83 :
その1:
産経1998年1月8日 朝刊
◆朝鮮戦争「米軍が細菌戦」 中朝のねつ造
旧ソ連の秘密文書で判明
朝鮮戦争(一九五〇年六月−五三年七月)のさい、米軍による細菌兵器使用とい
う事件のねつ造が中国と北朝鮮によって繰り広げられていたことが、旧ソ連共産
党の秘密文書で明らかになった。中国が休戦交渉を有利に運ぶため、米国を国際
的に孤立させるのが目的だったとみられるが、ねつ造のため実際、細菌を使って
北朝鮮の死刑囚を人為的に発病させていたこともわかった。
産経新聞が入手した秘密文書は計十二通に及ぶが、中でもねつ造についての有
力な資料となったのが、当時の駐北朝鮮ソ連大使で、朝鮮人民軍の最高顧問を務
めていたラズバエフ中将によるソ連のベリヤ内相あて報告書(五三年四月十八日
付)だ。
それによると、米軍の細菌兵器使用の情報は五二年春、中国から北朝鮮に伝え
られた。ラズバエフ中将は矛盾する情報が含まれることから懐疑的立場を示し
た。
ところが、北朝鮮はソ連当局の了解なしに米軍の細菌兵器使用を非難する声明
を発表した。
このほか中国の毛沢東主席は五二年二月、ソ連のスターリン書記長(首相)に米
軍の細菌兵器使用を報告する電報を打ち、その中で「米国は日本の七三一部隊
(細菌部隊)と同等の犯罪者となった」と書き送るなど米国非難に対してソ連も同
調するように求めている。
84 :
その2:02/09/05 06:03 ID:???
ところが、五三年四月のスターリンの後継マレンコフ首相へのベリヤ報告によ
れば、「(細菌兵器使用をねつ造するため)地下壕に閉じ込められていた死刑囚の
北朝鮮人二人に細菌が使用され、うち一人は殺された」ことがわかったために、
ソ連指導部は同年五月、秘密会議で「ソ連政府と共産党中央委員会は誤解してい
た。ねつ造された情報に基づく米国非難も虚構のものだった」と認めた上で、中
国と北朝鮮に対し、米国への誹謗(ひぼう)を停止するよう要求している。
また、このねつ造事件には当初、ソ連当局も協力していたことがわかり、同年
六月、同問題の責任者だった元ソ連国家保安相のイグナチエフが、「党と政府に
対する欺瞞(ぎまん)と重大な法と規律違反」という理由で党中央委から除名され
た。
米軍の細菌兵器使用疑惑については、国際調査団が五二年春と夏の二回、現地
を訪問しているが、実態解明には至らず、中国と北朝鮮が提出した遺体などを基
に米軍非難の形式的報告書をまとめるにとどまっている。
【細菌戦問題】 朝鮮戦争(一九五〇年六月−五三年七月)の後半に入った五二年
二月、中国、北朝鮮、ソ連側は、米軍がコレラやペストなどの細菌に感染したハ
エやノミ、ダニを北朝鮮上空から航空機で多量に投下したと非難、その後、細菌
戦が中国東北部にまで拡大したとの宣伝を始めた。米軍は全面的に細菌戦を否定
し、二つの国際調査団が現場を調査したが、お互いの主張は平行線をたどり、同
問題の真相はなぞとなっていた。
85 :
その3:02/09/05 06:03 ID:???
