自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた 第12章
俺は蹲り、震える『女』の長い髪を掴み、喉を露出させて、私物の『剣鉈』で一息に貫いた。
延髄を貫く固い手応えが、命の重さと尊さと儚さを俺に実感させる。…『女』が真っ当な人間で
は無い事が、俺にとっての唯一つの救いだった。痙攣を繰り返す肢体は、反射的なものだろう。
「…悪く思うな…。コイツは自衛のための『超法規的処置』だ…。生きてられちゃあ困るんだよ」
俺はRCN、レコン、いや、偵察大隊に所属する隊員だ。所属は…言えない。この世界の状況を探る
先遣隊として、活動していた。この深い森で消息を断つ偵察隊員が続出したため、遂に新米である
『俺』の番が廻って来たのだった。事の真相は…。俺はあちこちに転がる木乃伊化した死体を眺めた。
…見覚えの有る迷彩服姿だ。『女』はそう、俺達の世界で言う、『淫魔』だった。
大方、女に目が無い『先達』達は誘惑に負け、『精気』を搾り取られたのだろう。下半身丸出しの、
萎びたナニが露出した姿がその醜態を雄弁に語っていた。
「童貞で助かりましたよ、先輩方…。女だろうが何だろうが、敵の前で迷うよりはマシですよ。
御蔭で生きていられる。敵を前にして、気持ちイイだとか余計な事を考えずに済みますから…」
俺は『女』を蹴り飛ばし、剣鉈を喉から抜いた。笛の様な高い音が、『女』の裂けた気管から漏れた。
OD色一色に塗られた、自分の乗って来たオフロードバイクに向かって歩き出した。背負った無線機が重い。
無線は…この森では何故か使えなかった。何らかの妨害手段を、森が有しているのだろう。此処は異世界だ。
何が有ったって不思議では無いのだ。油断は即、自らの死に繋がる。背後の茂みが、突然、不自然に揺れた。
俺は肩に掛けていた、64式小銃を降ろし、茂みに向けた。…特科隷下なので、89式はまだ、回って来て
は居ないのだ。しかしこの場合はそれに感謝した。弱装弾だが、7.62o弾は弾頭重量で弾道を保ってくれる。
「出て来い…。この『女』の様には為りたく無いだろう? 」
「どうして…殺したの…? お母さんや私は…ただ此処で生きているだけなのに」
「俺を恨む位なら、浅ましい種族に生まれ付いた己自身を恨むんだな、淫魔」
そう、此処に棲んでいた淫魔は『母娘』だった。俺が『処理』したのは妖艶な『母』の
方だった。可憐で清楚な少女の外見を持つ『娘』は、俺が森に入った時に顔を合わせた。
…『母』が病気で苦しんでいる、と、この森の奥まで案内して来たのがこの『娘』だ。
「私たちは、何にも悪い事、していないのに! 忌み嫌うのはいつも…」
「黙れェェェェェェェっ!」
俺の腕の中の64式が、一声吠えた。…天に向かって。そうだ。この世の生けとし物は皆、
他者から命を奪い、生き延びる。俺達とこの淫魔に何の違いが有る? …大した差は、無い。
「…来い。『食事』に困らん所まで、俺が連れて行ってやる。『馬鹿な男達』が沢山
居る『街』までな…? この森は後発の部隊が通過する予定だからな」
俺は淫魔をバイクに跨らせ、その後ろに跨った。俺は『馬鹿な男』に為るまいと心に誓いながら。