>941 いや、まだまだ未熟なもんで組織とか上下関係とかを出して
その中で動機ちゅうかなぜこの人はこういう風に戦い、こういう風に
行動するのかってのが説明しにくい。そこで、孤独で組織と切り離して
あるいは多少背を向けてこつこつと戦う変人を量産しちゃったかなぁと
反省したのでした。今書いているのも受け入れ側の参謀が高山大隊長を
説得する話の持ちかけ方とかかなりまずいですしねぇ。実際には
相手の出方を見ながらもっとうまくカードを切っていくでしょ。
作戦一緒にやる仲だし。
>>941 いえいえ(汗 プロット太郎氏に設定の面では助けられたりしてます 細かいこと気にせず頑張ってください
誰かラブコメ書いてくれるエロい人いないかなぁ・・・(スマソ、漏れはだめぽ)
タイフーン氏、ラブコメ分が足りないそうですよー
それはそうと稲葉の砲兵隊が壊滅したのはいつごろだったんでしょう?
専用板にて再利用の方針でしたか。失礼しました。
>943 女性兵士と男性兵士が一緒にいる世界ですもんね。あるんだろうなぁ。
いつもドンパチしているわけじゃなくて訓練とか待機の時間も長いだろうし。
つづき
幸いだったのは朝の通勤時間帯に入っており、象はそれぞれ予定通り
ラッシュを避けるため借り上げられた駐車場や、あるいは公共施設の敷地
(登校する小学生に交通安全を訴えるゲートガードとして)に居たこと
だった。移動中だったら経路の変更を伝えるだけでも一仕事だったろう。
選抜乗員たちはすぐさま新経路の偵察に取り掛かり、無事に大隊は移動を
再開することができた。高山大尉は内心、回収戦車よりも象の増産を
強く進めた本部の姿勢を危ぶむものがあったのだが、これまでのところ、
18tハーフトラックを使わずに済んでいる。とはいえ、手元に置いて
一緒に進んだほうが安心できたのは確かだった。
参謀は移動再開を見届けると、低姿勢で挨拶をよこして辞去していった。
アクセルを踏んでも音がしない。ハイブリッド駆動の車らしい。どうにも、
かすかな苛立ち、してやられたという感じが拭えず大尉は珍しく戸惑った。
それにしても昨晩の夢は正夢なのだろうか。そうなるにはあの参謀が関わっ
ている気がする。実現を阻害するほうにか介助するほうであるかは分からないが。
大隊が代替の宿営地に入ったのは計画通りの時刻だった。パチンコ店は
閉店してからさほど経っていない様だ。鋸屋根の工場を模して建てられており、
正面は大きなガラス張りで、内に入ると左右に折り返すように階段があり、
2階に分かれている。床が絨毯敷きなのがありがたい。絨毯は退色している
だろうが、照明の光量を抑えてあるので分からない。湿っていなければ十二分だ。
高架下に車両を並べ、工事車両や資材置き場に見せかけた偽装をし終わる頃に
受け入れ校のトラックが数台現れた。○×高校給食室とアルミ車体に書かれている。
兵らは一様に面食らった顔立ちで、作業の手が止まった者もいる。大尉も
顔が思わず期待でにやけるのを押さえつつ、手がおろそかになるのは隠せなかった。
みるまにトラックはパチンコ店の前に整列し運転手と助手がきびきびと降りて
貨物ドアを開け、テーブルを運び出している。一同が不意を突かれたことには
そのおそらくは全員がおそらくは自分たちと同年齢の女性であることだった。
そこにいたって、大尉は顔を一変させ、かいがしく食事の支度をする一行に
つかつかと歩み寄っていった。
炊事兵、炊事補助兵?の一人がそれをみて大尉に寄ってきた。どうやら
指揮官らしい。黒髪を帽子に纏めて徽章を付けている。参謀のことがあって
からネットで調べたのだが、少佐である。軍事板で少佐と言えばあまり
芳しい記憶には繋がらないのだが、現実には士官不足で大隊を指揮している
大尉と少佐との間には大きな差がある。つまり、佐官とは何らかの部活で
指導的立場にあるものということだからだ。それが女性とくれば相当
鼻っ柱の強い、挫折知らずではないか。真面目そうなのがさらに話の
持って行き方をどうしたものかと思わせる。
>>944 稲葉砲兵戦力は白石本校攻略戦の際、白石の反撃で壊滅。オターキングラード攻防戦には歩兵を支援するため市街地に投入され(ベルリン戦のソ連軍みたいな感じで) さらに消耗 ツンデレ作戦時には大半がロケットで代用されています
ラブコメ編は避難所にw
>プロット太郎氏 新スレはどちらで?
