ゲーセンで起きた出来事や日常などを村上春樹的に語るスレの2スレ目。
「あなたは本当に対戦で勝つ気があるの?」
彼女が真剣な目で僕を見ていた。
「どうだろう、よく分からないな。
正直なところ、僕にはさしあたって勝たなければならない理由が無いんだ」
途端に彼女の表情が険しくなった。
「どうして?」
「金があるからさ。たとえ負けても乱入すればいつかは勝てる」
「対戦が終わってお金が無くなったらどうするの?
弱キャラ使って負け続ければすぐに対戦は終わってるわ。
それに、一日中ギャラリーとして見てばかりのようなあなたに一体何が出来るっていうのよ?」
彼女の言うとおりだった。僕は彼女と目を合わさないようにビールを一口飲んだ。
「やれやれ」
「今度『やれやれ』なんて言ったら殺すわよ」
・・・・・・やれやれ。
やれやれ
4様
これは「僕」のスレッドであるとともにアーケードゲームと呼ばれる世界の話でもある。
今、僕達は細長い島国の上に暮らしていた。
2005年、3月、このスレッドはそこから始まる。
それが入り口だ。
出口があればいいと思う。
そうでなければ、スレを立てる意味なんて何もない。
村上春樹って、誰?
オーケー、認めよう。アケ板住人が村上春樹なんて読まないだろうということを。
生まれて初めてゲームセンターに行った時、新作コーナーにはkof94が並んでいた。
とするとあれは入道雲の季節だったんだな。
だって冬にkofの新作が出るわけがないものね。
筺体はゲーム4つ入りのネオジオ筺体で、
「侍スピリッツ」と「餓狼スペシャル」と「kof94」と、そしてなぜか「オペレーション・ラグナロク」が入っていた。
これだけあればかなり立派な夏休みが送れる。
なにしろ十数年前の話だったから、アーケード・ゲームなんて3つもあれば足りた。
それも「夢の競演」が入っているんだもの、それ以上何も望むことなんてないじゃない。
1994年のあの夏、我々はとてもシンプルでとてもハッピーで、とても中産階級的だった。
そしてモニターは何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も「Here come a new Challenger」をうつしていた。
23時過ぎ、グラディウスIIの永久パターンに飽きた頃、コーヒー缶の底には5センチばかり吸殻がたまっていた。
僕は鞄を足元において、2時間近くモニターを眺めていた。
僕はこの巨大な都市に布団もなく髭剃りもなく電話をかけるべき相手もなく出かけるべき場所もなく、
たった一人で放り出されていた。
――でもそれは、悪くない感情だったと今では思う。
もしグラディウスIIをプレイするのに最も適した場所はどこかと質問されたら、
僕は「1992年5月のあの煙草臭いゲームセンターの隅の筺体」と答えるしかない。
画面上の動き一つ一つが時間をじっくり削ってくる空間――それがすなわち僕にとっての「グラディウスII」である。
大型モニタのケツイや、高解像度のガンバード2や、大スピーカーから高らかに流れるZUNTATAも悪くない。
しかし、「それはそれ」である。
グラディウスIIをプレイするのためにはグラディウスIIをプレイするための、
ゲームをプレイするのためにはそのゲームをプレイするための、
――そんな最良の場が必ずどこかにあるはずだ。
そんな気が、いまでも時折するのである。
よくわからんがこのスレは好きな気がする。
12 :
ぷろみね :05/03/05 19:45:24 ID:???
俺も。
とにかく店から消えていったゲームの話を聞くのが好きだ。
そういった話題を、僕は冬眠前の熊のように幾つも幾つも溜め込んでいる。
目を閉じるとオープニングが流れ、ゲームが始まり、それを囲む人々の声が聞こえる。
そしてそれは、永遠に交わることのもないであろう時代を生きた人々の、
ゆるやかな、――そして確かなうねりとして感じ取ることができるのだ。
僕は16歳で、そのとき店の中のパイプ椅子に座っていた。
7月のむせ返るような夕立が大地を暗く染め、
あわてた様に店に入ってくる学生たちや、
雑然とした街の空にそびえるネオンや、
思い出したかのように光る稲光やそんな何もかもを、
カプジャムの陰うつな背景の絵のように見せていた。
――やれやれ、また乱入か、と僕は思った。
入り口があって出口がある。
大抵のものはそんな風にできている。
UFOキャッチャー、業務員の休憩室、両替機、格闘ゲームのCPU戦。
もちろんそうでないものもある。
例えばケイブのシューティングの2週目。
店にシューティングを入れたことがある。
基板は怒首領蜂だった。
つてを捜し回った挙句、空いていたシューティング・ゲームはそれ以外に見つからなかったからだ。
場末の店のかび臭い倉庫に、アルゴスの戦士と共に眠っていたらしい。
3週間後の昼間、青年が1週目をクリアしていた。
高校生ぐらいといったところだろうか。
切ない歳だ。
濃紺のバッグが足元に転がっていた。
店に入れてはみたものの、どうしたものか僕にはわからなかった。
二度と2週目を映すこともないまま、筐体はデモ画面を繰り返していた。
結局、このゲームは僕に一つの教訓を残してくれた。
物事には必ず入り口と出口がなくてはならない。
そういうことだ。
「KOFのことよ」と彼女は言った。
「SNKだったバラバラの世界」
「SNK?」
「うん」と言って彼女は半分ほど吸った煙草を僕に渡した。
僕はそれを一口吸ってから、灰皿につっこんで消した。
「そして崩壊が始まるの」
「ね、ここにいる人たちがみんな遊んでいるわけ?カタカタって?」
と緑はこの建物を見上げながら言った。
「たぶんね」
「ここの人って何のこと考えながらあれやるわけ?」
「どうだろうね」と僕はいった。
「三次関数とかベクトルの遷移とかエネルギーの行く末のことを考えながら遊ぶ奴はまあいないだろうね。
だいたいは今日の夕食の事でも考えながらやっているんじゃないかなあ」
私は時計を見た。二時二十二分だった。
「じゃあここで別れよう。
僕はしばらくここにいるよ。
人がプレイしている姿を見るのが好きなんだ」
「さよなら」と彼女が言った。
いいね。
今、僕はテトリスを始めようと思う。
もちろん、このゲームにクリアなどなく、ゲームオーバーしか存在しない事は知っているし、
ゲームを終えた時点でも、あるいは全く得るものなど無かった、という事になるかもしれない。
結局のところ、このゲームには建設的な手段などはなく、
全てはゲームオーバーへのささやかな段取りにしか過ぎないからだ。
しかも、正確に状況を把握することはひどくむずかしい。
僕が的確に操作しようとすればするほど、
縦型のモニターは正方形の奥深くへと沈み込んでいく。
弁解するつもりはない。
少くとも目に映るこの情景は現在の僕におけるベストだ。
つけ加えることは何もない。
――それでも僕はこんな風にも考えている。
うまくいけばずっと 先に、何年か何十年か先に、
ブロックが積み上がるのとは別のゴールが発見できるかもしれない、と。
僕はそれを待ちながら、だから今日もこの段取りを踏んでゆく。
もし見つけられたならその時――その時全てはゼロに還り、おそらく僕はまた別のゴールを探し始めるのだろう。
あらゆるゲームは通り過ぎてゆく。
だれにもそれは止めることはできない。
僕達はそんな風にして生きている。
10年間、僕はそういった世界に在り続けた。
―-10年間。
長い歳月だ。
もちろん、そこに存在するあらゆるものを楽しもうとする姿勢を持ち続ける限り、
店に通い続けることはそれほどの苦痛ではない。
これは一般論だ。
僕はあのとき、ゲームを止めるべきだったのだろうか。
それがこの缶コーヒーを飲み終えるまでの、僕のテーマだ。
――結局、僕にはわからなかった。
いくつ歳をとってもわからないことはたくさんある。
「初めて見た時から3Dの背景って好きになれなかったわ。」
「そう?」
「画面は見づらすぎるし、チラチラしてるし、どこか無理してる感じがしたし・・・。あなたは?」
「背景なんて気にしたことも無かったな。」
彼女はため息をついて笑った。
「あなたならきっとうまく生き残れるわ。」
「何処に行くの?」
「アルカノイドをやりに行く。行く先はわからない。」
「アルカノイド?」
「そう、板を動かして、反射させたボールでブロックを崩して…」
「知ってるわよ。でも、なんでアルカノイドなんて…。」
「さあね?世の中には我々の哲学では推し測れぬものがいっぱいある。」
彼女はテーブルに頬杖をついて考え込んだ。
28 :
ゲームセンター名無し:05/03/08 12:40:53 ID:87SEZ02q
良スレage
ねじまき鳥とスプートニクしか読んだことないエセ村上春樹ファンの俺がやってきましたよ
29
お前も何か書け
>>30 文才ないから無理
ただやってきたって言っただけだ
「あたしは4500円かけてひとつのことしかわからなかったよ。
こういうことさ。
人はどんなことからでも努力さえすれば何かを学べるってね。
どんな野暮ったくて卑怯なことからでも、必ず何かを学べる。
どんな初心者狩りにも哲学はあるってね。
どこかで読んだよ。
実際、そうしなければ誰も生き残ってなんかいけないのさ。」
鼠は肯き、2センチ5ミリばかり缶の底に残っていたジンジャーエールを飲み干した。
有線放送が曲の谷間で沈黙し、スピーカーは少しばかりのノイズを立て、
――そして店が静まり返る。
>>29 いやお前はやってきただけでも大きな仕事をした。
ねじまき島だと思ってたorz
「あんたの言うことは解りそうな気がするよ。」
でもね、といいかけて鼠は言葉を飲み込んだ。
口に出してみたところで、どうしようもないことだった。
昔、ノルウェイの森からの引用で、
永沢さんをウメハラにした文章があったんだが、あれは面白かった。
>>33 本を読んでれば気づかないか?
話の中で「ぎぃ〜」って鳴いてるし
くだらない追加要素をウリにしてウケるゲームが発売されたら、
この業界はずいぶん遠くまで行けるんだろうね。
僕は店の前に立つと一つ深呼吸をした。
くたびれきったパイプ椅子に座る自分を想像してみる。
灰皿の位置をなおし、くたびれきったパイプ椅子に座る。
そしてまだ慣れないネクタイを緩めて――
まだ未練があるのか、そう思って醒めた自分がいた。
それを思うと、自分がずっと遠くに行った気がした。
「全国ランキングまでは時間がかかりそうだね」と覇者の友人は言った。
「まあね」と私は言った。「金もかかる」
「金なんてこの際たいした問題じゃない。これは戦争なんだ。
金の計算してちゃ戦争には勝てない」
「僕の戦争じゃない」
「誰の戦争かなんて問題じゃないし、誰の金かも問題じゃない。
MJとはそういうものだ。まあプロリーグは諦めるんだね。」
40 :
ゲームセンター名無し:05/03/13 01:08:01 ID:khRS8ij/
やれやれ。
ageてみるべき時期だった。
新商品のロケテで乱入した時のことだ。
対戦を終えて帰ろうとする僕に相手が言った。
「ひとこと言わせてもらっていいかな。」
「何でしょう。」
「相手に同情するな。」と彼は言った。
「手加減ではなく、相手に同情するのは下劣な人間のやることだ。
特に、誰がまってる訳でもない場合はたちが悪い。」
「覚えておきましょう」と僕は言った。
そして我々は握手をして別れた。
彼は今までの世界へ、僕は自分のぬかるみへと戻っていった。
電話のベルが鳴った。
「帰ったわ。」と彼女が言った。
「会いたいな。」
「今出られる?」
「もちろん」
「5時に店の前で。」
「店で何してる?」
「D&D、SOM。」
「SOM?」
「エルフよ。」
やれやれ。
今さらベルトアクションを始めるなんて・・・君はいったい何をしているんだ?
>>41 最後の1行がツボった
できれば作品名キボン
>>43 すまん。忘れた。
元ネタ村回春樹なのは間違い無いんだが…
今回のはどっかのHPに載ってた引用を弄った奴。
ネタ探しに今、村上一通り読み直してるから、出て来たら書くわ。
一応紙媒体になった奴は全部持ってるはずだから、そのうち見つかると思う。
中途半端で、本当にすまん。
よかったら期待せずに待っといて。
「どうしてアーケードでやるようになったの?」
「きっとあんた笑うよ。」と羊男は言った。
「たぶん笑わないと思うよ。」と僕は言った。
いったい何を笑えばいいのか見当もつかない。
「誰にも言わない?」
「誰にも言わないよ。」
「――家にね、テレビがなかったからさ。」
46 :
43:05/03/15 09:20:52 ID:???
>>44 おk
とりあえずねじまき鳥とパン屋襲撃とスプートニクは読んだことあるからそれ以外だと思う
よろしくお願いします
「光翼型近接支援残酷戦闘機」
「コウヨクガタキンセツシエンザンコクセントウキ」
「こうよくがたきんせつしえんざんこくせんとうき」
「光翼型近接支援残酷戦闘機」
僕は口に出して、お経のようなこの言葉を三回繰り返してみた。
しかし、僕を取り巻く世界には何の変化もなかった。
僕はこれから弾幕を乗り越え、敵機を破壊し、このゲームを終わらせなくてはいけないらしい。
そのことには何ら変わりがないのだ。
やれやれ。
とりあえず耳鳴りするほどの喧騒の下、レバーを握りなおすことにした。
ひとつのゲームがドアを開けて去り、またひとつのゲームがべつのドアからやってくる。
人は慌ててドアを開け、
おい、ちょっと待ってくれ、ひとつだけやり残したことがあるんだ。
そう叫ぶ。
でもそこにはもう誰もいない。
ドアを閉める。
部屋の中では既に、また別のゲームが筐体に入り、
椅子を用意しながらこちらの様子を伺っている。
――もしやるべき事があるのなら、
と、彼は言う。
上手くゆけば、それは俺でも出来るのかもしれない、と。
――いやいいんだ、
と人は言う。
たいしたことじゃないんだ、と。
さまざまな雑音があたりを被う。
そう、本当にたいしたことじゃない。
ただ――。
ただ、一つの季節が死んだだけだ。
つまりは、それだけのことだった。
51 :
43:05/03/16 12:04:59 ID:???
>>50 もしかして今までのの書き込みはほとんどおまいか?
俺も何か書こうと思ってるんだけどなかなか思いつかないんだよな・・・
頑張ってみるよノシ
その店は大通りを二筋ばかりはずれた、古い商店街のまんなかあたりにあった。
間口はガラス戸二枚分、看板が出ているわけもなく、ただ表札の脇に「萬年筐体」と出ているだけだ。
おそろしくたてつけの悪いガラス戸は、開けてからきちんと閉めるまでに一週間はかかりそうな代物である。
もちろん紹介状がなくてはならない。
時間もかかるし、金もかかる。
――でもね、夢みたいに体にぴったりの筐体をさがしてくれるんだ。
と、友人は言った。
だから僕は来た。
主人は六十歳ばかり、森の奥に棲む巨大な鳥のような風貌である。
「手を出しなさい」とその鳥は言った。
彼は僕の指の一本一本の長さと太さを測り、皮膚の脂気を確かめ、縫針の先で爪の硬さを調べた。
それから僕の手に残っている様々な傷あとをノートにメモしていった。
こうしてみると手にはいろんな傷あとがついているものだ。
「服を脱ぎなさい」と、彼は手短かに言う。
なんだかよくわからないままにシャツを脱ぐ。
ズボンを脱ごうとした所で、主人は慌てて押しとどめる。
いや、上だけでいいんだ。
彼は僕の背中にまわり、背骨を上から順に指で押さえてゆく。
「人間というものはね、背骨のひとつひとつでものを考え、指を動かすんだよ」と彼は言う。
「だからあたしは、その人の背骨にあった筐体をさがすのさ」
そして彼は僕の歳を訊ね、生まれを訊ね、月収を訊ねる。
そして最後に、この筐体で一体何をするつもりなんだと訊ねる。
三ヵ月後、筐体が入ったと連絡があった。
夢のように体に馴染む筐体だった。
だけど、まあもちろん、だからといって夢のようにゲームが上手くなるというわけじゃない。
夢のように体に馴染むゲームをさがしてくれる店では、僕はズボンを脱いだところで間に合わないかもしれない。
>>51 ほとんどというか、ネタは、うん、まあ。
期待してます。
>>43 横ヤリですまんが、あれは「ノルウェイの森」だ。
下巻の真中あたりじゃないかな。永沢さん…
56 :
51:05/03/16 21:45:56 ID:???
>>54 ガ板の村上スレ見ながら考えてるけど全然駄目だ・・・
気長に待ってて
あと55さんが教えてくれたよ
探してくれてありがとう
>>55 ありがと
早速入手してきます
>>55 感謝。
てか、うわ、もろ代表作かw
ミーハー丸出しだな、俺。
>>56 気長に待ってる。
…前スレみたいにdat落ちしなきゃいいんだけどな。
「たとえば」と僕は言って、天井を眺めた。
彼にものごとを理論的に説明するのは、意識がまともなときにだって 困難な作業なのだ。
「赤い体力ゲージは危険の象徴だ。それはわかるね?」
「なんとか」と彼は言った。
「なんとかじゃない。実は法律でそう定められているんだ」
と僕はできるだけ冷静な声で言った。
「異論や疑問はあるかもしれないけれど、それをひとつの事実として
受け入れてくれないと、 話が前に進まない」
なにも変わってやしない。いつだっていつだっていつだって、音ゲーの在り方は同じなのだ。
ただタイトルが変わって曲が入れ替わっただけのことなのだ。
こういう意味のないジャンルはいつの時代にも存在したし、これからも存在するのだ。
格ゲーと同じように。
>>59 「いい」
そうタイピングし、とりあえず煙草をふかしてみる。
もっとべつの言いかたも出来るはずだったが、結局僕が言いたいのはそういうことだ。
「しかし」と彼は言った。
「例えそれが法律で定められていることであっても、
最終的にはそれを扱う人がどう感じるかじゃないですか?
体力ゲージが赤くなったからといって、それはあきらめるべき事態じゃないと思います」
まただ。
彼は今現在しなければならないことと、たどり着くべき理想を常に混同している。
「それに大体」彼は少しばかり興奮しているようだった。
「『危険の象徴』だなんて、そんな形而上学的な概念は理解しやすいとは思えません。
あなたはは『守ってからの一発逆転』やら待ち戦法やら、
そんなものに少しでも意義があると思って対戦をしているんですか?僕には理解できない」
――現実という点においては、彼の言い分の方が有利だった。
幾ら守っても相手が永久に倒れない以上、それは確かにその通りなのだ。
僕はため息をついた。
「君の気持ちはわかる」
「いえ、わかってませんね」と、彼は僕の言葉をさえぎって続けた。
「だいたい、コインを入れた後七割以上の時間をレバーを後ろに倒したまま
プレイをするような人たちが乱入してくることに、いったいなんの意味があるんですか?
