江畑謙介☆☆江畑謙介☆☆江畑謙介 9

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610山口レポ 1/10
 昨日の講演に行ってきたんでレポ。メモと記憶で書いてるんで、いろいろ違う部分も
あるだろうが、そこは勘弁。
 かなり長いんで、ウザイと思う人は読み飛ばしてくれ。
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 定員150人だったが、席の埋まり具合は8割ぐらい。
 壮年の男性が中心と思ったが、お年をめした夫婦づれが目立つ。岩国の基地問題に
ついて、いろいろ聞きたいのだろう。
 テーブルには3色ボールペンと、紙が4枚。うちわけは、江畑氏のプロフィール、講演
内容のプログラム、メモ用紙、アンケート。プログラムの大見出しだけ、抜き出しておく。

  「日本の防衛は大丈夫か? 〜米軍再編と岩国基地〜」
   1:在外米軍再編とアジア・太平洋地域の戦略状況
   2:在韓米軍と在日米軍の再編
   3:北朝鮮の軍事的脅威と核問題
   4:中国のエネルギー事情と軍事的脅威

 まず、主催者であるYAB社長があいさつ。そのあと、江畑氏を「軍事評論家」と紹介。
 それを受けて江畑氏。
「さきほど『軍事評論家』と紹介されましたが、私は自分を評論家だとは言っていない。
評論家とは、その人の主義や価値観をもとに、いい悪いといった意見を言う人だと
思っているからだ。
 自分はそういうことをせず、いろいろな視点から客観的に何かを言うだけ。人のやる
ことだから完璧とはいかないが、できるだけそうするように心がけている。いい悪いの
判断は、お聞きのみなさんがご自分でやればいい」
 また、
「自分は持病があって、長い時間しゃべっていると咳が出てくる。お聞き苦しい場面も
あるだろうが、ご容赦ねがいたい」
 とのこと。実際に、咳をしたあと水差しの水を飲む場面が、何度かあった。
611山口レポ 2/10:2006/09/28(木) 19:26:29 ID:???
■ 1:在外米軍再編とアジア・太平洋地域の戦略状況
 いまの世界で、さしせまった軍事的脅威がある地域は、北東アジアのみ。日本に
とって、北朝鮮は目の前にある脅威で、中国はまだ先の脅威。
 冷戦終了後、アメリカは「不安定な弧」(東欧〜中東〜中央アジア〜極東)での
紛争を念頭に、軍を編成してきた。しかし、脅威の多元化や中国の軍拡などから、
さらなる見直しをせまられている。
 そのため、西太平洋地域(グアムやハワイなど)に戦力を集中したり、在外米軍の
削減・再編成などをしたりしている。

■ 2:在韓米軍と在日米軍の再編
(1)在韓米軍再編
 在外米軍削減の3分の2は欧州で、3分の1は韓国。(削減幅で欧州が大きいのは、
ヨーロッパにさしせまった脅威がないため)
 今までの在韓米軍は、38度線にはりついたまま動かせないので、軍事的な効率が
悪かった。そこで在韓米軍を、朝鮮半島南部や韓国国外に移動させて、効率的な
運用を可能にさせる。対北朝鮮の戦力が低下すると思われるが、米軍の近代化・
効率化および、韓国軍の装備の充実で対応する。
 韓国のノ・ムヒョン大統領は、韓国軍の統帥権を握ることと、在韓米軍を韓国軍の
指揮下に置くことを望んでいる。これについてアメリカは、「米軍を指揮できるのは
アメリカ大統領のみだから」という理由で、ノ・ムヒョン側の要求を拒否。(日本の場合、
自衛隊と在日米軍は同じ立場で、上下関係はない)
 韓国への統帥権の返還を、アメリカが2009年に早めようとしているのは、こうした
意見の相違が原因。
 なお、米軍削減について北朝鮮がどう判断するかが、注目される。北朝鮮は外に出る
情報が極端に少ないので、そのときどういう対応をするか、まったく予想がつかない。
612山口レポ 3/10:2006/09/28(木) 19:27:01 ID:???
(2)在日米軍再編
 太平洋を越えた前線である日本に軍事拠点が持てるのは、アメリカにとって大変な
利益。厚木から岩国に空母艦載機を移すのは、米軍にメリットがないので、アメリカが
日本に大幅譲歩した結果だと受け取れる。
 在日米軍再編について、アメリカは世界戦略をもとにした総合的な話をしているが、
日本は沖縄の負担軽減や厚木の騒音問題といった、個別の話ばかりしている。また、
アメリカは「戦略の見直し」と言っているが、日本は「日米安保の延長」だと言っている。
こうした日米の取り組み方の違いが、再編問題を分かりにくくしているのではないか。
 岩国基地の空母艦載機移転と、沖縄の米軍削減がリンクしているかどうかは不明。
沖縄の削減がなくても、艦載機が岩国に来るという事態もありえる。

