米=滝
日=本郷ライダー
ドイツ=ショッカー
新の方はこんな感じ
>187
君は何も分かっていないに等しいが、意外なことに本質を
突いている。
左様、後期の艦隊シリーズはまさしくそれに近いスタンスで
書かれた作品だ。
なぜか? これを語るには紺碧・要塞シリーズの根幹を流れ
る世界観を説明しなければならない。
そもそも、あの『荒巻ワールド』は何なのだろうか。軍事に造
詣の深い人間には頭痛をもよおさせ、しかし一般人からは支
持を受け、どこかつじつまの合わない箇所が点在するあの世
界は何なのだろうか。
最初に一つだけポイントを押さえておかなければならない。
リアリズムの観点から艦隊シリーズを評価する、いかなる試
みも無駄であり、徒労であり、的外れである。
よって、このスレで為されている殆どの感想は『読み方』を正
面から誤っている。
それでは、艦隊・要塞シリーズを読む上で留意すべきポイントを
幾つか挙げてみよう。
大前提
1.艦隊・要塞シリーズで描かれる世界(地球)は我々の世界と
完全に異なるものであり、巨大な論理・物理シミュレーター
『グロブロー』である。
2.艦隊シリーズに登場するキャラクター達(日本人)は『英霊』
である。
まず、大前提1について。
これについては、要塞シリーズを通読して頂いた方ならば
お分かりになるだろうが、まず要塞シリーズの物語は天体
的規模のシミュレーター、『グロブロー』上でなされる戦争の
物語である。
この世界観は実に独特で、明らかに物理的な側面を持ちつ
つも(物が壊れたり、肉体が欠損したりする)、精神的な部分
は論理的なアプローチ(心の完全な数学・コンピューター的
アプローチや、死んだはずのものもメモリーバンクから呼び出
されれば、次の物語で復活するなど)で描かれている。
完全なSFであり、ファンタジーとでも称すべき作品だ。
艦隊シリーズの世界も、この原理に近いものによって、
構成されていることが推測できる。
それはなぜか。
根拠
1・転生の概念
言うまでもなく、『紺碧の艦隊』冒頭において、高野五十六
(山本五十六)は後世世界へ記憶を残したまま、転生してい
る。
しかしながら、不思議なのはこの転生が日本海海戦のシーン
へのスリップであることだ。おかしいではないか、一生は長く、
その始まりに戻るなら分かるにしても、ある特定地点に転生
するなど(ましてや、記憶を残したままで)。
ここでポイントになるのは、あのシーンが『戦争中』であること
だ。要塞シリーズの世界でも、キャラクター達が『転生』して目
覚めるのは、ことごとく戦争の最中(もしくは直前)である。
そして、起こる一つ一つの戦いを『コード○○○○』と称し、
物語の区切りとしているわけだ。
さしずめ、高野五十六は『コード1904(日露戦争)』の途
中へ転生したのであろう。もっとも、艦隊シリーズのメイ
ンは第二次世界大戦であるから、『コード1941』(この存
在は要塞シリーズでも語られている。このことから、ます
ます艦隊・要塞の同一世界観の可能性が高まる)だが。
根拠
2・『消える』登場人物達
物語のラストを読んでいないとこれは分からないだろうが、
艦隊シリーズラストにて、登場人物達はことごとく消滅する。
それは『死』ではなく、まさに『消える』と表現するべきものだ。
世界が揺らいだように、大高弥三郎も高野五十六も居なくな
っていく。
では、どこに行ったのか。
ここで最終巻最終章で語られる事実をバラしてしまう。そうする
理由は、この点を踏まえないと艦隊シリーズは語り得ず、そして
この点を知らぬが故になされる無意味な非難が軍事板には多
すぎるからだ。
見たくないという人は次レスをあぼーんして下さい
大高弥三郎は別の世界へ転生し、子供達を相手に教師
をしている。
『時空人、大高弥三郎は念願を果たしたのである』
艦隊シリーズ最後の一文である。分かるだろうか。ここに
最高の証拠があるのだ。
艦隊シリーズの登場人物達は、「戦争は嫌なものだ」といい、
「戦争がない世界に生まれ変わりたい」と言う。
しかし、そういった会話になると決まってなされるのが「我々
軍人は罪深いから、何度転生しても戦い続けるのでしょう」
という論だ。
要塞シリーズの登場人物達は言う。「なぜ我々が目覚める
世界は戦争ばかりするのか」「世界は戦争をしなくてはなら
ないのか」
この時の答えは「それはグロブロー(地球)がそのようにプロ
グラミングされているからです」「この天体が戦争世界だから
です」というものだ。
大高弥三郎は登場人物達の念願をまさに果たしたのだ。
さて、続いて大前提2について
>2.艦隊シリーズに登場するキャラクター達(日本人)は『英霊』
>である
これは最終巻のあとがきで明らかにされている。
初期の頃、マッカーサーとウィロビーの会話でこんなものが
ある。
「奴らは我々に医薬品や食料の差し入れをしているそうです」
「なんだそれは。そんな軍隊があるのか」
「はい、現地の部隊でも不審に思い、訊いてみたところ「我々
はArayだ」と答えたそうです」
「『Array』のことか?」
荒巻氏曰く「これを『エーレイ』と読むと本世界の謎が解けます」
とのことである。
もちろん、この点を取り上げて「要塞と世界が共通ではない」
と言われる方もいるだろう。
その可能性も正直、ある。だが、リアリズムの否定という点で
はまったく変わりのないことであり、どちらにせよ「日本の経済
力が……」とか「こんなトンデモ……」といった観点からこの作
品を非難するのは意味がないことなのだ。
トンデモである。荒唐無稽である。そのように開き直った上で、
エンターテイメントとして物語を作り上げ、けれど何かを表現し
ようとしたのが艦隊シリーズなのだ。
その流れの中で、>187が言うようなコミカライズとでも言うべき
現象も起こっている。
多くの人は違和感しか感じなかったと思うが、あの状態を表現
するのに絶好の言葉がある。要塞シリーズで使われたものだ。
「グロブローのバクだ!」
天体シミュレーターが暴走していたのだ。
さて、評価した上で今度は艦隊シリーズの『アラ』について
突っ込んでいこうと思う。
艦隊シリーズ・負の側面
1.もう少しリアリティを持たせられなかったのか?