あの人たち新作がでたならそっちに移りますよ、賭けてもいい。
そんなくらいなら対戦になんか入らないで、全部CPU戦で
モニターの体力ゲージでも初めから隠しておいた方がよほど意義があると思いますよ」
僕は怒るわけでもなく、ただそこにいる彼を眺めた。
「――すみません、言い過ぎました」
彼は言いたいことを言ってしまうと、少し落ち着いたようだ。
「いや、いいんだ。気持ちはわかるよ」
彼は一瞬何か言おうとしたが、あきらめたようだった。
僕にとっての業界の流れがその軌道を少しずつ狂わせ始めたのは,、
二年前ばかり前のことだった。
SVCが発売された年だ。
SVCが発売されたのにはもちろん、幾つかの理由があった。
その幾つかの理由が複雑に絡み合ったままある作品に達した時、
音をたてて何かが壊れた。
そしてあるプレイヤーは残り、 ある店長ははじき飛ばされ、あるゲームセンターは死んだ。
「予定が変更された」と聞き覚えのある声が言った。
「会社の資金繰りが急に苦しくなったんだ。
もう余り時間がない。だから君のタイム・リミットも繰り上げられる」
「どれくらい」
「一ヶ月。それ以上は待てない。
一ヶ月たっても製品が完成されなければ、君はおしまいだ。
君が戻るべき場所はもうどこにもない」
一ヶ月、と僕は頭の中で考えてみた。
しかし僕の頭の中では時間の観念が取り返しのつかないくらい混乱していた。
一ヶ月でも二ヶ月でもたいした違いがないように思えた。
そもそも一つのゲームをこの世に生み出すのに、
一般的にどれくらいの時間がかかるかという基準がないのだから仕方がない。
「――よくここの場所がわかりましたね」と僕は言ってみた。
「我々には大抵のことはわかる」と男は言った。
「どんなゲームが当たるのか、以外はね」と僕は言った。
「そういうことだ」と男は言った。
様々な想いが僕の頭に脈絡もなく浮かんでは消えていった。
後ろを歩く様々な人の姿が、弾幕で覆い尽くされたモニターの上に浮かんでは消えた。
あなたのせいじゃない、と彼女は言った。そして何度も首を振った。
あなたは 悪くなんかないのよ、精いっぱいやったじゃない。
違う、と僕は言う。コイン投入、モード選択、そしてウルトラへ。
違うんだ。
僕は何ひとつ出来なかった。指一本動かせなかった。
でも、やろうと思えばできたんだ。
このモードで生きられる人はとても限られた存在なのよ、と彼女は言う。
そうかもしれない、と僕は言う、でも何ひとつ終わっちゃいない。
いつまでもきっと同じなんだ。
春樹は苦手で読んだことないや。
ドラゴンでお茶を濁す…訳にはいかんしねぇ。
僕はいつもの様にゲームセンターへ通う。
少しピチピチのチェックのシャツを洗練されたユニクロジーンズに入れて。
やがて、いつもより女子の視線が気になってくる。
オーケー、声を掛けてくれても構わない。
僕が幾らゲームに集中してるからと言って臆することはないんだ。
君には一握りの勇気さえあればいい。
また違う淑女が僕を見つめている…やれやれ今日は一体どうしたと言うんだ。
/::::::::::::::::::::::::::\
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|;;;;;;;;;;ノ \,, ,,/ ヽ
|::( 6 ー─◎─◎ )
|ノ (∵∴ ( o o)∴)
/| < ∵ 3 ∵>
::::::\ ヽ ノ\
:::::::::::::\_____ノ:::::::::::\
「あなたは本当に上手くなる気があるの?」
彼女が真剣な目で僕を見ていた。
「どうだろう、よく分からないな。正直なところ、僕にはさしあたって上手くならなければならない理由が無いんだ」
途端に彼女の表情が険しくなった。
「どうして?」
「強キャラを使っているからさ。練習しなくても勝つことができる」
「新作が出たらどうするの?新作が出たら調整がされてあなたが使ってるキャラは強キャラじゃなくなるわ。
それに、強キャラを使わなければあなたに一体何が出来るっていうのよ?」
彼女の言うとおりだった。僕は彼女と目を合わさないようにビールを一口飲んだ。
「やれやれ」
「今度『やれやれ』なんて言ったら殺すわよ」
・・・・・・やれやれ。
「あの格ゲーを引退したんだって?」と彼が口を開いた。
「一ヶ月も前の話だぜ」と僕は窓の外に目をやったまま言った。
まだ財布に入ったままのカード見ると、心が痛んだ。
「どうして辞退したんだ?」
「個人的な理由だよ」
「知ってるよ」と彼は我慢強く言った。
「個人的じゃない引退理由なんて聞いたこともない」
「投げキャラたちを見に行ったんですよ」と僕は言った。
「ずいぶん撃墜されてました。8回か9回、いやもっとかな」
「これからもっと沢山落とされることになるさ。相手がしゃがむたびにね」
「何故そんなに簡単に落ちてしまうんですか?」
僕は仰向けになったままタオルを顔の上から外して訊ねてみた。
「弱いんだよ。飛び込み、ってやつはね。昔からずっとそうだった」
「死に絶えはしないんですか?」
店員は首を振った。
「彼らはこれまで何年もこれで生きのびてきたし、これから先もそうだろう。
システムのせいでおおくのものが死ぬが、季節がかわれば新しい人間が入ってくる。
結局、新しい生命が古い生命を押し出していくというだけのことなのさ。
この業界に、存在するだけで100パーセント誰からも選ばれるほど魅力のあるキャラなんていないからね」
「上手になることは必ずしも、真実に近づくこと・・・ではない。」
うはwwwww何この良スレwwwwwwwwww
一時間ばかり待ったが、乱入者は現われなかった。
十本ばかりの煙草に火をつけ、そして空き缶に突っ込んだ。
店の端のほうまで歩き、水道の蛇口から夢に出てきそうなぐらい温くカルキ臭い水を飲んだ。
ゲームをすっかりクリアしてしまい、椅子からたちあがった回数はちょうど5回だった。
結局――それでも乱入者は現われなかった。
6回目をはじめることもなく、ぼくはなんとなく納得して家に帰った。
「ここは悪いところじゃないと僕も思うよ。
メンテはいいし、対戦環境も申し分ないし、常連はいい人だしね。
でも長くいる場所じゃない。
長くいるにはこの場所はちょっと特殊すぎる。
長くいればいるほどここから出にくくなってくると思うんだ。」
「メルブラについて僕に何か教えてくれないかな。僕はメルブラについて何も知らないんだ。
申し訳ないけど僕は同人ゲームというものをほとんど一度もやったことがないんだよ。」
「真面目な方ですね」
「おかげさまでオタク扱いはされていない。」と僕は言った。
「でも子供の頃は友達の家でスマブラばかりやっていた。格ゲーだって結構やった。僕は一人っ子だったから、きっと親はとやかく言えなかったんだね」
彼女は頷いて、しばらく缶コーヒーの中を覗き込んでいた。彼女が次に口を開くまでまた長い時間がかかった。
「メルブラというのはそれほど面白い格ゲーじゃないと思います。」と彼女はいった。
「世の中には各キャラのエリアルを一つ一つ暗記しなくちゃいけないゲームより面白いゲームはいっぱいあるだろうと思います。
同じ格ゲーでもスト3みたいに読み合いゲーじゃないし、ランブルみたいにグルグル動くわけでもありません。
でもそこにはそこにはもっと身近で親しみのもてるものあるんです。等身大とでも言えばいいのかしら。」
「なるほど」と僕は言った。この女の子は話そうと思えばちゃんと話せるのだ。
鼠は目の前に並んだ六本のコーヒーの空缶をぼんやりと眺める。
筺体のあいだから熱心にレバーを動かす人の後姿が見える。
引退の時期かもしれない、と鼠は思う。
この店で初めてレバーを握ったのは14の歳だ。
何十種類ものゲーム、何百個ものプライズ、何千人ものゲーム・プレイヤー。
何もかもが、まるでメダル・ゲームのコインのように、やって来ては去ってった。
―-俺はもう既に充分なだけのゲームをやったじゃないか。
もちろん三十になろうが四十になろうが幾らだってゲームはできる。
でも、と彼は思う、でもここでやるゲームだけは別なんだ。
・・・二十五歳、引退するには悪くない歳だ。
気の利いた人間なら大学を出て銀行の貸し付け係でもやっている歳だ。
鼠は空缶の列にもう一本を加え、自販機にまた吐き出させた紅茶を一息で半分ばかり飲む。
そして反射的に手で口を拭う。
そして湿った手をコットン・パンツの尻で拭った。
歳の明けた2月、「ぷよぷよ」は消えた。
筺体は綺麗に清掃され、翌日にはそこは専用コントロール・パネルの「魚ポコ」として客を待っていた。
不思議はない、とは思う。
そこはなにしろ、店員に何かあるたびに、
――それこそ店の前で黒い猫を見たとか、ゲームに入っていたコインが丁度35枚だったとか、そんな度に
ゲームを変えてるんじゃないか、というほど中味のよく変わる店だ。
ただ、あの「ぷよぷよ」だけは別で、
ぼくがこの店に来た1996年の入道雲の頃からあの場所にはカラフルな化け物が降り注いでいた。
断っておくが、ぼくはその椅子に座ったことは一度もなかったし、ゲームが変わったことには何の感慨もない。
ただ、この先、「ぷよぷよ」の画面が焼きついたモニターを見るたびに、何かを思いだしそうな気はしている。
結局何かを思い出せるということは、何かが自分を行過ぎてしまったということだ。
その日店を出る前に「ぷよぷよ」の行く先について店員に訊ねてみた。
「企業秘密です」店員は面白くもなさそうに答えた。
1ヶ月前のことはもちろん、1ヶ月先のことなんて考えちゃいけない。
つまりそこはそういう店なのだ。
僕が格闘ゲームで10連勝する間、彼女は一度もこちらを見ようとしなかった。
「プロのゲーム・プレイヤーになるつもりなの?」
彼は首を振る。
「僕にはそれほどの才能はない。
ゲームをやるのはすごく楽しいけどさ、それでは飯は食えないよ。
ゲームをうまくやることと、ゲーム業界で飯を食べてゆくこととのあいだには、大きな違いがあるんだ」
80 :
ゲームセンター名無し:2005/04/08(金) 18:19:09 ID:Hgn4GVLE
age
「あなたは十六の頃何をしてたの?」
「『夢の競演』に夢中だったよ。」1998年、我らが年。
「キャラ差はどうなったの?」
「それなりだったね。」
「深刻だった?」
「遠くから見れば、」と僕はキャラを前転させながら言った。
「大抵のゲームは楽しそうに見える。」
それは業界じゅうのネタというネタを集めて、
そのなかから誰が見てもネタだというものだけを抜き出してひとつにしたようなキャラだった。
なにしろ空中にいくつもの入歯をうかべ、それを相手に向けて打ち出すのだ。
人にそんなキャラがいるときいてだけならば、僕だって100パーセント思うだろう。
それは業界じゅうのネタというネタを集めて、
そのなかから誰が見てもネタだというものだけを抜き出してひとつにしたようなキャラだった。
なにしろ空中にいくつもの入歯をうかべ、それを相手に向けて打ち出すのだ。
人にそんなキャラがいるときいてだけならば、僕だって100パーセントネタだと思うだろう。
「僕はね。一生か、か、か、格ゲーをするのが夢なんだ」
ウメハラはよくそう言っていた。
だが気が付くと……
いつの間にか、ウメハラはゲーセンから姿を消していた。
このスレを見て村上春樹に興味を持ったので今から本屋に行ってきます。
保守
「先取りして後悔できそうだよ」と僕は隣の椅子の友人に向って言った。
もちろん友人は何も答えなかった。
友人は頭がいいから、こういうことには一切関わり合いにならないようにしているのだ。
友人も対戦相手もギャラリーも店員も、みんな頭がいい。
誰も返事をしない。聞こえないふりをしている。
馬鹿なのは僕一人だけだ。
いつも弱いキャラクターと関わり合っている。
そしていつもくたびれている。
気持ちの良い春の宵に、デートする時間もない。
週に一度双子はいとおしそうにDDRをプレイした。
パスル・ゲームコーナーでテトリスをしながらふと目を上げると、
二人が1Pと2Pのパネルの上で全く同じ姿で踊っている姿が見える。
そんな時、僕は自分が本当に遠くまで来てしまったんだと実感する。
何故だかはわからない。
去年の夏、たまたまバトルサーキットをノーミスでクリアしてしまって以来、時々そういった気持ちになる。
ageてみようと思う
「何故回しプレイが嫌いだと思う?」
その夜、鼠はそう続けた。そこまで話が進んだのは初めてだった。
わからない、といった風に僕は首を振った。
「はっきり言ってね、回しをする奴らなんてほとんど何も考えてやしないからさ。
相手の事と手の内が解って無きゃまともに対戦もできやしない。」
はっきり言って、というのが鼠の口癖だった。
「そう?」
「うん。奴らは大事なことは何も考えない。
考えてるフリをしてるだけさ。‥‥何故だと思う?」
「さあね」
「クエスト・オブ・Dの話をしよう。どうも気にかかるんだ」
二人は肯いた。
「なぜ死にかけてるんだろう」
「いろんなものを吸い込みすぎたのね、きっと」
「パンクしちゃったのよ」
「どうすればいいと思う?」
二人は顔を見合わせて首を振った。
「もうどうしようもないのよ」
蛍の光が流れ始めて、気がつくともう24時を回ろうとしていた。
やれやれ。
僕は頭を振った。まずは帰宅の方法を考えよう。
店から出るのはそれからでも遅くはない。
そのとき後ろに椅子を上げ始めた店員の気配を感じたが、振り返るのはやめておいた。
たぶん、今はその時期じゃない。
そう、物事のタイミングを間違えるとろくなことにならないと、
僕はうすうす気がつきはじめていた。
93 :
ゲームセンター名無し:2005/04/12(火) 03:18:44 ID:gIYX1Bn/
ノルウェイの森で抜いた
俺も抜いた
96 :
ゲームセンター名無し:2005/04/12(火) 19:21:25 ID:gIYX1Bn/
あげる
そんなにあげまくる必要があるのか?
ageるべきだ
たぶん僕は時代遅れなのだろう。
でも僕は放課後のゲームセンターで、
つらつらと5鍵のビートマニアの2ndを遊んでいた事を今でもとても懐かしく覚えている。
今は残念ながら、どのゲームを見てもあれほどの1曲ごとの充足感はない。
たまに「今時の音ゲー」をプレイしてみるけど、あれは僕にはあまりにも動きが忙しすぎる。
山場を乗り切ってひと息いれたり、次にプレイする曲を考えたりという余裕がまったくない。
おい、たかがゲームじゃないか、といつも僕は思う。
どうしてそんなに忙しくあっちみたりこっちみたりしなくちゃならないんだよ?
どうしていちいちそんな複雑にみなくちゃならないんだよ?
――やれやれ。
間違いなく僕は時代遅れなのだろう。
基板を変えながら男は話を続けた。
「あたしも二十一年間いろんな店をまわったけどね、こんなのって初めてだな。」
「何が?」と僕は訊ねた。
「つまりね、ん・・・。双子の女の子と対戦してる人なんてのはさ。
ねえ、旦那も大変でしょ?」
「そうでもないよ」と僕は2本目のコーヒーを飲みながら言った。
「クリアできた?」
「いや」と僕は言った。「それにはあんまり興味はないよ」
「私はずいぶんがんばったのよ。でもこうなるんなら、それでよかったのね。
それともクリアできる人がたくさんいたら、こうならなかったと思う?」
「面白くても店から消えるゲームはいっぱいあるよ」
「そうね」と店員は言って、僕のライターをしばらくいじっていた。
「このゲームのことは今でも好きよ。
でも、きっとそういう問題でもないね。
それは自分でもよくわかっているのよ。」
暗闇が街並を墨色に染め、そろそろ日付が変わりはじめる頃、僕は部屋の西の窓に前にすわり、
隣に建っているゲーム・センターの店員が「角笛」を吹いて「獣たち」を棲家に帰らせる儀式を眺めたものだった。
「角笛」――蛍の光は23時50分に毎日一度だけ、1曲分を通して鳴らされた。
それが決まりだった。
曲の音が聞こえると僕はいつも目を閉じて、そのやわらかな音色を体の中にそっと浸みこませた。
その響きは、他のどのような時間に聞く彼の響きとも違っていた。
それはほのかな月光を帯びた透明な魚のように筺体の間をひっそりと通り抜け、
店の周りの歩道の丸石や家々の石壁や川沿いの道に並んだ自動販売機をすらその響きでひたしていった。
大気の中にふくまれた目に見えぬ時の断層をすりぬけるように、
――その音は静かに街の隅々にまで響きわたっていった。
そしてある日、店へ向かう自転車の上で、この時間、この街さえもが突然そのリアリティを失いはじめる。
……そう、あそこは僕の場所ではない。
仲間はいつか消え去り、夢は遠く崩れ去るだろう。
あるいは、もう、すでに。
あの永遠に続くようにも思えた対戦格闘の熱狂が何処かで消え失せてしまったように。
何もかもが亡び、姿を消したあとに残るものは、おそらく冷たい筐体とブラウン管の闇だけだろう。
過ぎた日々‥‥‥。
日々というものは、あの流離の挌闘家が呟くように、どれほどの時間をかけても失うのは一瞬でしかないのかもしれない。
おそらく、どこにも残るものなどないのだ。
それでも僕はかつての1プレイヤーとしてのささやかな誇りをコーヒーと共に飲み干し、
河原の石段から腰を上げ、夕焼けの砂利道をいつか姿を現わすかもしれない挑戦者のために走ろう。
そして人ごみに囲まれた二台の筐体を想い、あの歓声に満ちた店内を想いだそう。
だからもう何も恐れるまい。
シューターが弾幕を恐れぬように、パーフェクトを破られた者が傷つくことを恐れぬように。
もし、もしそれが本当にかなうものなら‥‥‥
友よ、
友よ、あの時間はあまりに遠い。
遥かな日々、想いを胸に、この場所で君を待とうか。
――角笛の音が街にひびきわたるとき、人は太古の記憶に向かってその首をあげる。
何人ものゲーム・プレイヤーが一斉に、まったく同じ姿勢をとって「角笛」の音のする方向に首をあげるのだ。
あるものは大儀そうな表情のままコンビネーションを刻み続けていたのをやめ、
あるものはとても大きな筺体の前に陣取ったままに手のひらで音を紡いでいたのをやめ、
またあるものは弾幕という泡沫の夢から醒め、それぞれに空中に首をのばす。
その瞬間あらゆるものが停止する。
動くものといえば、黒く透き通った店の窓ガラスに反射する彼らの前のモニターだけだ。
彼らがそのときにいったい何を思い何を凝視しているのかは僕にはわからない。
ひとつの方向と角度に首を曲げ、じっと宙を見据えたまま、彼らは身じろぎひとつしない。
そして角笛の響きに耳を済ませるのだ。
>>106 いや、気にしないで。
俺にとっても
>>103-104は思い出深いレスだし…
前スレ、鯖移転でDatすら残ってないんだよな。
そういえば前スレが立ったのも3月の末か4月の頭だった気がする。
前スレがDat落ちしたのは、去年の4月の終わりの例の鯖問題の頃でね。
なにかといえば「落ちた!!復旧した!!」という時代だった。
前スレもまあそんな波に呑みこまれた一つで、他の鯖に移住することを拒否して、
数日に幾つかレスがつきながらアーケード板をさまよっていたんだ。
特に保守とかはしないのが正しい生き方だと思ってた。
うん、本当に何もしなかったな。
他のスレでは保守ageなんかも結構やってたよ。
ま、若気の至りというかね。
でも今から考えてみれば楽しい時間だったよ。
もう一度あんな事件が起きたとしてもたぶん同じことをやっているだろうね。
そういうもんだよ。
ゲームとは碑石である、と彼は言った。
もし誰も何も刻まないなら、それは存在しないのも同じだ。
いいかい、ゼロだ。
「うまくうごかすことができないの」と直子は言った。
「ここのところずっとそういうのがつづいてるのよ。
何か出そうとしても、いつも見当ちがいな技しか出てくれないの。
見当ちがいだったり、あるいは全く逆だったりね。
それでそれを訂正しようとすると、もっと余計に混乱して見当ちがいになっちゃうし、
そうすると最初に自分が何をしようとしていたのかがわからなくなっちゃうの」
111 :
ゲームセンター名無し:2005/04/15(金) 23:28:27 ID:8wf/f/92
直子は手コキをしながらイッた。
ある日、何かが僕たちの心を捉える。
なんでもいい、些細なことだ。
座り潰されたパイプ椅子、取り忘れたエクステンド、
子供の頃に気に入っていた使用キャラ、古いゲームの消え去った攻略法・・・・。
もはやどこにも行き場所のないささやかなものたちの羅列だ。
二日か三日ばかり、その何かは僕たちの心を彷徨い、そしてもとの場所に戻っていく。
・・・・暗闇。僕たちの心には幾つもの井戸が掘られている。
そしてその井戸の上を鳥がよぎる。
「なぜ彼らはあんなにたくさん弾を出して飛んでるのかしら?」と彼女が訊ねた。
「敵から逃げるためさ」
「敵?どんな敵?」
「人間だよ」と僕は言った。
「人間が弾で彼らを殺して点数に変えていくんだ」
「何故2000以前ばかりやる?」
僕は相方が墜とさなかった鎧騎士風の巨大機械を遠距離からの射撃で片付け、
戦績を表示し始めたモニターを見ずに吸いかけの煙草を手に取って隣の席に向かって訊ねた。
「SNKがもう死んじまった会社だからさ」
「生きてる会社のゲームはやらない?」
「生きてる会社になんて何の価値もないよ」
「何故?」
「――死んだものごとに対しては大抵のことが許せそうな気がするんだよ」
「ゲームは上手いの?」
「以前はね。誇りを持てる唯一の分野だった。」
「私には何もないわ。」
「無くさずにすむ。」
「それで、アーケード・ゲーム業界の様子はどうだね?何か変わったことは起こってないかな?
店にいかないと何が起こっているのかわからないもんでね」と彼は言った。
僕は脚を組んで首を振った。
「相変わらずだよ。たいしたことは起こってないよ。ゲームシステムが少しずつ複雑になっていくだけだ。
そしてゲームのすすむスピードもだんだん速くなっている。
――でもあとはだいたい同じだよ。特に変わったことはない」
羊男は肯いた。「じゃあまだ次の革新は始まってないんだね?」
羊男の考える「この前の革新」がいったいどの派遣を意味するのかはわからなかったけれど、
僕は首を振っておいた。
「まだだよ」と僕は言った。
「まだ始まってない」
「勝率は?」
「悪くないよ」
「コンパネの具合は?」
「上々さ」
店はまだあまり混んではいなかった。
午前中よりその人影は少しばかり濃くなったようにも思える。
店から体を出すと、微かな雨の予感がする。
何羽かの春の鳥が空を横切っていった。
118 :
ゲームセンター名無し:2005/04/21(木) 21:27:49 ID:4y9RZuFq
あげてみるとしようか
ゲーセン再襲撃
「俺はこいつの弱さがすきなんだよ。技や顔も好きだ。
立ち回りや勝台詞や負けたときの声や、そんなものが好きなんだ。
どうしようもなく好きなんだ。君とやる対戦や・・・・・・」
鼠はそこで言葉を呑みこんだ。
「わからないよ」僕は言葉を探した。
しかし言葉はみつからなかった。
僕は椅子に座ったままモニターの奥をみつめた。
「我々はどうやら同じゲームから全く別のものを見つけてしまったようだね」と鼠は言った。
「でもわからないな」と僕は言った。
「今僕はこうしてはっきりと弾幕の抜け道や弾の軌道を見ることができるようになった。
昔見えなかったものが、こうして今見えるようになった。どうしてだろう?」
「――それはあんたが既に多くの物を失ったからだよ」と彼は静かに言った。
「そして気付くべき事が少なくなってきたからだよ。
だから今あんたにはゲームのほんとうの姿が見えてるんだよ」
「やれやれまたか」ぼくはギムレットを一気に流し込み厨房との対戦を始めた。
しばらくすると隣の女の子が話しかけてきた。
「あなたとても変わったレバーの持ち方をするのね。たまに言われない?」
ぼくはいささかうんざりしながら2杯目のギムレットを注文した。
「悪いけど、今コンボの練習をしてるんです。
対戦ならあとにしてくれませんか?」
「コンボ?」、女はあきれたような声を出した。
「大会開始の30分前にコンボの練習をしているの?」
「あなたには関係ないことでしょう。何時に何をしようが僕の勝手だ」
僕はちょっとむっとして言った。
「何もかも終わったんだな」と羊博士は言った。「何もかも終わった」
「終わりました」と僕は言った。
「きっともう取り返しはつかないんだろうな」
「――僕は間に合いませんでした」
「いや」と羊博士は首を振った。「君はレバーを上に入れたたじゃないか」
「そうですね」と僕は言った。
モニターの中ではコック帽をかぶった太目の中年女性が、僕の使用キャラを押しつぶそうとしていた。
み、み、みんなおもしろいなあ!
ひ、久しぶりにりょ、良スレだと思ったよ!
