基本的に、弾丸に被弾すると弾頭は対象の内部を貫通しながら通過します。
この際、抵抗によるキネティック(運動)エナジーの消費が大きい場合、周囲の組織を拡張します。
逆に抵抗が少ない場合、組織破壊は少なくなりますが、貫通力が高くなります。
ゆえに破損しやすい弾丸は破壊率が高くなり、破損しにくい弾丸は貫通力が高くなります。
また弾頭が破損しなくとも、飛来中に偏向が発生すると運動エナジー消費が増し、破壊力が増します。
銃創学では、銃器の殺傷力は大きく分けてLVW(LowVelocityWounds)とHVW(HighVelocityWounds)とに
区別され、弾頭の種類や形状によっても変わりますが、なによりもまず弾の種類によって、殺傷力は
大きく異なります。
LVWは低速弾銃創で、拳銃など小型銃器による損傷です。
HVWは高速弾銃創で、ライフル弾や機関銃弾などによる損傷です。
その違いは発射薬と弾頭との比率にあります。
LVWでは、飛来する弾丸のK(運動)エナジーが低いため、被弾部位により筋肉などの弾力性のある
部位であれば、弓矢で射られたのと変わらない損傷になります。
つまり、弾頭の通過した弾道(瞬間空洞)が、そのまま対象への殺傷効果(永久空洞)になります。
HVWでは、その弾速は音速の2〜2.5倍を超えるため、衝撃波(ソニックブーム)が発生します。
弾頭自体のKエナジーの大きさもあり、被弾した際には弾頭の通過に伴い、周囲の組織が大きく
拡張されますが、元に戻らずそのまま破壊されます。
つまり、弾頭の通過した弾頭(瞬間空洞)よりも、遥かに大きい破壊を対象にもたらします。
余談ですが、衝撃波によりKエナジーが急激に消費される、という性質により、水中へ向けて
発砲した場合、殺傷力をほとんど失ってしまう、という特質があります。
次に、被弾により肉体に損傷を受けた際の死因について述べます。
銃撃による死因の第一位は、失血死(Blood Loss)です。
損傷部位にもよりますが、頚動脈や大動脈を直撃されない限り、かなりの長時間生存します。
言うまでもなく、損傷面積が増えれば増えるほど出血は酷くなりますが、瞬間停止は望めません。
一方、短時間での即死、または瞬間的な行動不能を目的とした場合、手段はかなり限られます。
1.中枢神経系(脳幹)への直撃
2.RAS(細網活性組織)への刺激
3.多臓器不全の瞬間的誘発(破壊)
1は、頭の中央の脳幹を破壊する事です。当然ながら文字通り即死します。
2は、痛覚神経からの過剰な信号を感知した際、神経系が一種のショート状態になる現象で、
いわゆる神経ショック症状です。
この神経ショックはかなりの個人差があり、人によっては車に轢かれたり、場合によっては
蜂に刺されただけでも誘発します。
程度により失神、意識混濁、ショック死まで様々な症状が出ますが、脳内麻薬や覚醒剤の使用、
飲酒等により、人によっては全く発生しなくなる事があり、意図的に狙うのは困難です。
3は、バイタルを中心とした重要臓器を、広範囲に瞬間的に破壊してしまう事です。
対大型獣用大口径ライフル弾の直撃や、爆発物でも使用しない限り、まず狙う事は不可能です。
ちなみに拳銃弾のLVWでは、1の脳幹直撃、2のRASショック以外では、瞬間停止は望めません。
人体に対してですらそうなのですから、大型獣相手ではまず不可能です。
そのため大型獣相手には、狩猟用大口径ライフル、専用の破損誘発型弾頭が使用される訳です。