951 :
名無し三等兵:2005/11/16(水) 10:22:16 ID:e6wyvPHk
こちらは埋めないの?
夏休みスレもまだ残ってるんだよね。さすがに埋めた方がいいと思うのだけど……
約束の地のほうに投下しているSSの続きを、夏休みスレ次いでここに落として、埋め立てようと思うのだがどうだろう?
(ちなみに夏休みスレに以前落としたSSは、どうにも詰まってしまって、今は約束の地のほうのSSを優先してます)
向こうに移行したから、漏れはいいと思う
>956-958
どうも。では週末の定期投下は、夏休みスレ、次いでこのスレにすることにします。
埋め
極東さんいつ来るのかな?
その夜は、興奮気味でずっと寝付けなかった。
いくら練習飛行といっても、前線飛行場で実戦機に乗って初めて飛ぶとなれば、興奮しないわけは無い。
しかも、ずっとまえに教練過程で機上作業練習機で飛んで以来、長らく飛んでいないのだ。
しかし、嬉しいのと同時に、同じくらい不安もあった。
教練を終えてから、だいぶ時間が経っている。
機上での操作を忘れていないか心配だ。
なにより、ヘマをやって有紀大佐を失望させたくは無い。
飛行服一式をくれたということは、それだけオレに期待してくれている証なのだから、なんとかそれに答えてあげたい。
そんなことを考えていて、ずっと寝付けず、朝起きられるか心配だったが、幸い時間ぴったりに目が覚めたのは不思議だった。
顔を洗ったり歯を磨いたりと朝の雑事を済ませて、有紀大佐にもらった新品の飛行服に袖を通したとき、問題が起こった。
ゴーグルやブーツなどの小物は大丈夫だったのだが、肝心の飛行服のサイズが合わないのだ。
有紀大佐のサイズに合わせられているらしく、自分にはあまりにも大きすぎる。
有紀大佐は、身長が190cmくらいの長身だが、俺は四捨五入してようやく170cmの身長しかない。
オレより頭一つ分大きいのだ。
有紀大佐は新品と言っていたが、おそらく有紀大佐が自分のためにストックしておいた新品を俺にくれたのだろう。
その気持ちは嬉しい。気持ちだけもらっておけば良かったと思ったが、後の祭りである。
自分の汚れた飛行服を着ていくことも考えたが、それでは有紀大佐は良い顔をしないだろう。
しかし、皮の余ったトドみたいなだぶだぶの服を着て行っても、それはそれで良いことはなさそうである。
少し悩んだすえ、やっぱり有紀大佐にもらった新品でだぶだぶの飛行服を着ていくことにした。
パラシュートをつければ、あれは身体に固定するときに、身体じゅうを服の上からベルトで締めるものだから、なんとかなると考えたのだ。
それでも、ジャケットの方は、俺が着るとまるでオーバーコートみたいになってしまうから、置いていく事に決めた。
こんな見苦しい格好は見られたくないので、なるべく誰にも見つからないようにこっそりと兵器廠に向かう。
朝早いので、基地内は閑散としていて、歩哨以外に人影が見当たらない。
さいわい誰にも見つからずに、すばやく兵器廠までいって、パラシュートを受け取ることができた。
(それでも兵器係に大笑いされてしまった)
兵器係に手伝ってもらって、身体じゅうにパラシュートのベルトを巻きつけると、思ったとおり、ずっと動きやすくなって、見た目もずいぶんマシになった。
兵器係に礼を言って、今度は飛行場へ出る。
スツーカのところでは、整備兵が給油作業を行っていた。
「あ、おはようございます」
「おはよう、有紀大佐はもう来てるのか?」
「いえ、まだ見ていません」
そんなやり取りの後、オレも作業を手伝って、37ミリ砲弾を機関砲に詰めたりしていた。
両翼の機関砲に弾をこめて、次に前方機銃に弾を込めようとしたとき、車椅子の有紀大佐が姿をみせた。
「おはようございます」
「うん、おはよう。少し遅れたかな?」
そう言って時計を見る。
時間はちょうど予定通り5時30分だ。
「いえ、ぴったりです」
「そのようだ。さて、では少尉、ちょっとこっちへ……」
手招きするので、整備員にあとの作業を任せて、有紀大佐のそばに行くと、ややゆっくりした動作で車椅子から立ち上がった。
俺よりも頭一つ大きな長身で、俺を見下ろす。
「気をつけっ!」
急に有紀大佐が大きな声で叫んだ。
オレはかなりびっくりしたが、反射的に背筋をから指先までをピンと伸ばして、直立不動の姿勢をとる。
有紀大佐は少し怖い顔をして、おもむろに一枚の紙を懐から取り出して広げる。
「桜坂龍之介空軍少尉、本日をもって第六六襲撃航空団、司令部飛行班指揮官機の後方機銃手を命ず。異論はあるか?」
「はっ、ありません」
