自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた 第20章

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855S・F ◆Pf7jLusqrY
真夏の鷲

その日、少年は車の窓から奇妙な物を見ていた。そこにある殆どの物は見慣れたもの
−渋滞によって寿司詰めになった車道、排気ガスと喧噪、青く何処までも広がる海−
少年はそれらを眺めていたが、そこに異様なある物が出現していた。

少年の視線の先、そこには小さな鋭角で構成された物体が大量に飛行していた。
「それ」が異様なものであるかどうかは、人それぞれで全く評価が違っただろうが・・・
ある者は悪罵と共にそれを呼び、またある者はそれが出現する環境の方を異様と表現しただろう。

だが少年にとってのそれは、見慣れた光景の一部に過ぎなかった。異様な部分も無いではなかったが、
その更に上を行く物が近くにあっては、何も言うことはない。

少年の視線の先の先、そこには先程と違い誰もが口を揃え「異様である」と評価するだろう
物があった。異様な物体は、大音響と共に飛んでいく物体に比べると酷く複雑な形状をしていた。

複雑と言っても、それを目で確認できる訳ではない。ただそちら物体が奏でる音は
ひどくばらけていて規則性がなかった。

それらの二つは、通称龍と鷲−帝国軍爆撃隊「飛龍」と日本国航空自衛隊迎撃戦闘機隊であった。
856S・F ◆Pf7jLusqrY :04/04/04 19:02 ID:???
鋭角の飛行物体は、それぞれが四つづつ小さな隊形(ダイヤモンドと呼ばれる)
を組んで飛行していた。そのダイヤモンドが合計四つあり、合計で十六らしかった。
少年はそれを見てひどく不満に思った。ここ数日の内にダイヤモンドの数が二つほど
減っているからだった。

ダイヤモンドが減った理由は少年の感知出来ないところ、主に政治・経済・物理・生理の
四つが複雑怪奇に入り乱れ、そこに幾つかの直接的な物も絡んでそうなっていたのだが、
やはり彼には不満であった。

その不満の理由は至極簡単であった。「格好が良くない」ただそれだけであった。
しかし少年のその不満は後数秒で解消される予定だった。それを少年は知っていたので
あえて不満感を抱き、その直後に全てを歓喜へと切り替えた。

彼の望みはすぐに達成された。ダイヤモンドの内一番先行していた群が、一瞬にして
視界から消滅したのだ。その消滅は、爆発でも雲でもなく、群自身が発した白煙によって
成し遂げられた。
857S・F ◆Pf7jLusqrY :04/04/04 19:11 ID:???
素早く飛んでいたダイヤモンドよりも更に早く早く直線を描いて動いた白煙は、
その全てが複雑で奇妙な形をしていた物体に飛び込んでいった。

その物体はよくよく見れば小さな点で構成されており、複雑な姿は幾つもの点が
連なる故であることが判る。

白煙が一斉に物体に到達した時、その物体の一部がいきなり大きく欠けた。
黒い煙が空中に突如として沸き上がり、その数秒後に煙は雨雲のように黒い点を降らせた。

少年は歓喜と共にその光景を見守っていた。少年の臨むスペクタクルはまだまだこれからであった。
黒煙の発生から殆ど間を置かずに、ダイヤモンドは砕け散ってしまった。
いや、ダイヤモンドは自ら別れたのだ。彼らの恐るべき力、それを龍共に叩き込むために。
858S・F ◆Pf7jLusqrY :04/04/04 19:22 ID:???
ダイヤモンドはそれぞれ二つずつに別れ、ひどくゆっくりとした物体の動きとは対照的に
異常なまでのスピードで周囲に飛び回っている。

ダイヤモンドから別れた二つの物体のペアは、互いを守りあう様にして飛び回った。
その姿は正しく鷲、イーグルの名に相応しい姿であった。それぞれが親と子、兄と弟である
彼らは秩序だった、と言うよりは何者かに繰られるようにして空中に線を描いていた。

彼らの線が大物体を通り過ぎるたび、物体の形が乱れ、隙間が空いていった。
煙は既に消え去っていたが、未だにその真下では小さく黒い点の雨が降り続いていた。

少年はその光景に感動を覚え、また興奮と安堵を覚えていた。両親の制止も聞かずに
窓を開けて身を乗り出し、その光景を眺めていた。

その時少年の耳に、美しくない音響が響き渡った。彼の耳に響いたその声は、奇妙な布を
掲げた人々によって奏でられていた。
859S・F ◆Pf7jLusqrY :04/04/04 19:29 ID:???
「戦争はんたーい!」「くたばれ自衛隊!」「人殺しをー、やめろー!」
奇妙に赤い布を掲げた人々が、勇気か無謀か分からない態度でもって
路肩で叫び続けていた。

彼はその集団の事を不快に思った。政治思想の問題ではなく、ただこの楽しい
ショーを邪魔する連中が嫌になっていただけなのだった。

もっとも、布を掲げた彼らの述べていること自体に間違いはない。少年の見た
黒い雨は、帝国軍の龍とその乗り手(とその肉片や死体)であった。

だがしかし彼らは一つの事を忘れていた。それは、もしも鷲たちの一方的な
殺戮がなければ、肉片と肉塊を撒き散らすのが自分自身であると言うことだった。