★岩国基地に空母艦載機部隊が来た場合の諸問題について
1)軍用機の騒音と事故が増加
 「軍用機は危険」という考えは間違い。落ちる飛行機を、わざわざ作るはずがない。
 機数が増えれば事故が増えるのは、当然の理屈。
  騒音については、厚木の市民だってこころよく思っていない。どうしようもないこと。
2)空母が岩国に停泊するか
  アメリカ側が岩国基地に、空母接岸能力を要求するかもしれない。これについて、
 日本政府がはっきり言及しないのが気にかかる。
3)空母乗員の家族の住宅
  広大な敷地の確保だけでなく、住宅地の安全の確保も必要になってくる。'96年に
 サウジアラビアで、米兵家族の住宅地を狙ったテロが起きた。こうしたことを念頭に
 おいておく必要がある。
613山口レポ 4/10:2006/09/28(木) 19:27:35 ID:???
山口レポ 4/10

■ 3:北朝鮮の軍事的脅威と核問題
 北の通常戦力は、まるっきりダメ。
 特殊部隊については、上陸できる数は大したことないだろうから、戦力的にどうこう
いう必要はない。ただし、大規模施設(原発や鉄道など)への工作活動から、混乱が
生じる懸念がある。

★北朝鮮のミサイルについて
 7月のミサイル乱射についてだが、テポドン2は失敗。
 しかし残りの6発の落下地点は、当初日本が発表した地域よりやや北(陸地側)で、
ここは当日、北朝鮮船の航行禁止区域になっていた。これらの成功したミサイルは、
日本にとって脅威となる。
 スカッドミサイルを日本に向けて10発撃てば、今の日本のミサイル防衛体制では、
情報が飽和状態になって対応できない。
 通常弾頭の被害でいえば、第二次大戦の独V2ミサイルは、1050発で死者5000人。
しかし核弾頭の場合、半径2km以内に被害がおよぶ。これを防ぐために、あらたな
ミサイル防衛システムの構築が進んでいる。
 アメリカ側は、青森のレーダー基地や、嘉手納へのパトリオットミサイルの配備など。
日本側は、ミサイル防衛計画の前倒し。
 しかし、北朝鮮からミサイルが発射されたあと、予想落下地点の自治体に通報が
入るまで、4分から10分かかる。時間的余裕がないので、今の時点でことが起これば、
どうすることもできないだろう。
614山口レポ 5/10:2006/09/28(木) 19:28:11 ID:???
★北朝鮮の核開発について
 北朝鮮が核にこだわるのは、核保有国の地位が欲しいから。
 インドやパキスタンの核保有も、当初はアメリカの経済制裁などを受けた。しかし今の
両国は、核保有国として世界に認知されている。現在の印パ両国のように、核によって
国際社会での地位を高めることが、北朝鮮首脳部のの狙い。
 北朝鮮は、すでに核兵器を保有している可能性が高い。
 '98年5月にパキスタンで核実験が行なわれたが、このとき使われたのは、ウランでは
なくプルトニウム。当時パキスタンが持っていた核物質はウランのみで、プルトニウムは
保有していなかった。そのため、北朝鮮が持ちこんだプルトニウムを使って、朝パ共同の
核実験を行なったのではないかと推測されている。
 しかし、国内での核実験をやらないかぎり、北朝鮮が核保有国と認知されることは
ないはずだ。
615山口レポ 6/10:2006/09/28(木) 19:28:43 ID:???
■ 4:中国のエネルギー事情と軍事的脅威
 近年の中国は、エネルギーの輸入量・消費量ともに、世界のトップクラス。
 石油については、イランとコンビを組んでいる。イランが石油を輸出する代わりに、
中国が自国製兵器を輸出するという具合だ。このまえ起きたイスラエル軍とヒズボラの
衝突で、ヒズボラ側は強力な兵器を保有していたが、これはイラン経由で渡った中国の
兵器だ。