>>125 人が寝てるときにラジオ体操するのやめてくれないか。
せめて跳躍の部分だけでも。
じゃないと窓からラジオ投げ捨てるぞ。
「ねえ、あいつはツイてるよ。」43分ばかり眺めた後で鼠はそう言った。
「見てみなよ。強キャラ乱入ひとつない。信じられるかい?」
僕は肯いた。「でも腕前は微妙だな。」
「気にするなよ。連勝数は金で買えるが、腕前は金じゃ買えない。」
僕は少しあきれて鼠の顔を眺めた。「金持ちなのか?」
「らしいね。」
「そりゃ良かった。」
鼠はそれには答えなかったが、不満足そうに何度か首を振った。
「でも、とにかくあいつはツイてる。」
「そうだな。」
…あるいは僕たちは消え行くかもしれない。
僕たちの居場所は失われてしまうかもしれない。
どこにもたどり着けないかもしれない。
既にすべては取り返しがつかないまでに損なわれてしまった後なのかもしれない。
僕たちはただ廃墟の椅子にを虚しく座っているだけで、
それに気がついていないのは僕たちだけなのかも知れない。
もはやこの道に振り向く人間なんて――この街には誰もいないのかもしれない。
そしてこの世界では、誰かが誰かを陥れようとしている。誰かが誰かを引き摺り下ろしている。
声にならない声で。
――言葉にならない言葉で。
世の中にはそんな風な理由のない悪意というものが確かに、そして山のように存在している。
そしてしかるべき時がくれば、誰もがこの世界から去ってゆく。
「かまわない」と僕たちは小さな、きっぱりとした声でそこにいる誰かに向かって言った。
「これだけは言える。少なくとも僕たちには先人達の歩いた過去があり、僕たちの紡ぎ往くべき未来がある」
それから僕たちは息を殺し、じっと耳を澄ませる。
そしてそこにあるはずの新しいなにかの足音を聞き取ろうとする。
落胆のため息と、別離のドアの開く音と、人々の罵声の向こうに、
――僕たちの耳はその音のない微かな響きを聞く。
僕たちは行き場所のない苦しみと共に眠る。
僕たちは固く結んだ拳を幾度も空に掲げてみる。
僕たちはガードレールに腰を下ろし、どうしようもなく街を見ている。
僕たちはこの道を歩きながら、まだ見えない何かを呼び続けている。
…何もかもは繰り返される。
いつか、僕たちがこの道を降りた時――そこには何かが響いているのだろうか。
あの日々、この場所で、僕たちの心に絶えず何かか響いていたように。
終わりも見えないまま、ただひたすら僕たちが歩き続けた――そんな、この道の上には。
何となく好きだ。
彼の意見はシンプルだった。
「鉄拳5こそ、完璧だ」
僕はそれに肯いた。が、同意したわけではなかった。
「でも、失ったものがある」
「失ったもの?」
「そう、失ったもの。・・・オクトパスホールドをね」
彼は、僕がキング使いであることを知らなかった。やれやれ。
「十分間、対戦をして欲しいの」唐突に女が言った。
僕は人の顔の記憶にはかなり自信を持っている。
それは知らない相手だった。
「失礼ですが、仰っているんですか?」
と僕は礼儀正しく尋ねてみた。
「あなたに言っているのよ。十分でいいから対戦をして欲しいの。
そうすればお互いよくわかりあうことができるわ」と女は言った。
低くやわらかく、とらえどころのない声だ。
「わかりあえる?」
「腕前がよ」
保守age
つまりはそういう事だ
彼女はディスプレイの前の僕にこう言った。
「なぜ必要以上にスレッドを上げようとするの?」
「今日も、僕の好きなスレッドが一つ消えていったからさ」と僕は言った。
彼女は納得のいかない顔でこう言った。
「ここは残っているじゃない」
「僕と同じ気持ちになる人間は少ない方が良い」と僕は言った。
「でも、あなたは村上春樹の本を一冊も読んでないじゃない」
「書き込む事に資格は必要なのかい?」
彼女は何も言わず、煙草に火をつけ部屋を出て行った。
やれやれ。
良スレだな。
僕はそういうものを適当に読み飛ばしてやりすごすことができない。
「いや、そういう問題じゃないんだ。
つまりね、システムを進化させることが本当に正しいことなのかどうか、それがよくわからないってことさ。
プレイヤーたちが成長し、世代が交代する。
それでどうなる?
もっとシステムが複雑化して、もっと『上級者』だけが増える。
もっと『知って』いなければ何も出来ないゲームが開発されて、もっと多くの初心者が殺される。
――それだけのことじゃないか」
「それは物事の暗い面だよ。良いことだって起きているし、良い人だっているさ」
「三つずつ例をあげてくれれば信じてもいいよ」と僕は言った。
店員はしばらく考えて、それから笑った。
「でもそれを判断するのはあんたたちの次の世代であって、あんたじゃない。
あんたたちの世代は・・・・・・」
「もう終わったんだね」
「ある意味ではね」と店員は言った。
「業界は終わった。しかし、筺体はまだ動き続けている」
「あんたはいつも上手いことを言うね」
「気障なんだ」と僕は言った。
ファンシーリフターをプレイすることは、
投げキャラしか使えない人がルーレットで使用キャラを決めているようなものだ。
狙ったものが出てくる確率が大体30分の1くらいだからである。
こんなゲームを趣味にしていては、財布によいわけがない。
僕は椅子にも座らないまま、そんな店の外に置かれた筺体を店の中から眺めていた。
僕の方もその筺体も、身動きひとつせずそこにいた。
数え切れない足音と季節ごとの街のざわめきが、飽きもしないでそのまわりを吹きすぎて行った。
店の奥では何人もの人たちがその無数の足をゆすりあわせていた。
僕はいつまでもその誰も座らない筺体を眺めつづけた。
…その筺体が故障し、廃棄されたはその少し後のことだった。
つまりは、そういうことなのだと思う。
「奥は深いの?」と一人が訊ねた。
「おそろしく深い。」と僕は答えた。
「ファンはいるの?」ともう一人が訊ねた。
「どんなゲームにも必ずファンはいるさ。」
遠くから眺めた僕たちの姿はきっと、品の良いギャラリーのように見えただろう。
1994年。初めてKOFが世に出た年。
素晴らしき僕らの夏。
あの頃僕は思っていた。
無限の可能性を。際限なく描いた夢を。
使いたいキャラが数え切れないほどあった。
KOFは僕の夢を毎年一つ残らず叶えてくれた。
女子高生や忍者やスポーツ選手、
次から次へと出てくるSNKのキャラはとても魅力的だった。
あの頃の僕らの頭にはキャラのマンネリなんてものはなかった。
僕らはただ自由に好きなキャラを動かしたかった。
潮の香り、遠い汽笛、夕暮れの風、
淡い真夏の夢だ。
SNKは僕に言った。
「SNKって会社はもうなくなるんだ……」
オーケー認めよう。今なら断言できる。
僕は君を120パーセント愛していた。
彼の遺影はスコア・ランキング画面の一番上にアルファベット3文字で貼り付いていた。
彼はもはや実体ではなく記号としてそこに存在していた。
私は毎回その筺体にコインをいれてゲームをはじめ、10回に8回はクリアした。
いつか、あのランキングから彼の忘れ物を消すのが私の仕事だと思っていた。
結局、彼が店を去ってもここでの私の時間は続いていくのだ。
――好むにせよ好まざるにせよ、それは間違いのないことだった。
店員はとても平板な無機質な目でぼくをじっと見つめていた。
「あなたの言ってることはとても素敵よ。
…でも、それだけではどうしようもないの。
あなたがどんなに好きだとしても、もうどうにもならないのよ。
ねえ、分かるでしょ?」
分かるよ、とぼくは言った。だって、他になんて言えばいい?
そして次の日、一つのゲームは僕の元から去っていった。
――やれやれ、一体全体何だってこんな迷路に迷い込んでしまったんだろう?
このスレは残ったんだね。
良かった。
ひっそりとage
「問題は、」とジェイは言った。
「あんた自身に勝つ気がないってことだ。そうだね?」
おそろしく静かな何秒かが流れた。
十秒ばかりだろう。ジェイが口を開いた。
「人間てのはね、驚くほど不器用にできてる。
――あんたが考えてるよりもずっとね。」
鼠は残っていたコーヒーを一気に空けた。
「――迷ってるんだ。」
ジェイは何度か肯いた。
「決めかねてる。」
「そんな気がしてたよ。」
ジェイはそう言うと、喋りつかれたように微笑んだ。
鼠はゆっくりと立ち上がり、煙草とライターをポケットにつっこんだ。
時計は既に閉店時間をまわっていた。
「おやすみ」と鼠は言った。
「おやすみ」とジェイは言った。
「…ねえ、誰かが言ったよ。ゆっくり歩け、そしてここでたっぷり水を飲めってね。」
鼠はジェイに向かって微笑み、ドアを開け、階段を上る。
街灯が人影の無い通りを明るく照らし出している。
鼠は店の前のガードレールに腰を下ろし、空を見上げる。
そして、いったいどれだけのあの場所の水を飲めば変われるのか、と思う。
「ねえ、少し相談してもいいかしら?」
「どうぞ、」と僕は言って帳簿をおいた。
「五月の大会のことなんだけど、」と同僚は言った。「神凰拳なんてどうかしら?」
毎月僕たちの店ではなにかしらの大会をすることにしていたのだ。
「悪くはないな。」と僕は言った。
「なら決めるわ。バランスとかは大丈夫?」
「どうかな?」と僕は言った。「マイナーな格闘ゲームに使う言葉じゃないと思うね。」
全ての結果には原因がある。――それが望んだにせよ望まざるにせよ。
148 :
ゲームセンター名無し:2005/05/11(水) 23:14:44 ID:fJ8mU0tu
age…
そういう時期だった。
同じ一日の繰り返しだった。
どこかに折り返しでもつけておかなければどこかで間違えてしまいそうなほどの一日だ。
その日はずっと初夏の臭いがした。
いつもの時間に学校を抜け出し店に行くと、まだ仲間の姿はなかった。
僕は帽子を脱がないまま煙草に火をつけ、ぼんやりとゲームを始めた。
――いろんな事を考えてみようとしたが、頭の中で何一つ形を成さなかった。
僕はため息をついて椅子を立ち上がり、数字の点滅を始めたニターを睨んだ。
…何をしていいのか見当もつかない。
いつまでもここに立っているわけにもいくまい、と自分に言いきかせる。
それでも駄目だった。
いつか、とあるゲームについて誰かが言っていた。
映像はいい、システムも明確だ、意欲も感じられる、…だが面白くない、と。
――今の僕は、実にそんな具合だった。
久しぶりに一人になってみると、自分自身をどう扱っていいのかが上手く掴めなかった。
日曜日はあいにく細かい雨が降り続いていた。
もっとも、たいして大きくもない店のたいして人も来ない大会にとって、
どのような天候がふさわしいのか僕には知るべくもない。
双子は雨について一言もふれなかったので僕も黙っていた。
「僕は不思議な星の元に生まれたんだ。
つまりね、勝ちたいと思った相手には何故か必ず勝利してきた。
でも、僕が勝つたびにその相手はまた別の誰かを踏みつけに行った。
わかるかい?」
「少しね。」
「誰も見ようとしないけどこれは事実なんだ。三年ばかり前にそれに気づいた。
そしてこう思った。
…もう誰とも戦うまいってね。」
彼女は首を振った。
「それで、一生そんな風にやってうくつもり?」
「おそらくね。――誰にも迷惑をかけずに済む。」
「本当にそう思うんなら、」と彼女は言った。
「テトリスだけで生きてゆけばいいわ。」
…やれやれ。
それは素敵な意見だった。
再襲撃age
今、サラリーマンと対戦をしてる。
33連勝し34回目で負けた。
理由は簡単だ。
しかし心ある人ならわかってると思うので、ここで敢えて書く必要はないと思う。
「雨の日の昼間の平日には店員はいったい何をしているのかしら?」と緑が質問した。
「知らない」と僕は言った。
「゛売れすじ゛のゲームのチェックとかコインの回収なんかやってるんじゃないかな。
――店長の命令か何かでさ」
「そんなに働いてるのにどうしてこの台の中キックはときどき死ぬの?」
「知らないな。でも頭の構造がメンテに向いてないんじゃないかな。
…つまり、今朝から筺体が何グラム重くなったかとかに比べてさ」
「あなた意外にいろんなこと知らないのね」と緑は言った。
世の中のことはたいてい知ってるのかと思ってたわ」
「まあね。世界は広い」と僕は言った。
「じゃあ私たちわかりあえるわね?」と乱入者は静かに言った。
彼女は椅子にゆったりと座りなおし、脚を組みながらちらりとこちらを見た。
「それはどうかな」と僕は言った。「なにしろワンコインだからね。」
「どうかしらね。
ワンコインで買える時間というのはあなたが考えているよりも長いのかもしれないわよ?」
指が6本ある梅原
「クリアしたの?」と緑が言った。
「ああ」と僕は、さも大したことでないかのように言った。
「いままで1回しか最終面に辿りつけなかったあなたが、どうして?」と緑は笑いながら言った。
僕は喜びをのどの奥に閉じこめながら言った。
「UFOキャッチャーにブランド物が並んでる時代さ。僕がクリアしても不思議じゃない」
ドアを開け店に入ると、冷ややかな空冷の匂いがした。
幾つかの筺体に指先で軽く触れながら鼠は店の奥まで歩き、モニターを意味も無くじっと眺めてからコインを入れた。
少し迷ってから普段はあまり使わないようなキャラクターを選び、隣の台の上にあった灰皿を自分の前に置いた。
店の半分ばかりの椅子にはもう誰かが座っていた。
いくつかの台では対戦をしているのも見える。
…鼠の隣の椅子には誰もいなかった。
スコア・ランキング画面を横目で見る。今日はまだ誰もその椅子には座ってはいないらしかった。
――なぜかひどく寂しかった。
店は、少しずつ埋まっていくようだった。
まるで何人もの誰かの足音が今にも押し寄せて来て、鼠をそのまま何処か遠くに押し流して行きそうにも思える。
鼠は今日はじめての煙草に火をつけ、知らない誰かの歌を聴き流しながら吸わないままに灰皿に置いた。
1つのステージをクリアし、そのゲームのあいまに顔をうつむかせて目を閉じる。
…体は本当にぐったりと疲れきっていたが、
――おかげで名付けようもない様々な感情は居場所の見つからぬまま何処かにきえてしまったようだった。
鼠はホッとしてからっぽのからだを少し持ち上げ、聞こえてくる歌と共にぼんやりとゲームをやり続けた。
そして――1つの時間の終わりはすぐ近くにまでゆっくりとやってきていた。
…煙草は誰にも吸われないまま、白く染まってやがてぽとりと下へと落ちた。
age
「ねえ、結局画面端に追い詰められたときの正解はどれなんだ?」と僕は聞いた。
「どれでもいいんだよ」彼は言った。
「どれでも?」僕はいささか混乱して聞き返した。
「そう、どれでもさ。
…この店ではジャンプしろと言われてる。
無敵技を使え、と言う人もあるかもしれない。
雑誌もそのうち答えを出すだろう。
でも君はもしかしたら全然別な、…ガードキャンセルとかしてるかもしれない。
いずれにしても本質的な差なんてないんだ。――それぞれの世界でそれぞれの答えがあるだけさ。」
彼は、まるで出来の悪い生徒を諭すようにこう言うと、満足そうに煙草に火をつけた。
「でもそれじゃ困るだろう。」
「そうかもしれない。でもそれは大きな問題じゃない。
自分の答えは自分の世界ではすべて受け入れられるんだ。」
妄想だ。僕は思った。それじゃ逃げと同じじゃないか。
彼にそのことを告げようと思ったが、彼がこの店に費やした時間と金のことを考え、そうするのをやめた。
結局、彼には彼のシステムがあるのだ。
「あなたはどうしてここに来るの?」
「枯れ井戸になりかけていてもね、僕が飲める水はここからしか汲めないからさ。」
「随分古いね。」
「そう、CDとかそのへんのものが出始めた頃さ。
店にそれが入ると、周り中対戦者と観戦者だらけになってね。
PTAが店に入ってくるのは見たことあるかい?」
「うん。」
「いろんなものがなくなっていくね。
もちろんぜんぶが好きだったわけじゃないんだけどね・・・・・・。」
僕は頷いた。
「あれは本当に素敵なゲームだったよ。
ハメ技さえ生み落とさなきゃね。
体力を半分近く残して相手が立ち上げるところなんて見たことあるかい?」
「動画でね。」
「人間ってのは実にいろんなものを考え出すものさ。
また、それが本当によくできてるんだね。
あと10年もたてばそれでさえ懐かしくなるかもしれないけどね。」
164 :
ゲームセンター名無し:2005/05/28(土) 02:14:06 ID:gJQyCOY5
新作をき、期待しながらさ、あ、あ、あげるんだ
スパイクアウト
その古いゲームの左端に、いつも羊男が座っている。マイルドセブンを吸いながら、まるで元から有る置物のように、ゲームをしている。
最初に見かけたのは、昨年の始めだった。僕が麻雀をしていると、いつの間にか後ろに立っていた。
羊男は、『やぁ、君は麻雀が強いのだね』と言ったてきたので『そうでも無いさ』とこたえた。少し困ったように、羊男は『50円貸してくれないか?』と言った。僕は言いたい事は、たくさん有ったが、手元にある100円を1枚渡すと、嬉しそうに受けとった。
何度も帰ろうとしたが、やはり全然足は動かなかった。
時計は午後10時を指している。
僕はとうとう帰ることをあきらめ、自販機の前に行った。
コーヒーを飲むかコーラを飲むか少し迷ったが、結局コーヒーのボタンを押す。
――今の僕には、夜の10時にコーラを飲むことがどこかひどく間違っていることのように思えた。
煙草に火をつけ、残りの1コインのことを考える。
それは僕にとって今日3枚目の硬貨で、そして最後のコインだった。
三回でやめると始めから決めていた。
「…オーケー、なんとかやってみるさ。」
プルタブを開けながら、僕はそう呟く。
意地の悪い笑いを浮かべた神様が選ばれた誰かにのみ全てを与え、
――あるいは他の人間から全てを奪ってゆくところを想像する。
やれやれ……馬鹿げてる。
僕は一体どうしちまったんだ?
たかがUFOキャッチャーじゃないか。
167 :
ゲームセンター名無し:2005/05/31(火) 13:28:27 ID:mEiY49WP
まいったな
その日、僕の足は気が付くとゲームセンターへと向かっていた。何度となく繰り返される僕の日常。
髪をのばした男と小太りの男が奇声を発しながら何やら対戦をしているようだった。それもいつも通りのはず。
けれどその日は何かが違った。僕は彼女に話し掛けた。
「この人の多さはどうしたこと?」
「あなたには新作入荷っていう文字が見えないみたいね」
「いやそんなことは分かってるよ。僕が聞きたいのは、この異様な人たちの多さっては何故なのかってことさ」
「あぁ、そういうことね」
彼女は人だかりの中心を指さした。
「自分で見てこいってことのようだね」
「あら物分かりが良いわね」
「じゃ見てくるよ」
戻ってきた僕に彼女が話し掛ける。
「どんな様子か分かった?」
「メイドさんが戦っていたように僕には見えたけど。僕の見間違いかな?」
「いや、あなたは見間違ってはいないわ、あれはメイドもメイド。キャラもほぼ女キャラよ」
僕は頭を押さえて屈みこんだ。
「どうしたの?大丈夫」
「大丈夫。少し悲しくなっただけだから」
「私もそういうことあるわ」
僕たちが会話する傍らで汗を滝のようにかいている長髪小太りが「はぁ?何あいつ連コインしてんの?空気よめねーのかよ。」とつぶやいた。
ゲームセンターに通うことは、ある種の重みを背負い込むことだと僕は考えている。
個人的に、経験的に、そう思う。
家の外でゲームをするのは、家のモニターの前でゲームを遊ぶのとは全然違うことなのだ。
それは不思議なことに、ある種の哲学や日々の思いのようなものまでをも吸い込んで、ますます重くなっていく。
それがおそらく、あのだだっ広くてただそこにあるだけの恐竜的業界の習性なのだ。
でもある種の人間はそういうものに、――ある時期(たぶん)どうしようもなく引きつけられるのだ。
…そんな世界に踏み入ってからそろそろ10年近くになる。
――個人的に、経験的に、僕はどうしようもなくこう思っている。
170 :
age:2005/06/06(月) 01:48:29 ID:V6NGMw6h
過ぎ去るには、まだ少しだけ早い気がした。
171 :
バルデラマ:2005/06/06(月) 19:59:57 ID:lK5ysy29
しかしすごいなぁ。アーケード板は、このスレ1つで格調高い板として
存在できるね!
前スレどこにあるのー?
激しく読みたい
穏やかな午後の時間を、鼠はパイプ椅子の上で送った。
何も考えずにぼんやりゲームをしていると、
緩やかな水の流れのように――時が、彼の体を通り抜けていくのが感じられる。
……時折彼の幾つかの小さな感情の波は、凪の訪れた海のように彼の心から消えていった。
そんな時には鼠は椅子を立ち、店の外の朱と青の混じった空を見上げ、波が戻るのをじっと待つ。
――夕暮の前の僅かな薄い闇のひとときだ。
波が戻った後には、まるで何一つ起こらなかったかのように、再びいつものささやかな喧騒が彼を包み込む。
そして何時間も何日も何週間も、鼠はそんな具合に時を送りつづけた。
それは満たされた時間なのだと彼は信じていた。
もし全てのゲームがウィスキーであったなら、もちろん、これほど苦労することもなかったはずだ。
店員は黙ってグラスを差し出し、客はそれを受け取って静かに喉に送り込む、それだけで済んだはずだ。
とてもシンプルで、とても親密で、とても正確だ。
しかし残念ながら、僕らはゲームがゲームであり、ゲームでしかない世界に住んでいる。
僕らはその時間を何か別の素面(しらふ)のものに置き換えて過ごし、その限定性の中で生きていくしかない。
――でも例外的に、ほんのわずかな幸福な瞬間に、ぼくらはゲームが本物のウィスキーに変わる瞬間に出会えることがある。
そして僕らは、いつもそのような瞬間を夢見て生きているのだ。
もし全てのゲームがウィスキーであったなら、と。
>>172 多分、過去ログには残っていないんではないかと。
鯖移転の時、前の鯖のログは消えたらしいから。
残ってるなら俺も読みたいんだけどなあ…
ageるとしよう
:ゲームセンター名無し :04/04/05 21:37 ID:???