いくら荒唐無稽ワールドとはいえ、いくら後世世界とはいえ、
あり得ないことが多いのが艦隊シリーズの世界である。
レシプロエンジンに点火する『アフターバーナー』や、旭日艦
隊建造の資材問題など、詳細な検討を加えれば回避できた
問題点は数多い。
もっとも、ここに作者側の事情を考慮する必要も生まれる。
紺碧10巻、『日米講和成る』は初めて戦闘シーンがなかった
巻だが、この前後のあとがきを読んでいると編集サイドから
派手な戦闘シーンを求められていたことが窺える(実際、10
巻は戦々恐々の出版だったようで、「意外なことに売れ行き
が変わらないそうです」という発言が見られる)。
だが、この点を除いても度を過ぎた荒唐無稽ぶりは改善の
余地が多い汚点であり、見識ある諸氏の鼻をつまませる
ものであることは否定できないだろう。
(もっとも、既に述べた理由から作品の根幹を否定する理由
にはなり得ない。もし、そうするのだとしたら、あなたはリアリ
ズム至上主義者なのだろう)
2.オカルト多すぎない?
艦隊シリーズに独自性を加えた最大の要因でもあるこの点。
この世界に登場するヒトラーは魔術かぶれである。おまけに
それが現実の力として作用する。敵の侵攻地点を予測する
など朝飯前。世界を裏から牛耳る組織『海の目』の使者と対
話するシーンでは、念視のような技によって、本拠地の景観
を言い当てている。
オーディーンの化身だの、日本は龍国だのとその筋に近い
うさんくささプンプンの説が次々と飛び出してくる。ここに幻滅
を覚えた人も多いだろう。
とはいえ、あくまでこの世界の構造を考えるとあり得ない話
ではない(要塞シリーズでは『神』が存在している。サイコキ
ネシスすらも兵器化して使用する!)。天体シミュレーター
『グロブロー』は明らかにオカルト的超能力を容認しているからだ。
3.展開、単調すぎない?
巻の冒頭で敵の堅固な守りや侮れない攻撃軍を提示、
中頃でそれをうち破る新戦法・兵器を見せておいて、
ラストで大殲滅というパターンが艦隊シリーズの王道
である。
特に後期のシリーズは、シベリアからトロツキー軍が、
アフリカや中東からアメリカ・日本連合軍が、もちろん
ヨーロッパでは英国がひたすら攻めまくるという構図
であるため、単調さが助長されたようにも思える。
その他の理由として
4.売れすぎてない?
5.お前のせいで仮想戦記が変なものになった
6.川又千秋とかの方が先なのに、パイオニアとか言うな
などの反論もあろうが。
4.に対しては、どうでもよいこととして。
5.に対しては、正統派戦記で艦隊シリーズを超えるヒットを
生み出せない他作家陣が頑張るべきであり、
6.に対しては、実際のところ世間に広めたのは間違いなく
荒巻氏であり、紺碧の艦隊を知っている人とラバウル烈風
空戦録を知っている人の比率は、比較のしようもないほど
大きいものである。
他、批判は幾つかあろうが、自分が今まで軍事板のスレ・
レスを眺めてきた限り、まともな批判はなされていないよう
に思える。
『紺碧の艦隊』『旭日の艦隊』は間違いなくイロモノである。
それはアールグレイティーにも似て、合わない人にとっては
存在自体が許し難い悪臭であり、そうでない人にとっては素
晴らしい独自性を持った、他に類を見ない作品である。
だが、一つだけいかなる暴論をもってしても、誰も艦隊シ
リーズについて否定出来ないことがある。
それはこのシリーズが仮想戦記ジャンルにおける、最初
の大ヒット作品であることだ。
それは世間にジャンルを知らしめたエヴァンジェリストであ
り、美点を広めた宣伝屋であり、悪点をさらけ出したならず
者である。
けれど、その首には金メダルがかかっている。この作品は
一番乗りであり、仮想戦記というジャンルが存在し続ける限
り、語られ続ける偉業を達成した証なのだ。
文章の世界に限定しても、表現の方法は多彩であり、物語
のジャンルは無限に存在する。
だが『〜〜みたいな話』と人に説明できる『〜〜』になれる
作品は絶望的に少ない。
例えば、ゲームでいうRPGは当たり前に知られた形式だが、
『ドラクエ』『FF』以外の例を出して、あなたは最大多数の人
に説明してのける自信かあるだろうか。
艦隊シリーズはなるほど、賛否両論ある作品だろう。罪深い
作品でもあろう。軍オタからは永遠に評価されない作品だろう。
だが━━断じて偉大なのだ。
おしまい