門をたたいた岸信夫。
二十代の時、「現代の零戦」と期待された次期支援戦闘機(現F2)開発に立ち上がりから参加。
以来、一貫して「戦闘機屋人生」を歩むエキスパートである。
FSXの売り物の一つだった複合材使用の主翼については詳細な「プロセス・スペック」を添えて、米側に提出したこともある。
晴れてF2の開発が完了、初飛行を迎えた際には愛知県小牧市にある特別施設にこもり、飛行中の機体から逐次送られてくるデ
ータからその出来栄えを厳しくチェックした。
日米双方の軍事技術ナショナリズムがぶつかり合ったFSX紛争を踏まえ、岸は一つのことを確信した。
戦闘機用の複合材開発とフライ・バイ・ワイヤ(FBW)に代表される高度な飛行制御技術(CCV)。
この二点で日本は米国にひけを取らない。その自信を踏み台に、岸は次世代の戦闘機コンセプトづくりに着手する。
1990年三月末のことだった。