クマの下から見えてきた父親の姿は、見るも無残なものだった。
体を抱きかかえて起こした父の顔は、右半分が
骸骨となり、耳と頬の肉と一緒に、丸い目の玉が
筋でぶら下がり、ぶらぶらと揺れていた。
頭も額も首も血の海だった。
気丈なSさんは、息子に手伝わせてこれらの肉を
元に戻し、タオルで巻いた。
その間に彼は息子に「クマはどうした?このクマの毛は良いぞ」
といったが、こんな場合、それどころではない。
それはへまをやったことの、息子への照れ隠しであり、
父親としての、俺はこんな怪我ではくじけない、という
見栄から来る平常心の装いだったのだろう。
親子は下山し、あとの二人は別方向へ行かされてたので
この事件には気付かず、時間を見計らって下山した。