>>960 と、そのとき。
救助活動に当たっていた一人の隊員―海軍から派遣された2等水兵だった―が、いきなり持ち場を
離れて駆け出し、当初の判断では「そこに要救助者がいる可能性はきわめて低い」とされていた
地点を猛然と掘り返したのだ。
明確極まりない命令違反。水兵の上官は、叱責すべく彼のもとに駈けより、一喝した。
貴様、なにをしている。そこには誰も。
だが、水兵は必死の形相で、あろうことか上官に怒鳴り返したのだ。
ここです。ここに女の子はいます。間違いありません。
そのあまりの決意を秘めた顔に上官がたじろぐ間にも、彼は一層熱心に土砂の山を掘り返す。
そして、彼はついに少女を発見した。土砂の中に、頑丈極まりないシェルター―洋服箪笥の中に身体を
折り曲げて。
あとでわかったことだが、少女は土砂崩れが発生したとき、咄嗟に部屋の中にあった洋服箪笥に
飛び込み、そのまま箪笥ごと家から押し流され、当初の見積もりと遥かにかけ離れた地点に生き埋め
となっていたのだ。
かくして最後の一人は助け出され、水兵は些細な叱責だけを請けることとなった。
事実関係だけを述べるならば、この話は以上で終わりである。
だが、最後に、水兵と少女の証言を要約しておく。これを読まれた貴方に、不可思議な存在について
ほんの少しでも思いを馳せてもらえるだろうか。
某2等水兵
「作業中、突然耳元で誰かが怒鳴ったのであります。
『バカモノ、子供はそっちにはおらん。こっちだ!貴様も水兵なら、さっさと助けださんか!』と。
それから先は、正直何がなんだか、自分にもわかりません・・・・・・」
在日ユダヤ人少女
「もうだめかな、と何回もおもったけれど、そのたびに耳元で優しいおじいさんの声がしたの。
『おじょうちゃん。もう少しだ。おじょうちゃんが最後の一人。もうすぐ助けがくるからね』
見たことのないおじいさんだったけど・・・・すごく、優しくて、頼りになる声だった」