87 :
名無し三等兵:
568 名前:名無し三等兵 メェル:sage 投稿日:2008/02/17(日) 07:15:54 ID:???
米海軍の戦技体系を特徴付けるものとして以下3要素は重要である。
・器材:M2航空機銃とMk8照準器
・射撃技術:完全偏向射撃(フル・デフレクション・シューティング)
・戦技:サイドアプローチ
以後、
米海軍の教範("USN - Fixed Gunnery and Combat Tactics Series")に基づき具体的に述べて行こう。
88 :
名無し三等兵:2008/06/14(土) 19:07:58 ID:???
569 名前:名無し三等兵 メェル:sage 投稿日:2008/02/17(日) 07:16:22 ID:???
まず M2 航空機銃の特性については
>>11のとおり以下のようにまとめられている。
弾丸到達時間(500フィートまで2/10秒、1,000フィートまで4/10秒)
銃の集弾範囲(300フィートで5フィート四方、600 フィートで 10フィート四方、1,200 フィートで 20 フィート四方)
重力の影響(M2機銃の弾丸のような形状であれば 750フィートで16インチ、1,200フィートで40インチ)
弾丸速度の低下(砲口初速 2,700フィート毎秒、1秒後には 530 フィートまたは 20%減衰)
実戦での経験(ガンカメラの記録によれば80%の人間が1500フィートで撃ちだすが90%が外れるとされ
一方1,000フィートまで近寄って射撃を開始すれば80%がヒットを得られるとしている)
これらを勘案し、
また目標を破壊するという見地から残存エネルギーに主眼を置いて、
教範においては攻撃において M2 機銃がもっとも効果を発揮する領域を
1,000フィートから200フィートまでとし、適切な発砲開始距離を 1,000 フィートとしている。
(多発機の旋回機銃のような防御用途では目標の破壊ではなく撃退が目的であるため、
2,000フィートからと規定されている)
これに従い、照準器の設定や戦技の組み立ては基本的に1,000フィートを基準に規定されている。
また、上記のうち、偏向射撃を考えるに当たっては、
基準射程距離 1,000 フィートへの到達時間である 4/10秒という数字は重要な意味を持つ。
89 :
名無し三等兵:2008/06/14(土) 19:08:41 ID:???
570 名前:名無し三等兵 メェル:sage 投稿日:2008/02/17(日) 07:17:08 ID:???
続いて、Mk8 照準器について。
これは K14 のようなジャイロ式照準器ではない、単なる光像式照準器である。
実際にのぞいてみると、反射ガラスには以下のようなパタンが投影される。
「Mark VIII gunsight」
http://www.youtube.com/watch?v=G7KvpWloagE よくある中心点に同心円と放射線だが、これにはどのような意味があるのだろうか。
ここでまず、「ミル(mil)」という概念について押さえておく必要がある。
ウィキペディアの説明が分かりやすいため、引用する(
http://ja.wikipedia.org/wiki/ミル_(角度))。
「ミル (mil) は、主に軍事関係で使われる角度(平面角)の単位である。
1ミルの元々の定義は1ミリラジアン(mrad)である。
「ミル」という名称も、ミリ(mili)に由来するものである。
この定義によれば、1ミルは(1/2000π)=約0.0573度、円周は約6283ミルとなる。
実際には、それに近い、円周をきりの良い値で分割した角度をもって1ミルとしている。
NATO各国ではそれに近い切りのいい値で、円周を6400等分した角度(約0.056°)と定義されている。
これはだいたい1km先の1m幅の物体を見るときの仰角である。(中略)
多くの軍事用コンパスやスコープには、ミルの目盛りが刻まれている。
三角比を利用した次のような公式から、測定した対象のミル角で、対象までの距離を簡単に計算することができる。
対象物の実際の幅または高さ (m) / 対象物までの距離 (km) = 対象のミル角
例えば、人間や戦車の大きさはある程度決まっているため、
それらがどの程度のミル角に見えるかで、そこまでの距離も知ることができる。」
90 :
名無し三等兵:2008/06/14(土) 19:09:12 ID:???
571 名前:名無し三等兵 メェル:sage 投稿日:2008/02/17(日) 07:17:50 ID:???
上記のうち、重要な点が2つある。
まず1つめ。
「だいたい1km先の1m幅の物体を見るときの仰角」という点。
これを図示すると以下のようになる。
1ミル 1ミル 1ミル
↓ ↓ ↓
│ 1 フィート ┐
│ │ 1 フィート │ 約 1メートル
│ │ │ 1 フィート ┘
目──────────────────────────┘
└1,000フィート┘└1,000フィート┘└1,000フィート┘
└──────── 約 1,000 メートル──────┘
1ミルは角度であるので、
距離 1,000 フィートなら長さ 1 フィートに相当し、
距離 2,000 フィートなら長さ 2 フィートに相当し、
距離 3,000 フィート(約1km)なら長さ 3 フィート(約1m)に相当する。
続いて、2つめ。
「人間や戦車の大きさはある程度決まっているため、
それらがどの程度のミル角に見えるかで、そこまでの距離も知ることができる」という点。
対象物の実際の幅または高さ (m) / 対象物までの距離 (km) = 対象のミル角
であるので、以下も成立する。
対象物の実際の幅または高さ (m) / 対象のミル角= 対象物までの距離 (km)
上図を例に取れば 1 メートルのものが 1 ミルの大きさに見えれば
1(メートル) / 1(ミル) = 1(km)となる。
91 :
名無し三等兵:2008/06/14(土) 19:10:28 ID:???
