「本件において,この点に関する新旧全証拠を総合しても,申立人の犯人性を認定する旧証拠の
証明力が減殺されたり,情況証拠による犯人性の推認が妨げられるものとは認められない。
この点につき,所論は,5点の衣類をはじめとする申立人の犯人性を支える旧証拠は,捜査機関等により
ねつ造されたものである疑いがあるなどとも主張する。しかし,5点の衣類及び鉄紺色ズボンの共布と
認められる端布の発見の経過は,記録によれば,前記1(2)ア,イに述べたところに加え,次のとおりで
あると認められる。
すなわち,5点の衣類が在中した麻袋は,1号タンクの底に近いところから発見されたものであるが,
同タンクは深さが1.65m以上もあり,同タンク一杯に8t以上のみそを約1年間仕込むものであって,
この仕込みの後は同タンクの底部にこれらの衣類を隠すことはほとんど不可能である。そして,同タンクで
出来上がったみそは,昭和42年7月25日から逐次取出しが始まり,同年8月31日に最後のみそを
取り出す際に前記のように5点の衣類在中の麻袋が発見されたものであるところ,仮に隠匿・ねつ造すると
すれば,発見の直前にならなければ隠匿することは困難であると考えられ,また,申立人の着衣又は
これに酷似した衣類を用意し,これに複数の血液型の人血を付着させるなどの作為が必要になる。
しかし,これら5点の衣類及び麻袋は,その発見時の状態等に照らし長期間みその中につけ込まれていた
ものであることが明らかであって,発見の直前に同タンク内に入れられたものとは考えられないし,
上記のような作為をすることも困難であると思われる。また,事件後間もない昭和41年7月4日に実施
された1号タンクを含む前記工場に対する捜索の際には同タンクの中から麻袋は発見されていないが,
この捜索の際には,みその残っているタンクについてはそのみその中を改めることまではしていないもので
あったことからすれば,捜索当時底の方にみそがまだ残っていた同タンクに5点の衣類が隠匿されていた
としても矛盾はなく,また,同タンクには,同月20日に新しくみそ原料が仕込まれているので,その際までに
隠匿することも可能であったということができる。次に,上記端布は,昭和42年9月12日に申立人の実家で
申立人の実母立会の下に実施された捜索差押の際,たんすの引き出しの中から発見されて任意提出された
ものであるところ,申立人の実母は,この端布につき,昭和41年9月末ころ工場の寮から送り返されてきた
申立人の荷物の中にあったものであると説明している。
このような各証拠の発見,押収等の過程は,格別不自然なものではなく,そこに作為を介在させる余地も
乏しいのであり,その他,記録を精査しても,証拠ねつ造等をうかがわせる事情は見当たらない。所論は,
合理的な根拠があるものとは認められず,採用することはできない。」
「(3) また,所論は,確定判決の犯人性認定が申立人の自白に依拠しているとの前提に立ち,
新証拠によれば,逃走経路等,重要な点で申立人の自白には真実に反する点があって信用できず,
この自白を除外すれば申立人の犯人性認定に合理的な疑いが生じると主張する。しかし,確定判決は,
前記のように自白を罪となるべき事実を認定する証拠とはしておらず,自白を除いた証拠のみによって
申立人の犯人性が認定できるとしているのであるから,所論は,そもそも再審事由の主張として
失当である。さらに,この点に関し,申立人の自白に係る態様で被害者方裏口から脱出することは
不可能である旨の所論について付言すると,被害者方裏口の扉は,内側から開けて通行することが
極めて容易な構造であった上,現に犯人が脱出した直後の裏口扉は開いていたと認められることなどに
照らし,これが通行不可能ないし困難な状況にあったという所論は,前提を誤っており,採用することは
できない。
(4) なお,所論は,申立人の真実に反する自白は,真犯人ならば必ず知っているはずの事実を知らない
という意味で,申立人が「犯行についての無知」な者であって,積極的に無実であることを示していると
する趣旨の心理学者作成に係る鑑定書及び同補充書等を援用し,真実に反する自白それ自体が
犯人性を否定する証拠であるとも主張する。しかし,同鑑定書等において真実に反する自白等として
指摘されている点をもってしても,申立人の自白が信用性に乏しく,これに依拠して事実を認定することが
できないという限度を超えて,それ自体で積極的に無実であることを示しているとまでいうのは,論理に
飛躍があるというほかはないし,この点をおくとしても,前記1(2)のとおりの本件における客観的証拠に
よる強固な犯人性の推認を妨げる事情とはなり得ない。
3 以上によれば,申立人が本件住居侵入,強盗殺人,現住建造物等放火事件の犯人であるとした
確定判決の事実認定に合理的な疑いが生じる余地はなく,本件につき刑訴法435条6号所定の
再審理由は認められないとした原決定は相当である。」