俺が緊張気味に答えると、有紀大佐は「よし……」と一言呟くと、またニッコリと笑って、車椅子に座りなおした。
「形式はこれで終わりだけど、これからよろしくな。私はこんな身体だから、龍之介には何かと迷惑をかけてしまうかもしれない。そのときは申し訳ないけど付き合って欲しい」
「いえ、オレは経験不足ですから、オレの方がお世話になることがたくさんあると思います。そのときはよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げると、有紀大佐は
「……そういうことなら遠慮しないでみっちり仕込んでやるが、良いんだな?」と意味ありげに笑う。
背筋がヒヤッとするものを感じたが、まさか「やっぱり堪忍してつかぁさい」などと泣き言をいうわけにもいかず
「はっ、よろしくお願いします」ともう一度繰り返した。
そのうちに、スツーカは給油作業を終えて、暖機運転のためにエンジンを回し始めた。
少し鈍重なエンジン音が響く。
操縦席に座ってエンジンスロットルを動かしていた整備員が、親指を立てた拳をこっちに向かって突き出してみせた。
計器類も万全、すべて異常なし、という意味だ。
整備員が操縦席から降りてきて、入れ替わりに有紀大佐が乗り込もうとするが、片足が義足のせいでうまく乗れない。
普通、搭乗するときは、まず主翼に乗って、そこを足場にして操縦席に入るのだが、片足義足では踏ん張りが利かないのである。
イモムシが転がるようにして這い上がるのならできないことも無いだろうが、それではあまりにもカッコがつかないので、オレが先に主翼に上がって、有紀大佐を引っ張り上げ、そのまま肩を抱いて操縦席に入るのを助けてやった。
「早速世話になったな。ありがとう」
有紀大佐が操縦席に座ったのを確認してから、オレはひとまず主翼を降りて、回っているプロペラに注意しながら、機体を点検した。
飛行前の機体の確認は、非常時以外は必ずやることになっている。
異常が無いことを再び確認して、それを有紀大佐に報告してから、後方機銃手席に飛び乗った。
そのころには、もうエンジンも暖まっていて、プロペラは快調に回っている。
時計を見た。5時57分。
機体はゆっくりと滑走路へ向かう。
思ったよりも揺れは少ない。
太陽はもう空の四分の一くらいのところまで上がっていて、飛行場の東からまぶしい光を送ってくる。
空は快晴。風は微風。空を飛ぶにはもってこいの日だ。
「龍之介、飛ぶぞ、用意は良いか?」
「はい」
俺が答えるとは、有紀大佐はスロットルを目一杯にあげた。
機体は急に速度を上げて、滑走路を走る。
俺は後ろ向きに座っているから、向かって前向きに加速度が掛かって、ベルトが身体に食い込んでくる。
加速度は思ったよりもずっと大きく、練習機とは比べ物にならないくらい大きい。
どれほど速度が出たのか分からなかったが、まだ滑走路の中ほどまでしか来ていないのに、機体がふわりと浮かび上がった。
後ろ向きに流れていた周りの景色が、今度は斜め後方に遠ざかっていく。
高度7000フィートに達したところで、機は水平飛行に移った。
飛行場は、ずっと下の方に小さく見えて、その周りを広大な平原が広がっている。
地平線の方を見ると、まだ朝もやが残っていて、空と地平線の境界がぼやけて見えた。
「気分はどうだ?」
「さっきから感激しっぱなしですっ!」
俺がそういうと、有紀大佐が苦笑するのがわかった。
「左90度変針、針路60度、訓練空域へ向かう」
「訓練空域ですか?」
「飛行場上空は他の飛行隊の邪魔になるからな。少し離れた場所に移動する」
「了解」
有紀大佐は機体を大きく旋回させ、針路を合わせてから直線飛行に移った。
左上方に太陽があって、それがまぶしい。
訓練空域は飛行場から五分ほどのところにあった。
おそらく飛行場から15kmほど離れたところだ。
目を凝らして見ると、まだ遠くに飛行場が見えていた。
「龍之介、つかぬ事を聞くが、急降下や宙返りをしたことはあるのか?」
「練習機でならありますが、第一線の機体でやったことはありません。あ、それと、この機体は急降下ブレーキがないので気をつけてください」
「わかった。じゃあこれから訓練を始める。気持ち悪くなったら、吐く前に教えてくれ」
「はい」
答えた途端、機体が急降下をはじめた。
地平線が見えなくなって、代わりに真っ青な空が視界いっぱいに広がって、急に重力を感じなくなった。
オレは後席に座っているから、後ろ向きに背中から落ちていくような感覚に襲われる。
イスの背もたれにもたれかかって、そのまま後ろにひっくり返る感じに近いかもしれない。
あるいはジェットコースターに後ろ向きで座るようなものか?