★中国の資源開発からくる周辺国との摩擦について
 中国は、南シナ海にある石油を狙っており、そこの領有権の確保を目指している。
南シナ海をめぐっては、ベトナムやフィリピンと対立しているので、今後の火種になる
のは間違いない。
 日中の懸念材料となっているガス田問題も、同じように中国の資源確保から生じた
ものだ。ここで問題になるのが、両国の政治体制の違い。
 日本は民主主義・自由主義の国だから、コストに見合わないと判断すれば、ガス田
開発をやめるだろう。
 しかし中国は、一党独裁の共産主義国家だ。党がやると言えば、どんなにコストが
かかっても絶対にやる。こうした姿勢が、該当地域における中国の実行支配を確立し、
ひいては日本の領海減少につながりかねないので、注視する必要がある。
 私見だが、共産党独裁の中国に、民主化の幻想を持ってはいけない。独裁者は、
自分の特権を絶対に放棄しないからだ。
616山口レポ 7/10:2006/09/28(木) 19:29:16 ID:???
★資源確保にともなう中国の軍拡について
 中国はいま、必要とする膨大なエネルギー資源を確保するため、活発な外交を展開
している。アフリカや南米諸国との関係強化や、中央アジアにおける資源開発への
投資などがそれだ。
 ここで問題になるのが、中東から中国へのタンカー航路。ここには、インド、ベトナム、
台湾など、中国と敵対関係にある国が多い。同盟国や友邦は存在せず、敵だらけだと
言っていいくらいだ。
 パイプラインの構築や、資源を輸出してくれる国を多角化することなどで、リスクの
分散をこころみているが、根本的な解決にはならない。
 そこで中国は、独自の軍事力のみで、タンカー航路の安全確保をやるつもりでいる。
これに起因する外洋作戦能力の増強が、近年いちじるしい。グアムで起きた、中国海軍
潜水艦の領海侵犯事件が、いい例だ。
 ウクライナからの空母購入の件も、分かりやすいだろう。「マカオでカジノにする」と
言って買った空母を、中国海軍の色に塗りかえている。つまり中国は、海軍に空母が
あることを誇示したいのだ。
 また、好景気からくる資金力をバックにした兵器開発も、見過ごすわけにはいかない。
戦闘機やミサイルなどを独自開発した中国の軍事力は、ここ10年間で飛躍的に向上
している。
 こうした中国の軍拡路線が、日米安全保障の脅威となっている。とくに、石油タンカー
の航路がほぼ一致している日本にとって、死活問題だ。
 タンカーの航路――とくにマラッカ海峡をめぐる両陣営の対立が、これから激しさを
増してくるだろう。くわえて日中間には、沖ノ鳥島などの領土問題も横たわっている。
日本は外交や安全保障を今以上に強化して、いずれ来る中国との決定的な対立に、
備えなければならない。
617山口レポ 8/10:2006/09/28(木) 19:29:48 ID:???
■ 聴講者からの質問 その1
Q. 韓国は最近、地上戦力をほったらかしにして、空海軍の増強に力を入れている。
  F-15Eの購入やイージス艦建造計画などは、どう見ても対日本を意識したものだ。
  こうした韓国の動きについて、江畑先生はどう思われるか?
A. それについて、私はどうこう言える立場にない。ただしアメリカが、「対北朝鮮を
  意識した装備の調達に力を入れろ」と、韓国に文句を言っているのは確かだ。

