そういう観点で「戦闘機選定」という問題を考えれば、外国製の完成品をそのまま輸入してくるだけでは不安が残る。
故障した箇所を補修する技術はもちろん、技術の進展に伴って能力を拡張する技術など貴重なノウハウが丸ごと買うだけでは得られないためだ。
例えば、FSXに採用した複合材の一体成型翼について、技術研究本部は何度も事前のシミュレーションで強度性能を試している。しかし、実機の飛行時に生じる加重の流れなどは「作って飛ばしてみないとわからなかった」と宮部は振り返る。
実際、その後のテストで亀裂が発生し、開発期間の延長を強いられた。
こうした運用支援の観点から、日本にある程度の防衛産業基盤は必要と宮部は考えていた。
要はこれに「技術開発基盤」を加えるべきか。具体的には米国で開発が進んでいたF22などの第五世代戦闘機、
さらにその次に出てくる「第六世代戦闘機」に日本が食らいついていけるのかどうかの一点に尽きた。
同盟という枠にもかかわらず、日本が米国にある程度の「バーゲニングパワー(交渉力)」を
保持するためにも技術基盤は確保しておきたい。
そのすべとして実証機の研究開発には大いに意味がある。そう結論付けた宮部はこの後、
実証機の必要性を説く大古と内々に何度も議論を重ねることになる。