背筋がぞわぞわして、冷や汗が流れる。
人間は、自分の視界の無い方向に体が持っていかれようとするのを、本能的に嫌う。
なんら訓練を受けずにバック転をしようとしてみれば、本能的に体が拒否するのを身を持って実感するだろう。
普通の人なら人間の身長くらいの高さでも拒否反応を起すのに、オレは千フィートもこの後ろ向き落下につき合わされるのだ。
いくら訓練したとはいえ、気持ちの良いものではない。
おそらく6、7秒ほど急降下したところで、機体が反転し今度は急上昇を始めた。
その間、ひどく大きな加速度が掛かって、座席に押し付けられる。
機体がきしむ音が聞こえた。
壊れてしまうのではないか? と不安になったが、俺の心配をよそに、機体は難なく加速度に耐えた。
当然だ。このスツーカは頑丈な急降下爆撃機なのだ。
加速度が掛かっていたのは長い時間ではなく、降下した分に比べたら、上昇は小さいものだった。
有紀大佐はこんな感じで、調子がよさそうに30分くらいこの空域をクルクルと飛び回っていた。
「義足の調子、よさそうですね」
「ああ。飛行機の操縦では思ったほど不自由しないな。そろそろ地上襲撃の訓練に移るか。……龍之介、下を見てみろ」
有紀大佐は機体を斜めに傾けると、そのまま螺旋階段を下りるようにクルクルまわりながら高度を下げ始めた。
機体が斜めになったので、ほぼ真下が見える。
何があるのだろう? とよく観察すると、ななめ下方に戦車が見えた。
「あれは、T−34?」
「そうだ、敵の主力戦車だ」
なぜこんなところに?
驚くよりも不思議に思った。戦線は100キロも彼方なのだ。
「T−34が、なぜこんなところに居るのですか?」
「よく見てみろ」
高度が徐々に下がってくるにつれて、戦車がよく見えるようになってきた。
避弾傾始を考慮して斜めに取り付けられた装甲や、車体に比べて小ぶりな二名用砲塔などが確認できる。
車体全体がすすけたように真っ黒になっていて、各部が赤茶けてさびているのが見えた。
もうずっと前に壊れた戦車らしい。
「見えたかな。あれは緒戦でわが軍が撃破した戦車だよ。あれを目標にして襲撃訓練をやる」
高度が500フィートくらいまで下がったところで、有紀大佐はスツーカの翼をひるがえして、襲撃訓練に入った。
戦車の後方から、低空で突進する。
しかし、いざ37ミリを撃つ位置になったところで、急に機首を上げて、退避してしまった。
「どうしました?」
「義足では細かい操作に違和感があって、思ったより微妙な操作が難しいみたいだ。低空でミスするとそのまま墜落しかねない。今の高度は義足でやるには、ちょっと危ないと思ったんだ」
少し悔しそうな声だった。
やはり義足では生の足には及ばないらしい。
有紀大佐は、機体を大きく旋回させて、まだ先ほどと同じように、戦車を目標に見立てて襲撃行動をとる。
今度は、さっきの倍くらいの高度だったが、それでも地面まで100フィートもない。
そのまま一直線に戦車に向かって突っ込んで行き、戦車を飛び越える直前になって、「ドン」と音がして機体が揺れた。
37ミリ砲を撃ったのだ。
命中したかどうかは後席からは確認できなかったが、有紀大佐が悔しそうに舌打ちしたところをみると、どうやら外れたらしい。
戦車を飛び越して高度を上げ、スツーカが安定したところで、急に有紀大佐に呼ばれた。
「龍之介、37ミリは何発積んでいる?」
「片方の機関砲に十二発、両方合わせれば二十四発です」
このスツーカは37ミリ機関砲を片翼に一丁ずつ、あわせて二丁搭載している。
「そうか。発射速度は?」
「毎分140発撃てるってことになってますが、実際は100発ほどです」
「100発? それでもけっこう早く撃てるんだな」
「この37ミリは、もとは高射機関砲ですから。3.7cm高射機関砲をほとんどそのまま乗っけてるんです」
「なるほど、早いはずだ」
