前スレでご好評だったジャンプワールドネタです
以前作ったモノを加筆してみました
護衛艦「ささぎり」艦長は腕を組んで考え込んだままだった。すでに僚艦とはぐれて数日。
衛星はおろか、無線での通信も回復しないままだった。それだけではなかった。
天測を試みるも見たことのない星座ばかり。
とりあえず、陸地とおぼしき方角を、これも海流と海底地形を参考に推測した結果にすぎなかったが、
目指していた。
そして、つい1時間前に遭遇した奇妙な船。ガレオン船に見えなくもないが、
ちょっと形状が違っているようだ。乗組員もガレオン船ほど乗っていないように見えた。
無線連絡にも、手旗信号にも答えない。
非現実的な状況を打破しようと彼は思いきってランチで直接接触を試みた。
当然、事前に伝えられる限りの手段で先方に伝えた上でだ。そしてそれにも奇妙な船は応答しなかった。
そこからの1時間はまるで夢でも見ているようだった。艦上の隊員はすべて戦闘配置、CICも奇妙な船
をロックして不測の事態に備えた。だが艦長は心のどこかで安心していた。
「ここは普通に考えて日本だ。いきなりドンパチが始まる世界じゃない」と。
彼の希望的観測はランチの隊員からの連絡で消し飛んだ。
「乗り込もうとした隊員が化け物に襲われました!わあ!なんだ!」
「どうした!」
「変なものが空中から現れて自分の小銃を海に放り込みました!」
もはやランチはパニックに陥っていることは明白だ。艦長はすぐさま退避を命じた。
母船に戻ったランチの乗員からの報告は奇妙奇天烈と言うほかなかった。
「いきなり、あの船の甲板にものすごい毛の生えた動物が現れて、乗り込もうとする田中をこっちに投げ返
したんです・・・」
「そして、自分が銃を構えようとすると、空中から変な手が出てきて自分の銃を海中に放り込みました」
ありえない!艦長はその隊員の表情を見たが、うそを言っている目ではない。そこへ彼をさらに混乱さ
せる報告が入ってきた。
「あ、あの船から2名が後部甲板に乗り込んできました!」
「あれは海賊船です!マストにどくろが!」
後部甲板の船員からの報告を聞いて艦長以下全員は狐につままれたようだった。現代に帆船で海賊行
為におよぶ船が存在するとは聞いたこともない。しかも、自衛隊とは言え、軍艦相手に。次の報告は艦長
の混乱をさらに激しくした。
「乗り込んできた2名と交渉しようとした太田三尉が負傷です!いきなり蹴り倒されました!相手はスーツ
を着てくわえタバコですが、丸腰です」
「水木二曹の小銃が斬られました!二曹も指を負傷です!相手は日本刀らしき刀を抜いています!指
示を!」
艦長はパニック状態に陥りかけていた。最先端の技術を誇るイージス艦に乗り込んできた2名の男。しか
も1人は刀、もう1人は丸腰だという。この状態で戦闘配置の隊員に発砲を許していいのか、彼にはわか
らなかった。思わず、砲雷長が声をかけた。
「艦長!」
それと同時に後部甲板からも叫び声があがった。
「やつら襲ってきます!指示を!」
艦長は反射的に無線のマイクに叫んでいた。これ以上部下を危険にさらせないという本能だった。
「正当防衛射撃を許可する!」
「正当防衛射撃、アイ・サー!」
スピーカーの向こうで無数の89式小銃の銃声が聞こえた。艦長は今まで経験したことのない事態に遭
遇したショックを乗員に知られないようにつとめていた。
指を負傷した大田はハンカチで傷を押さえながら射撃命令を部下に伝えた。銃を構えているとは言え、訓練で少々扱ったことのあるくらいの程度だ。だが、部下たちは確実に弾丸を2名の不審者に撃ち込んだ。
「コックさん!」
悲痛な叫び声が海上から聞こえた。大田がその方向に目をやると信じられないモノが目に入ってきた。何もない空中に現れた無数の手を、猿渡りのようにつたって女がこっちにむかってくるではないか。
「コックさん!しっかり!」
あれよあれよという間に甲板にたどり着いた女。少し日焼けした黒髪の女だった。彼女は銃弾を撃ち込まれて瀕死のスーツ男に歩み寄った。ようやく我に返った甲板員は89式小銃を彼女に向けた。
