467 :
名無し三等兵:2005/07/08(金) 21:59:51 ID:SuiRZpSz
ポエムage
>466, >467 了解。打ちミスがないか一遍浚ってみるので少々お待ちを。
おーい、みんな、
伊藤、進藤、新井、厨川、市木、平山、それからもう一人の伊藤、
そのほか名前を忘れてしまつたが、サンホセで死んだ仲間達、
西矢中隊長殿、井上大[ママ]隊長殿、小笠原軍曹殿、澤村軍曹殿、
練習船「銀河丸」が、みんなの骨を集めに、今日東京を出たことを報告します。
あれから十三年經つた今日でも、棧橋で泣いてゐた女達がゐたことを報告します。
とつくに骨になつてしまつたみんなのことを、まだ思つてゐる人間が、ゐるんですぞ。
あの山の中、土の下、藪の中の、みんなの骨まで、行きつくことは出來さうもないが、
とにかくサンホセで、お祭りが行はれます。
坊さんがお經を讀み、サンホセの石を拾つて歸つて、
みんなのお父さんやお母さん、兄さんや妹や、子供に渡すといふことです。
坊さんのお經が長いことを祈り、
石が員數でないことを祈ります。
僕も自分で行きたかつたんですが、
誰も誘つてくれる人もなく、
なまじ生きて歸つたばつかりに仕事があり、
仕事のせゐで行けないんです。
こヽでかうやつて、言葉を綴り、うさ晴らしをするだけとはなさけないが、
なさけないことは、ほかにもたくさんあるんです。
誰も僕の氣持を察してくれない。
なさけない氣持で、僕はやつぱり生きてゐる。
わかつて貰へるのは、みんなだけなんだと、今日この時、わかつたんです。
しかしみんなは今は、土の中、藪の中で、バラバラの、
骨にすぎない。骨には耳はないから、
聞えはしないし、よし聞えたつて、
口がないから、「わかつたよ」と
いつてもらふわけにも行かない。
しかしとにかく今夜この場で、机の前に坐り、
大粒の涙をぽたぽた落し、
みんなに聞いてもらふんだ。
うん、あれはどうしてもおれ達のほかにはわからないことなんだ。
おれ達はみんな弱い兵隊だつたし、戰爭は負け色だつた。
内心びくびくしてゐたが、
こんな遠いところへ來てしまつては仕方がないとあきらめて、
及ばずながら、兵隊らしく、彈を撃つて死ぬつもりだつた。
フィリッピンの暑い陽の下で、
もつこをかついだり、子牛を引つぱつたり、
作業に氣をまぎらはしながら、さう思つてゐたんだつた。
誰も口には、出さなかつたが、みんなの氣持はその邊のところだつた。
米軍が上つて來たら、案の定、ひとたまりもなく、
山の中でちりぢりになり、
酋長の娘と結婚するなんて運のいヽ奴は一人もなく、
鐵砲で撃たれたり、なぐられたり、
マラリヤでやられたり、飢ゑ死したり、
厨川は多分いつものやうに、口をひん曲げて倒れたらう。
進藤のメガネはかぎ鼻にひつかヽつたまヽだつたらう。
伊藤がクリクリ眼をつぶつたら、
伊藤らしくは見えなかつたらう。
しかしそれは束の間、
烏に眼玉をつつかれたり、
蛆蟲共に喰べられて、
土の下、藪の中で、みんな骨になつてしまつたんだ。
その骨を「銀河丸」がかき集めに出掛けたんです。
あんな山の中の骨まで、どうせとヾきはしないが、
サンホセの石だけは持つて歸るといふことだ。
形式的でも、みんなうちへ歸れるんだ。
歸るのは、歸らないよりましなんだ。
さう思つて、遺族はョみ込み、
みんな棧橋で泣いたんだ。
さう思つて、みんなよろこんでくれ。
うちへ歸つて、大威張りで佛壇へ坐れ、そこでひとつョみがある。
ひとつ化けて出てくれ。
あれから十三年、
あんなひどい目に會はしておきながら、
まだ兵隊なんていやな商賣をつくらうとしてゐる奴んところに化けて出てやつてくれ。
おれはなまじ生きてゐるばつかりに、
神通力は利かないから、
みんな力を合はせてやつつけてくれ。
圖々しい奴等は、みんな化けて出たつて、驚きもしないかもしれない。
先刻承知みたいな顔をするかもしれない。
そんならもう少しわけのわかる人間、
みんなの骨に涙を流してる遺族の誰かに化けて出ろ、
そしてこんな風に説教してくれ。
お前達がおれのことを思ひ出してくれたのは、ありがたい。
しかし軍人恩給の搖zなんて、願ひ出るのはやめて貰いたい。
それはお國のためにならない。
恩給搖zしてやるかはりに、
一票ョみますなんていふ奴んとこへ行つて、
恩給搖zありがたうございましたが、
あたしはやつぱりあなたに投票するのはやめときます、といつてやれ。