そう言って、有紀大佐はまたスツーカを旋回させて、戦車に向かって降下した。
今度はドン、ドン、とニ撃を戦車側面に撃ち込む。
次は、いままでよりずっと大きく旋回して、戦車から距離をとって突入し、ドンドンドンと三撃をみまった。
「ふーむ…… ダメだなぁ。一航過では二発が限度か」
有紀大佐がつぶやく声が聞こえた。
戦車を飛び越えて旋回し、回り込んで後方に一撃。
それから、再び高度をとって機体を水平飛行に移した。
「龍之介、訓練目標を変えるぞ。別のところにいく」
「別の場所ですか?」
「ああ、静止目標ばかり狙ってもおもしろくない。動目標を撃てるように、地上部隊に頼んでおいたから、そこに行くんだ」
有紀大佐の言葉を聞いて、少し不思議に感じた。
今日の飛行が決まったのは昨日だから、地上部隊に訓練に協力するよう話を通したのは早くても昨日になる。
たった一日で、そこまで話を通せるものだろうか。
例えできたとしても、地上部隊の方の訓練準備が間に合うのか。
まさか、自軍の戦車を的にするわけにもいかないだろうし……
俺が考え込んでいると、有紀大佐に
「どうかしたのか?」と聞かれた。
「いえ、なんでもないです。それより、燃料は大丈夫ですか?」
「この機体の航続距離はどれくらいだ?」
「燃料満載で千キロくらいです」
「というと普通のスツーカより短いのか。……えっと、問題なさそうだ。地上部隊のところまで、往復しても400キロ足らずのはずだ。まだ700キロ飛べるくらいの燃料は残っている」
「わかりました」
「よし、では針路60度、巡航速度」
「了解、針路60度 巡航速度」
復唱してから、自分の航空チャートに時間と一緒に『針路60 巡航』と書き込んだ。
「おそらく一時間も掛からないと思う。今七時だから、むこうに着くのは八時くらいか。ところで龍之介、お腹すいてないか?」
「腹ですか? ええ、腹へってます」
オレは率直に答えた。
今日は朝早かったので食堂が空いておらず、朝飯を食べられなかったのだ。
昨日の夕飯を食べてからあとは、何も食べていない。
「じつはサンドイッチを持ってきてるんだ。よかったら食べないか?」
「えっ、いただけるんですか!」
「二人分持ってきてる。最近は訓練飛行では飛行食を支給してくれないから、食べ物も自前で用意しないといけない。軍もケチになったよ」
有紀大佐は愚痴を言いながら、背中越しにサンドイッチの包みを渡してくれた。
お礼を言って受け取ると、さっそく茶色い紙の包みを開けてみる。
中はトマトと野菜のハムサンドが二つ、タマゴサンドが一つ、ジャムバターサンドが一つ。
おいしそうである。
酒保で購入したものではなさそうだ。
「有紀大佐、自前ってことは……」
「ああ、私が自分で作ったものだよ。朝早すぎて酒保はやってなかったし、自分以外でやってくれる人は居ないからな。……味の方は、龍之介の口に合えば良いんだけど」
そう言われて、見た目はうまそうだが、さて味はどうだろうか、と思って、まずハムサンドを食べてみた。
心のどこかでおそろしく不味いものを期待していたが、食べてみるとパン屋のそれと同じくらいおいしい。
「うまいです。これなら店が開けますよ」
「そ、そうかな? ……いや、からかわないでくれよ」
「いえ、ほんとにうまいですよ」
有紀大佐は照れているようだったが、事実、おいしいのだから仕方が無い。
オレはすぐにハムサンドを食べてしまい、次にタマゴサンドに手を出して、最後にジャムバターサンドを口に放り込んで、あっという間に全部食べきってしまった。
もちろん空腹だったからというのもあるが、それを差し引いてもなかなかの味だ。
しいて言えば量が少ないのが難点だが、成長期の人間の胃袋を満たす量を飛行機に持ち込むのは無理というものだ。
食べ終わってから「ごちそうさまでした」と言うと、有紀大佐は
「あれ? もう食べ終わったのか?」と聞くので、