「ところで、あなたの最高連勝数は?」
「3」と僕は言った。
「そりゃ少ない。」とウメハラは表情も変えずに言った。
「実に少ない。」そしてまた耳を掻いた。
「でも踏むしかないんだよ」と彼は言った。
「それもとびきり上手く踏むんだ。みんなが感心するくらいに。
踏むんだ。踏みつづけるんだ。何故踏むかなんて考えちゃいけない。
意味なんてことは考えちゃいけない。意味なんてもともとないんだ。
そんなこと考え出したら足が停まる。一度足が停まったら、もう
コンマイは続編を出さなくなってしまう。
だから、踏むんだよ。フットパネルが割れるまで、財布の許す限り。」
ゲーセンを出るともう雨は上がっていた。夏の雨だから、そんなに長くは降らない。
上を見上げると珍しく星が光っていた。風俗店はとっくに店を開き、
雨やどりをしていた客引きのお兄さんたちもそこかしこで声をかけていた。
ぼくは雨上がりの道を地下鉄すすきの駅まで歩き、
腹が減っていたので吉野家に入って豚丼を食べた。
豚丼を食べながら、僕は百円を払って太鼓を叩くことを想像してみた。
太鼓を叩くこと自体は悪くなさそうだったが、
それに対して金を払うというのはちょっと妙なものだろうな、
と僕は思った。
そして僕はその昔、格闘ゲームの新作が山火事みたいに溢れていた頃のことを思い出した。
本当にそれは、山火事みたいに溢れていたのだった。
双子の一人は紙袋からネオジオフリークを取り出して僕に渡した。
ネオジオフリークは雨の中ではいつもより余計にみすぼらしく見えた。
「何かお祈りの文句を言って」
「お祈り?」僕は驚いて叫んだ。
「お葬式だもの、お祈りは要るわ。」
「気がつかなかった。」と僕は言った。
「実は手持ちのものがひとつもないんだ。」
「なんだっていいのよ。」
「形式だけよ。」
僕は頭から爪先までぐっしょり雨に濡れながら適当な文句を捜した。
双子は心配そうに僕とネオジオフリークを交互に眺めた。
「哲学の義務は、」と僕はカントを引用した。
「誤解によって生じた幻想を除去することにある。
……SNKよ 貯水池の底に安らかに眠れ。」
「もう一本勝負するかい?」
ウメハラは首を振った。
「いや、いい。これが最後の一本てつもりで勝負したんだ。
ここでプレイするゲームのさ。」
「もう来ないのかい?」
「そのつもりだよ。辛くなるからさ。」
ヌキは笑った。「またいつか会おう。」
「今度会った時には見分けがつかないかもしれないぜ。」
「コンボでわかるさ。」
ウメハラは空になった財布の中をもう一度ゆっくりと眺め、
残ったレシートをゴミ箱に突っ込み、
両手をズボンの尻で拭ってから席を立った。
「本当にボムを使うのかい?」と僕は訊ねてみた。
「そうでもしなければ、」と彼は言った。
「画面は弾幕で埋まってしまう。」
僕がアパートに帰ると双子はユーリとユーニの勝利ポーズみたいに並んで
ベッドにもぐり込んだままクスクス笑い合っていた。
「おかえりなさい。」と片方が言った。
「何処に行ってたの?」
「ゲーセンさ。」と僕は言って額のバンダナを外し、
双子の間にもぐりこんで目を閉じた。ひどく眠かった。
「何処のゲーセン?」
「何をしに行ったの?」
「遠くのゲーセンさ。闘劇の予選に出たんだ。」
「ウメハラもいた?」
「ウメハラは強い?」
「ウメハラは大きな存在だったな。
でも勝てる要素がないわけでもなかったんだ。」
僕が煙草に火をつけて吸い終わるまでの間、二人は黙っていた。
「負けたの?」と片方が訊ねた。
僕は黙って肯いた。
「お眠りなさい。」と片方が言った。
そして僕は眠った。
185 :
ゲームセンター名無し:2005/06/12(日) 14:51:34 ID:CdVfEBVe
1973年のピンボールなんて改変しやすそうだな
ゲーセンみたいなモノだし
「もしこのスレに問題があるとしたら、」とモニターを眺めながら僕は言った。
「誰でもが参加するには少しだけ難易度が高い、ってことだろうね。」
「そう?」
「まず、分割されてしまったアーケード板に残った住人で、その上で村上春樹を読んでいなければならない。
おまけに改編の技術も必要になる。
それはたぶん簡単な事じゃないんだよ。
最終書き込み日時が証明してる。」
「なるほどね。
それで、66.7%このスレに参加できないあなたはここで一体何がしたいの?」
「33.3%でもね、この板の住人になら誰にでもできる事があるんだ。」
「つまり、ageるの?」
「そう、ageるのさ。」
鼠にとって、そのゲームに対する何かが消えてしまったのは3ヶ月ばかり前の事だった。
先月までの全国一位のハイスコアを抜いた次の日だ。
鼠がそのゲームをプレイするのにはもちろん、幾つかの理由があった。
そのいくつかの理由が複雑に絡み合ったままある結果が画面にあらわれた時――音もたてずに何かが消えた。
そしてあるものは残り、あるものははじき飛ばされ、あるものは死んだ。
――ハイスコアを出したことは、誰にも告げなかった。
店員にすら伝えなかった。
きちんと説明するためには、もう一度同じかそれ以上の点数を出さなくてはならない。
そしておそらくそれには5時間はかかるだろう。
…それに、もし誰かの前でやってみせたら、他のみんなも見たがるかもしれない。
そのうちに世界中に向かってやってみせる羽目になるかもしれない。
――そう考えただけで鼠は、心の底からうんざりした。
「あの椅子に座った時の光景が気に入らなかったんだ。」
どうしても何かしらやめた理由を説明をしなければならない折には、鼠はそう言った。
「コインを入れたときの音をね、聞き飽きたんだ。」
幾らか気分の良い時にはそうも言った。
そしてそれだけを言ってしまうと、後は黙り込んだ。
――もう三ヶ月も前の事になる。
そして一時期は彼の中で息づいていた幾つかの感情も急激に色あせ、
…意味のない古い夢のようなものへとその姿を変えていった。
それは殆ど信じがたいほどの速さで去っていった。
――全て、彼の中から消えてしまった何かは、時の過ぎるにまかせて多くのものを押し流していった。
「どうして夜中になるとブレーカーを落として街に追い出し、
朝になるとまた中に入れるんですか?」
店員の動きが一段落したところで僕はそう訊ねてみた。
店員はしばらく感情のこもっていない目で僕を見つめていた。
「そう決まっているからさ。」と彼は言った。
「そう決まっているからそうするんだ。
――ネズミ捕りに捕まったネズミが必ず外に出されるのと同じことさ。」
店員に別れを告げて店を出ると、外はもう暗かった。
店の前に止めた自転車に腰かけ、車の往く音を聞きながら、明かりの消えない街の姿を眺める。
店員に聞きたかったことの答えは出ていないように思えたが、…それでも不思議と何かに納得している自分がいた。
駅前の時計塔や、街を囲む山々や、道路に沿うように並ぶ建物や、
――遥かに遠くには、のこぎりの歯のような形をした北の尾根の山並が見える。
それは周りの色に逆らおうともせずに、夜と同じ淡い闇に染まっていた。
目の前を過ぎてゆくタイヤの回る音のほかには、耳に届く音は何一つとしてなかった。
もし、そんなことを聞くためにこの時間までここにいたのなら――と、店員は言った。
僕の求める答えは彼にしか出せないことを、今でも僕は知っていた。
しかし、それはただ知っているだけで――それが本当なのかをたしかめることは僕にはできないのだ。
――あたりがすっかり暗くなって、道を走る車もだいぶその姿を減らしたころ、
僕は、しばらく前から人影もない店の前の道を西に向かって走り始めた。
ついさっき飲み干した無糖の缶コーヒーのすっぱい様な苦味が、なぜがいつまでも口の中に残っていた。
ageる時期なんだ
「それでゲームってどこかに行きつくの?」
「最終面にね」と僕は答えた。
「ゲームというのはそういうものなんだ。終わりが無ければどこにも辿りつけない」
僕は天井を見上げた。
蛍光灯は悲しくなるほど燻ぶった光を放ちながらこの店の空に浮かんでいた。
「だから、ゲームってものは元々とても不完全なものなんだ」
そういって彼女のほうを見た。
「もちろん――何一つとして誰かのせいじゃない」
「疲れたでしょう?」と彼女は僕に訊ねる。
「少しね」と僕は答えた。
「目がうまく慣れないんだ。
じっと見ているといろんな色の光を目が吸い込んで、頭の奥のほうが痛くなってくるんだ。
…たいした痛みじゃないけれどね。
目がにじんで画面のどこを見ていたらいいのかわからなくなってしまうんだ。」
「最初はみんなそうなの」と彼女が言った。
「はじめのうちは目が慣れなくて、うまく読み取れないの。
でもそのうちに慣れるから心配することはないわ。
しばらくは、ゆっくりとやりましょう」
「その方がいいみたいだ」と僕は言った。
――やれやれ、シューティングをはじめるのも楽じゃない。
「先はないのよ」と筺体は言う。
「あなたにはわからないの?
誰かに奪われるまで、あなたはこの場所に永遠にとどまるしかないの」
僕は顔をうつむかせ床をみつめる。
僕をとりまくこの世界は、いつも薄くにごった雑音に包まれていた。
それは特に居心地が悪いという訳ではなかったが――それでも今の僕にはどうしようもなく辛いものに思えた。
何人かの学生達が何かを話しながら椅子から立ち上がり、ドアを開けて店から出てゆく。
どんな形にせよ、何かを終えたものだけがこの場所を去ることができるのだ。
――モニターの上の方でクレジットが0から1に変わり、
また厳しい時間がすぐそこにまで迫っていることを教えていた。
…遠くに見えるあのドアに掛けられた青い紳士のプレートが、こちらをあわれみの瞳で見ているように思えた。
「このゲームのことは好きなの?」
緑は首を振った。「…とくに好きってわけでもないわね」
「じゃあどうして探してまでやりに行くの?」
「信用してるからよ」
「信用してる?」
「そう、たいして好きなわけじゃないけど信用はしてるのよ、このゲームの事を。
画像も微妙で音楽もそれなりで難易度だけは普通以上であんまり人気もなくて、
だから探さないと見つからないようなゲームを私は信用するのよ。
――わかる?」
僕はため息をついた。
「わかる様な気もするし、わからない気もするし」
彼女はおかしそうに笑って、僕の背中を軽く叩いた。
「いいのよ、べつにどっちだっていいんだから」と彼女は言った。
「ねえ、すべてのアーケード・ゲームはいつか、ゲームセンターから消えてゆく。
・・・そうだろ?」
「そうだね。」
「もちろん消え方にもいろんなやり方ある。」
鼠は無意識に唇を手の甲にあてる。
「でも、僕らただのプレイヤーにとって、その選択肢の数はとても限られているように思える。
せいぜいが・・・二つか三つだ。」
「そうかもしれない。」
・・・泡を出し切ったコーラの残りは泥水のようにボトルの底に淀んでいた。
鼠はポケットから薄くなった煙草の箱を取り出し、最後の一本を口にくわえる。
「でも、そんなことはどうでもいいような気がし始めた。
――僕らがどうしたって、どのみちゲームは消えてゆくんじゃないかってね、そうだろ?」
店員はコーヒーの空缶を持ち上げたまま、黙って鼠の話を聞いていた。
「それでも人は、変わってゆくこの場所に集い続ける。
そんな場所が変わる事にどんな意味があるのか、僕にはずっとわからなかった。」
鼠は唇を噛み、テーブルを見つめながら考え込んだ。
「・・・そしてこう思った。
どんな進歩も、あらゆる新作も、結局は崩壊の一過程にすぎないんじゃないかってね。違うかい?」
「違わないさ。」
「でも、僕はそんな風に嬉々として無に向かおうとする連中が限りなく好きだったんだ。
…もちろん、この場所もね。
愛しさえしていたのかもしれない。」
店員は黙っていた。
鼠も黙った。
彼はカウンターに置かれたマッチをとり、ゆっくりと軸に火を燃え移らせてから煙草に火をつけた。
「そんな風に考えてる他の誰かも、たぶん世の中には何人かはいると思う。
――そう感じることに理由なんて、きっと何もないんだろうからね。
だから、そんな人間が何人かいるかぎり、この場所は無くならないんじゃないかな。」
午前11時ジャスト。
備え付けの古いステレオから、
麻宮アテナ(声・さとう玉緒)の「FIRE!サイコソルジャー」が流れる。
僕が「FIRE!サイコソルジャー」を目覚し時計の変りに使い始めてから
もう10年近く経つけれども、彼女が歌いだすのは決まって目覚めてからだ。
外は雨だった。僕はその様子を5分ばかり眺めてから、
安物のインスタントコーヒーをカップいっぱいに注ぎ、
15分かけてそれを飲み干した。そしてその間に煙草を2本吸った。
熱いシャワーを浴び、ステレオを切った。
簡素なドライヤーで髪の毛を乾かし、
ノートパソコンとポータブルCDプレイヤーと
最新号のアルカディアをトートバッグに詰めてから、
読みかけの小説(何かのゲームキャラが主人公。大して面白くも無い)
を押し込み、最後に腕時計をつけた。
腕時計を眺めてから僕は、
読みかけの小説をもう一度バッグから取り出すことにした。
僕が再び顔をあげるまでに、バス停を14本ものバスが通り過ぎ、
その代わりに灰皿にこすりつけた吸殻は11本に増えた。
僕は今日一日学校に行くのをあきらめて、
ゲーセンへと足を向けた。
やれやれ・・・
また格ゲーか・・・
age
友人からの一通のメール、あの店への招待状が僕を古い時間へと引き戻す。
僕は明日のバイトをキャンセルし、しばらく乗っていない自転車のタイヤの空気を確かめる。
・・・なんだか体の半分が透き通ってしまったような不思議な気持だ。
晴れわたった六月の朝、僕はあの頃のMDを聞きながら自転車を走らせている。
河原にそって伸びる道を選び、いつかの記憶をたどりながら、いつもは電車の窓から見るだけの坂を下ってゆく。
――この道から見える街の風景はいつも同じだ。
無理やりに知らない誰かに与えられた終わらない時間を、
脈絡も無く、とにかく一直線に使いきろうとしていたあの頃の風景だ。
4年前と何もかもが同じだ。何一つ変わっちゃいない。
――橋の上の湿った空気も、商店街のすきまに見えるあの山も、
そしてあの頃は毎日聞いていたペダルを漕ぐたびにこの自転車がたてる、どこか困っているような音も。
全てが、どこかの誰かが意地にでもなっているかのように・・・どこまでもあの頃のままだ。
4年前――僕はあの店に恋をしていた。
講義の終わりの時間がやってくると僕はバッグに全てを詰め、自転車に乗りこの道を走った。
河原沿いを走り、商店街を抜け、ガード下をくぐり、そして長い坂を全力で飛ばした。
店に着くのはいつも4時過ぎだった。
太陽はそろそろ傾きはじめ、店の中は天窓から入る光でオレンジ色に染まっていた。
僕はバッグを片手に店に入って缶コーヒーを一本買い、そして店の中を見回す。
いつも店は、様々なゲームの音と沢山の人で溢れかえっていた。
――僕はそんな時間の店の姿がたまらなく好きだった。
暖かさの残る柔らかな夕日、聞こえてくる知らない人たちの笑い声、対戦中の人の真剣な表情…
僕は、そんなその店を形作る全てのものに恋をしていた。
そしてそんな風にこの店を彩るひとかけらになりたいと真剣に思っていた。
――夏の匂いがした。
微かに雨音を含んだ、それでもとても乾いた匂いだ。
もちろん本当に夏の匂いがするはずがない。
…ふとそんな気がしただけのことだ。
僕は足に力をこめ、ペダルを強く踏み込む。
そして晩春の風の香りを胸に吸い込んだ。
電車が行き過ぎて、音を立てながら遮断機があがる。
この場所を越えれば、友人達が待つあの店まで本当にもう少しだ。
今日は・・・久しぶりに夕日に染まったあの店の時間を見ることができるような気がする。
いいな…
ゲーセンが妙に格好いい場所に思えるスレはここですか?
敗北は勝利の対極としてではなく、
――その一部として存在している。
「ワタナベ君、あの筺体なんだかわかる?」突然店員が言った。
わからない、と僕は言った。
「あの筺体半年以上だれもやってないのよ。」
「へえ。」と僕は言った。
それ以外に何と言えばいいのかわからなかった。
「人気のないレトロゲー、カルトゲー、その手のもの。」と言って店員はにっこりした。
「どの店もいれたがらないでしょ、誰もやらないから。
それをうちの店長が集めてまわってきて一週間づつ動かしてるの。それがあの筺体なの。」
「そう思って見るとどことなく凄みがあるね。」と僕は言った。
僕は昔が良くて今が良くないとか言うのではない。
世界はそんなに単純ではない。
でもあの時代、たしかにある種類の心もちというのが、あるところにはあった気がする。
もちろんないところにはなかった。
でも、あるところにはあったのだ。
だからこそ様々な新作が出され続け、僕らはそれを歓迎してやり続け、それは業界の常識として機能しえたのだ。
そこにはたしかに精神的な余裕のようなものがあったのだと思う。
精神的な予備の空間というか、「あそび」の空間のようなものが作り手側にも受け手側にもあったのだ。
そんな世界では多少の差こそあれ製作会社は4ヶ月に一つは新作を出して、僕らは何も考えずに店に通って、
ゲームセンターは今日も大賑わいである。
・・・でも今は、そんな幻想は消えてしまった。
何かのスピードが全てをすっぽりとのみこむほど加速して、逆に別の何かのスピードを遅くしてしまったのだろう。
それでどうなったのかは、多分その辺の店にでも入ったらすぐによくわかる。
SNKやコンパイルやデコ達はどこに行ってしまったのか?それがこの文章のテーマだ。
――たぶんどこにもいけなかったんだろう。
「でもね」と彼女は言って、煙草を地面に落とし、靴の底で踏んで消した。
「私の通ってる店では絶対に『強キャラ使い』って言葉を使っちゃいけないの。
私たちは『人気キャラ使いの人』って言わなくちゃいけないの。
強キャラ使いって、ほら、差別用語なのよ。
私、一度冗談で『キャラ性能と連勝数が比例する人』って言ってみたの。
そしたらすごく怒られちゃった。そういうことでふざけちゃいけないって。
みんなすごおく真面目に対戦してるんだから、ってね。」
僕は缶コーヒーの残りを飲んだ。
「僕はあなたの話を聞いていて、そのゲームの話をふと思いだしたんです」と僕は店員に言った。
「僕の言いたいのはこういうことなんです。
ある種のゲームは、ある種のシリーズは、ある種の欲望は、
それ自体の力で、それ自体のサイクルでどんどん増殖していく。
そして、あるポイントを過ぎると、それを止めることは誰にもできなくなってしまう。
――たとえ当事者が止めたいと思ってもです」
店員の顔にはどのような表情も浮かんではいなかった。
微笑みも消えていたし…苛立ちの影もなかった。
僕は話を続けた。「いいですか、僕はK.O.Fが本当はどういうゲームかよく知っています」
僕はレバーから手を離し、のどから溢れそうな喜びを缶コーラで飲み込んだ。
対戦で勝った事についてそんなふうに感じたのは久しぶりだった。
格闘ゲームをやっているあいだに、僕は対戦が持つ奇妙な生々しさのことをすっかり忘れてしまっていた。
――はじめて勝った時の喜びの感触さえ、人は忘れてしまうものなのだ。
「新作はどう?」
「たいして変ってないわ。・・・・・不景気なのね、きっと。
誰もドット打ちなんてやりたくないのよ。」
我々は店員の所へ行き、プライズが出口に詰まったと言った。
「難しくなかった?」と帽子をかぶった店員が訊ねた。
「そりゃあ難しかったけど、なんとか取れますよ」と僕は言った。
店員は椅子から立ち上がり、壁に掛かっていた鍵束をとり、それから帽子を弄りながら僕の顔を見た。
「ま、若いからね」と彼女は言った。
「ええ」と僕は答えた。
そうやって我々は二分後には蜂蜜色の熊のぬいぐるみを手に入れていた。
age
214 :
ある七誌:2005/07/03(日) 15:03:35 ID:1HT5sPjU
1973年、そこにあったピンボール。
今では象が糞をするときみたいに、破壊的(いや破滅的といった方がいいだろう)な
音を発しつづけるゲーム機にとって変わってしまった。
午前十時 ON
いつも開店と同時に入ってくる一人の青年。
彼は無愛想だが、無礼ではない。
ドアを開けた僕に無言で一礼をして、いつものゲーム台へと
彼は急ぐわけでもなく、歩を進める。
そして象の尻の穴を必死で凝視しながら、忙しなくレバーやらボタンを
動かし始める青年。
後ろから僕も象の尻の穴を眺める。その青年は非常に優秀な
プレイヤーなようで、得点が目まぐるしく上がっていく。
一、十、百、千、万、十万、百万、一千万、一億、十億……
オーライ もう充分だ。 OFF
215 :
ある七誌:2005/07/03(日) 15:04:36 ID:1HT5sPjU
かつて僕も青年だった頃、同じようにゲームに(僕の場合はピンボールに)
狂っていたことがあった。 それは文字通り、狂っているというのが正しかった。
ポケットに十円玉を山のように詰め込んで、バーを弾く。
そう僕も、象の尻の穴に夢中だった。 そこは真っ暗だけど、無色彩ではなくて
平坦だけど閉塞的ではなかった。 ある人は、僕に「そんなに同じことをやっていて
飽きないかい?」 と尋ねる。
僕の答えは「NO」だ。 僕にとって見れば、その当時の世の中のほうが
よっぽど退屈で、疲弊して、色褪せていた。
僕にとっての現実は、大規模な戦闘が終わった廃墟のようなものだったのだ。
そこには何もない。 何もない、のだ。
あれから三十年という歳月が、僕等の上に平等に積み重なった。
僕は思わず、無愛想な青年に尋ねてみたくなった。
「まだ、外の世界は色褪せたままなのかい?」
ふとゲーセンに行きたくなった。
理由など無い。ただゲーセンに行きたくなっただけだ。
目的など無い。ただゲーセンに行くことが目的だった。
「君は既に罠の中だ」――誰かがそう言った気がした。
北の国道沿いの古い町に、巨大な看板をかかげたゲームセンターがあって、
…人々はそこでアーケード・ゲームをやり続ける。
そこにはアーケード・ゲーム的な店員がいて、アーケード・ゲーム的な平和があり、
騒がしく愉快なアーケード・ゲーム的な時間が流れている。
「ゲームセンター。」と国道の上では若いドライバーが看板の文字を読み上げる。
「ゲームセンター?」と助手席の彼女が言う。
「ゲームセンターという看板が見えるんだ。」
一面に雨雲の広がった七月の初めの夕方でなかったら――
それはおそらく素敵な眺めであるに違いない。
「98年と99年の間に」
と、数年後あるプレイヤーは語った。
「北回帰線のようなものがあって、
それが、
僕の足を止めたんです」
219 :
ある七:2005/07/05(火) 09:55:22 ID:dhKvGZQW
鼠は言った「なぜゲームをやるんだい?」
僕は言った「なぜビールを飲むんだい?」
鼠は黙って一口ビールを飲んだ。
そしてニール・ヤングのレコードが一周した後に
鼠は僕に同じ問いを繰り返した。
「ゲームは食べられるのかい?」
僕も同じくさっきと同じ答えを返した。
「ビールとファックできるのかい?」
鼠の目がチーズを見つけた時のように輝いた。
「ビールは、あるいはファックを招くさ」
「ゲームだって、時にはチーズを招くさ」僕は言い返した。
ソニー・ローリンズが一通り僕等の沈黙を埋めた後
僕と鼠は口をそろえてこう言った。
「ボートはボート、ファックはファック」そうして僕等の議論は終わった。
永遠に吸われる事も無く灰になった一本の煙草について考えることは悲しい。
僕は初めから乱入なんてするべきではなかったのかもしれない、と今では後悔している。
どうせそれはたいした格闘ゲームじゃなかったのだから。
バランスは微妙で音楽は記憶に残らない、それでもキャラクターだけは豊富なゲームだった。
…それに僕は本当にそのゲームがやりたかった訳でもない。
――あの灰はどこにいったのだろう?
午後8時の空冷機の風の中に消えてしまったのか?
