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名無しさん@お腹いっぱい。:
朝倉喬司『都市伝説と犯罪 津山三十人殺しから秋葉原通り魔事件まで』
広島世羅田・神隠し事件
水中に眠った一族の遺体は、ほぼ白骨化していた。
「いやとにかく、ものすごい臭いじゃったよ。おかげで2、3日はメシも喉に通らなんだほどだっ
た。遺体の様子? うん、車の中でクシャツとつぶれたみたいになっとったな」
と、警察の遺体収容に立ち会った地元のある住民は話す。
原因不明のまま突然失踪し、「現代の神隠し?」と騒がれた広島県世羅町戸張の会社員、山上政広
さん(事件時58歳・以下同)一家4人(山上さんとその母親、妻、長女)と愛犬1匹。
ナゾがナゾを呼び、あれこれの憶測が渦巻くなか、彼らの遺体が同町内の京丸ダムの底に沈んだ乗
用車内から発見されたのは、失踪から約1年3カ月後の2002年9月7日のことだった。事故か他
殺か、それとも……ナゾめいた失踪をした一家の死因がそう簡単に判明するとも思えなかったのだが、
意外なことに警察は、遺体発見とほぼ同時に「心中の可能性が高い」と発表した。その理由として、
現場が地元の人でも知らないような、ダム管理用に造られた道路脇だった (そして実は、政広さんは
建設会社社員として京丸ダムの工事に係わっていた) ことがあげられた。が、だからといって、そこ
からストレートに「心中」という結論など出せるものだろうか。いかにも話が早すぎる。そう感じた
私は、現地へ行ってまず真っ先に、所轄の広島県警察耶此署を取材した。心中というからには、一家
に何か深刻な事情があったに違いないが、表向きはどうもそんなふうにもみえない。山上家は地元屈
指の旧家であり、親族の借金を肩代わりしたことはあったにせよ、その返済に苦労するような経済状
態ではなかった。朝食の支度はそのまま、当日、勤め先の社員旅行で中国へ出発するはずだった妻、
順子さん(設)の旅行の準備もそのまま、一家は幸せな団らんの黄中にまるでク消失〃したような
ありさまで失踪したのだった。警察は、表からは窺いにくい「↓中の動機をちゃんとつきとめたの
か琵鱒璃摘琵鱒の(新調甑針恵第一、承知してくれん
でしょうが」 .
と、同署次長の角和宏警部は答えた。
「じゃあいったい何があったんですか?」
「話してあげたいのはやまやまじゃが、わしもまだクビになるわけにもいかんけえねえ」
「奥さんの不倫が原因じゃないかとかいう噂もあったようですが、そこら辺りと見ていいんです
じゃけん、私の口からは……。警察としては関係者の事情聴取を重ねた結果、聞けば誰でもまあ
納得できる動機があったと、そう判断したわけです」
この後私は、事情聴取を受けたとおぼしき「関係者」何人かに当たったが、原因はやはり「不倫」
だったのだろうということで彼らの考えは一致していた。補足材料として、政広さんの「隠された性
格」をあげる人もいた。
「政広はいつもはおとなしい性格じゃが、何か気にくわんことでもあると人が変わったようにカッ
となることがあった。わしは若いときからつき合うとるけん、そんな様子を何べんか目撃しとる。元
は評判の美人看護婦だった奥さんと結婚するときも、親に反対されて駆け落ちしたもんじゃが、あれ
も政広の性格の一面が出たといってええと思う」と。
政広さんの親の結婚反対の理由が、何と「身分がつり合わない」。山上家はそれだけ旧家としての
格式を誇っていたのである。駆け落ちカップルは10年ほど広島市で暮らした後、家に戻った。その間
に生まれたのが一人娘の千枝さん。失踪当時は28歳、竹原市内の小学校教諭で婚約者もいた彼女だっ
たが、結果は無残。もし4人の死因が本当に「心中」だったとしたら、祖母の三枝さん (79歳)とも
ども、夫婦のトラブルのとんだとばっちりを受けたことになる。
「まあ結局、政広が思いつめたあげくの無理心中だったということじゃね」
と「関係者」 の1人は言った
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名無しさん@お腹いっぱい。:2011/03/01(火) 13:53:02.46 ID:x3NJVZrz
「あまり詳しゅう話すわけにもいかんが、奥さんが中国旅行に発つその日に一家がおらんようにな
ったいうことで、わしらにはピンとくることがあるんよ」
「政広さんとしては旅行に行かせたくなかったわですか?」
「うん。わしもあの前日にたまたま順子さんに会うたのじゃが、明日から中国じゃいうて若い娘み
たいにハシャいどった あの様子を政広が見りゃ、きっと面白うないどころの騒ぎじゃ済まなんだじ
ゃろう。あの旅行は社員を2組に分けて別々の日程で行くことになっとったんじゃ。順子さんがもう
ひとつ別の組に入っとりゃ、きっとあんなことにならなんだと思う」
「つまりその組に順子さんと噂のある人間がいたということですか?それで政広さんは不倫旅行
みたいに思ってしまったと」
「まあ、そんなところだ。2人を別の組にしときゃええものを、社員の1人が気をきかせたつもり
で一緒にしたんじゃね。なにしろ相手は上司じゃけえ」
事件の"刑事的″な真相追求はこれくらいにしておこう。私の今回の取材目的は、この事件の発生
当初、世の中を戦懐させた「神隠し」伝説の、強いインパクトの源泉をたどろうということだった。