「全部、腹の中です。すいません、ほんとに腹が減ってたんですよ」と答えた。
「口に合ったのならよかったよ。ところで、食後の紅茶はどうかな?」
「いただきます」
ちょっと図々しくそう答えたが、有紀大佐は特に気にする様子もなく、紅茶の入った魔法瓶を渡してくれた。
紅茶は少しさめていたけど、オレは「ぬるいお茶がどうのこうの」と気にするほど教養が無いので、カップ一杯の紅茶を飲んで一息ついて、「ああ幸せだなぁ」などと気の抜けたことを考えていた。
腹もふくれてノンビリした気分で、特に代わり映えしない景色を眺めながら、40分ほど飛行する。
ときどき眼下に、兵站や汎用トラック、砲兵陣地などが見えたので、上空を旋回してお互い手を振ったりしたが、有紀大佐は
「陣地の偽装がなってない!」と不満そうな声でつぶやいていた。
しかし、訓練に行くはずなのに、地上の状況は前線に近づいていく感じなのが、どうにも解せなかった。
「有紀大佐、これから訓練に行くんですよね?」
「もちろんそうだ。どうかしたのか?」
「前線に近づいている気がするのですが…… さっきの見えた重砲は、射程が20キロくらいですよ。もう前線までいくらも距離がないのでは……」
「協力してくれる地上部隊が居るのが前線近くなのだから仕方ない。それに『最前線』ではないからそれほど心配するな。対空砲と戦闘機で守られた橋を爆撃しに行くわけじゃあないんだ」
有紀大佐は「う〜ん、アレは大変だったなぁ」などとつぶやきながら、「心配するほどのことはない」と言うが、
『対空砲と戦闘機で守られた橋を爆撃しに行く』のと、今回の『訓練飛行』を同列に比べて「大丈夫」と言うあたり、オレとはまったく次元の違う話をしているので、よけいに不安にさせられる。
ただでさえスツーカは鈍重な飛行機なのに、この機体は200kgもある機関砲を積んでいるのだ。
もし敵戦闘機に出会うようなことがあれば、おそらく一撃の下に叩き落されてしまう。
そして、飛行機は敵戦闘機の出没する空域に、たった一機で飛行している。
あきらかに訓練飛行の範疇を超えているように思う。
しかし、「引き返しましょう」とは言えなかった。
敵戦闘機に会うのは嫌だが、有紀大佐にヘタレ扱いされるのも嫌だ。
ため息をつくと、東の空を眺めた。
敵機が来るとすれば東の空だから、そっちを重点的に見張れば、きっと敵がこのスツーカを見つけるより早く敵を見つけられる。
そうして距離が離れている間に退避行動をとれば、航続距離の短い敵戦闘機は深追いしてはこないだろう。
それでも敵がきたら、足元に格納していた旋回機銃で、オレが敵を撃ち落すのだ。
そんなことを考えながら、敵を撃つ手順を頭の中で反芻した。
安全装置を解除し、遊底を動かして初弾を薬室に送り込み、敵に狙いを定めて引き金を引く。
大丈夫、問題ない、と自分に言い聞かせ、さっそく東の空をにらみ始めたところで、有紀大佐が急に
「龍之介、ちょっと下を見てみろ」などと、出鼻をくじくようなことを言う。
「なんだと、この野郎!」と内心毒づきながらも、「なんですか?」と言って地上を眺めると、ちょうど真下に、わが軍の戦車や装甲車が見えた。
指揮通信車と思しき車両や、普通の自動車もいる。
どこかの機甲部隊の司令部らしい。
自走対空砲が車両部隊を守るように散開して配置についており、こちらに砲口を向けて、狙いをつけている。
なんともいえない嫌な感じがした。
味方のものだとわかっていても、対空砲を向けられるのは気持ちのよいことではない。
「下の地上部隊が、訓練に協力してくれる地上部隊ですか?」
「ああ、そうだ。私の友達が指揮官をしてる戦闘団の本部だよ」
有紀大佐がそう言ったところで、地上から無線が入った。
『上空のJu87へ、所属を知らせ』
『第六六襲撃航空団、司令部飛行班指揮官機、有紀空軍大佐だ。連絡は行っているはずだ』