「う、動くな!」
その声に反応して彼女が顔を上げた。それと同時に、警告する自衛官のすぐそばに例の腕が現れて彼の銃を奪おうとした。
「このやろう!」
背後に回り込んだ別の隊員が女といえども容赦せずに、銃床で彼女の後頭部を殴りつけた。
「ぐ・・・・」
彼女がうめいてうつぶせに倒れると、空中の腕もぱっと消えた。数秒たっても何の変化も起きないこと確認した大田はCICに状況を報告した。とにかく、不審船と距離をおかないと危険だという本能が彼をせき立てていた。
「微速前進。不審船と距離をとれ。敵対行動を監視しろ」
大田の意見具申を妥当と判断した艦長はすぐさま行動を開始した。不審船と数百メートル距離を取ったときだった。オペレーターから声があがった。
「不審船から不明物体が来ます!かなり高速です!」
「ターゲット捕捉!スタンダード・ミサイル発射準備!」
艦長の言葉に砲雷長が割って入った。
「ターゲットに近すぎます!艦上の隊員に損害が出ます!」
「距離400!」
艦長はもう迷うことはなかった。これ以上部下に怪我をさせることも、
危険な目に遭わせることもまっぴらだという気がした。
「近接防空システム、作動!」
「アイ・サー!作動確認よし!」
オペレーターの返事を確かめると砲雷長は迷うことなく命令を下した。
「システム自動!発射!」
分速3000発の20ミリ弾が急速接近する物体に命中した。物体はくだけちるどころか、弾丸を受け止め
て伸び始めた。
「何だあれは!ゴムのように延びてるぞ!」
艦上の隊員が叫ぶ間にもその物体は弾丸を受け止めてぐんぐん伸びていく。その長さは護衛艦と不審
船以上に伸びていった。それでも弾丸を受け止め続け物体は伸びていく。双眼鏡でそれを眺めていた幹
部は思わず叫んだ。
「あれはゴム人形だ!」
彼の言うとおり、その物体は人形みたいだった。胴体の部分に20ミリ弾を受けて恐ろしく伸び続けている
。このままでは、ゴムの反動で弾丸が護衛艦に跳ね返ってくるかも知れない。そう思った瞬間、大きな音
が海上に響いた。
ぱっっつん!!
その音と同時にゴム人形のような物体は胴体部分からちぎれて海中にたたきつけられ見えなくなった。
CICの面々がほっとしたのもつかの間。今度は「ごつん」という衝撃が艦を襲った。
「どうした!」
「被害確認!」
被害確認の命令が艦のあちこちに飛ぶ。しかし艦は無傷だった。
「艦首になにか命中したようですが損害は皆無。不審船からの砲撃と思われます!」
その報告に、一度牙をむいたイージス艦は容赦することはなかった。敵対行動をとり続けるならば、こち
らの安全確保まで対応を続けるのみだった。
「単装砲、諸元入力!発射!」
砲雷長の合図で単装砲は正確にロックした不審船を一撃で打ち砕いた。
こうして、最新鋭イージス艦の奇妙な海域での初めての戦闘は終わった。
艦長は後部甲板で顔をしかめていた。あの不審船から脱出して捕まえた2名の供述があまりにすっとんきょうだったからだ。
「この海域はログフォースがないと進めないのよ!」
Gショックみたいな装飾具を手首につけた女がヒステリックに叫んだ。同じく捕獲した鼻の長い男は粉みじんに吹き飛んだガレオン船を見ながら涙を流している。
気持ちはわからなくもないが、そもそもこのバカが滑空砲なんか撃ち込んでくるから正当防衛射撃を行っただけなのだ。
「司令!数キロ先に複数の艦影です!」
CICからの情報だった。数キロ先に10隻近いガレオン船が集結している。甲板の隊員の目視でも確認できたようだ。
「MARINE」という表記がマストに確認できたことが艦内に伝わった。とたんに安堵の歓声があちこちから聞かれた。アメリカ海兵隊の支援が来たと思われた。だが、その希望を例のGショックの女が打ち砕いてくれた。
「あれは、スモーカー大佐の船団だわ・・・・」
