「要救助者全員を確保しました」
救出部隊長に副隊長が報告する。
ここはオルフェノス大陸南端にある奴隷商人のアジトである。
今から一週間前、アメリカ西部の某所にて発生した魔法テロでさらわれた女性達を救うため、合衆国は一個中隊の救出部隊を派遣した。
全軍を動かさなかったのは、誘拐事件に対してそこまで大々的に反応したのでは大国としての威信を守れないからである。
「設置は?」
「既に完了しております」
「よろしい、我々も撤収するぞ。総員撤収!!」
「了解!撤収ー!!」
号令と共にLZ周辺を確保していた隊員たちが集まってくる。
さすがに歴戦の勇者達だけあって、倍する敵兵相手に一人も減っていない。
部隊長を載せたヘリが舞い上がり、それにわずかに遅れて兵達を満載したヘリが宙へと舞い上がる。
「隊長」
避難場所へと移動するヘリの中で、副隊長が隊長に声をかけた。
「なんだ?」
「一体どうして民間人の誘拐事件に私たちが出張ってきたのでしょうか?聞けば別のヘリにはデルタやシールズもいるらしいじゃないですか。
おまけに置いてきたあれ、核ですよ」
「ああ、簡単だよ。連中がさらってきた女性の中に、我らが大統領閣下の愛娘も入っていたからさ」
「なるほど、パパはご立腹なわけですね」
「そうだ、連中もバカな事をしたもんだよ。聞いた話じゃ、始めは俺達が撤収した後に戦略核攻撃を仕掛けようっていう案で進めようとしてたらしい」
「ま、まさか」
そこまで言って副隊長は顔を蒼くする。
あの大統領ならやりかねない。
「ま、そういうことさ、お、そろそろ降下地点だな。無線を貸してくれ」
パイロットからインカムを受け取る。
「ヒヨドリ01よりパパへ、間もなく降下地点」
<了解ヒヨドリ01、こちらでも確認している。高度を下げ、予定地点に降下せよ>
「了解」
隊員たちを乗せたヘリ部隊は、徐々に高度を下げつつ空き地へと降下した。
着陸と同時に隊員たちが飛び出し、周囲に散っていく。
「ヒヨドリ01よりパパへ、着陸完了」
<了解ヒヨドリ01。カウント10から伝える。11・10・9・8・7・6・5・4・3・2・1・0!!>
無線からカウント0が伝えられると同時に、奴隷商人のアジトに仕掛けられた核兵器が発動。
周囲に点在していた13の村、3つの町を巻き込んで盛大なきのこ雲を作り上げた。
この一週間後に米軍はオルフェノス大陸に侵攻、虐殺としか形容できない戦闘を繰り返し、世界征服をあっという間に達成した。
しかし、それは世界にとって幸福だったに違いない。
なぜなら、アメリカによる世界征服から10年後、魔界より蘇った魔王軍による全面戦争が勃発したからである。
まあ、キリスト教を信仰するアメリカは嬉々として水爆を使用し、わずか三日で戦乱は解決したわけだが。