自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた 第25章
屋上へ出る階段でバッタリ出会ってしまって、互いを牽制している内に漁夫の利を掻っ攫われた者達は
いつしか会話に聞き耳を立てるに至っていた。上の話が進むにつれ、一方の柳眉が引きつり始めたのは…
危険な兆候だ。『多分バレたら半年は口訊いて貰えない』との『少女』の忠告が、辛うじて彼女に自制を
効かせる要因と為った。…彼女とて他人の意見を聞き入れる度量は有る。…その例は滅多に無いのだが。
「…附かぬ事を訊くがの…もしや…お前はこれを知って…? 」
「もうねぇ、ショーネンの頃の里井、もー、うん、凛々しいの。今は何かヒネた雰囲気が少ぉし
あるんだけど、昔は「そのまままっすぐぅー! 」って感じの…って…怒ってるよ、ね…? 」
「妾はいつも思う…。あ奴に笑顔を浮かべさせる、妾以外の全てのモノを破壊してやりたいとな?
…嫉妬と取られても構わん! あ奴の心を慰めるモノ! 妾以外の事をあ奴に考えさせるモノ!
全てのモノを滅してやりたい! …じゃがそれを…当の本人に打ち明ける訳にはいかぬっ…」
「間違い無く、即座に縁切るな。それか…不死者は殺せないから、『これが俺の遣り方だ』って
目の前でスンごく優しく笑って見せて、死ぬか。その意味を貴女は…解るでしょ? 」
なんと、教官がしおらしく、『コクン』と頷いた。絶対の孤独。隣を歩く者の居ない『生』。意味を
見出せぬ怠惰な日々。思えば、弟の『愚行』が無ければ、無駄に過ぎて行く『刻』を溜息を吐きながら、
見送る生を『領地』で送っていた筈だった。…そろそろあれを許すべきか? と彼女はふと思い出す。
『少女』がフッ、と脱力した笑みを見せた。彼女の沈黙をどうやら『同意』と解釈したらしい。その
表情には心無しに、『わたしの圧倒的勝ちぃ! 』と大書して有る様に彼女には見え、もろに癇に障った。
「その意味は、『テメエの勝手に創り上げた俺で満足してろ! 真実の俺は要らないんだろう?! 』
痛烈な皮肉よ。哀しいね…。どうあっても、いずれ里井は、貴女より先に死んでしまうんだから…」
「…だから、『同化』したか? 何故、山田を里井と呼ぶ! 腹立たしい! そんなに共に滅びた
かったか?! 一つに為ったのがそんなに誇らしい事か!! そうじゃ! 今、妾の身を焼くは羨望!
お前は今やあ奴に一番『近い』! どんなに身を摺り寄せても解らぬあ奴の『心奥』を覗け…」
「声が大きい…。少しは黙って聞けんのか? …この私がな、こうも耐えているのだぞ? 」
「さ、榊兄…じゃなくて、榊2尉…! いったい、いつからここに? 」
「…隠行術は『穴』の基本だ。出来なければ『殺られる』だけだ。気息を…おまえに合わせ、気配
を殺す。後は自意識の突出を抑え、場の事象の一つと為らん事だけを願う。…おまえは『知って』
いるだろう。この言葉を私が誰から聞いたのか、そして私が…『何者』なのかも、な…? なあ、
不死者のみが…破壊衝動を抑えている訳では無いのだぞ? …少しは周りにも配慮するのだな」
突然現れたかに見えた榊2尉が、ずっとその場に居た事を知った『カラミティ教官』は羞恥の極みに
達したのか、榊2尉に掴みかかる。あわよくば引き裂いてくれる! との殺意が完全にある必殺の貫手
を、榊2尉は横から捉え、受け流し、その反動を利用して…彼女の体を壁に叩き付ける寸前で『停め』た。
「…私は巡察中だ。不審者を見れば監視し、余計な事をせぬかどうか見極めねばならんからな? 」
視線だけで焼き殺されない彼女の怒りの瞳を、関節を逆に極めながら、榊2尉は嫌味な程、涼しく受け流す。
「止めろ。無駄だ。聞いているのは私だけでは無い。山田は地獄耳で、全部聞いている。不死者の
想いなど…『彼』に懸かれば手に取る様に解っているだろうさ。…だから、憎まれ口を叩くのだ。
嫌われる様に、嫌われる様に、とな…? 何せ私の想いすら…理解出来たのだからな…この…」
「…榊2尉…里井にあの時、なんて言われたか、思い出してよ…。一人で惨めにならないで、ね? 」
「お前は一体…何者なのじゃ! …有ろう事か、この妾の前で偉そうに説教するとは! 」
「! ………ならば聞く! 両方の性を持っている私は、男か? 女か? 言ってみろ! 女め! 」
『少女』が額に手を当て、俯いた。『カラミティ教官』がポカン、と口を開けたまま榊を眺めたまま
になる。そう、不死者の『完全な』美とはまた違うが、そう、人間にしては『整い過ぎた』美だった。
榊2尉は見る者によっては、男にも、女にも、見えてしまう。…これがその違和感の正体だった。
両性具有者。錬金術者の羨望する、『人間』としての完全体だ。…しかしその存在は…自然界に於いて
は圧倒的少数者で…日本国の人間社会の多数派からは奇異の眼で見られる…『被差別者』だった。
「山田は私を『素晴しい』と言ってくれたのだ! それも始めて! 嫌悪する事無く、肩を抱いても
くれた! もし、もし、あの時の…私の思春期に山田に出会っていたとすれば、私は、私はっ…! 」
感極まったのか、榊2尉が泣き崩れる。が、一瞬の事だった。すぐに涙を拭い、『自衛官』の顔に
戻る。その仮面の様な無表情さが、内面に吹き荒れているだろう『嵐』をその場の2人に思わせる。
「他言無用。…明日も早いので、私は失礼する。就寝時間に騒いで『生徒』を起こすな。…以上だ」
気勢を削がれた残された2人は、顔を見合わせ、自室にどちらが言い出すでも無く戻ったのだった。
少数派は現代日本では生き辛い。異質なものは排除の方針さ。
こんなコテも居る。稀少動物扱いで、見逃してくれ。
煽り煽られ振り振られ。スレが荒れるは2chの華、ってなモンでな?
無機質や均質は、小官の『深い根っこ』の部分が一番嫌う類のモノさ!
…小官は、人間だよな? そして、諸君も。
とうかしゅうりょう、やばいみつか