在日米軍の名鑑を調べてもそんな名前の士官はいないことが判明した。そもそも考えてみれば、帆船で同盟国の最新鋭護衛艦を救援に来る軍隊がどこにいるのか?という話だ。「ささぎり」の停船要請を無視して船団は、護衛艦から数キロに迫った。
「麦藁海賊団を渡してもらおう!」
甲板員が双眼鏡で確認したところによると、旗艦らしき船の船首に葉巻をくわえた妙な男がいるという。
「スモーカー大佐だわ・・・・」
まずいな、と艦長は思った。双眼鏡で確認する限り、あの船団は先ほど撃沈した不審船と同様の大砲を搭載している。射程も威力も大したことない滑空砲のようだが、万が一レーダーやアンテナが損傷してしまえば帰還が難しくなる可能性がある。
「渡さないということは奴らも麦藁の仲間だな!撃て!」
数キロ先に発泡炎を確認した。
「全速後進!急げ!」
石川島播磨LM2500ガスタービンエンジンが全力で7250トンの巨体を後ろにやろうとする。その努力は実を結んだ。船団から撃ち込まれた砲弾は間一髪でかわすことができた。艦長はもう迷うことはなかった。
「ハープーンだけではターゲットリッジだ。単装砲も諸源入力!急げ!次が来るぞ!」
砲雷長の怒声がCICに響く。オペレーターは神業的な速度で、「敵船団」をロックした。
「全弾発射!」
垂直に煙を噴き上げてハープーンが上空に舞い上がった。
「なんだあ・・・?」
船首で葉巻をふかしていた男は自分めがけて飛んでくる物体を目を細めて確認しようとした。だが、その物体を彼の目が捕らえる前に、彼は船首ごと吹き飛ばされていた。
「第1弾、敵旗艦に命中!第2弾、敵2番艦に命中!」
「よし!単装砲は敵船の船首を狙え。一発で戦闘不能にしろ」
砲雷長の命令は的確だった。船首に大穴が開いた木造船はマストに風を受けて止まることもできない。すごい勢いで浸水していき、見る見る船体を傾けていった。それに、船首なら砲撃で死傷する人間も最小限にとどめることができよう。
「ちょっと甘い判断だったかな・・・」
レーダーから反応がすべて消えたことを確認して砲雷長はひとりごちた。
「さて、問題はこれからだ・・・」
CICで艦長、副長、砲雷長などの幹部が集まっていた。
「それに例の捕虜・・・というかゲストですが。どうします?」
「まさか海に放り出すわけにもいくまい。近くの港までつれていくしかないだろう。で、この海域の情報は?」
捕虜の看護に当たった幹部が困ったように口ごもる。砲雷長が少しイライラして彼をせかした。
「それが、例の女は「ログがないとわかんない」とか言うばかり。もう1人の女は妙な手品を使うモノですから拘束具を着せてありますので聴取は不可能。男は「俺のゴーイングメリー号が・・・」と繰り返すばかりで話になりません」
艦長はそれを聞いてため息をついた。と、例の「MARINE」のマストをつけた船団の連中を思いだした。
「あのスモーカーとか言う男はどうした?」
「はい、副官と自称する女性によりますと、彼は「悪魔の実」を食べたため泳ぐことができずに海中深く沈んでいったと言っております。」
海軍を自称する割にその指揮官が泳げないとは・・・・。集まった幹部から失笑がこぼれる。だがその失笑も砲雷長の咳払いで静まった。
「と、とにかく、南西方向に港があるらしいということを、例の副官は言っております」
不審船の捕虜3名に、海軍を名乗る船団の捕虜が100名ほど。やっかいなお客を招き入れたものだと艦長は嘆息した。ましてや、正当防衛ではあるが実弾を使っているのだ。帰還の暁には責任問題から逃れることはできないだろう。
「ともあれ、お客さんには早々に退艦してもらわねばならないし、食料の補給も必要だ。南西にあるという港を目指すしかないようだ。それと同時にこれまで通り、目視の監視、天測も充分に行うように。」
「アイ・サー!」
帰還したときの責任問題を自分でかぶる覚悟をした艦長だったが、まさか自分が「麦藁海賊団」を撃破し、海軍きっての強者スモーカー大佐まで葬り去ったことで、2億ベリーの賞金首になっていることなど、まだまだ知る由もなかった・・・。