7ミリグラムのメンソールのセブン・スター。
今日最も長く僕の対戦を見ていた、健やかならざる僕の相棒。
2005年の7月5日にそのモニターを見つめながら灰になった煙草があると知ったら、
ローカルテレビ局のアナウンサーぐらいはやってくるかもしれない。
おおかたのアーケード・ゲームでそうであるように、
シューティングゲームで先に進むための連コインは殆ど行われない。
もちろんまったくない、というわけではないのだけれど、
連コインという行動が基本的な反応を伴う観念として人々の中に染み込むほどには、ない。
つまり格闘ゲームや音楽ゲームをやっている誰かが
「連コが多くてまいったよ」と言ったとしても、
シューティングゲームをやる人々がその感情を理解するには反呼吸ばかり余計な時間がかかるということだ。
ただ、連コインが少ない事がシューティングゲームにとって幸せなことなのかは僕にはわからない。
まあ、そんなふうな世界だから僕はシューティングゲームが大好きなのだけれど。
「悔しくないのかしら?」
「対戦をやる奴は打たれ強いんだ。」
「本当?」
「だからまだ『ここ』にいるんだ。」
223 :
ある 誌:2005/07/06(水) 08:42:57 ID:7xA3dMeA
デレク・ハートフィールドはこうも言っている。
“昨今、流行のゲームというものには、私も深い興味と関心を抱かれずに
おれない。(中文略)ゲームの前において万人は平等である。それは全く現実と
かけ離れているといっていい。(作者注:ハートフィールドはアイルランドからアメリカへ
移住し、若い頃に様々な面で苦労をしたので、こういった思想を持っている)
そして私の愚見を申し述べるならば、ゲームに勝つということ
つまりそれは貧民が大富豪を打ち破るというような、劇的な勝利、昨今でいえば
民衆の力でベトナムから、米軍を撤退させたような― それ自体に
意味はないのだ。(中文略)つまりゲームの中に含まれる、あるいは
自意識をゲームという事柄で満たすという行為にこそ、ゲームの魅力が
あるのではないだろうか。”
この現代にも通じる、卓見に対して当時の新聞記者は
鼻で笑うかのような以下のコメントを付け加えている。
「なるほど、ハートフィールドのような社会的“勝者”(作者注:これは当時のハートフィールド
の状況を鑑みて、相当な皮肉と思われる)にとってみれば、政治的活動もゲームなのであろう
さすがはアメリカナンバーワンの名プレイヤーである」
ゲームセンターとゲームコーナーとは似て非なるものだ。
一部の人には昔からそう言われている。
ゲームセンターは使い道のない時間に意味を与えるための場所。
ゲームコーナーは意味のない時間に名前を与えるための場所。
それぞれ役割というものがあり、それぞれ性格がちがい、それぞれに独特の味をもっていた。
最近ではゲームコーナーがゲームセンターに似てきているとか、
ゲームセンターがゲームコーナーに似てきているとかいわれているが、そんなことはどうでもよかった。
僕にとってはゲームセンターとゲームコーナーは別のものだった。
デパートの屋上と繁華街の地下では雲泥の差があった。
それが何によるものかはわからない。
ただ僕にはゲームコーナーは肌にあわない。
――それだけは確かだった。
「あとは一人でやれるわ。」
「何処まで行く?」
「クリアするまでよ。」
「辛いだろうね。」
「大丈夫よ、慣れてるもの。」
デモが終わりゲームが始まると、彼女はモニターだけを見つめ続けた。
僕もコインを入れようとしたが彼女の横顔を見てやめておいた。
――彼女はあと何枚のコインを失えばこのゲームをクリアできるのだろう。
店の外では降り続いていた夕立が上がり、店の中にはまだ雨の匂いが残っていた。
「ねえ、十八の頃って、何を考えてた?」
「対戦で勝つこと」
「その他には?」
「それだけ」
店員はクスクスと笑ってから缶コーヒーをひとくち飲んだ。
227 :
あ 七誌:2005/07/07(木) 21:09:14 ID:Z1MPR+78
「そんなにおかしいことかい?」僕は店員の口が缶のふちから
離れてしまう前に尋ねた。
彼はまだ笑顔を崩さずにそうでもないさ、と答えた。―そうでもないさ
ただ、と彼は言葉を続けた。
「勝つには多くのものを犠牲にしなければならないと思うんだ
僕が知る限り、ゲームセンターに来る人は大抵、そういった世間を生きていく上で
影のようについてくる『勝ち負け』から離れた場所、まあ、ハワイというよりも
ギリシアの海に浮かぶ、小島みたいな場所に身を置きたがっているように
思えるんだ。これは僕の短いながらもゲームセンターの店員として
観察してみた統計による推測なのだけど」
彼は意味もなく、手に持った缶コーヒーを時計回りにくるくると回す。
次第にその速度がはやまるにつれて、僕は突然、ちびくろさんぼを思い出した。
そしてコーヒーがバターになってしまわないか、と思い始めた。
結局、彼の手が止まり、コーヒーはバターになることを免れた。
そして彼は意を決したように切り出した。
「ねえ、どうして僕が店員になったと思う?」
「よくわからないな」と僕は言う。
「君と同じことを考えていたからさ。」
「どうしてそんなことになったんですか?」
「まあいろいろとあってね。」と彼は言った。
「俺がこの店の客だったころ、筺体をレンタルしての常連内での大会中に筺体がフリーズしたんだ。
たしか9月頃だったかな、たしか。僕ももちろんそこにいた。勝ちたかったしね。
ひょっとしたら勝てるかもしれない可能性は、たとえ少しでも逃がしたく無かった。
…それでまあ、たまたま一番負けてた僕が客側の代表者として店員に話をつけに行ったのさ。
でも店員は食事中で、ヒレカツなんか口にくわえててさ、とても動いてくれるような雰囲気じゃない。
それで僕はわかりました、僕にできることならなんでもしましょう、
だからそれで筺体を立てなおしてくださいって言ったよ。」
そこまで言って、店員はまたコーヒーを一口含んだ。
「――そしたらその店員がさ、鍵を投げてよこしてお前がやれって言うんだ。
わかりました、やりましょうって言ったよ。それで筺体を開けたんだ。」
「どんな気分でした?」
「どんな気分も何も、店員でもないのに筺体の中味をいじるときの気分って、
やったことのある人間にしかわからないよ。
そりゃ長くゲーセンにいたから店員が操作してるのは何度もみてるけどさ、そういう問題じゃないんだ。
少しでも画面が止まったら壊したかもしれないって、本当にたまらないよ、思い出してもゾッとするね。
放り出して逃げ出したくなるのを死にものぐるいでおさえてさ、なんとか再起動させたんだ。」
「それからどうしました?」
「もちろん店員に鍵を返しにいったさ。」と彼は言った。
「だって他にどうしようがある。」
「まあ、そうですね。」と僕も認めた。
「…でもそれ以来、みんなが僕に対してへんな目を向けるようになったよ。
常連も知り合いも含めて誰もがだよ。
店員でもないのに筺体を開けた人間なんて、その店じゃ僕の他には誰もいなかったからね。
あれを開けられるのは店員だけ、ってこの場所の法律では決まっているんだ。
そして店員でもないのにあの鍵を回しちまった僕は――他の客からみた『あっち側』に行ってしまっていたんだよ。
――僕が望むと望まざるとに関らずね。」
僕は静かに彼の話を聴いていた。
「だからさ、僕は店員になったんだ。
筺体を開けておいて、それでも『こっち側』にいようとする人間を、この場所の法律は許さないからね。
この世界に止まるにはそれしか無かった。」
そう言って店員はコーヒーの残りを一気に空けた。
「…もちろん後悔はしていないけどね。」
231 :
ゲームセンター名無し:2005/07/08(金) 09:09:02 ID:k1AMeDzA
いつか誰にでもね、何かをageる日がくると思うんだ
村上春樹の作品を書き写しただけになってるぞ
オリジナルのそれらしい文体キボン
「今度『パクリだ』なんて言ったら殺すわよ」
・・・・・・やれやれ。
>>232 同意。1レス程度にまとめてくれると読みやすくていいね。
まあ、その辺は書き手次第でいいんでないの?
俺は充分面白いと思うけど。
ネタ出せない俺が言うのもあれだけどさ。
>>232-235 一応、改変ネタ中心で書いてる者の一人だけど、批評してもらって感謝。
俺の場合…
>>232 …オリジナルで春樹っぽいのは、結構難しくてなぁ。
似せることは何とかできるんだけど、春樹ならではの「グッとくる」表現がなかなか・・・。
まっさらからだと
>>230の後半ぐらいが限界だわ。それでも言い回しはかりてるけどw
頑張ってみるけど、多分俺は改変中心で行きそうな気がする。
なもんでオリジナルは・・・他の人頑張れw
>>233 とりあえず、ども。
まあ、パクリに違いは無いからなーw
でもまあ、ファンとしてこれでも真面目に文章いじってるつもりです。
そこは改変させてもらってる者の礼儀として。
>>234 ムダに長いのは自分でも一応気にしてる。
説明がくどいのは単に俺の癖だからなあ・・・。
何とか直してみるよ、直らないかもしれんけどw
>>235 単なる自慰もあれだから、批評はもらえれば嬉しいかも。
とはいっても、まあ、批評に答えられる文章力がありゃいいんだけど、できるだけはw
楽しんでいただけているようなら何よりです。
…俺のネタかはわからんけどw
と、空気読まんレスしてすまん。批評来て嬉しかったもんで。まあ、できれば今後とも見てくれれば嬉しいです。
書き手も募集中だから、折角だからネタ書いてみないか?
他の村上春樹スレでもそうなんだけど、
いくら似せても叩く奴が出て荒れるんだよね。
「似てない」
「村上春樹を全然わかってない」
似てる似てないってのは主観の問題だし、
それらしい文体ってのは結局それらしい文体でしかないんだ。
つまりはそういうことさ。
ネタ書きたいんだが、
手元にあったノルウェイの森とパン屋再襲撃を
村上布教活動のために貸してしまった。
来週辺り戻ってきたら何かネタ書きます。
本当に急いでいたのだと思う。
その証拠にその対戦者は1クレジット残したまま店から走って出て行った。
忘れられた、あるいは捨てられた1クレジットについて5秒ばかり考えたあとで、
僕はうつむくのをやめて煙草に火をつけながら薄暗い天井をみあげた。
――たとえば明日シューティングが日本の国技になるなんてことがあったとしても、
この1クレジットが30分後まで残っていることなんて絶対にない。
ゲームセンター、そういった場所だ。
とりあえずモニターに視線をもどして、次に現れるであろう敵をどう倒すかを考えてみる。
…筺体の反対側からは、誰かがパイプ椅子を動かす音が聞こえていた。
2005年7月9日の午後、僕はずっとこのゲームの対戦を続けた。
近くの学校のテスト期間が終わったせいで、対戦相手は店中にあふれていた。
…調子は悪くなかったが、20回を過ぎたあたりから電池が切れかけたように勝てなくなりはじめ、
30回を越える頃には涙さえ出そうになり、40回を数えたあとには僕の全ては死に絶えていた。
――もう一勝だってできなかった。
僕はあきらめて近くのテーブルに座り、対戦の続く筺体を見つめながら缶コーヒーの蓋を開けた。
琥珀色の液体はまるで10000年を見つめてきた老木の幹のような色のまま、
なに一つ間違う事もなく僕のからだをすべり落ちていく。
…となりの筺体に映っていたデモが終わり、一つのタイトルが映し出されていた。
2003…。まるで夢のようだった。
1994年の僕は、そんなタイトルのゲームが作られることなんて夢にも思わなかった。
そして――自分がまだここにいるということも。
そう思うとなぜか無性におかしくなった。
「この店ではテトリスをやっています。」と彼は言った。
「虹の足もとを探すようなゲームです。」
僕は感心して肯いた。
19XXが最後に僕の前から姿を消したのは3年前の冬のことだった。
店の誰かが何かを思いついたように基盤をかえたのだろう。
――時が来れば全てのゲームは例外なく淡い闇の中に沈んでゆく。
そこはたしかに果てある、それでも僕らが潜るには充分に深い闇だ。
探しに行く人間は少なからずいるが、帰ってこれる人間はほんの一握りの…そんな闇だ。
…時おり、僕は失われた時間を取り戻そうとするかのようにあの筺体に座ることがある。
この筺体をみるたび、僕は例外なくこの店にあったあの19XXのことを思い出す。
僕の指のほんの少し先、そんな場所にある闇に今も沈んでいる――あのゲームを思い出すのだ。
「コンボが繋がらないんだ」と僕は言った。
そして黒い財布を開けて筺体にコインを入れ、どのコンビネーションも途中で途切れてしまうことを示した。
彼は引ったくりみたいな体勢で僕の横からレバーとボタンを操作し、手慣れた感じでキャラクターを動かし始めた。
「…コンパネですね。テクニックの問題じゃない」
「どうしてわかるの?」
「消去法です」と彼は言った。
――消去法?と僕は思った。
「ねえ、あなたは3Dの格闘ゲームをやったことある?」と隣に座った女性が聞いた。
僕はちょっとびっくりしてその顔に目をやった。
知らない相手だと確認して、それからもう一度ブロックの振り続けるモニターに視線を戻した。
「…いや、ないですね」
「一度も?」
「ええ、一度もないです」
「嫌いなの?」
「面倒なんですよ。
やたら多いコマンドを覚えたり、投げ抜けの操作を覚えたり、フレーム数を覚えたり、そんなことがね。
別に3Dが嫌いってわけじゃない。それは違うんです。
結局…ただ面倒なだけです」
「昔、少しやっていたの」彼女は言った。
「高校生の頃よ。友達に頼んで教えてもらったの。
暇だったし、不器用で波動拳も出せなかったから…少しでも遊んだ気になれるゲームが欲しかったのよ。
――あなたシューティングとかはやってる?」
「怒首領蜂をやってます」
「どどんぱち・・・って、素敵?」
「さあ、どうかな、もう七年もクリアしてないんですよ」
「君はこれから世界で一番タフなゲーム・プレイヤーにならなくちゃいけないんだ。
・・・なにがあろうとさ。
そうする以外に初心者である君がゲーセンで生きてゆく道はないんだからね。」
>241が何気に気に入った
247 :
ゲームセンター名無し:2005/07/17(日) 21:37:33 ID:xvArNZK1
つまり、まだ落ちてほしくないんだ
「想像力の足りない人をいちいち真剣に相手にしていたら、身体がいくつあっても足りない、と言うこと?」と僕は言う。
「そのとおり」と店員は言う。そしてエントリーカードの角の部分で軽くこめかみを押さえる。
「実にそういうことだ。でもね、これだけは覚えておいたほうがいい。
結局のところ、足しげく通っていた常連を殺してしまったのも、そういった連中なんだ。
想像力を欠いた狭量さ、非寛容さ。しゃがみ続ける軍人、積み上げられたコイン、簒奪された理想、硬直したシステム。
僕にとって本当に怖いのはそういうものだ。僕はそういうものを心から恐れ憎む。
想像力を欠いた狭量さや非寛容さは寄生虫と同じなんだ。宿主を変え、かたちを変えてどこまでも続く。
そこに救いはない。僕としては、その手のものには“ここ”には入ってきてもらいたくない」
店員はエントリーカードの先で筐体を指す。もちろん彼はゲームセンターぜんたいのことを言ってるのだ。
忘れたころにあらわれてるなw
誤爆。失敬した。
晩冬の大学入試の面接会場のしんと静まり返った控え室の窓際の席と、
初夏の店の中、知らない人との対戦中にフリーズしてしまった筺体前の椅子の上。
そんな全くかけ離れた二つの場所。
ぼくはそこで一人の人間としてだいたい同じような居心地の悪さを感じ続ける事になった。
――さて、我々はこれからどこに行こうとしているのだろう?
格闘ゲームコーナーからシューティングコーナーへ向かう短い道の途中で僕は彼を見つけた。
彼は不思議なくらい澄んだ目でモニターを見ている。
彼はモニターを見つめ、ふと僕の方を見て、少し笑ってまたモニターを見つめた。
──いろんな強烈な感情が一つに混じりあった目だ。
恐怖と、絶望と、少しの希望と、困惑と、あきらめと、…それから僕にはまだわからない何か。
そんなものを瞳にやどしながら、彼はレバーを動かしていた。
あるいは、あるいは明日にも消えるかもしれないゲームをやっている時、
──誰もがみなあんな顔でゲームをしているのかもしれない。
「ずいぶんUFOキャッチャーが上手なんだね」と僕はプライズを袋に入れながら言った。
「びっくりした?」
「うん」
「これでも中学校の頃には1週間に3回はこれやってたのよ。
それに妹が人形好きだったせいで、小さい頃から日曜になるとやりに来ていたの。
ほら、小さい子って人形をあげると泣きやむでしょ?
・・・だから自然にUFOキャッチャーが得意になっちゃったの。」
「そういうこともあるんだろうね」と僕は言った。
「どうしてブティックを辞めてゲーセンで働いているの?」
「お給料が安い上に洋服ばかり買っちゃうからよ。それよりはゲーセンで
働いている方がいいわ。タダ同然でゲームもできるしね」
「なるほど」と僕は言った。
ノルウェイと短編(納屋を焼くとか)しか見た事無いハルキストビギナーなんだけど、
>>1の元ネタは何?
>>255 「ねえ、まだわからない?」
「わからない。」
どうせ僕には何もわかるはずなどないのだ。
「元ネタとかじゃないのよ。それっぽく書くの。
このスレはそれだけでいいってことだと思うの。」
「それだけでいいのかな。」
「いいのよ。」
このスレを読んで、遅ればせながら僕は村上春樹の本を買ったよ。
隣にだれかが立つ音がして、見てみるとあなたのよく知らない人がそこにいて、
右手にガン・コントローラーと左手に1コインを掲げて見せて、
悪いけどエンディングまで連れて行ってもらっていいかな、と言う。
そんなことが人生で度々起こるというわけではない。
いや、乱入はされうるだろうが、大多数の人にとって「エンディング」とは乱入されるときに聞く言葉じゃない。
もしそんなことが起こったとしても、まずい具合にあなたはガン・シューティングというものをやるのが初めてで、
──それにだいいち1面で死にかけているプレイヤーにとって、このプレイでのエンディングは余りに遠い。
僕にはそんな経験がある。
夕方の五時に知らない学校の制服の女の子が僕の隣のガン・コントローラーを握った。
激しい夕立がこの街に降っているらしく、濡れた彼女からは微かに…どうしてかSAMURAIのにおいがした。
…彼女はいまどうしているんだろう、なんて時々考えることがある。
──今でも夕立の降る街の午後五時のゲームセンターのだれかの隣で、エンディングでも探しているんだろうか?
僕がゲームセンターの片隅にクイズ・ゲームを見つけたのは、何年か前の夏のことだった。
そのときまで僕はこのような種類のゲームをやりたいと思ったことは一度もなかったし、
もしあの店があの「すくすく犬福」を入荷していなかったら、
──僕はあるいはこのジャンルに触ることもなく一生を過ごしていたかもしれない。
そういう意味ではマッチを擦ってくれたのはあの奇妙な生き物だったということになる。
しかし彼らがマッチを擦ってから、その火が僕のからだに燃え移るまでにはかなり長い時間がかかった。
僕の体についている導火線のうち、ある種のものはひどく距離が長いのだ。
ときにそれはあまりに長すぎて、火がつくよりも先にゲームのほうが姿を消してしまう事もある。
そうなるとその火がやっと体に届いても、もはや僕はどうしようもない。
仕方がないので火のついたまま自転車に乗り、あてもなくそのゲームを探す事になる。
──結局、僕はあれから「すくすく犬福」を見た事がない。
でも僕はあの後、「クイズ大捜査線」をやり、「虹色町の奇跡」をクリアし、「殿様の野望」すら越えて、
・・・今は当たり前のように「QMA」をやっている。
──そんなわけで、僕はずっと「すくすく犬福」を探し続けている。
今も、僕の体にはあいかわらず火がついたままだ。
ひょっとしたら、結局僕はその火を消すために──「すくすく犬福」を探し続けているのかもしれない。
「それでもし──もし、このゲームからキャラクターを抜きにして、
いろんな戦士達が目的を果たすために旅先でお互いをどつき合うというだけのゲームだとしたら――。
僕たちはただバランス調整を重ねるだけで『新作』と呼ばせることを許せるんだろうか?」
「駄目ね」と彼女は即座に答えた。
「・・・このゲームのポイントはキャラクターにあるのよ。」
「僕もそう思う」と僕は言った。
店は以前に漁師の小屋があったあたりに建っている。
何メートルか穴を掘れば海水が出てくるような土地だ。
店先に植えられた花は踏みつけられられでもしたかのようにぐったりとしている。
目の前に広がる海岸には人影もなく、ただ砂だけが乾いた音をたてる。
――そのゲームセンターは二階にあり、雨の降る日にはモニターに細かい砂嵐が浮かんでは消えていた。
個性はないけれど良くまとまった内装で、…何故かどことなくあきらめの雰囲気を漂わせた店だった。
海のせいよ、と店員は言った。
近すぎるのよ、潮の匂い、波の音、魚の匂い…。なにもかもよ。
魚の匂いなんてしないさ、と鼠は言った。
するのよ、と店員は言う。
そして窓のブラインドをばたんと閉める。
・・・あなただっていればわかるわ。
鼠は何も言わず自販機に吐き出させてから五時間は過ぎた缶コーヒーを飲み干し、
──そして沈黙が店に訪れる。
砂が窓を打つ。
ただ砂だけが乾いた音をたてる。
age..