『はい、報告を受けております。……訓練標的は、ここから方位1-2-0に18キロ地点です』
『了解。協力に感謝する』
有紀大佐は無線が切れてから、もう一度上空を旋回して、地上の兵士達に手を振ったあと、指定された方位に機首を向けた。
18キロの距離なら、巡航速度でも10分とかからないだろう。
しかし、航空チャートに書き込んだ情報と現在地を地図で見ると『方位1-2-0に18キロ地点』というのは、あきらかに敵の領空に入っている。
「おかしい!」と思って、何度も見なおし計算しなおしてみたが、結果は変わらない。
「有紀大佐…… このままだと敵の領空に入ります」
「ああ、だから見つからないよう高度を下げている。今100フィートだ」
根本的にズレた答えだった。
やはり俺と有紀大佐とでは、モノの考え方が違うらしい。
「そういうことを言っているのではなくて…… スツーカ一機で敵機に出会えば、簡単に叩き落されてしまいますよ。今日は晴れているから見通しもよくて、見つかりやすいです」
「そうだ。だから超低空を飛んでいるんだ。大丈夫、戦闘機というのは下方視界がほとんどない。まず見つかる心配はないよ」
「訓練飛行なのにやりすぎではないかと言ってるんです」
「たいしたことないさ。……それとも怖いのかな?」
挑発的な物言いにカチンときて、そうさせるためだとわかってはいたが、すぐに
「そんなことありません」と怒鳴ると、有紀大佐は“待ってました”とばかりに、
「なら問題ないじゃないか。後方の見張りをよろしくな」と言って、オレは納得のいかないものを感じつつも、うまく言いくるめられてしまった。
それから10分間は、俺がこれまで生きてきた人生のうちで、もっとも緊張した時間だった。
味方戦闘機の支援もなくたった一機で敵の領空を飛んでいる。
タチの悪い冗談のようなことが現実に自分の身に降りかかっていた。
オレは足元の機銃を掴んで、手元に手繰り寄せた。
それで何が変わるわけでもないが、手元に機銃があるだけでも、いくらか気がまぎれる。
敵が支配する空を見上げながら、有紀大佐はやっぱり頭がおかしいのではないかと思った。
それほど戦争が好きなら、一人で飛んで一人で死んでくれ。俺を巻き込むな。
基地に戻ったら(もし生きて戻れたらだが……)、強引にでも後方機銃手を辞めさせてもらおう。
いくら空が飛べるとしても、キチガイ女のお嫁さんになるなど金輪際お断りだ。
そんな感じで腹を立てていたせいだろうか、恐怖心はまったくなくて、逆に『有紀大佐の肝を冷やす程度に、敵機の攻撃でもないかな』と密かに期待しながら、スツーカの後方180度を見張っていると、有紀大佐がクスクスと不気味に笑っている声が聞こえた。
しまった! まさか今まで考えていたことを、全部口に出してしまっていたか!? と思って、恐る恐る
「ど、どうしたんですか?」と尋ねると、
「敵だ」と短い言葉が返ってきた。
ああ良かった口に出してなかった、と思う反面、「敵」と聞いて穏やかでないものを感じた。
ラボーチキンだろうが、ヤコブレフだろうが、そんなことは関係ない。
敵のどんな戦闘機にしたところで、このスツーカを容易く仕留めるのに十分な性能を持っているのだから、気付かれないうちにズラかるしか生き残る術はない。
「やっぱりマズかったんですよ。見つかる前に逃げましょう」
「うん? 何を言っているのだ? 狩人が鴨を見つけたとき、いったいどうすると思うんだね?」
「そりゃ、撃つに決まってます」
「当然だ。戦闘用意!」
有紀大佐はそう叫んで、スロットルをしぼった。
エンジン音が鈍く小さくなる。
最初、有紀大佐が何を言ってるのか、まったく分からなかった。
狩人である敵戦闘機は、鴨であるスツーカを、黙って見逃すようなことはしない。
有紀大佐の言うように「当然」のことだ。
だからこそ、見つかる前に逃げなければいけないのに、「戦闘用意」とは何事だろうか?