軍人恩給つかないと、
自衛隊へ志願する者がなく、
アメリカに約束が果せないといふことですが、
そのやり方はどうも氣に入りませんから、
あなたに投票するのはやめときます。
軍人恩給はせつかくですから、さし當つては貰つときますが、
ほかの困つてゐる人達に氣兼ねすることなく、
遺族でまうけたなんて、ひとにいはれる心配もなく、
平氣にもらへるやうにして下さる政黨に投票します。
なまじ軍人恩給あるせゐで、
可愛い倅に志願させ、
オンボロ・ジェット機やクズ鐵軍艦に乘せられて、
事故死とやらを遂げさせて、
悲しい思ひをする人がないやうに。
人工衞星の世の中に、
役にも立たない兵隊さん、
強行軍に引き出され、
割れ竹でひつぱたかれてぶつ倒れ、
哀れな死に方した擧句
貰ふは蚊の涙の軍人恩給、
そんないやな思ひをする親御さんたちがないやうな
そんな世の中にしてくれる政黨に投票します。
だから、一票は上げられません。
だからあなたもそのつもりで、
軍人恩給のまた上げなんか、おやめなさい。
第一何千萬もゐる有權者の中で、
遺族の數なんて知れたもんぢやないですか。
そんな一票を取りつこして、
議會に少しでも、席を殖やし、
三惡政治を續行しようつたつて、
さうは問屋が卸さねえぞ。
昨夜、十三年前フィリッピンで死んだ、
うちの人が化けて出て、
さういへつていひますから、いひに來ました、あばよ、
――とかういふ風に説教してくれ。
おれもせいぜい努めてゐるが、
遺憾ながら、力がない。
十三年前サンホセで、
もつこをかついでゐた頃の、
おれ達みたいに力がないんだ。
みんなの幽靈だつて、力がないかもしれないが、
とにかくなんでもしてみることだ。
みんなでコツコツやつて行かうぢやないか。
二度とおれ達の、あんな目に、
子供や孫は合はせたくない。
さうではないか、おーい、みんな。
おーい、新井のチビ。
お前は米軍が來る前に死んだから、
お前の墓はおれ達が掘つてやつたぢやないか。
なけなしのタバコを一本、くはへさせ、
おれ達が掘つた穴の中へ降ろしてやつたぢやないか、
捧げえ銃、頭あ中、土を掛けえ。
ぱらりと土はお前の顔に落ち、
お前の白い鼻だけ、によつきり土から出てゐたつけ。
そこで、西矢中隊長殿は、やめえといひ、
自分で穴へ降りてつて、
お前の鼻にハンカチをかぶせたぢやないか。
それから、再び、土を掛けえ。
穴はだんだん埋められ、
土人が掘り返すといけないから、
土はおれ達がよく踏んづけた。
墓標を立てるわけには行かなかつた。
あれはサンホセから、十里も入つた山の中だつた。
「銀河丸」だらうと、なんだらうと、
誰も行けない山の中だ。
もうどうしても、お前の骨には届きはしない。
しかし「銀河丸」が出るといへば、
お前のかみさんは棧橋へかけつけ、
「銀河丸」が沖へ小さくなつて行くと、
棧橋でぽろぽろ泣いてゐたんだ。
そしておれだつてこれを書きながら、泣いてゐる。
わあわあ聲を出して泣きたいのを我慢してゐるんだ。
ちよつと、中だるみで、理に落ちたが、
おれの言葉を受けてくれ。
たすけてくれ。
(ソースは「作家の日記(三)」『新潮』昭33-3, pp.55-65.)
477 :
465:2005/07/09(土) 02:10:57 ID:???
てな訳でお付き合いどうも。完走できてよかった。
文字パレットに見つからないその他で、漢字が雑誌コピーの通りに
なっていない箇所がいくつかあるので、念のため。それと原文の「詩」は
特に連分けされておらず、そのままのベタ打ちで誌面になってます。
投稿の便宜上俺が適当に分けたというそのことも一応お断りを。
しかし「さうは問屋が卸さねえぞ」の下りではタイプしてて思わず爆笑しちゃったよ。
後半部に繰り返しが多くなったり文章がもつれるなど、完璧主義者大岡の
意外な一面が出ているようにも思います。
この新潮の連載「作家の日記」は、やれゴルフのし過ぎで肉離れを起こしたの
三島由紀夫ほかとの文壇交友録になっていたりと、相当にダレ気味の代物なの
だけど(というかこの頃の彼の仕事ぶりは全体に低調かも)、
そこにいきなり二段の細かい活字で百数十行のポエムが登場して、
当時の読者はページを開いて驚いただろうな。
ちなみに「銀河丸」の出港時の寄港予定地にはミンドロの名があったものの、
結局立ち寄れなかったそうだ。
謹んでGJ
お疲れ様です
乙!
