【双発雷撃3】九六陸攻・一式陸攻・銀河・四式重爆

このエントリーをはてなブックマークに追加
485FW190Ta152H-1
483 の続き
 「距離はまだ1万m以上あろうか、爆撃の為に編隊で敵艦隊の進路と反航するかたち
になったとき、一斉にイギリス艦隊から対空射撃が開始された。その猛烈な砲火に二飛曹
は度肝を抜かれた。真っ黒な弾幕に一瞬、敵艦隊が全く見えなくなる。これが噂に聞い
たポムポム砲か、と二飛曹は思った。プリンス・オブ・ウェールズには1分間に6万発を撃て
る8連装の40mm対空機関砲、通称ポムポム砲が付いていると聞かされていた。
 1番機白井機の偵察員は爆撃特修科出身の今井勇吉一飛曹。編隊を組む他の機はこの
爆撃のエキスパートの乗る1番機の一挙手一投足に注視している。爆撃高度3,000m、白井
中隊長は25番爆弾を1航過1弾投下、2航過で必中を期した。目標は針路の関係から
2番艦のレパルスに定められた。8機が緊密した隊形を保ち、1番機の投下とほぼ同時
に他の機も投下、逆三角形の爆弾網で目標を包むのだ。岩崎機の機長でもある偵察員
の、長嶺惣弥一飛曹が正副操縦席のすぐ後にある昇降扉の偵察窓に装着されたボイコー
(爆撃照準器)を覗きながら、機位の修正を指示してくる、「ちょい、右、よーそろー」
「ちょい、左、よーそろー」。爆撃針路に入った編隊は、何があろうとその隊形を崩
してはならない。戦闘機に襲われようと、対空砲火に包まれとうと、である。「投下
用意!」という言葉がレシーバーを通して聞こえると、息を詰める。それから次の命令ま
でがひどく長く感じられた。「てーっ!」25番が機体から離れ、8機の8発が一斉に
落ちていく。時に1245。20秒後、弾着がレパルスの周りを包んだ。「命中したーっ、見
ろ、見ろ」。長嶺一飛曹の興奮した声に偵察窓から下を覗き込むと7本の水柱と同時
にレパルスの後部甲板に上がる紅蓮の炎が見えた。見事8発のうち1発が命中したので
ある。」
486FW190Ta152H-1:04/12/10 15:45:11 ID:4Vzj+tcO
485の続き
 「岩崎二飛曹はそれまでの胸のつかえがいっぺんに取れたような気がすると共に
喜びが込み上げてきた。しかし二飛曹が自分の操縦席に戻りかけた途端、大きな衝
撃が機体を震わせた。左翼前縁から青黒いオイルが流れ出している。左翼のオイルタンクが
被弾したのだ。岩崎機は2航過目の攻撃は不可能と判断し、指揮官機に連絡して戦
線を離脱せざるを得なかった。
 魚雷投下!          一方、帆足電が発進された時、元山空大竹機は
すでにアンバナス諸島を南に下り、シンガポールの線近くまで至っていた。雲量は5から
8位、所々断雲があるものの視界は良好。大竹機では帆足機の電文を受信損なったが、
1番機が右旋回した様子から、敵が発見されたのではないかと思った。12時頃の事
である。1番機が間もなく食事を始めるのを見て、大竹機もそれにならう。皆が交替
で主計科の心尽くしの弁当を開いた。のり巻と卵焼きである。大竹一飛曹は急いで弁
当を口に押し込み、副操の藤原聖一飛と食事を替わった。その直後1番機がざわめい
ているように見えた。中西大尉が窓越しにこちらを向いて海面の方を指差している。
「機長、ト連送!」電信員の山本兵曹と、偵察の冨田兵曹が「敵艦発見!」と叫ぶの
がほぼ同時だった。1番機が大きくバンクしながら右に針路を取り、突っ込んで行く。」
487FW190Ta152H-1:04/12/10 16:03:20 ID:4Vzj+tcO
486の続き
 「大竹一飛曹は全員に攻撃の手順を復唱しろ、と命じた。富田兵曹が「準備よし」
と伝える。
 1番機にぴったりくっついて断雲を抜けると、下にはっきりと何進する2隻の戦艦
と3隻の駆逐艦を認めた。的速25kt、針路南。1番機が突撃のバンクをすると同時に小
隊は散開した。雷撃は各機が緊密な編隊を組む爆撃とは異なり、小隊毎に目標に突っ
込んでいくものの、最後の魚雷投下は各機の判断にゆだねられる。大竹一飛曹は攻撃
前の取り決めどおり、各銃座から試射を行わせ、敵戦闘機に対する警戒を命じた。
 1番機は1番艦のプリンス・オブ・ウェールズに向かっていく。3番機もそれにならったよ
うに見えた。大竹一飛曹は咄嗟に、このままでは射点が後落すると判断し、2番艦に
向かった。敵主力との距離5,000m、高度200m。1番艦と2番艦の間に挟まれる形と
なった為、大竹機には対空砲火が雨霰と飛んできた。これがポムポム砲か、と一飛曹
も思った。弾幕の黒煙で一瞬敵が見えなくなり、また飛び散る弾片が海面に小さな
飛沫をいくつも上げ、これが修羅場というものか、という思いが頭を掠める。
 主操縦席の後に仁王立ちになった富田一飛曹がレパルスとの距離を読み上げる。3,000、
2500・・・・・。猛烈な弾幕だが、弾は機の上をすれすれで飛んでいくように見え、思わず
首を竦めてしまう。」