◆旧ソ連秘密文書(詳報)
朝鮮戦争で中国が米軍による細菌兵器使用の宣伝戦を主導し、その宣伝戦がと
ん挫するまでの経緯を示した旧ソ連共産党の秘密文書の要旨は次の通り。(肩書
はいずれも当時)
(1)北朝鮮での米国の細菌兵器使用に関し、毛沢東がスターリンにあてた電報
(1952年2月21日付)
−米軍は52年1月28日から2月17日にかけて航空機、砲撃によって細菌兵器
を八回にわたり使用した。
−米国は日本の七三一部隊の犯罪者たちと同等の犯罪者となった。
(2)駐北朝鮮ソ連大使ラズバエフ中将からベリヤ内相にあてた報告書(53年4
月18日付)
52年春、中国政府は北朝鮮政府に対し、朝鮮戦争における米国の細菌兵器使用
に関する声明文を伝えた。北朝鮮の金日成主席と外相は、わたしに相談に乗って
ほしいと言ってきた。
わが国の顧問団と北朝鮮当局は当件に関し、事実確認ができなかった。報道で
は矛盾する情報が含まれていた。米軍は細菌で汚染されたアリを空中散布したと
伝えられるが、アリの体にはアルコールが含まれており、細菌の媒介とはなり得
ない。わたしは自分の結論を金日成に伝え、北京に問い合わせた方がいいと助言
した。
しかし、数日後、北朝鮮側が(米軍の細菌兵器使用についての)声明を発表し
た。中国側が同件について発表しようとしていたため、北朝鮮側は声明発表を急
いだのだ。そして、その発表の二日後、中国の周恩来首相兼外相もこの件に関す
る発表を行った。北朝鮮が発表したことで、わたしもその事実と向かい合わざる
を得なくなった。
86 :
その4:02/09/05 06:03 ID:???
中国側からは、米軍が中国東北部に空中投下して防疫部隊によって発見された
という昆虫の写真が届いた。しかし、その昆虫は朝鮮には生息するが、中国には
生息しない種類のものだった。
52年2月下旬、金日成は「米軍が細菌爆弾を多量に投下した。どうしたらい
いのか」と相談を持ちかけてきた。同年2月27日、北朝鮮の軍事閣僚会議で、
北朝鮮における伝染病対策計画を作成する決定がくだされた。金日成はその後
も、わたしに「調査団が北朝鮮を訪れるが、どう対応したらいいのか」と相談を
持ちかけてきた。ソ連の顧問たちが北朝鮮保健省の行動計画作成に協力した。偽
造のペスト汚染地区が設けられ、ペスト菌とコレラ菌を得るために埋葬した遺体
が掘り起こされた。北朝鮮内務省担当の顧問は、銃殺刑が決まっている死刑囚に
ペスト菌とコレラ菌を感染させる計画を提案した。彼らの遺体を米軍による細菌
戦の物証とするためだ。
調査団の訪中前に、北朝鮮は北京に必要な物証の材料をあらかじめ運んだ。北
朝鮮保健相も細菌を入手するため、北京に向かった。しかし、そこでは菌を入手
することはできず、その後、ようやく受け取ることができた。
53年1月から、北朝鮮における米軍の細菌兵器使用の報道が途絶えた。同年
2月、中国側は再び、米軍の細菌使用の宣伝戦を活発化させようと北朝鮮に持ち
かけたが、北朝鮮はその提案を退けた。(署名)ラズバエフ
(3)ベリヤからソ連共産党中央委員会幹部会のマレンコフ首相にあてた報告書
(53年4月21日付)
52年3月、北朝鮮に法律家らによる国際調査団が訪問する前、イグナチエ
フ・ソ連国家保安相のもとに、グルホフ・北朝鮮社会安全省元顧問と、スミルノ
フ・北朝鮮内務省元顧問から報告書が届いた。
そこには、ラズバエフの協力で、北朝鮮と中国での米軍の細菌兵器使用をねつ
造するため、北朝鮮に偽りの細菌汚染地域を二カ所作り出したことが報告されて
いる。死刑を求刑され、地下壕に閉じ込められていた北朝鮮人二人には、細菌が
感染させられた。うち一人はその後、毒殺された。
87 :
その5:02/09/05 06:04 ID:???
