かわいそうなぞう

このエントリーをはてなブックマークに追加
354名無し三等兵
南国のサイパンは、夏真っ盛りです。
砂浜によせる波。お日様に輝いている花。
その楽園にどっと日本人が押し寄せてサイパンは込み合っています。

先ほどから、波に乗ったり、女性をナンパしたり、動けない程の人だかりです。
その賑やかな海岸から、離れた内陸に、一両の錆びた戦車があります。
気の付く人はあまりありませんが、サイパンで散った日本の戦車なのです。
いつも、暖かそうに、お日さまの光を浴びています。

ある整備兵が、その戦車をしみじみとなでながら、わたくしに哀しい戦車のお話を聞かせてくれました。

昔、サイパンには、チハが居ました。
その頃、日本はアメリカと戦争をしていました。
戦争がだんだん激しくなって、サイパンには、朝も晩も、爆弾が雨のように落とされました。
その爆弾が、もしも、帝都に落ちたら、どうなる事でしょう。
帝都が壊されて、工場が壊されたら、大変な事になります。
それで、上層部の命令で、死守せよと言われたのです。
3552:04/11/05 23:12:17 ID:???
昔、サイパンには、チハが居ました。
その頃、日本はアメリカと戦争をしていました。
戦争がだんだん激しくなって、サイパンには、朝も晩も、爆弾が雨のように落とされました。
その爆弾が、もしも、帝都に落ちたら、どうなる事でしょう。
帝都が壊されて、工場が壊されたら、大変な事になります。
それで、上層部の命令で、死守せよと言われたのです。

いよいよ、サイパンにアメリカが上陸しました。
ところが、シャーマンは、そこそこ装甲が厚くて、チハの主砲では、どれもポンポンと弾かれてしまうのです。
しかたなく、肉迫攻撃をしました。可哀想に、おおよそ70対1の割合でしか倒せませんでした。

そして毎日、補給の無い日が続きました。
チハも、だんだん故障が多くなり、元気が無くなっていきました。
今まで,チハを自分の子供のようにかわいがってきた整備係の人は,

「ああ、かわいそうに。かわいそうに。」

と、本部の前を行ったり来たりして、うろうろするばかりでした。
3563:04/11/05 23:13:06 ID:???
ある日、チハが、シャーマンの後ろに回りこんで、車体の後背部の繋ぎ目に主砲を当てる、芸当を始めたのです。

一発目が命中しました。 二発目も命中しました。 爆音を高く高く上げて、敵を撃破しました。

しなびきったエンジンの力を振り絞って、よろけながら一生懸命です。
この芸当をすれば、昔のように敵が倒せると思ったのでしょう
整備係りの人は、もう我慢できません。

「ああ、チハや。チハや、」

と、泣き声を上げて。
大事に温存した燃料弾薬のある小屋へ飛び込みました。
走って、燃料や弾薬をかかえてきて、
チハの燃料タンクに注ぎました。

「さあ、のんで くれ、のんで おくれ。」

と、チハに抱きすがりました。

私たち、みんな黙って、敬礼をしました。
隊長さんもくちびるを噛みしめ拳を握り締め、見ないフリをしていました。

挺身部隊に弾薬をあげてはならないのです。燃料も与えてはならないのです。
けれども、こうして、1日でも長く踏みとどまれば、日本が空襲を受けないですむと、どの兵士も心の中で、神様に祈っていました。
3574:04/11/05 23:13:56 ID:???
けれども、チハは、ついに動けなくなってしまいました。
じっと岩陰に身を隠したまま、ダックイン戦法で、サイパンの道を走るジープを撃つのが、やっとでした。
こうなると、整備係りの人は、もう胸が張り裂けるほど辛くなりましたが、空襲が、激しくなって、チハのいる岩陰から離れていきました。
 
ついに、チハが死にました。
丸い穴が無数に開き、砲身をだらりと下げ、ばんざいの無電を送信して、死んでしまいました。

「チハが しんだあ。チハが しんだあ。」

偵察の人が叫びながら、本部に飛び込んできました。
拳骨で机を叩いて、泣き伏しました。

私たちは、細心の注意を払ってチハの陣地に駆けつけました。
どっとチハの陣地の中へ転がり込んで、ボロボロのチハの車体にすがりつきました。
チハの砲塔をゆすぶりました。

みんな、おいおいと声を上げて、泣きだしました。

その上を、またも爆弾を積んだ敵の飛行機が、ごうごうとサイパンの空に攻め寄ってきました。
どの兵士も、傷ついて動けなくなったチハを見ながら、

「もう、じゅうぶんだ 」
「せんそうを やめて くれ。やめて くれえ。」

と、心の中で叫びました。
 
後で調べますと、一発の弾薬も燃料タンクにひとしずくの燃料さえも残っていなかったのです。
最後の最後まで頑張っていたようでした。
その戦車は、今は、この青空の下に静かに眠っているのです。
そしてその整備兵は言います
「間違いや失敗を恥じてばかりで、それから逃げていただけの上層部のやり方のせいでチハは弱いままだった。」と・・・