こんなレトロ・ゲームに乱入する人間なんてまず誰もいない。
だから対戦に勝ったこともないし乱入画面を見たことさえない。
しかし、その日曜日の朝の乱入者は14回も乱入を続けた。
なんとなく僕は椅子から立ち上がり、隠そうともせずに相手側を覗き込んだ。
グレーの作業服を着た30前の男が、崩れかけた岩山に触るようにレバーを握りボタンに触れていた。
「以前この店で店員をしていたものです。」と男は言った。
「このゲームは、多分私がはじめて筺体にセットしたゲームなんです。」
そういうこともあるんだろう。
僕はかるく会釈して元の椅子にすわり、その後僕らは8回ばかり対戦を続けた。
僕は対戦を終えると習慣的に時計を眺め、煙草を吸った。
僕と知らない対戦相手と一人の店員以外店には誰もいなかった。
23時を過ぎた店は静かだった。
それは夏祭りの終わった神社の境内の静かさでもあったし、
あるいは台風が来るのを息をひそめて待ち続ける深海の静けさでもあった。
有線放送もなくゲームのデモ画面の音楽も全て切ってある大きくもないこの店では、
誰もゲームをしなければ当たり前のように沈黙がおとずれる。
「静かだよな。」と、対戦相手はぽつりと言った。
「本当に静かだ。」と、僕は言った。
「昼間にしかこの店に来ない連中は信用しないよな。
つまり、この店にいる人間全てが同じ音を聞く時間があるなんてさ。」
そういえばこんな感じだったよな、というような懐かしさにも似た気持ちは、
たとえ新作をやっているときでも時々感じることがある。
たとえば前作にも出ていたCPUキャラクターと戦っていて、
習慣めいた感じで出しなれた攻撃をしてみると、相手は自分の知っているとおりに動いてくれる。
そういうときに、そのあとに必ず来る相手のスキのためにコンボを先行入力している自分や、
当たり前のように攻撃を受けて吹っ飛ぶ相手の姿に、
――どうしてか、その一連のゲーム・シリーズと自分との間の、
ここまで歩いてきた歴史のようなものを見てしまうことがあるような気がする。
「学ぶ?」と彼は意外そうに言った。そしてしばらく唇にカードの端をあてていた。
「学ぶって、どういうことですか?」
「もう一度、さっきと同じ戦いかたを相手がやってきたらどうするかって事だよ、もちろん。
この次は20連敗じゃすまないかもしれないぜ。
──理由なく勝った者は、理由なく負ける。
逆もまた真なり」
「嫌なことを言いますね」と彼は言って手の中のカードを見つめなおした。
僕たちは最後のボスまでの空間を並んで飛んでいた。
彼女のおかげで道中は快適だった。
「オーケー、何とかやってみるわ。」と彼女は言った。
「あまり役には立てなかったけどね。」
「そばにいてくれただけでホッとしたわ。」
僕たちは何となく同じように椅子に座りなおし、煙草を取り出した。
「ねえ、本当にクリアできると思う?」
最後が始まる前に、彼女は僕の顔を見ながらもう一度そう訊ねた。
一度目に聞かれたのはゲームを始める前だ。
――僕がうまい答えを探しているあいだに最後の攻撃がやってきた。
全てはそれからでも遅くはない。
彼女への答えは後に回して、僕はさしあたってのデート相手に集中することにした。
269 :
(=w=):2005/08/08(月) 03:37:14 ID:fdOjzxvb
みんな凄い上手いですね(´・ω・`)
村上春樹ファンとして素直に感動しました
話しの腰を折ってすいませんですm(__)m
二昔ぐらい前の筺体に向かい合って、僕と対戦者の人生は触れ合っている。
・・・しかし、そこには何かが欠けている。
この僕たちが動かすべきレバーとボタンの前では、
時はまるであまりに力無いUFOキャッチャーのアームみたいに、──何処へか、自分の行くべき先を見失う。
相手が勝利のために何らかの行動を起こすとき、
僕は僕のなかでのリアリティーの黒い翼にしたがってレバーを動かしている。
僕がこの勝負の決着を早めるための錆ついた鍵を手に入れる頃、
相手は相手の摂理にしたがってこの区切られた時間のドアを閉じるための準備をしている。
「これが私のやりかたです。」と相手の動かすキャラクターが語りかけてくる。
「これといって見るべきところもないやり方かもしれませんが、とにかくこれが私のやり方です」
──決着がつき、相手の姿は筺体の前から消える。
僕はコントロール・パネルから手を離し、缶コーヒーの残りを飲む。
そして今の対戦者のやりかたを思い出してみる。
しかし、結局のところ僕は彼のやりかたを記憶に残しはしないだろう。
・・・僕は既に、扱いきれないほど多くのものをこの手に抱えてしまっている。
──それでも、そんなことは考えるまでも無いとわかっていても、
今の僕は彼のやりかたを思い出している。
意味があるとか無いとかではなく、ただ僕らが共有にした何かのために…僕は今あの時間を繰り返しているのだ。
今も──この店の中では無数のコントロール・パネルを動かす音がなり続けている。
そして何人ものプレイヤー達が、あの区切られた時の中で終わることのない無言の会話を繰り返している。
データイーストのアーケードでの最後の作品は、「マジカルドロップIII」というゲームだった。
このささやかな奇跡は、淡い光のモニターの中から、いまも僕の心に直接響いてくる。
──職務を全うしながらも、時代の波間に倒れていった、あの作り手たちの記憶とともに。
NBC
ねじまき鳥
バトル
クロニクル
274 :
ゲームセンター名無し:2005/08/15(月) 01:18:18 ID:eodPycAz
2005年の8月15日、僕の心をとらえたのは実にこのスレだった。
「もう初心者じゃないのよ」と彼女は繰り返した。
「そう?」と言って僕は立ち上がって次の乱入者に椅子をあずける。
「だって初心者なら乱入なんてされたらもっともっと悲惨なはずよ。」
僕はうなずいて動き始めたモニターを眺める。
「──でも『対戦』になっていたもの」
そう言って彼女は僕の方に手をおいた。
「ねえ、おめでとう」
・・・やれやれ、僕は彼女になんて言えばいいんだ?
276 :
ゲームセンター名無し:2005/08/19(金) 03:46:03 ID:nxGxcm9t
東京を覆うように大きく、黒い雲は、その重さに耐えられなくなったのか、大粒の雨を落とし始めた
僕は、ゲームセンターの一番奥のコーナーの、端から二番目の機械の前に座っていた
雲も、雨も、まるで関係ないような場所。
気になるのは、煙草の匂いと、めまぐるしく変わるディスプレイだけだ
コインを入れる、英語でSTARTと表記される
START?
僕は、わけがわからなくなってしまった
一体、何がSTARTだというのか。一体、僕は、ここで何を始めればいいのだ。
もう、全て終わってしまったんだ。
コインを入れたことを後悔した。
僕は、残存記憶の中で生きていくのだろうか・・・
先月失ったばかりの友人の声が聞こえる
「この社会のシステムを理解することだけが、必要なんじゃない」彼は言った
「もっと、大事なものもある。お前は、それに気が付かないうちは、ダメだよ」
「やれやれ」と僕は呟いた。「お前は、俺に何をしろっていうんだ?」
「2か月に一つくらいは新しいのをクリアします」と彼は言った。
そしてまた指を鳴らした。
「それくらいのペースが一番良いような気がするんです。
もちろん僕にとっては、といういことですが」
僕は曖昧に肯いた。
…ペース?
「勝てた?」と彼女は言った。
久しぶりに聞く彼女の声は柔らかく澄んでいた。
「勝てたのならあの椅子から立たないよ。
それが僕たちのルールだからね。」と僕は言った。
ageてみようと思う
店先に並んだこのUFOキャッチャーをしていると、目的もなく列車か何かに乗っているような気分になる。
ガラスに反射するプライズや店の風景や使ったコインや飲み干してきた缶コーヒーやら見慣れた街並が、
ここに立ち続ける僕を残して、どんどんと後ろに過ぎ去ってゆく。
ここにいるかぎり――どこまでいったって、たいして変わりばえのしない景色だ。
…昔はずいぶん素敵な世界みたいに思えたものだけどな。
隣に乗っている相手だけが時折変わる。
そのとき僕の左に立っていたのは、3日前に知り合った同じ大学の女の子だった。
「人形でも取ってあげようか」と僕は言う。
「ありがとう」と彼女は言う。「親切なのね」
――親切なわけじゃないんだ、僕は苦笑する。
ただ、僕は今までずっとこの機械を動かし続けてきたというだけの事なんだよ。
ポケットのコインを数えるのにも飽きた
そんな12年目の
アーケード・ゲーマー。
今も僕は、この列車に乗り続けている。
「立派なレトロゲームを店から消さなければならないのは」と、その店員は言った。
「二流の新作ゲームを入れる余裕がない事よりもずっと物哀しい」
「ところで今回の対戦相手が俺だって事は始めからからわかってたんだね?」
「わかってたさ。・・・君は?」
「僕は対戦相手を選ばない。――そこがカード持ちと違うところさ。」
彼はニヤリと笑って部屋を出ていった。
カードを持っている人間の笑い方はいつも同じだ。
コインと時間と、負けたときにそれ以外の何かを失う事ができる人間だけがそういった表情をする。
誰もが違う様々な感情を混ぜ合わせ、それでもどうしてか、浮かぶ空気は誰もが皆同じ…そんな笑い方だ。
彼が出ていったあとには私と、去る前に彼が私のコントロール・パネルに置いた未開の缶コーラだけが残された。
私はゆっくりと蓋を開け、軽く天井に掲げてからまだ冷えている深い赤銅色の液体を体に流し込んだ。
カード・リーダーの付いた筺体のないこの店に、カードを持ったプレイヤーは殆ど訪れない。
――ここでは勝ち負けよりも、乱入するということそれ自体が丁重に扱われている。
「楽しかった?」
「とてもね。」
彼女は下唇を軽く噛んだ。
「何故いつも乱入されて負けるまで席から立たないの?」
「さあね、癖なんだよ。
やっているうちに、なぜかいつも肝心なことだけやり忘れてる気分になるんだ。」
「――忠告していいかしら?」
「どうぞ。」
「直さないと損するわよ。」
「多分ね。でもね、あのゲームのシリーズと同じなんだ。
やっているうちに、やらなくてもいい事をやりたくなってくる。」
そう言って僕はまた筺体に向かって歩き出した。
284 :
名無し:2005/09/08(木) 20:27:10 ID:DaOqxmXf
始まりがあれば終わりがある。
それは誰かの人生にも、何かの物語にも、そしてこのゲームにも共通する
一種の常識のようなものだ。
百円をチャリンと入れる。物語が始まる。始まりとともに我々は死を予感する。
物語が進む。
死はより濃く、明確に我々の意識に具体的に感知されるようになる。
それは敵の空母から吐き出される圧倒的に弾幕であったり
オペレーターからの親切なメッセージ「もう持ちません!」だったりする。
形はどうあれ物語の終わりが近づいてくる。
そして我々は選択を迫られる。
新たに百円を投入し、物語を続けるのか
それともそのまま物語を終えるのか
常にそれは単純な事だ。
CPU戦の4割でパーフェクトを取る人間と出会ったのは、3週間前の事だ。
彼はいつも対戦の起きようもない一人用の練習台に座り、
あるいは新作コーナーで行なわれる他の常連の対戦を見ていた。
僕と僕の知り合いの知るかぎり、彼はこの店で一度も対戦をした事はなかった。
「あなたは対戦をしないんですか」、と僕は彼に尋ねた事がある。
対戦を見ていた彼は実にゆっくりとした動きでこちらを見た。
なんだか何処かの筺体にコインが入った音がしたな、というような顔つきで。
――彼は、そんな目でじっと私の顔を見た。
「私は対戦をやりません」、そう言って彼は静かに首を振った。
「私は対戦をやりません。
――こうして他の人の対戦を見ているか、CPU戦を見ているだけでいいんです」
ゲームをしていたのは高校生だった。
制服を着ていたし、傍らにはバットの入ったケースを置いていたから、多分高校生だったと思う。
彼はプレイ中でもブラック・コーヒーをぐいぐいとあおっていた。
台の上にはまだフタの開いていない缶コーヒーがその他にまだ1本乗せられている。
「だってあなた、コーヒーでも飲まなくちゃこんな長旅はできんだろうが」と後で彼は言った。
――なるほど、ベルトアクションとはそういったジャンルなのだろう。
そのゲームの名前は忘れてしまった。
●
もちろん本気になって探したとしたら、その名前を見つけることはそれほど難しいことではないのかもしれない。
ひょっとしたら、五分もかからずにあっさりと見つかってしまう事だってあるだろう。
それでも僕は、今となっては名前なんてどうでもいいと思っている。
僕はそのゲームの名前を忘れてしまった。
つまりは、ただ、僕にとってはそれだけが全てなのだ。
●
昔の仲間と会って、何かの拍子にそのゲームの話が出ることがある。
…でも、誰もそのゲームの本当の名前なんて呼びやしない。
――ほら、昔さ、こんなゲームがあったじゃないか、なんて名前だっけ、すっかりわすれちゃったな。
――俺も何度かは遊んだけどさ、今動いてる店ってあるのかな、いきなり見つけたりしたら妙な感じだよな。
こういう記憶は不思議なもので、たとえ名前を忘れてもその存在自体はけして忘れない。
それ自体ははっきりと覚えているのに、どこで、いつ見たのか思い出せない景色のようなものだ。
そしてこの世界に時間を刻みつけた人間なら、誰でもそんな名前の一つは抱えていると、僕は信じている。
●
――昔、あるところに、伝説の勇者がお姫様を助けに行くゲームがあった。
…それが、どうしても必要な時に僕が使うあの作品の名前だ。
●
この名前を聞いて、――ああ、あのゲームだね、とわかる人間に今のところ僕は出会っていない。
そう、これは不幸なことなんかじゃない。
他の人にはわからないかもしれないけれど、なんというかこれは、僕にとってとても幸せなことなのだ。
僕は2005年の夕立の季節に知り合った友達のために、あのゲームをやる事になった。
誰かのために筐体に触れるのは決して僕の好むところではない。
それでも、そうしなければならぬこともたまにはある。
これが良いことであるのか悪いことであるのか、僕にはよくわからない。
しかし一度始めてしまえば、どちらにしてもすぐそれに集中してしまう。
そして僕は一分間に十回しかまばたきをしなかったり、
五本同時に煙草に火を点けて全く吸わずに消したりという無茶苦茶な世界の中にはまりこんでいく。
でもまあ、これは彼にとってはどうでもいいことだ。
ときどき、100パーセント勝つ事さえできれば楽になれるんだろうなと思えるときもあった。
――でも何のために勝てばいいのかがわからなかった。
他人のために勝つ気になれるほど僕は強い人間ではなかったし、
自分のために勝てなければ全てを見失えるほど僕は弱い人間でもなかった。
それぐらいのことがわかる程度にはゲーム・センターで時間を送ってきた。
それでも、何のために勝てば楽になれるのかがはっきりと判るほどには――
…僕はこの場所での時間を送ってはいない。
対戦に勝ち、あるいは負け、そのすぐ後になんとなくおとずれる「空白」の時間に、ふとそんな事を考える。
――目の前の灰皿に何カートンの煙草が吸い込まれたら、僕は諦めることができるんだろうか。
僕はポケットからショートホープを出して彼に渡し、ライターで火をつけてやった。
彼女はすこし笑ってから気持ちよさそうに天井に向けてふうっと煙を吐いた。
「やんなよ」と彼は言った。「どれくらいもつ?」
「時間ですか?」
彼は煙草を掲げて肯いた。
「…タイトルと難易度次第ですね。もうすこし見ていてもいいですか?」
「いいともさ。だいいち金を出すのはあんたなんだ。」
僕は彼の隣でモニターを見つめた。
画面の中ではおそらく和風な世界が広がる、いわゆる弾幕形のシューティング・ゲームだった。
画面の下のほうに体力を現す横棒があり、そういった面ではすこし変わったタイプのシューティングだ。
「これなら30分はもちますよ。…やっていいんですか?」
僕はそういいながらちょっと彼を見た。
「好きにしたらいい。だってそれはお前が決めるべき事だ。――そうだろ?」
それはまあ――たしかにそのとおりだ。
結局、僕はそのゲームの前に34分座り続けた。
終わったとき、それなりに満足そうな顔で煙草を吸っていたのだから…彼もそれなりに楽しかったのだと思う。
うん、アゲよう
「なんでageるの?」彼女の問いに僕はうんざりしながらこう答えた…
ピース
今度『ピース』なんて言ったら殺すわよ
その時の私のポケットの中には五百円玉が3枚と百円玉が18枚、五十円玉が7枚と十円玉が16枚入っていた。
合計金額は3810円になる。計算には何の苦労もなかった。この程度なら手の指の数を数えるよりも簡単だった。
私は満足して色褪せた壁にもたれかかり、ストIIの筐体を眺めた。
ガイルはまだ溜めていた。
「あなたがこの店で見てきた殆どのものを私は知っている。」
そう言って彼女は一冊の帳簿を取り出した。
「――ほら、三年前の8月13日、普段は全く動かない筺体にものすごくコインが入ってる。
…何があったか覚えてる?」
「いや。」と僕は言った。
三年前に自分が何をしていたかなんて思い出そうとしたことも無かった。
「あなたがね、友達を連れてきて6時間ぐらい対戦をし続けたの。
その内に普段はそのゲームに見向きもしない人も乱入しだしたのよ。」
彼女は僕の顔を見た。
「結局あのゲームはその1ヵ月後に外されてしまったけれど、…ねえ、あの1日で入ったコインの数、
この店からあのゲームが消えるまでに入ったコインの9割以上だった、って言ったらあなた信じる?」
そう言って彼女はすこし笑った。
「ね、だから私は殆どのものを記録として覚えてるの。
――あなたにとっては記憶なのかもしれないけれど、私は記録としてそれを知っているのよ。」
彼女は――店員をやめる前の一ヶ月ばかりをのぞいて――そのようにものごとを考える女性だった。
彼女はこの店におけるリアリティーというものを実に正確に把握していた。
それはつまり、僕らは一度クレジットに変わった硬貨を筺体から出すことはできないし、
そして一度筺体に入ったコインは、もはや台帳に刻まれるべき存在以外のなにものでもないという原則だ。
彼女は僕が見ても呆れるくらいかたくなに忠実にその原則を守り続けた。
僕が今彼女について知っているのは、彼女についてのただの記憶にすぎない。
そしてその記憶は人気の無くなったゲームのようにどんどん奥へと追いやられてゆく。
――そして僕は、あの店で彼女と話した正確な回数すらわからない。
時折僕はその回数を訊ねるためにあの店に行ってみる。
もちろん彼女がいるはずも無い。
それでも、あの店に行くことは僕にとって何か限定された可能性のようなものを連想させてくれるのだ。
彼女が住むシューティング・ゲームの世界を
かつての輝きを時の中に溶かしつつある場所であるとするなら、
僕は一人の格闘ゲーム・プレイヤーとして
乾いた光の中で絶え間なくその色を失い続ける場所に住んでいる。
「そんなのってないぜ」と私はゲーム・メーカーにどなった。
「大事なものは壊さないって言ったじゃないか」
「そんなこと言わないよ」と彼らは平然として答えた。
「我々はあんたたちに『何が大事か』ってたずねたんだ。壊さないなんて言わない。
大事なものから壊すんだよ。じゃなきゃ新作を作る意味なんて何もない。
――そうだろ?」
僕は何も言えずに自動販売機から冷えたブラックコーヒーを取り出して飲んだ。
そして店員と二人で、かつては小ぢんまりとはしていてもバランスのよかったゲームの成れの果てを眺めていた。
――やれやれ、新作をプレイする意味なんて、面白いゲームをやること以外に何かあるんだろうか?
マイルス・ディヴィスが流れているゲームセンターなんて、今時、少し珍しい。
探していたゲームに出会ったのも、その少し珍しいゲームセンターでだった。文字通り、僕は”それ”を探していた。
その頃、僕には時間だけが豊富にあったから、探すことにかけては、ちょっとしたものだという自負があった。
あるいは、一種の病気だったかもしれない。僕は数え切れない程の店を巡った。正確な数はわからない。きちんと数えたかどうかも、覚えていない。それは今や、どうでも良いことだ。
そもそも、そのようなゲームセンターへの偏愛は、彼女の思いつき以外の何物でもないような一言から始まった。
「探してほしいものがあるの」
「何?」
「ビデオ・ゲーム」
「ビデオ・ゲーム?」
「石を並べて消すゲーム。本当にたったそれだけなんだけど」
「名前は?」
「忘れたわ」
「そいつは難しいな。名前がなきゃ、どうしようもない」
「名前ってそんなに大切かしら。名前がなくても存在しているものは幾らでもあるわ。例えば」
「わかった。探してみるよ」
ーーー続くーーー
「もし、そのゲームが見つからなかったら貴方のレーゾンデートルは失われることになるのよ…」
彼女はけだるそうに…まるで感情のこもっていない様子で呟いた。
この場所にはいろいろな人間がやってくる。
僕は7年間、そこで実に多くの人とであった。
店は僕の心にしっかりと根を下ろし、多くの思い出はそこに結びついている。
それでも大学に入った春、この街のこのゲーム・センターから離れる事がきまった年に、
…どうしてか僕は心の底からホッとした。
夏休みと春休みは街に帰ってくるが、あの場所に行くとしてもほんの一、二回だ。
いまのところ誰かに聞かれたことは無いけれど、理由は一つしかない。
――時は、余りにも速く流れる。
それだけだ。
それだけなのだと、少なくても僕は信じている。
1993/2005年の武器格闘ゲームは今もどこかで動きつづける。
最後に残ったプレイヤーが行き過ぎるまで、1993/2005年の武器格闘ゲームは休むことなく動きつづけている。
僕は22歳で、少なくとも今のところはこの世界を去るつもりはない。
僕はこれまで32のゲームを終わらせてきた。
最初のゲームはシューティングだったが、僕は15歳で、
――どうしてか必ず僕はこのゲームをクリアできると信じ込んでいた。
僕が半年をかけてクリアしてから、ほんの数日後にそのゲームは突然消えた。
変わった理由はわかるはずもなかったが、知っていたとしてもおそらく忘れてしまっているだろう。
一つのゲームが消える理由なんて、いつだってそんなものだ。
不思議なことに、それ以来僕は一度もあのゲームを見かけていない。
眠れぬ夜に僕は時々あのゲームのことを考える。
僕があるゲームをクリアすることが出来ると信じることが出来た…そんな時間のことを考えるのだ。
僕たちは財布の中味を全部クレジットに変えてしまうと、
店の前に止めた自転車のサドルに座りながら1時間ばかり話をした。
話が終わったとき、一種異様なばかりの生命力が僕の体中にみなぎっていた。
不思議な気分だった。
「全一にだって勝てる。」と僕は鼠に言った。
「僕もさ。」と鼠は言った。
…しかし実際に僕たちがしなければならなかったのは、
帰りの切符を買うために休日手数料つきの銀行に行くことだった。
店を出たのは6時前だった。
――空気のにおいのせいだろう。
初めての店に訪れると、いつも別の体に別の魂をむりやりに詰め込まれてしまったような感じがする。
ドアの脇に並んでいる自動販売機から紅茶を1本取り出し、僕はバス停に向かって歩き出した。
閉店30分前にもなると、この店から対戦と呼べるほどのものは何も無くなってしまう。
そうなると一人でCPU戦をやり続けるか、誰かがやっているのを眺めているか、
あるいはもし勝っても乱入され返されることも無いのを覚悟で乱入してみるぐらいしかない。
そしてそれにすら飽きたら、何も言わずに店を出て家に帰ってあとは眠るだけである。
――もっとも、具合がいいことには、
この時間はCPU戦のデモやエンディングを見るのにはまことに理想的な時間である。
時には、お互いによく知らない5,6人の人間が、
やっぱりよく知らない一人の人間がたどり着いた「終わり」を何も言わずに共有している。
…こういうのも、ひょっとしたら物凄く幸せな事なのかもしれない。
309 :
ゲームセンター名無し:2005/10/27(木) 04:17:11 ID:Gn2p61Bi
夜の暗闇の中で、
僕は時折、
この板から落ちてゆくスレッドの事を考える。
人気が無かったということ
2005年、それはQMA2の年だった。
2005年、僕は生きるために問題を答えつづけ、
問題を答えるために生きつづけた。
称号と点滅を繰り返すCNこそが僕の誇りであり、
センモニの中で表示されるランキングこそが僕の希望であった。
諸橋漢和でも作れそうな巨大なバインダーを手に入れ、
デジカメを買い、アキバ系向けのショップをめぐって
奇妙な名前のDVDを揃え古本屋でクイズの専門書をみつけ、
一ダース単位でテレビと映画を観た。
○×や四文字や順当てや何やかんやの形式は
渾然一体となって空中へ飛び散り、ランダムとなって
超銀戦の隅々へと吸い込まれていった。
それはなんだか第13回アメリカ横断ウルトラクイズのような匂いだった。
紀元2005年、QMA2の年の出来事である。
ベルトアクションは時間の有るプレイヤーを好み、
時間の有るプレイヤーもまたこれらのゲームを好む。
そういった意味では時間という概念にとって、
このジャンルは後天的かつ便宜的な楽園ということになるのかもしれない。
その時その店は2005年の11月9日で、
そのゲームはあと何時間かで稼動してから2週間を迎えようとしていた。
新作が当然のように店に入り――そして当然の様にあまり対戦も盛り上がらない。
そしてそれすらも当然のように誰もがそれに驚かない。
世界が動きつづけるなか、何かが同じ場所に止まり続けている気がした。
例えば一人の人間がこの店にやってくる。
そして習慣的に大量の札を両替するようになる。
もちろんそれにはそれぞれの様々な理由がある。
が、理由は様々だとしても、コインの返ってゆく先は大抵同じだ。
結局の所、ゲーム・センターで両替を行うとは過不足なくそういう事なのだ。
店に入ると僕はポケットのコインを指先で数え、知りあいと簡単に挨拶を交わした。
三回目の対戦中に37秒間着信があったが、僕は結局電話には出なかった。
メロディーがやんだあとも、その余韻は学校の裏道から見上げた十一月の本当に短い夕闇の空の色のように、
――奇妙に、僕の中に残っていた。
それから?