ひさしぶりに「ミンドロ島ふたたび」読み返してみるかな。
大岡越前を軍事板住人が語ると凄すぎて失禁
ごめんよ
そろそろ終戦記念日が近付いて来て、本屋でもコーナー設けていたけど
レイテ戦記文庫版が一番目立つ所にディスプレーされていたよ。
読む人増えるかな。
486 :
名無し三等兵:2005/07/31(日) 19:39:10 ID:QJCZ72ap
レイテ戦記を読んでるときに
雷雨や台風が来たら外で直立不動age
487 :
名無し三等兵:2005/08/05(金) 10:03:44 ID:0algEzR3
上陸時の神風を除いて、ミンドロ島の地上戦で戦死した米兵って
ひとりくらいはいるのだろうか???
>>477 ゴルフ狂というか「教え魔」だったらしいな>大岡
福田恆存が教え魔・大岡のターゲット。
福田がたったひとりでのプレーを楽しむべく
苦心して大岡の目を逃れ某ゴルフ場に向ったが、
そこにはなぜか大岡が居たという・・・・・恐ろしい。
大岡越前
490 :
名無し三等兵:2005/09/02(金) 18:37:00 ID:mtx4t9xf
age
491 :
名無し三等兵:2005/09/24(土) 00:12:20 ID:BbQEe2Nt
とりあえずage
492 :
名無し三等兵:2005/10/11(火) 01:32:51 ID:JlzTqs24
そろそろレイテ決戦age
中巻まで買った。
やっぱこの時期の戦記文学は、亀井宏とかもそうだけど迫力あるな。
単に彼我の公文書を挙げるのではなく、
より多方面から情報てか史料を得て、クロスチェックがかけられる。
定性的な体験談などでさらに補強したり、あるいは否定したり出来る。
これからは無理だね。
史学の弊害である「公的1次史料厨」しかいなくなる。
リモン峠で戦闘中age
497 :
名無し三等兵:2005/11/09(水) 21:53:50 ID:tfCx0DzT
スレageの神機到来せり。
498 :
名無し三等兵:2005/11/29(火) 08:26:35 ID:JDF22b6q
古賀誠代議士(父親がレイテで戦死)と
野中弘務元代議士(垣兵団の根拠地京都の元町長)が
政治家ではレイテ関連の遺族会の中心メンバーだそうで
靖国もいいけどさ、政治家さんも、特に国粋を気取る方なら
レイテやガダルカナルやインパールやペリリューや
ニューギニアやビアクやラバウルやタワラ...etcにも
毎年毎年いきまっしょい。
ね。小泉さん。麻生さん。安倍さん。風化させるのはいくないよ。
>>498 小泉君は、シベリアの日本人抑留者の墓地にはじめて参った総理だけどな。
>>498 行かなきゃいけないとこ多すぎるだろ
…と素直に釣られてみる
>>500 靖国に行く会?に所属している国会議員を総動員して
一人2〜3箇所回れば毎年いけるぜ。
もちろん費用は国士の皆様ですから自費でヨロピク。
洋ピンでしか感じなくなったという話は既出ですか?
原口大尉戦死age
504 :
名無し三等兵:2005/12/21(水) 23:46:43 ID:C7+CDVL0
第一師団転進age
505 :
追悼:2005/12/25(日) 14:13:28 ID:HpuJb6Hb
今日は大岡昇平の命日。
合掌 人
このスレは今日はじめて覘いたのだったが、命日だったか、、、
合掌
507 :
名無し三等兵:2006/01/03(火) 08:22:55 ID:p6AmvUC9
はじめますて。掲示板は、無礼講みたいな暗黙のルールみたいのがあって、
年令などを発表するのは、やぼなこととされています。
そうですねえ。あけおめと言っていいのでしょうか?
それはともかく、大岡昇平といえば、「俘虜記」と「野火」でしょうな。
あれには、心酔しました。
「レイテ戦記」は、まだ読めていません。
508 :
名無し三等兵:2006/01/08(日) 02:40:56 ID:ul8SWqJ3
>>507 頑張って読破してみてください。
量は多いですが、絶対損はありません。
大岡昇平は中村光夫、福田恒存、吉田健一、三島由紀夫らと「鉢の木会」をやっていた。
三島由紀夫の小説「宴のあと」がプライバシー侵害であるとして
有田八郎(広田、第一次近衛、平沼、米内各内閣の外相として日独防共協定を締結などを行う。三国同盟には反対)
に訴えられると、吉田茂の長男である吉田健一が三島と有田の仲介役を務めようとしたが、
三島は吉田が有田側に回ったと思って喧嘩になり、「鉢の木会」はやめになった。
>>498 野中は古都のBのまとめ役ってのは知ってるんだよな?
511 :
名無し三等兵:2006/01/22(日) 03:43:27 ID:eaF/y9DY
保守
512 :
名無し三等兵:2006/02/05(日) 18:26:09 ID:vAM4AeOt
死守
513 :
名無し三等兵:2006/02/17(金) 15:09:51 ID:1SAezux6
酒保
514 :
名無し三等兵:2006/02/25(土) 12:48:25 ID:TAlPAuPc
レイテでの土砂崩れ。
御大ならどうおもったことでしょうや。
英霊が出てきます