佐藤大輔 甲斐性74

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425電網少佐
「遙かなるスタン・スタンダール
または、ビューティフル・ドリンカー」

 始まりの頃。
僕は、世界を創り出すことが快楽なのだと思っていた。
快楽と感動を人に与える世界。

その別世界での無情も悲惨さも、そして死も、
そこでの現実感と快楽、そして感動のためのエッセンスなのだと、
割り切ったつもりでいた。

更に、
僕は関係したジャンルの全てに新機軸をもたらそうと努め、
それに成功した。

自己満足のための白昼夢ではない、
現実・史実に根ざしたバリエーションによる論理的な因果によって、
この世界との繋がりをなくす事のない、しかし別の世界の構築へと励んだ。
426電網少佐:2007/09/19(水) 20:25:54 ID:???


 とはいえ、だが。

どんなに論理的であり、あり得べき世界であろうと、
それは、やはり、自己満足であり、自慰的行為であり、
これは代償的白昼夢の花にすぎない。

人間は困難によって成長する、という。
白昼夢に問題があるとすれば、それは、そこに困難が乏しいからだ。

白昼夢に飽いた吸血鬼は、戦争を欲したという。

戦争とは、霧であり、恐怖であり、望まざるものの来訪である。

なら、望まざる事態を到来を感じ、経て、
現実と格闘し、困難な生を深く味わう契機となるが故に、
生きている気分を味わいたかったが故に、
吸血鬼は戦争を欲したのであろう。
427電網少佐:2007/09/19(水) 20:26:34 ID:???

私の読者が、衆愚の中の選良であることは確かだ。
知識と論理からなる別世界の白昼夢を愛する愛しき者達。

で、あるのならば、
彼らに、私が現実世界の困苦を、希望と現実との乖離とを
深く体感させようとすることは愛情故の行為であったと今ならば言える。

遅筆は、持久戦を強いられる兵士の心境を、
出版の延期は、未だこぬ援軍を願う包囲軍下の苦しみを、
休載そして絶筆は、圧倒的な砲爆撃の元で、愛するものを罪無くして失う絶望を
現実的に選良たる君たちにもたらすシミュレーションであった。


そう、困難を。


かくして、白昼夢を請い求め、
自らを良心などと名付ける幼き心情を、
桃色塗装のエレファントとの格闘の中で葬り去り、
私は人にも自分にも困難な成長の道を邁進した。
428電網少佐:2007/09/19(水) 20:27:21 ID:???


 そして、漫画化の話が来た。
「絵」という視覚情報による白昼夢。

しかも、圧倒的なリアリティのある白昼夢。
それは困難な道だ。

困難ならば進まねばならない。

かく決心し、僕を原作者とした連載がはじまる。

そして、ある時、僕は気づいたのだ。
この画家は、絵を生き甲斐にしている。

絵の世界で白昼夢に生きているのだ。

よし。
困難を。
よりリアルな困難を。
人生の成長のために困難を。

作画家、編集者、愛読者、全てのみんなへの愛情溢れる困難を。

多くの人の非難を恐れなかった僕ほど
みんなを愛しているものはおそらくいない。
429電網少佐:2007/09/19(水) 20:28:05 ID:???
 以上、遅筆と約束破りに酔う、性格破綻者の甲斐無い台詞であろうか。

たしかに、以上書きつらねたことには、自己欺瞞がある。
が、その欺瞞は、おそらく皆が思うような欺瞞ではない。

 当初は本当に善意だった。
より、リアリティ溢れる白昼夢を目指し、一本の木を植える男。

が、その植樹は花を咲かさず、実をつけず、幹も朽ち果て倒れていった時。

いや、何よりも、ネットの世界に沈潜した時。

この自分を恋求め、この自分を怨嗟する人々の声を聞いた時。
その時、
脳髄に響く声が聞こえた。

打ち倒されても、打ち倒されても、人を求めさまよい、
死ぬことかなわず、生き腐れていく人々の群れ。

そのとき、僕は、父なる神が、その愛し子イエスを十字架にかけ、
イエスが「エリ・エリ・レマ・サバクタニ」と言わせた理由がよくわかった。

やはり、今でも、僕は世界を創ることが大好きなのだ。

みんな、大好きだよ。