軍事板の書評スレッド3

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74眠い人 ◆gQikaJHtf2
信じられないが〜スレの元ネタ(苦笑。

白石良著「敷設艇 怒和島(ぬわじま)の航海」(元就出版)

日本海軍を扱った本で、縁の下の力持ちたちを扱った本は少ないが、この本はその中の希有な例。

本自体、凄く薄くて、2時間有れば読めるくらいなのだが、当時の小艦艇乗員の上下一体振りがよく分かる。
作者自体は大阪近辺の地域史を発掘している地元の歴史家さんで、この艇のことは偶然、その艇長さんの息子に
お話を聞く機会があり、それから、関係者への聞き取りなどを行ってこの本を作ったとのこと。

さて、本書の主題である「怒和島」だが、平島型敷設艇の8番艦で1942年に日立桜島竣工した艇。
最初に余り馴染みのない敷設艇というカテゴリーについてさらりとまとめ、次いで、時代の変遷でこの艇がどんな風に
変化していったかを描き、そこから、護衛任務に就いていた頃のエピソードを交えている。

Uボート(呂500)の護衛に駆り出された話、それぞれ個性的な乗組員の話、艇長の話、大田實少将が乗り組んで、
大和、武蔵を見送った話、勿論、海上護衛戦の話も随所に出てくる。
そして、B-29相手の最後の戦闘まで、結構息をつかせぬエピソードが多くて、一気に読み終えてしまった。

ちなみに、この艇の艇長を勤めた久保忠彦大尉は、大阪商船の船長を務め、徴兵後、砲術学校に通い、卒業後は
長門に乗船、そして、特設砲艦新京丸の艦長を務めた後、怒和島の艇長として赴任した。
商船に長く乗っていた関係からか操艦が上手く、狭い港に入るときには一発で接岸すると言う技倆の持ち主で、乗員
もこの艇長を慕い、まさに上下一体となっている様も良く現れている。
戦後は、掃海任務に従事した後、大阪商船に復帰、あるぜんちな丸(II)の初代船長、国際見本市船さくら丸の初代船長を
勤めたりしている。

なお、この本は二部構成で、第一部が怒和島のエピソード、第二部が資料編であるが、戦史資料室の敷設艇行動調書を
元に乗員から聞き書きして追記した行動年表はまさに労作だと思う。