報告書は政治的に重要な意味をもっていたが、イグナチエフは同件について報
告しなかった。その結果、ソ連は国際政治の舞台で、甚大な政治的損害を受け
た。同問題について事情を調査し、犯罪者を罰するよう要請する。(署名)ベリヤ
(4)駐中国ソ連大使クズネツォフ、駐北朝鮮ソ連代理大使スーズダレフあて手
紙に関するソ連閣僚会議幹部会の決定(53年5月2日付)
毛沢東あて
「ソ連政府とソ連共産党中央委員会は誤解していた。米軍が北朝鮮で細菌兵器
を使用したとの報道は、ねつ造された情報に基づいていた。米国に対する非難は
虚構のものであった」
中国への提案
北朝鮮と中国で細菌兵器を使用したとの米国を非難する報道を停止する。
中国(北朝鮮)政府は、細菌兵器使用の事実調査が中国(北朝鮮)の代表者を含ま
ないため合法的とはいえない、と国連で表明することが望ましい。国連と国際機
関が、中国(北朝鮮)での細菌戦の問題について、協議を取りやめるよう戦術的な
方法で提案する。
細菌兵器使用の「証拠」の偽造に当たったソ連側担当責任者らは、厳重に罰せ
られる。
(5)北京のクズネツォフからモロトフ外相あて電報(53年5月12日付)
53年5月11日深夜、毛沢東と会見した。会談には、周恩来も同席した。毛沢
東は、ソ連側の意向を聞いた後で、宣伝戦が「北朝鮮にいる中国の義勇兵と満州
からの告発に基づいて始められた」と語った。
さらに、「現在となってはこれらの告発が本物だったかどうかを確認するのは
困難だが、もう一度この問題を調べて、もし、ねつ造が見つかったならば、この
報告を完全には信じてはいけない」と述べた。
会談の最中、毛沢東は神経質になっており、タバコをたくさん吸ってはもみ消
し、お茶をたくさん飲んだ。会談の終わりごろには、彼は笑い、冗談を言い、落
ち着いた様子だった。周恩来はかなり真剣な様子で、不安そうな表情だった。
(署名)クズネツォフ
88 :
その6:02/09/05 06:04 ID:???
(6)平壌のスーズダレフからモロトフあて電報(53年6月1日付)
金日成が病気だったため、朝鮮労働党のパク・チャンオク書記と会談した。同
書記はソ連側の意向を聞いた後、ラズバエフの取った行動に驚いた様子だった。
同書記は「モスクワがすべてを知っていることを確信する。このキャンペーンに
火をつけることが米国帝国主義との闘争において大きな手助けになると思ってい
た」と表明した。
パク・チャンオクは、爆弾と容器が中国の飛行機から投下された可能性を指摘
した。しかし、その爆弾には細菌は入っていなかった、と述べた。(署名)スーズ
ダレフ
(7)ソ連共産党中央統制委員会の決定(53年6月2日付)
イグナチエフはソ連国家保安相に在任中の52年4月、政治的に特に重要な文
書を受け取りながら政府に報告しなかった。その結果、ソ連の権威、世界の同ほ
うと民主主義にぼう大な政治的被害を与えた。党と政府に対する欺瞞(ぎまん)
と、ソ連の法と国家の規律の重大なる違反、不公正な行動に対し、イグナチエフ
を、ソ連共産党中央委員会から除名する。モロトフ 賛成、フルシチョフ 賛
成、ベリヤ 賛成
89 :
その7:02/09/05 06:04 ID:odZekqDX
◆秦郁彦・日大教授 論争に決着つける資料
朝鮮戦争で米軍が細菌爆弾を使用したかどうかは、長年にわたり論争が続いて
きた。米国政府は一貫して否定してきている。これに対し、英国の科学者、ニー
ダム博士ら欧米の科学者グループが一九五二年に北朝鮮を訪問して調査、「米軍
は使用したと思われる」という報告書を公表した。
北朝鮮は、撃墜し捕虜にした米軍飛行士数人の告白を発表したが、八二年に私
が平壌を訪問したときに軍事博物館でそれを閲覧したことがある。その一人であ
るマヒューリン大佐ら全員は帰国したあと、「拷問で無理やり、署名させられ
た」と説明している。
日本の歴史家の間では、米軍が細菌兵器を使用したかどうかについては、断定
派と半信半疑派が相半ばしてきたと思う。今回の秘密文書が偽造でなければ、長
年の論争に決着がつく。その意味で貴重な情報だ。
特に注目すべき点は、中国と北朝鮮とソ連の出先軍事顧問三者の合作でこのね
つ造が仕組まれたらしい点だ。しかも共産党の中央委員会にこの工作が隠されて
いたことだ。スターリンが死亡して、マレンコフに代わった直後のことで、権力
事情の変化が影響したのだろうか。
マレンコフ政権は、朝鮮戦争停戦(五三年七月)を目前に控え、この問題で米国
との関係を悪化させたくないという意図があったろう。
北朝鮮が死刑囚とはいえ、人体実験をしていたとすれば、国際政治の非情さを
も痛感する。(談)