落ち着いて考えてみれば奇妙な事だった。
こんな基本中の基本は、有紀大佐だってわかっているはずだ。……彼女のイカれてない限り。
それでもオレはわずかな希望をかけて、
「有紀大佐、敵機は何機いますか?」と聞いてみる。
「敵機? 敵は飛行機ではない。戦車だ、T−34だ」
「えっ?」
急にそう言われて、オレはすぐに意味を理解することができなかった。
つまり、有紀大佐が「敵」と言ったのを、オレは勝手に「敵戦闘機」だと勘違いしていたのだ。
有紀大佐は本当は「敵戦車」を、すなわち「鴨」を見つけていたのに。
「龍之介は戦果確認をやれっ! 始めるぞっ!」
有紀大佐が大きな声で怒鳴った。
思いもよらない流れの中に放り込まれて、何がなにやらわからないうちに、「ドンドン」と37ミリ砲の砲声が鳴り響く。
オレは、何とかして状況を把握しようと、顔をコックピットガラスに押し付け、できるかぎり地上を見ようとした。
37ミリ砲の砲声の一瞬後に、もっと別の「ドカン」という大きな音が響いて、真っ黒な煙が上がる。
機を傾け、煙を回避してその横を通り過ぎたとき、オレは初めて自分の戦っている相手を見た。
そこにはT−34という、鋼鉄の獣の群れがいた。
背すじがゾクッとして、体が震えた。
群れの真ん中に、爆発して大火災と黒煙を噴き出しているトラックの残骸があった。
トラックは弾薬と燃料の輸送車両だったらしい。
37ミリ砲弾の攻撃力をはるかに超えて、ほとんど原形を留めないほどにバラバラに散らばってしまい、近くにいた戦車三台を巻き込んで、まるでそこだけ魔女の釜が出現したようだった。
スツーカは群れを飛び越え、再度襲撃行動に入るため、一旦そこから距離を置く。
すると、ようやく後席のオレにも、敵の部隊の規模が見えてきた。
戦車大隊規模の集団だ。
戦車70〜80両が、無造作に地上に散らばっていた。
軽い横向きの加速度を感じながらスツーカは大きく旋回し、もう一度戦車集団に向かって突進する。
今度はそこらじゅうから機関銃が撃ちまくられた。
飛び交う曳光弾は、まるで地上から空へ流れる不思議な紅の流れ星のようだ。
有紀大佐はそんなことはお構いなしに、流星雨の下へ機体を滑り込ませると、「ドン、ドン」と、今度は少し間をおいて、37ミリ砲を連射する。
有紀大佐の狙った戦車は、狙ったとおりに薄っぺらな天井部分を撃ち抜かれ、とたんに弾薬が誘爆し、まるでシャンパンのコルク栓のように、砲塔が何十メートルも空を飛んだ。
オレは興奮して、心臓が早鐘のように鳴っていた。
あっという間に、五台の戦車と一台のトラックが、スクラップになってしまったのだ。
「よしっ! 帰るぞ」
「えぇっ?!」
まだ獲物はたくさんいる。
それなのに有紀大佐は基地のある方向に機首を向け、スロットルを全開にして急速に戦場を離脱した。
「なぜ、逃げるんですか? まだあんなにたくさん……」
「37ミリは片側で12発しかないんだろう? それなら、もう弾切れだよ。それに長居すると戦闘機を呼ばれるかもしれない。ところで、戦車は何台潰したかな?」
「はっ、五台です」
「だったら、もう良いじゃないか。『訓練』にしては十分だろう?」
「く、訓練……ですか?」
「そうだよ。実戦訓練だよ。何度もそう言ったじゃないか。これは訓練だって」
開いた口がふさがらない、とはこういうことを言うのだろう。
オレは呆れてしまって、何も言うべき言葉が見つからなかった。
初めて搭乗したスツーカG型の最初の飛行で、たった一機で前線まで出て行き、二航過で戦車五台をスクラップに変えてしまったあげく、『訓練にしては十分だ』などという人間など、どこをさがしても彼女以外いないに違いない。
俺は基地に帰投するまで、半ば放心状態でボーっとして後席に座っていた。
精神的にひどく消耗して、ついさっきまで「単機で危ない」だの「キチガイ女」だのと考えていた自分が、馬鹿みたいに滑稽で肝っ玉の小さい人間みたいに思えた。
アレだけ派手な立ち回りを演じて、戦車五台を潰してから五分と経っていないのに、
「おっひるゴハンは、な〜にかな〜♪」などと上機嫌で調子っ外れた鼻歌を歌っている操縦席の人物は、オレなんかが一生かかってもたどり着けない境地にいるんだと思う。
コックピットガラスの向こうで、空はどこまでも青く広がっていて、太陽はスツーカの後席にも暖かな光を届けてくれる。
今、オレの目には、周りのすべてのものがなんだか大きく映っていた。
そして漠然と、もう少しだけ有紀大佐の後方機銃手を続けてみようと思った。
というのは、有紀大佐についていけば、オレも大きなものに仲間入りできるような気がしたからだ。
――おわり (もしかしたら続く……かも?
987 :
名無し三等兵:2005/12/17(土) 23:12:10 ID:SZ/Zt7gV
お待ちしておりました。面白かったですよ〜
ヒコーキ物ってやっぱり爽快感があっていいなぁ。
変な話なのですが、
どうも自分は「飛行機が飛んでいる」という行為をうまく文章化することが出来なくて昔から悩み事だったり。
戦車とか陸戦系はなんとなく想像がつくのですが。
続き(次回作?)も、期待しております
すすいませんあげてしまいましたOTL
>「飛行機が飛んでいる」という行為をうまく文章化することが出来なくて昔から悩み事だったり。
これは俺も同じです。毎回毎回これで良いのかな?と自問自答して悩んでいます。
想像するしかないっていうのが、苦しいですね。
陸戦と違って、映画でもほとんど扱われず、パイロットの手記くらいしか資料がないので。