Q. 日本はF-22を導入できるのか?
A. アメリカは完成品を売りたがっているが、日本はライセンス生産を希望している。
  そうした日米の違いの結果がどうなるか、私にも分からない。

Q. なぜ今、岩国基地の機能拡張が必要なのか? 今のままで何がいけないのか?
A. そうした質問が出てくるのは、日米の安保政策について、国民の理解がえられて
  いない証拠。これは、日本政府の説明不足に起因する。
   しかし、そういう政府を選んだのは国民だ。国の方針をくわしく説明する候補に
  投票したり、各メディアに意見を送るなどして、我々はもっと声を大にすべき。

Q. 日本のミサイル防衛システムは、本当に成功するのか? もし、中国まで視野に
  入れる事態になったら、必要な技術が高度化してしまい、失敗するのではないか?
A. おっしゃる通り、ミサイル防衛システムの構築は、大変むずかしい。それに人間の
  やることなので、完成したから100%安心というものでもない。
   しかし、ほかにミサイルを防ぐ手立てがない以上、やらざるをえない。また、北朝鮮
  のみ相手をすればよい今の時点でやっておけば、対中国のミサイル防衛システムが
  必要になったときの保険にもなる。
618山口レポ 9/10:2006/09/28(木) 19:30:20 ID:???
■ 聴講者からの質問 その2
Q. 今の東京一極集中の状態は、防衛上問題があるのではないか? 国の機能を
  地方に分散したほうが、良いのではないのか?
A. そうしたことをやっている国は、ほとんどない。ブラジルやオーストラリアがそうかも
  しれないが、必ずしも上手くいっているとは言えない。
   国の機能を分散することは、政治的な意味あいが低い。防衛上問題に思われても、
  一極集中は仕方のないことだ。

Q. 先生の著書では、日本の特殊作戦軍についての説明が、ほとんど出てこない。
  何か知っていることがあれば、具体的に解説してほしい。
A. そういう組織については、私もよく知らない。もし詳しく知っていたら、説明する
  わけにはいかないだろう。

Q. 岩国基地の機能強化は、空母の母港化につながるのではないか?
A. それはないし、米軍もそういうことを期待していない。なぜならば、空母のドックを
  作るだけの資金と場所がないからだ。
   また、太平洋に面した横須賀のほうが、空母にとっては何かと便利。岩国基地に
  来るのは航空機のみで、空母の母港化はないと言える。
619山口レポ 10/10:2006/09/28(木) 19:31:00 ID:???
■ 感想
 講演+質問で1時間半くらいだったが、どう考えても時間が足りない。「米軍再編と
日米・米韓安保体制の変化」「北朝鮮情勢」「将来の中国の脅威」と、内容が多岐に
わたるため、それぞれの説明が駆け足ぎみ。江畑氏は、テレビではやらないような
早口で説明することで、なんとか時間内に抑えようとがんばっていた。
 それでも、内容が分かりやすかったのは流石。「話がつまらん」とか「なに言ってる
のか分かんねー」という事態には一切ならず、最後まで興味深く話が聞けた。パワー
ポイントの操作も手馴れたもの。
 パフォーマンス的な言動を一切せず、事実の説明とそこらか導かれる予想を淡々と
つづけるさまは、ある種の畏怖すら覚える。北の核保有の話なんかも、顔色ひとつ
変えずにしゃべってたりしてるんだぞ。
 それと、言葉のはしばしからにじむ腰の低さや人柄のよさは、高感度大。
 はっきり言って、著書から受ける印象そのまんまの人だった。

 あと面白かったのは、質問コーナーでの出来事。「若い人=安保体制」「お年寄り=
岩国基地」「壮年の人=質問せず」というふうに、ほぼ色分けされていた。世代によって、
軍事行政への視点が違っているのか?

 それから、10月9日・10日のYAB夕方ローカルニュースに、江畑氏が出演するとのこと。
ヒマな山口県人はぜひ見よう。