自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた第57章

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678亀蜻蛉 ◆aDC37xH6dI
 艦橋にいた誰もが沈黙していた。ある者は口が開いたまま呆然としていて、またある者は目の前で繰り広げられている
光景が真実なのか幻覚なのか見定めようと目を凝らしている。
「う、<うめ>が!」
 なんとか声を絞り出したらしい副長の言葉が、その光景が現実であることを伝えていた。
 196X年、海上自衛隊が警備隊と呼ばれる頃から任務に就き、日本の海を守っていた船、PF289<うめ>はその生涯を
閉じようとしていた。海面から出た巨大な触手が巻きついた船体は、すでにVの字に折れ、海面は脱出した乗組員で溢れ
ていた。
 僚艦であるPF288<かや>は、その光景を黙ってみているしかなかった。下手に攻撃すれば<うめ>にも被害が出る
からである。だが、もはや<うめ>は助からない。艦長の吉沢2佐は決断した。
「前甲板主砲、撃ち方用意!」
 艦橋にいた全員の視線が吉沢に集中した。艦長が正気を失ったのではと考えた乗組員たちであったが、吉沢の目がそ
れを否定している。平静、そして冷徹さを伝える目は、<うめ>とそれを襲う化け物の触手に向けられている。
「艦長。ここで攻撃すれば<うめ>に被害が…」
「もはや<うめ>は助からん。ここでヤツを逃がせばさらに被害が広がる。ここで食い止めるしかにんだ」
 必死で訴える副長を遮って放たれた吉沢の言葉は、その意思の堅さを表していた。こうなれば命令を実行するしかない
のが乗組員たちの立場である。
「前甲板主砲、撃ち方用意!」
 <かや>の前甲板は3インチ単装砲が2門備えつけられている。完全な手動砲であり、それぞれの砲に操作要員が配置
されているが、命令を受け取った彼らにも動揺が広がっていることが艦橋からでも分かる。
「撃ち方はじめ!」
 砲雷長がそう叫ぶと同時に、まず前の砲が、僅かに遅れて後ろの砲が火を噴いた。だがどちらの弾も、触手にも<うめ>
にも当たらず、僅かに離れた海面に2つの水柱が立っただけだった。だが、それに驚いたのか、触手は<うめ>を離し海面
下に消えた。その衝撃で完全に2つに分かれた<うめ>の船体も沈みはじめた。
679亀蜻蛉 ◆aDC37xH6dI :2007/07/21(土) 16:15:08 ID:???
 196X年。ベトナム戦争が激化した頃、アメリカ領オキナワとともに日本列島は異世界に召喚された。豊富な資源を持つ
異世界の大陸の某国と国交を結び、資源と引き換えに今まさに大国の侵攻を受けようとしている某国への軍事的援助を
求められた日本は否応無しに戦争に巻き込まれた。猛反発する革新陣営を無理やり抑えつけて自衛隊の派遣を与党が
強行採決すると、全国で反政府デモや闘争が起こり、各地で機動隊と衝突し、遂には自衛隊が治安出動する事態にまで
発展した。大陸に派遣された自衛隊は、圧倒的火力で大国に大打撃を与える一方、後方支援体制の不備や機械化の遅
れが崇り苦しい状況が続いていた。
 そんな最中だった。日本列島と大陸の間の海域で突如消息を絶ち行方不明になる船舶が相次いだのだ。救難信号を
受信し緊急出動した海上保安庁の飛行機が船を海底に引き込む巨大な怪物、クラーケンの姿を確認すると、最大の被害
を出した某県漁協は海上保安庁に駆除を要請したが何の成果を得ることはできずに、遂に自衛隊に掃討命令(訓練名目)
が下った。
 出動した駆潜艇群がクラーケンの潜んでいると思われる海域に爆雷を投下すると、たちまち巨大な触手に襲われ、1隻
が沈められると、近海で大国の私掠船を警戒して哨戒中の<かや><うめ>が増援として派遣されたが、返り討ちされて
しまった。
 護衛艦を失い、事態を重く見た海上自衛隊が護衛艦隊主力に出動命令を出したのは、<うめ>撃沈の翌日であった。


公約違反だが、投下してみた。
続くかも。