92 :
名無し三等兵:2008/06/14(土) 19:11:18 ID:???
93 :
名無し三等兵:2008/06/14(土) 19:11:57 ID:???
582 名前:名無し三等兵 メェル:sage 投稿日:2008/02/17(日) 18:32:41 ID:???
>>577 たしかに、列国の光像式照準器においても、目標とリングの関係において距離、
というか射撃開始適正位置を判断するという使い方は標準的なものであるといえる。
例えば以下はドイツの Revi のチュートリアルガイドだが、リングと距離の関係が
明確に示されている。ここでは、翼幅 30 m の 4 発機がリング一杯になったら 300m としている。
http://ww2airfronts.org/Flight%20School/transition/weaponsschool/revishoot.html 米海軍ふうに言えば翼幅 100 フィートの 4 発機がリング一杯になったら 1,000 フィート、
なのでリングの直径は 100 ミルであるといえる。
なお、WWII のドイツ軍の教本は陸軍空軍を問わず、図解には何故か女が出てくる。
94 :
名無し三等兵:2008/06/14(土) 19:12:39 ID:???
583 名前:名無し三等兵 メェル:sage 投稿日:2008/02/17(日) 18:34:21 ID:???
さて、Mk8 に話を戻すと、
この器材はミル量によって長さを図る機能を持っていると言うことを確認しておこう。
この機能が、次に述べる米海軍固有の完全偏向射撃(フル・デフレクション・シューティング)を
サポートするものとなる。
フル・デフレクションとは、目標と自機との角度が最大になる場合、
つまり 90 度の角度を以て射撃することをいう。図示すると以下のようになる。
http://i35.photobucket.com/albums/d198/Todd99/gun6.jpg 真横から射撃する場合、照準器の中心点に目標をとらえてから射撃したのでは、
弾丸が目標位置に到達する頃には目標はずっと進行方向の先の方に移動してしまっている。
従って目標の未来位置に対し撃ちかける必要がある。
その見越し量はどのように算出されるのであろうか?
いいかえると、見えている目標の前方どれだけの位置に射撃すればよいのだろうか?
95 :
名無し三等兵:2008/06/14(土) 19:13:29 ID:???
584 名前:名無し三等兵 メェル:sage 投稿日:2008/02/17(日) 18:35:27 ID:???
ここで
>>569 に記した M2 航空機銃の弾丸到達時間である 1,000 フィート 4/10秒という
数字が意味を持つものとなる。射撃開始距離を 1,000 フィートとした場合、
M2 航空機銃の弾丸が そこに到達するには 4/10 秒を要する。
従って、弾丸が目標にヒットする点は、
目標がその保持速度で 4/10 秒進んだ先の位置であるということになる。
ちょっと寄り道。
Mk8 照準機上で長さを測る単位はミルでありフィートに等しい。
このため、長さはフィート換算を行っておく必要がある。
さらに、米海軍では速度表示にノットを用いるため、ノット/フィート換算を行う。
1ノットは時速 6,080 フィート(約 1,853 メートル)である。
従って 1 ノットは毎秒 6,080 / 3,600 = 1.69 フィートということになる。
そこで例えば 90 ノットの目標は 4/10 秒後何フィート先に居るだろうか?
4/10 * 90 * 1.69 = 60.84 フィート先である。
よって目標距離 1,000 フィートの場合はおおむね 60 フィート前方を狙えばよい。
では同じく 120 ノットの目標では?
4/10 * 120 * 1.69 = 81.12 フィート先である。
よっておおむね 80 フィート前方を狙えばよい。
96 :
名無し三等兵:2008/06/14(土) 19:14:24 ID:???
585 名前:名無し三等兵 メェル:sage 投稿日:2008/02/17(日) 18:39:04 ID:???
ここから米海軍では、「2/3 ルール」という規則を設けた。
つまり目標距離 1,000 フィートにおいては、
ノット換算における目標速度の 2/3 の量を見越し量とすればよい。
以下・・・
目標速度 見越し量
360 ノット 240 ミル
330 ノット 220 ミル
300 ノット 200 ミル
270 ノット 180 ミル
240 ノット 160 ミル
210 ノット 140 ミル
180 ノット 120 ミル
150 ノット 100 ミル
120 ノット 80 ミル
90 ノット 60 ミル
なお補足して、
目標上昇時は速度が低下するので見越し量を 3/4 とするように記され、
目標降下時は速度が終端速度に向け逐次増加するため降下速度に応じて増加するとされている。
さて目標の速度といっても戦闘時にはそうバリエーションがあるわけではなく、
教範では巡航と最大速度について教えられている。もう一度
>>573の資料を確認しよう。
(下図は陸軍向け資料なのでマイル表記)。
http://i35.photobucket.com/albums/d198/Todd99/gun7.jpg 零戦21型の場合、巡航 170 マイル、最大 325 マイルであるとされる。
注意すべきは零戦32 型で、最大速度は 340 マイルと 10 % も増えていないものの、
巡航速度が 210 マイルと 25% 近く増加している。
射撃条件としては大きく異なるため、たしかに別物扱いとなるだろう。