それから?
漱石の名作のタイトルを疑問形にすると
どうなるんだろう、とよく晴れた秋の日曜の午後に考えてみる。
でも結局答えなんて出てきやしない。
この世界には入口があって出口がないものばかりで
構成されていることを改めて思い知らされるだけだ。
つまりは、そういうことだ。
318 :
ゲームセンター名無し:2005/11/29(火) 01:37:50 ID:2ip9HGKR
「あの会社が死んだとき、僕はまだ十代だった」
とアルバイトの店員は人影の少ない新作の匡体を眺めながら静かに切り出した。
「もちろん精神的な準備なんて全くできていなかった」
「一つだけ言えることは」と僕は言った。
「たとえば今日業界の何が消えても、世界中の誰も、
おそらくは絶対に驚かない」
以前3年ばかりベルトアクションだけをやっていた時期がある。
どのジャンルでもそうだと思うけれど、僕はそれによっていろんな面白い目にもあったし、
いろんな不快な目にあったことももちろんあった。
でもずいぶん昔のことなので、いいことも嫌なことも大抵のことは忘れてしまった。
同じジャンルにずっと触れていると、忘れたくても忘れられないことがだんだんと増えてくる。
もちろん忘れたければその世界に触れなければよいだけのことで、
だから忘れることはたぶんそんなに難しいことじゃない。
ただ、結局自分が好きで何年もやり続けたことなのだから――
僕にとってはたださわらないで居る、ということだけがものすごく難しいことだったのだ。
――5年前の秋に僕は事情があって家を引越した。
あの時、もし、僕が住む事になった街のゲームセンターに一台でもベルトアクションがあったのなら、
おそらく僕は今でもこのジャンルに時間を切り取られ続けていたと思う。
この場所を歩くと、本当にいろんなものとすれ違う。
5分ばかりで店の中を一周してから椅子にすわり、クリアできるあてもないゲームをやり始める。
何かの拍子に台の上においた煙草の灰が崩れおち、ポケットのコインが微かな音をたてる。
限られた時間のなかで、何人もの「誰か」がこの店の扉を開けてそれぞれの時間へと戻って行く。
――11時45分。
閉店時間を間近に控えた店の中はおそろしく静かだ。
321 :
ゲームセンター名無し:2005/12/24(土) 02:11:45 ID:1sIng4Dr
「結局」と前置きしてから
「コストってさ、高いから強いってものでもないんだね」、とそのプレイヤーはまるで自分に言い聞かせるように言った。
「逆もまた真なり」、と僕は動くのをやめた彼の両手を眺めながら言った。
目の前のモニターの上には球形の機体の砲撃がナギナタをかざした赤い巨人を貫く光景が映し出されていた。
ボールでゲルググとかありえね
>>322 結局のところ、
と鼠はそういって今夜6杯目のビールを飲みながら言った。
結局のところ、このスレとはまず文体ありきなのだと。
僕はただ黙って今夜8杯目のビールを注文する。
鼠はなおも続ける。
でも、それは、半年ROMったからといって
身に付くものじゃないんだ。
2005年12月29日。
僕は相変わらずビールを飲みながらこのスレをROMってる。
スレ違いの質問。
オレが読んだ事がある村上春樹作品は
風の歌を聴け
1973年のピンボール
羊をめぐる冒険
ダンスダンスダンス
世界の終わりとハードボイルドワンダーランド
ノルウェイの森
ねじ巻き鳥クロニクル
国境の南、太陽の西
スプートニクの恋人
海辺のカフカ
中国行きのスロウボート
回転木馬のデッドヒート
パン屋再襲撃
蛍・納屋を焼くその他の短編
レキシントンの幽霊
神の子たちはみな踊る
(羊男のクリスマス)。 他なんかあったかも。
なんだが、この他に読むべき作品ある?読んどくべきみたいの。
もしも僕らのことばがウィスキーであったなら や 雨天炎天 もよろしく
327 :
324:2006/01/02(月) 01:08:30 ID:+CP4lX9i
物語?村上春樹のエッセイみたいなのは嫌よ
ならカンガルー日和
エッセイも食わず嫌いしない方が良いと思うが
スマン。カンガルーは読んだ。
はっちゃけ
アンダーグラウンド
遠い太鼓
東京奇譚集
は読む価値ある?上記以外でもよいけど
アンダーグラウンドは読む価値あると思う(2も含めて)
ノンフィクションやルポタージュ読んだことないなら、
これを機会に手を出してみるといい
エッセイが好きなひとなら、読者とのやりとりを記録したCDROM付きの
2冊もおすすめ。けど、量が膨大過ぎて俺は読むの挫折した。
ちなみに世界〜が大好き。装丁は以前のもののほうが良かったのにな。
332 :
328:2006/01/06(金) 23:31:45 ID:IYLtA8Tj
東京奇譚集は面白かったよ
やはりこの人の本質は短・中篇にあると思う。
遠い太鼓は雨天炎天と並んで
個人的には大好きなエッセイ。
というか紀行文かこの2つは。
はっちゃけってどんな奴だっけか。
ごめん。「はっちゃけ」はぶっちゃけと同じ意味で使った。タイトルと思わせてしまってスマソ。
オレは国境の南、太陽の西が一番よかったと思う人種です。東京奇譚集でも読もうかな・・・・
テスト
面白いゲームというものはどれだけ眺めていても飽きることがない。
いろんな形のゲームがあり、いろんな色のゲームがある。
それは生き物のように自由自在に動き回る。
――生まれ、つながり、別れ、やがて滅びて消えていく。
336 :
ゲームセンター名無し:2006/01/19(木) 01:12:58 ID:IV9OVxsf
落とすには勿体無いスレだ
「好きなゲームでも、絶対に途中で何か違う基板に変わるでしょう?」
「昔住んでた街の店なんて7台しか筐体が無かったから、
少しでも人気がないとすぐに中身が変わってたわ。
――私ね、せっかく進学で都会に来たんだから、
クリアできるまで残っていてくれるのかとかの心配のない店でゲームがしたかったの」
「そんなこと言ってるとアーケードに向いてないと思われますよ」
「いいわよ、もうすぐ私就職だもの」とレイコさんは言った。
3000円なんて、まったくのところ、あっという間に無くなってしまう。
この金額と引き換えにいったい何を手にしてきたのか、僕にはまるで思い出せない。
色んな事をやったような気もするし、何もしなかったような気もする。
ゲームオーバーになって今日10枚目かのカードが吐き出されてくるまで、
筐体に入れてあったクレジットがなくなってしまっていることにさえ僕は気づかなかった。
しかし何はともあれ、家に帰るべき時間はやってきた。
僕はパイプ椅子から立ち上がり、体中のポケットを調べ、
帰りの電車代ぐらいは残っていることを2分間かけて確認した。
腰を伸ばした後に飲みかけのコーヒーを一気にあおり、
意味も無く店の中を一周し、手袋をはめながら階段を上って、やがて僕は街へと続く扉を出る。
――ときおり、まだフィルムに包まれたままの幾枚ものカードが
ポケットの中で乾いた音を立てているのが聞こえた気がした。
339 :
ゲームセンター名無し:2006/01/22(日) 13:42:29 ID:fvMwFqZe
あげ
340 :
ゲームセンター名無し:2006/01/22(日) 18:58:48 ID:JWPKATCB
ねじまきドラゴンクロニクル
14歳になった春、信じられないことだが、
まるで堰を切ったように僕は突然ゲームセンターに通い始めた。
何をプレイしたのかまるで覚えてはいないが、
14年間のブランクを埋め合わせるかのように僕は3ヶ月近く欠かさず通い続けた。
七月の末には40度の熱が出たことにして3日間学校を休んで店へと向かった。
僕が店に行かなくなったのは8月の初めのことだった。
何かの乾きのためだろう――
あの熱が引いた後、僕は結局の所ゲーム嫌いでも好きでもない平凡な少年になっていた。
1995年の夏の話だ。
最後にふれたゲームがパワード・ギアという名前だったということだけは、今でもはっきりと覚えている。
恐ろしい数の「賢者」だ。十五というのがその正確な数字だった。
僕は表示時間ぎりぎりまで何度も対戦者発表画面の「賢者」を勘定してみた。
十五、間違いない。「賢者」は十五列の縦隊を組み、上から下まで「○」が並んでいた。
まるでチョークで床に線を引いて並べでもしたように、その解答には一つの「×」もない。
誰一人間違えることはない。十五の「○」と一つの「×」。
僕は反射的にダイブを繰り返した。そうでもしなければ僕までもが
その「ペガ・ユニ スパイラル」の群れに組み込まれてしまいそうな気がしたからだ。
僕はときどき「クソゲー」をやる。
最後にやったのは恐らくはちょうど1週間前のことだ。
あれをやるのはひどく嫌なことだ。
「クソゲー」と「焼き直しゲー」は現代のこの業界にはびこる二つの巨大な罪だといってよい。
実際僕たちはよくそれらを見かけ、やがて彼らは時の試練に耐えられもせず、
すぐにデモ画面だけを移し続けながら黙り込むことになる。
しかし、もし僕たちが目にするのが全て「良ゲー」で、
その上でさらにその中の自分にあったゲームしかしなくなったとしたら――
そこでは、真実の「良ゲー」の価値など失くなってしまうのかもしれない。
そんなわけで、僕はときどき「クソゲー」をやる。
最後にやったのは恐らくはちょうど1週間前のことだ。
そんなふうにして、僕はわりと幸せなゲームセンター的生活を送っている。
シューティングは厚い雲に被われたジャンルだ。
光の少なさと道の険しさに住民の大半は若死にする。
少し街から離れた店でならクリアしただけで伝説が生まれるほどだ。
そしてその分だけ彼らの心は愛に富んでいる。
全てのシューティング・プレイヤーは全てのシューティング・プレイヤーを愛し、
全てのシューティングを愛している。
彼らは他人を憎まないし、うらやまないし、軽蔑しない。
悪口も言わない。
「たとえ今日どのゲームが消え、誰がシューティングをやめたとしても僕たちは悲しまない」
僕がかつて出会ったとあるシューティング・プレイヤーはそう言った。
「僕たちはその分だけそこに『ある』うちに愛しておくのさ。
――後で後悔しないようにね。」
だから僕らには憎んだり、うらやんだり、軽蔑したりする暇なんて無い、と彼は言って少し笑った。
シューティングをはじめて半年の僕には、正直なところ、まだよくわからない。
引退を決意したゲームのIDカードは、
店の天窓から差し込む午後6時半の夕日ように物悲しい。
僕はもう二度とこのカードを使うことも無いんだ――。
そんな事を考えながら、僕はベッドの枕元に置いたままのプラスチックの欠片を時折眺めている。
ほしゅ
ageてみるのも悪く無いんじゃないかな
出張先のよく知らない街の中を歩くと、額にうっすらと汗がにじんでくる。
なんとなく辿り着いた河原ぞいを五分ばかり歩いてから防波堤にのぼり、
幅50センチほどのコンクリートの壁の上を歩き始める。
緩やかに風が吹き、歩くのを止めた新しい革靴の底がゆるく軋む。
――そして僕は見捨てられたような河原の見捨てられたような防波堤の上から、
あるいは全ての時代に見捨てられてしまった一つの時間とすれ違う。
誰の思い出にでもなりそうな夕暮れの色の空の下、
その筐体は河原の傍にしげった雑草のなかにたった一台で捨てられていた。
午後5時55分。
薄墨色に沈みかけたこの場所はかなしいくらい静かだ。
――ねえ、もう十ニ、三年も昔になるかな。
学校が終わると僕達は毎日この機械で遊んでいたんだよ。
制服を着たまま、学校の校門からこれが置いてある駄菓子屋の店先まで
何人もで連れだって通っていたんだ。
太陽に焼かれたアスファルトの道はおそろしく熱くってね、
何度も汗を拭きながらレバーを動かしたもんさ。
夕立とかもあったよ。
焼けたアスファルトの路面に吸い込まれてゆく夕立の匂いに包まれて対戦するのがたまらなく好きだった。
のどが渇くと、店の冷蔵庫の中には60円ぐらいの飲み物が冷えていた。
もちろんそばにはコーラとかが売ってある自販機はあったけれど、
あそこでは60円のメーカーもよくわからない飲み物には勝てないんだ。
それを一気に飲み干してさ、また誰かと対戦したり知り合いが勝負してるのに野次を飛ばしたりするんだ。
運がいいと店のおばちゃんがそこにいた全員に売れ残りをくれたりした事もあった。
そんな時は何となく違う学校の知らない誰かとそのゲームについて話してみたりして、
理由は無くてもみんなで笑い合ったりしていたんだっけ。
それでさ…
防波堤を下ったところにある道を大型のトラックが走り去る音が、僕をあの時間から連れ戻す。
僕は河原に下りてあの筐体に触るでもなく、この場所から遠くを見渡す。
ここから見えるのは光り続ける河原の流れと、そのむこうの高層住宅の明かりの群れだ。
そして僕はこの細い道の上をただ歩いてゆく。
午後6時12分。
緩い夕暮れの日差しと忘れていた思い出とともに、ただ、また、僕はこの川沿いの防波堤の上を歩いていく。
353 :
328:2006/02/21(火) 22:51:34 ID:hvAGI0dO
>>351-352 GJ。
漏れも100円玉握り締めて「サスケVSコマンダー」やら
「スーパーロコモティブ」をやりに行った少年の日々を思い出した。
小確幸に満ちた日々。
かっこう?
「ここに帰って来るのは7年ぶりなんだ」
僕はアキと今はもう潰れてしまったスーパーマーケットのゲームコーナーに二人で立っていた。
無造作に廃棄されたままのアーケードの筐体、そして一台の古いパチンコ台。
30円を入れてセットされた玉を一つだけはじき出す。
玉の行先は誰にもわからない――ただ、どのような偶然なのか時に古びたキャラメルが台から吐き出されるのだ。
僕はその幸運に感謝し、喜んでキャラメルを口に含んでいたものだ。
僕はあの頃と同じように台に30円を入れてみるが、やはりあの僕をからかっているような安っぽい電子音と共に玉がセットされる事はなかった。
「さよなら」と彼女は言い、僕らはこの場所に背を向ける事にした。
僕が得ることが出来なかったキャラメルがあの台の下に埋もれたままであることを思うと少しだけ胸が苦しくなった。
355 :
ゲームセンター名無し:2006/02/23(木) 02:07:31 ID:cBMqqD1m
「ageる事に意味ってあるの?」
彼女の問いに僕は少しだけ口の端を動かして少しだけ笑ってみせる。
「安っぽい延命さ」
僕はドリルで地下へと潜って行く彼のことを思いながらそう答えた。
「この店に来るほとんどの人は完全な新作なんて求めてはいないんだ」
とその店員は初春の午後の光のような視線で帳簿を見つめがら言った。
「求めていると思い込んでいるだけだ。
全ては幻想だ。
もし本当にそれを与えられたりしたら、たいていの人間は困り果ててしまうよ。
単純にいろんなものを失ってしまうんだからね」
そう言ってから彼は僕の顔を見つめなおした。
「覚えておくといい。人々は実際には、焼き直しが好きなんだ。
真実ではなく現実として、僕はそれを知っているんだよ」
モニターには僕にとっての今週最初のエンディングが映り始めていた。
――コインが入るたびにデモはゲームへと変わり、運がよければゲームはまたエンディングへと変わる。
ゲームセンターにおける格闘ゲームのエンディングは、それほどロマンティックなものではない。
どちらかというと、それは強くもない風の吹く夜にやる線香花火の行く末みたいに見える。
358 :
ゲームセンター名無し:2006/03/13(月) 07:01:34 ID:p1IW45sA
保守と、一周年経過おめでとう。
何だろう・・・読んでたら悲しい気持ちになってきた。
コインを入れると決め撃ちでボムを使う場所を思い出す。
決め撃ちでボムを使う場所を思い出すと、
エクステンド・アイテムの有る場所を思い出す。
我々の頭の中には幾つかのそのような連鎖が存在する。
ほんのちょっとしたことなのだけど、
シューティングを楽しむことやクリアすることは、
そのような「ほんのちょっとしたこと」に支えられているんじゃないか、
なんてふと考えることがある。
ピンクスゥイーツが発表されてしばらく経つ。
ピンクスゥイーツ(スイーツじゃないらしい)が発表されたことで、
ひとつの流れが確実に終わったんだな、と僕は思う。
何かが枯れていく事にどこか寂しさを覚える人間が一人でもいる事は、
その流れを作り出した誰かにとって一つの勲章であるのかもしれない。
――あるいは、その逆なのかもしれない。
「でもどのゲームも結局は終わる」
僕は試しにそう言ってみた。
「そりゃそうさ。いつかはどのゲームも終わる。
――でもね、それまでに何分かは手を動かさなきゃならないし、
勝とうが負けようが、色んな事を考えながら20分間本気で対戦をするのは、
何も考えずに2時間ばかり歩き続けるよりかずっと疲れる。
そうだろ?」
363 :
ゲームセンター名無し:2006/04/05(水) 20:49:09 ID:JV0E8o0+
ON
僕は、店の片隅でスパイクアウトを見ている羊男に声をかけた。
羊男は「やあ、元気たった?」
僕は、問題の事を行き成り話しかけた。
「どうしたら、いるかホテルに行けるのだい?」
羊男は「八王子にあるじゃない」
「そんな事は分かっている」
そんな事は分かっているんだ。僕が聞きたいのは、そんな事では無いのだ…
そう、そこから先に行ける事を聞いているのだ。
羊男は少し困った顔をして、タバコに火をつけて
「いるかホテルに行って耳にピアスをしている女性が知っているかも・・・」
と小声で言った。僕は電車で八王子に行った。
その午後にはとある新作ゲームが入っていた。
店の椅子はなぜか重いパイプ椅子で、
後に引くときにカツンという気持ちの良い音がした。
まるで手の届かない場所に置かれた景品のように、その音は僕の耳にずっと残っていた。
僕十六歳で、外は雨だった。
それは港町で、窓から吹く風はいつも海の匂いがした。
一日に何度かは汽笛が聞こえてきて、
僕たちは何度もそれを聞きながら、飽きるなんて知りもしないようにゲームをやり続けた。
例えそれが雨の日でも、
僕たちは濡れた空気と潮の感触と遠い笛の音に包まれたままレバーを動かし続けた。
僕が本当に気に入っていたのは、ゲームそのものより、ゲームのある風景だったのかもしれない。
――そんなふうに、今では思う。
僕等の前にはあの思春期特有のキラキラと光る鏡があり、
そこには仲間達とこの場所でゆっくりと時を削ってゆく僕の姿がくっきりと映し出されていた。
モニターは晴れた日の水面のように僕たちの心をそのままに映し、
コントロール・パネルは暗い夜に歩く地面のように、
当たり前に、それでも確かに僕たちに応えていてくれた。
僕がその限られた世界を飲み干そうとするとき、
落ちてゆくコインの音はたしかに僕たちを祝福していた。
それはまた、ある場所から少年が巣立ってゆくための密やかな儀式でもある。
――ほら、レバーを軽くにぎって、肩の力抜いて、自然にして…よし、じゃあ、ラウンドワン…。
そんな瞬間を繰り返しながら、誰もがやがてここを、素敵な一枚の絵として自分の中にしまい込んでゆく。
時に人生は1枚のコインがもたらす時間の結晶、
と、あの街を離れてから何となく立ち寄ったどこかの街の店の壁に誰かが書いていた。
ゲーセンの中で読んだ文章の中でも、僕はこれが一番気に入っている。
僕はそのプレイヤーの目を今でもよく覚えている。
「君にはどうも才能があるようだな」と僕は言った。
「あら、こんなの簡単よ。才能でもなんでもないのよ。
要するにね、ここでレバーを動かさなきゃならないと思い込むんじゃなくて、
ここでやれることはほとんどないって事を忘れればいいのよ。
それだけ。」
「まるで禅だね」
僕はそれで彼女とリングぎわが気に入った。
相手がキャラを選び終え、
その選択は周囲のギャラリーすら巻き込んで辺りを青く失望に染め上げた。
最近このゲームをはじめたあの高校生だけが、
不思議そうに少し周りを見回してから僕のモニターをのぞきこんできていた。
もうすぐ――画面上に刻まれた時間が10減るころには――おそらく彼も全てを理解することになるだろう。
よりにもよって、今僕は重量級のキャラを使っているのだ。
「守りをもっと堅くして、何とかして相手の隙を見つけるんだ。
絶対に油断するんじゃないぞ。」
気を抜くと6割持っていかれる」
そう、僕は自分に言い聞かした。
――長い、あるいは呆れるほどに短い数分間が始まろうとしていた。
「そのゲームで、今でも勝ててる?」
「いや、ここ最近は勝ててないね」、僕は言葉を選んで答えた。
「どうして?どうしてもう勝てないの?」
「最近はあまりこのゲームをやってなかったからね」
――もちろん理由はそれだけではなかったが、ほかに説明の仕様もなかった。
僕が学生の頃通っていた店では誰も携帯電話なんて持っていなかった。
財布の中にテレフォンカード一枚入っていたかどうかだってあやしいものだ。
店員のいるカウンターの上には花が入っているのなんて見たことも無い花瓶が一つあり、
その隣にはピンク電話がひとつ置かれていた。
それがその店にあった唯一の電話機であり、
回すたびに「5」の場所でリングが少し引っかかった事を覚えている。
もちろん僕も何度かその電話を使った。
相手は良く覚えていないけれど、家とか友達とか、一度だけ学校にかけた事もあった。
たしかゲームをしていたら友達が店に入ってきて、学校で先生がお前を探していると教えてくれたのだ。
結局なんの用事だったのかなんて覚えてはいないけれど、
結局は忘れてもいいような内容だったという事だけなのかもしれない。
――そういえばあの店で最後に電話をかけた相手はだれだったんだろうな。
ときどき街中でディスプレイとして置かれているピンク色の電話を見るたびに、そんなことを考えてみたりする。
平和な時代の平和な時間。
僕にとってはそれが、あの店のピンク電話だったのかも知れない。
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/, / /_/| へ \
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/ ∧_二つ ( / ∪ , / \_______
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/ /~\ \ > ) ) ./ ∧_二∃ ( ´Д` ) <
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/ ノ / / / / / ._/ /~ ̄ ̄/ / / ∧つ
/ / . / ./. / / / )⌒ _ ノ / ./ / \ (゚д゚) ツウホウシマスタ
/ ./ ( ヽ、 ( ヽ ヽ | / ( ヽ、 / /⌒> ) ゚( )−
( _) \__つ \__つ).し \__つ (_) \_つ / >
三十分ばかり時間があったので友人は一人で格闘ゲームを始めた。
僕は休憩所に残ってコカ・コーラを飲みながら、店備え付けのムックの読みかけていたページを開いた。
――五分間ばかりあまり使わないキャラのコンボを覚えようとしてから、あきらめて本を元の場所に戻す。
頭には何も入らなかった。
僕の頭の中には黄色い少し形のかけた円状のキャラクターがいて、
僕がそこに放り込む活字をカタカタと音を立てながら片っぱしから食べていった。
僕は目を閉じてため息をついた。
通り過ぎてゆく時間だけが僕を覗き込みながら笑い声をたてていた。
――やれやれ。
大学をさぼることでまだ誰かに罪悪感を感じる程度には、僕はまだこの生活には慣れていないらしかった。
アーケード・ゲームには優れた点が二つある。
まずテレビ・コマーシャルが流れないことと、
それから壊れても誰の責任にもならないことだ。
放っておいても来る人は来るし、そして機械は壊れる。
そういうものだ。
良スレ発見
保守age
377 :
ゲームセンター名無し:2006/06/04(日) 21:16:25 ID:tKqYlsH+
二度目の正直
梅雨の休日の、雨上がりの夕刻。
…ゲームセンターは広い場所だ。
どこまで行ってもそんな通路と、そんな空気と、そんな時間が広がっている。
ときどき「いったい僕は何だってこんな時にこんな場所にいるのだろうか?」
と思ってしまうことがある。
――たぶん、退屈のかたちを、にび色の空かコインに溶かしたかっただけなのだろう。
勝ちたいと思う時にはきまってポケットにコインは入っていない
――そういうものだ
380 :
ゲームセンター名無し:2006/06/14(水) 05:34:08 ID:ks1WS/9N
昔、何度でもコンテニューする女の子がいた。
381 :
ゲームセンター名無し:2006/06/14(水) 06:43:47 ID:R8Sl6m0B
とにかく、何度でもコンティニューしちゃう女の子だったのね?
