>>133-135の続き
先行偵察隊のうち、人間と接触したエルフは3人。
残りの1人、エルフ女性、アルマ・アシ・ステアリンのコンタクトは友好的なものとなった。
ごく若い者の多い計画参画者の中では、彼女は人格的にも性的にも成熟した女性である。
年齢を示す長い髪は腰のあたりで束ねられ、個人装備のスケイルメイルも胸の膨らみと腰のくびれに合わせてある。
落ち着いた重鎮として若者を束ねることを期待されて、実験計画に呼び込まれた。
海岸線を低速で滑空するドラゴンの背中、大気整流圏からてのひらを突き出すと、対気速度が彼女を転がるように押し飛ばす。
放り出されて数瞬、無重力を楽しむ。自前の大気干渉場を展開すると、空中で回転していた体がぴたっと静止した。
乗騎に追いつくように加速し、手近な木の枝をつかみ取ってドラゴンの背に戻る。
子供の頃によくやった遊びと同じだ。ひさしぶりに心が浮かれる。
植物の試料を採取しつつ移動した彼女は、人間の集落を発見した。
開けた砂浜の奥、石提を越えたところに並ぶ白い布は天幕だろうか。人間が集まっている。
最能率速度で旋回待機するようドラゴンに命じ、砂浜に降下し単身で向かう。
不用心そうに見えるが、槍でも弓でも投石でも、大気干渉場を展開したエルフには届かない。
内部が音速近くまで加速されたソリトンリングを構築し、逸らして、弾いて、人間の武器を無効化できるからだ。
例外として、かつて人間の国で強力な弓が開発されたことがあった。
成人男性が全身の力でコッキングした弩弓から撃ち出される鉄製の重い矢は、エルフの作り出す風の障壁をも貫いた。
その国はもうない。
エルフの引き連れる数千のドラゴンが包囲し、その火球によって焼き滅ぼしたのだ。
長寿のエルフにはこの戦争に参加した者がまだ生きているが、進んで語りたがる者はいない。
この戦いの戦訓として、いかな弩弓といえどドラゴンの鱗を貫くことはできないことが知られた。
死ねばていねいに葬られてきたドラゴン、その鱗をエルフが甲冑として使い始めたのも、この頃である。
しかし砂浜に降陸したのはまずかった。舞い上がった砂埃が目にしみる。地面がもろくて歩きにくい。潮風が鼻につく。