「むずかしいコンボだよ。二ヶ月じゃできないかもしれない。
なにしろこの広大な世界でも数人しかできない永久パターンをやろうっていうんだから」
その少年は何も言わずにじっと僕の顔を見た。
彼にじっと見つめられると、どうも自分が故障した筐体のレバーにでもなった気がした。
僕自身は何も間違っていなくても、どうしようもない何かのせいで追い詰められているような、そんな気分だ。
彼はたっぷり三十秒まばたきもひとつせずに僕の顔を見ていた。
それからゆっくり口を開いた。
「だからやるんです」と彼は言った。
まだ開けていない缶ジュースをゴミ箱に放り込むような口調だった。
なるほど、たしかに、コンボというのはそういうものなのかもしれない。
外は奇妙に暖かく、空はあいかわらずどんよりと曇っていた。
湿ったクーラーの音が、今年もこの店にひびき始めていた。
いつもと同じ、夏の始まりだ。
かすかな春の匂いとやがて来る雨の予感がいりまじっている。
もうどこにも行けない夢の残り香が夜の街の闇の中でかがやく、そんな季節だ。
店の裏にある草むらからは虫の声が鳴り響いていた。
雨は、今にも降り出しそうだった。
「いま君のちょうど目の前にあるその椅子だよ」と店員は言った。
「そこに座ったまま、まるまる2時間同じ姿勢で点数を稼ぎ続けたんだ」
僕は自分の座っている椅子のへこみを眺め、それから「9」の並んだモニターを見上げた。
そのまま何秒か目を閉じて、僕はポケットから一枚の硬貨を取り出した。
今は、なんとなくこのゲームに触れていたい気分だった。
六月の終わりの夜にしては異常なほどの外の寒さにも関わらず、
右手に見えるカウンターに置かれたアジサイの花はまるで写真の中のようにきれいに咲き続けている。
――ひょっとしたらこの場所で咲いてゆくことに、何か意味を見つけられたのかもしれない。
385 :
ゲームセンター名無し:2006/06/26(月) 23:44:35 ID:sskHMDBj
村上って誰?
4面ボス撃破後のリザルト画面。
――彼方に、エンディングが見えてくる。
クリアまでは残り3面。次の中ボスまでは1分30秒といったところだ。
1面から2面へ、時間を削るためにレバーを動かしてゆくにつれて、ゲームは何かしらもの哀しくなってゆく。
たぶん、ゲーム・メーカーが本当に作ろうとした何かに近づいてゆけるからだろう。
新作が入る朝には、祝杯の代わりに幾枚かの硬貨をささげる。
明日に去るゲームを前にするとき、言葉の代わりに1枚の硬貨を手向ける。
――それがゲームセンターである。
基板には基板に、そして店には店に、
そんなささやかな歴史は、確かにそこに存在しているのだ。
[「目をつぶって音を聞いただけでも、それがどの年のものなのか
ちゃんと正確に言い当てられるんでしょうね?」と僕は
――そんなこと聞くだけ野暮と知りつつもやはり念のために――
質問してみた。
「当然だ」と、そのKOFプレイヤーは無表情に答えた。
「当然だ」と。
基本的に僕は一人で店の前に自転車を止め、一人で店での時間を過ごし、
そして一人で夕焼けの道を口笛でも吹きながら帰った。
何人かで行くこともないではなかったが、一人で行くほうがずっと好きだった。
ゲームセンターとは一人で行くべき場所である気がした。
理由なんてわからない。
ただシューティング・ゲームは誰かを待たせた中でやるゲームではないと、
高校生の僕は思ってたのだと思う。
窓ガラスの外では隣の店の軒下に飾られた風鈴と、
どこからか飛んで来たビニール袋が風に揺れつづけている。
近くの学校の学生が自転車に乗って走り去っていく。
街中にあふれる片影が道にまだらを添えて、その反対側では飛行機が緩やかに飛んでいく。
今は2006年の夏で、僕は22歳である。
ゲームセンター、
そのやり慣れたゲームに触れる時間の上で、いつまでも僕はぼんやりしている。
「あたしに2Pをくれないかな」とジェイが言った。「あんたは好きなキャラを使えばいい。」
鼠は立ち上がって両替機の方に向かい、硬貨と何かとを交換した。
「カードは?」とジェイが訊ねる。
「いや、今日は気楽にやろう。」と鼠は言った。
僕は三十七歳で、そのとき三国志大戦のシートに座っていた。
于吉仙人の冷ややかな雨が戦場を暗く染め、雨衣を着た武将たちや、
閑散とした城壁の上に立った旗や、生い茂った森やそんな何もかもを
フランドル派の陰うつな絵の背景のように見せていた。
やれやれ、また落雷か、と僕は思った。
.
395 :
ゲームセンター名無し:2006/08/20(日) 14:03:14 ID:ipqmTlRJ
テント気持ちを合わせるのじゃ!
かつて誰もがクールに勝ちたいと考える時代があった。
高校も1年が過ぎた頃、僕は勝利の喜びを二割しか顔に出すまいと決心した。
理由は単純だし語るまでもないと思うが、その思い付きを僕は高校卒業まで実行した。
そしてある日僕は自分が、手にした勝利の二割しか喜べない人間になっている事を発見した。
けっきょくそれがクールさとどう関係していたのかは、今でも僕にはわからない。
しかし年じゅう勝とうが負けようが表情も変えずに両替し続ける人間をクールと呼び得るなら、
――100パーセント僕だってそうだった。
夕方になって日が翳り始める頃、僕は店を出て、自転車にまたがり家へと帰った。
―― 一度店を出た後、あの場所を振り返ったことは何度あったんだろうか?
振り返った事なんてなければいいと、今の僕はそう考えている。
何故仁義ストームが稼動することになったのかは誰にもわからない。
つくり手たち自身にわかっていたのかどうかさえ怪しいものだ、と僕は思う。
398 :
ゲームセンター名無し:2006/09/14(木) 05:45:04 ID:kQPpSdTf
age
「モニタがまだ濡れているのよ」と女店員は言った。「よく雑巾で拭かなかったの。だからまだ濡れてるの。
温かくてしっとりと濡れているの。すごくやわらかいタッチよ。まっ透明で、やわらかいの。撫でてみて。」
「ねえ、悪いけど――」
「その下もすっとあたたかいのよ。まるでGGXX大会の時の会場みたいなね。本当よ。私いまどんな清掃をしていると思う?
右肘を立てて、左足を横に開いているのよ。ゼビウスで言うとアンドアジェネシスくらい。」
声の調子から彼女がうそをついていないことはわかった。彼女は本当に両腕をアルゴの角度に開き、筐体をあたたかく湿らせていたのだ。
. . .
「レバーを撫でて、ゆっくりとね。第一関節でゆっくりと撫でるの。そう、すごくゆっくりとよ。そしてもう片方の手で右のボタンをやさしくいじって。
2Pの方からやさしく撫で上げて、ボタンをちょっとつまむの。それを何度も繰り返して。ハイスコアにイキそうになるまでね。」
僕は何も言わずに2階に行った。
「私は腕がもぎ取れるぐらい一生懸命かわし続けたのよ。
とても辛くて死ぬかと思ったわ。
それでね、何度もこんな風に考えたわ。私が間違ってて貴方が正しいのかもしれないってね。
私がこんなに苦しんでるのに、なぜ貴方は何もせずに画面の『そこ』でじっとして生きてるんだろうって、ね」
彼女はそう言うと少しだけ手の動きをゆるくして、あいかわらず憂鬱そうにモニターを眺めていた。
鼠はレバーから手を離し、彼女の横顔を見た。
自分があと6秒は絶対に死なないことはわかっていた。
「僕が死ねばいいと思った?」
「少しね」
「本当に少し?」
「・・・忘れたわ」
二人はしばらくだまった。
――そこにいると、多分次のは避けられないよ
そう言い出せないまま鼠は、次の12秒のために自機を移動させ始めた。
保守すべきものと、保守すべきでないもの
402 :
ゲームセンター名無し:2006/10/21(土) 18:33:20 ID:PFPOhnjJ
僕はテーブルの向い側に座り、指先で目を押さえる。
鮮やかな太陽の光がテーブルを区切っていた。
僕は光りの中に、彼女は淡い影の中にいた。
影には色がなかった。
テーブルの上には枯れてしまったゼラニウムの鉢植えが載っていた。
窓の外では誰かが道路に水を撒いていた。
アスファルト道路に水を撒く音がして、アスファルト道路に水を撒く匂いがした。
「ストIIIでもやらないか?」
やはり返事はない。
僕は返事がないことを確認してから立ち上がって棚から二人分のジョイスティックを取り出し、PS2をつけた。
そしてゲームが起動してから本当はポップンミュージックがプレイしたかったことに気づいた。
僕はいつも後になってから色んなことを思い出す。
僕はもう考えるのをやめた。
ポケットの残りのコインを数えるのもやめた。
両替機に向かうことすらやめるために、手持ちの札を全て小銭に変えた。
まるで乱入し続けてきた相手がはたと入って来なくなった時のように、一瞬どうしてか悲しくなった。
それから長い沈黙がやってきた。
一枚一枚と銀色の貨幣を入れていくその後にいったい何が残るのか、僕にはわからない。
――誇り?このゲームにそんなものは必要ない。
…僕は数多のプライズを目の前にしてふと自分の手を見つめる。
おそらく、エンディングもなしに人はゲームをやり続けてはいけないのだ。
それでもUFOキャッチャーにエンディングはあるのだろうか?
たとえ目の前にあるプライズを全て取りつくしても、もう明日には何も無かったかのように元に戻っている。
体中のポケットを探して一枚のコインも残っていないことを確認して、僕は店から出た。
左手に下げたビニール袋がカサリ、と音を立てる。
――これも立派なエンディングじゃないのか?
街灯を見上げながら、そう考えてみる。
わかっている、これも立派な「終わり」の一つさ――
わかっている、でもそれだけでは暗すぎる。
本当に、あまりにも暗すぎる。
「もうそんな季節なのよね。」緑は目を窓の外に向けて言った。
外では街路樹が紅い姿を取り戻しはじめ、どこかしら薄い肌寒さが町を包んでいた。
「まだ、はやいんじゃないかな?」コーヒーを飲みながら僕は言った。
「そんなことはないわ。少し前は夏に発表されてたんだもの。
何も無かった今年で稼動が年をこしたら、いくら多分やらないって言ったって気分も落ち込むわ」
保守すべきものと、保守すべきでないもの
階段をのぼり店を出ると、もう夜から秋の匂いは消えていた。
街路樹の一つ一つに拳で軽く触れながら鼠は駐車場まで歩き、
煙草一本分の時間をみなれた街の風景に溶かしてからゆっくりと車に乗り込んだ。
――少し迷ってから店の前の通りに車を向かわせ、買いなれた自販機から飲みなれたコーヒーを買う。
どうしてか、ひどく寂しかった。
冬が来たのかもしれない、と思う。
さっきから人も車もなにもかもが動かずに、見渡す限りの建物からは明かりすらが消えている。
冬が来るのは、いつだってこんな夜だ。
となりに誰もいない、知り合いも電話に出ない、街行く人の姿もないこんな夜に、冬はやってくる。
やってきては勝手に留まり、なれた頃にまた去ってゆく。
――なにを寂しがる?似たような物にあふれた場所に、お前は通っているんじゃないか…。
ひどく寂しかった。
まだぬくもりの残るコーヒーを一気に飲む。
――それでもひどく、寂しかった。
「少し無茶をしてみてもいいかい?」
「いいとも」友人は表情を変えずに言った。
100枚単位でベットしたのはこれが初めてだった。
数枚だけを残してプラスティックのケースが空になり、画面の中の数字だけが跳ね上がる。
長い年月の内にメダルにしみこんだ匂いだけが僕の周りの空気の中に漂っていた。
ある日、突如として、本当に唐突に、まるでオーロラが掻き消えるように。
僕はゲームをやらなくなった、正確に言えばゲームがつまらなくなった。
あれほどまで没頭し、突撃指令を繰り返す壊れた伝声管に命令された哀れな兵士のように、
僕は僕の戦場、けたたましく騒ぎ立てる僕のバトルフィールドで生還と撃破を一心不乱に繰り返していたのに。
突然飽きてしまった。
まるで門限を過ぎて家の外に放り出された悪がきの気分だった。
繰り返されるアルゴリズム、パターナリズム、メタフィクショナルな遊戯、戯言、戯曲。
「僕は今まで何をしていたんだ。」
僕はコートのポケットからくしゃくしゃになったソフトケースのマルボーロを探し当て、
いくぶん億劫に火をつけた。
あの頃から僕の周りは目まぐるしいほどに変わっているはずだった。
今の僕にはそれを確かめることすら出来なかった。
409 :
ゲームセンター名無し:2006/12/11(月) 07:58:28 ID:SjT1wf5x
名作だなあ
ショー疾風のように。ブーメラン、ブーメラン。
対戦ゲームが物凄く強い少年がいる、と風の噂で聞いた。
相手の体力ゲージを残りわずかにしてそのまま去っていくらしい。
僕はその少年を見つけ話しかけた。
「対戦しない?」 「・・・いいよ」
彼は猫背で痩せていた、そして恐ろしくつまらなそうな顔をしていた。
まるで明日死ぬことがわかっている年寄りの猫のようだった。
やがて2枚のコインが機械に滑り落ちていき、静かにゲームが始まった。
それほど強くない、と僕は思った。
途中で作り方を忘れてしまった料理の目の前にいるように
釈然としないまま釈然としない時間が過ぎた。
彼が口を開いた。
「ねえ・・・今何考えてる?」 「キミをどうやって倒すかを」
「ふうん・・・建設的だね」 「?」
「ゲームってさ。建設的じゃないんだ。あとに何も残らない。
でも勝つのが目的だから色々考えるよね。
つまり建設的じゃないことをむりやり建設的にやってるの」
僕の操るキャラの動きがひどく鈍くなった気がした。
「だからただのムダなんだ、究極的に言うと。
チューブアイスの端っこの所とか
横断歩道沿いの歩道橋みたいに
ただのムダなんだよ」
僕のキャラの体力バーが少なくなっていく
「要するに今入れたこのコインは
不味い缶コーヒーを買う為に使われたほうが
まだ有意義だったってことさ」
彼のキャラの動きが止まった。
僕のキャラの体力バーはもうほとんどない。
そして僕のキャラの動きが止まった。
きっと彼はもう席を立ってどこかに行ってしまっているだろう。
ここに残されているのは彼のキャラと僕のキャラと僕だけだ。
2人は無表情にファイティングポーズをとり続け
1人は途方にくれながらがめんを見続けていた
残り時間の表示だけが律儀に動いている
56、55、54・・・
「この5人は何だか少し似ているな」
僕はそうつぶやくと
コインを不味い缶コーヒーに換える為に席を立った。
多かれ少なかれ、誰もがゲームセンターの変質に従って動き始めていた。
あるいは、ゲームセンター、という場所における格闘ゲームの存在について。
うん、ageよう
415 :
ゲームセンター名無し:2007/02/02(金) 06:03:40 ID:EtsW2WHo0
キャラクターと背景と体力ゲージと残り時間と通常攻撃と必殺技と投げ技、
それが我々の全財産だった。
特別な技のためのゲージもなければ残りのガードを示すアイコンもなかった。
hit combo!という表示も明瞭な発音のボイスも、何一つなかった。
我々はそれくらいシンプルだった。
だからゲームの基本を理解するのに5分もかからなかった。
何も無いならないで、全てはすごく単純だ。
外に出るともう夜は終わっていた。
晩冬の闇だから、そんなには明るくはない。
上を見上げるとそれでも微かに星が光っている。
駐車場の車はその数を大分に減らし、それでも何台かは屋根の下に持ち主を待っていた。
僕は雨上がりの道を向かい道のコンビニまで歩き、コーヒーを一本買った。
明かりに照らされながら、僕は24Hのゲームセンターというものを初めてつくった人物について考えてみる。
何故だか、本当に何故だかその昔対戦が馬鹿みたいに当たり前だった時間を思い出した。
本当にそれは、馬鹿みたいに当たり前だったのだ。
筐体的雪かきage
419 :
ゲームセンター名無し:2007/04/10(火) 00:39:54 ID:i4PtjYFz0
rrrrrr
「そうなんだ。頭であれこれと考えちゃいけない。能書きもいらない。料金も関係ない。
多くの人はタイトルの後の数字が大きいほど、ゲームは面白いと考えがちだ。
でもそんなことはない。
年月が得るものもあり、年月が失うものもある。
技術が加えるものもあり、また引くものもある。
・・・それはただ個性の違いに過ぎない」
店員はそこではじめてうつむきがちに少し笑った。
そしてひどく機械的な動作で、その筐体の電源を落とした。
僕はテトリスがそのしっぽの先まで好きだ。
テトリスの美点はそのシンプルさとまじめさの中にある。
もちろん欠点もその中にある。
でも、そんななにもかもをひっくるめて、僕はテトリスというゲームが好きである。
かつて誰もがクールにCGを作りたいと考える時代があった。
とあるCG会社に入社した頃、僕は実力の半分しか仕事に反映させまいと決心した。
理由は忘れたがその思いつきを、何年かにわたって僕は実行した。
そしてある日、僕は自分は実力の半分しか仕事のできない人間になっていることを発見した。
結局それがクールさとどう関係しているのかは僕にはわからない。
しかし年じゅうアクティベートし直さないといけない3ds maxをクールと呼び得るなら、僕だってそうだ。
423 :
422:2007/05/19(土) 00:11:33 ID:2qbeZ7fR0
誤爆することもある。
424 :
ゲームセンター名無し:2007/05/22(火) 17:43:42 ID:rKY9gfVgO
キタ━━(゚∀゚)━━!!
なんですか?この恥垢臭漂うオナニースレは
426 :
ゲームセンター名無し:2007/05/28(月) 06:05:29 ID:NlZsKlz5O
(〇>_<)
427 :
ゲームセンター名無し:2007/05/29(火) 06:14:35 ID:y/frFn6V0
完璧なスレなんて存在しないんだ。完璧な人間が存在しないようにね
428 :
ゲームセンター名無し:2007/06/02(土) 16:01:02 ID:sEVB+iIXO
キタ━━(゚∀゚)━━!!
429 :
ゲームセンター名無し:2007/06/07(木) 10:57:23 ID:YT5eKLMPO
キタ━━(゚∀゚)━━!!
椅子は僕を待っていた。
僕は鞄を筐体の傍におき、火の付いた煙草をくわえたままゲームを始めた。
そしてゲージも使わずに敵を倒しながら、ぼんやりとゲームを進めていった。
ふと、僕のそばを何かが彷徨い、そして消えた。
僕にはもう触れることも呼び戻す事もできぬ影だった。
431 :
ゲームセンター名無し:2007/06/13(水) 08:54:26 ID:m2klrLetO
(´,_ゝ`)プッ
自意識過剰な音ゲ厨
一気に変なのが沸いたな。板の民度が下がってるってことか。
と、民度の低い変な人が申しております。
どうでもいいけどこのスレは荒らすなよ。
たまに見に来るのが楽しいんだから。
436 :
ゲームセンター名無し:2007/06/16(土) 00:14:48 ID:11ikLQCV0
韓国人の、一生は過酷だ。
子供のころは親に殴られて 学生のころは先生に殴られて
軍隊では上官に殴られて 会社では上司に殴られて
人間性を失って 大人になれば
女・子供・老人に暴力を振るう人間にならなければいけない
韓国人として生きるのは恐ろしい・・・(´▽`)
アメリカ人を見たら「帰れよ」と叫び 日本人を見たら「勝ったぞ」と叫び
中国人を見たら土下座して 北朝鮮人を見たら信用しなければいけない
でも現実には一人ぼっちで 信頼できる友達も居ない
足りないものは沢山あるのに それでも「わが国、万歳」と嘘を叫んで
叫ばないと売国奴と言われて殴られる
韓国人として生きるのは寂しい・・・(´▽`)
室内運動場も水泳場も無い学校で 刑務所のような給食の学校で
馬鹿みたいに長い時間勉強を強制され それでも世界やアジアで評価の低い韓国の大学
安全とは無縁のものを食べて 生きている虫が入っているものを食べて
OECD最低の賃金で OECD最悪の労働時間で
とても短い平均寿命で 幸せな老後なんか無くて
それでも「わが国は世界一」と叫んで 叫び声が小さいと売国奴と言われて殴られる
韓国人として生きるのは悲しい・・・(´▽`)
あとワンゲームしたかったが、コインはもう無かった。
僕と彼女でいつの間にかすっかり使い切っていたのだ。
『私に何か出来る事あるかしら?』
僕は首を振り、煙草を空き缶の縁で揉み消すと、
彼女の虚ろな目を真っ直ぐ覗き込みながら言った
。『この負けに関しては、何一つとして君のせいじゃない』
ageてみるべき季節だった。
このスレまだあったんだ
あいかわらずくっさいスレですね^^
やれやれ・・・。
やれやれ(笑)
君のせいじゃない(笑)