「あーくそ、とんでもねぇ目に遭ったぜ!」
何の脈絡も無く、突如自分に蟷螂拳を叩き込みだしたリオンを、とりあえず半殺しにして彼のパートナーに返却しておいたシェン・ウー。
さておき、自分もパートナーを探さないといけない。
どうせ組むなら……
「強そうな奴、だな」
三度の飯より強い奴との勝負。シェンはそんな男だ。
見所のありそうな奴には、今のうちに目を付けておこう。
それで、二回戦の間に隣でじっくり実力を見極めさせてもらう。楽しめそうな奴ならこの大会中、もしくは終わった後にでも、ガチンコ勝負を挑ませてもらおう。
無論、実力の高い者と組めば、勝ち進める可能性が高くなるとの打算もある。
さてさて、こっちに強い奴がいそうな気がする。
格闘家の本能に任せて歩を進めるシェン。
数人、なかなかの手練と思われる人物とすれ違った。だが、それらよりもまだ強い奴がいそうな気がする。
そうして進むうち、女二人・男一人の三人組が何やら談話しているのが視界に入った。
「本当に一回戦のあれは災難だったぜ……犯人にはお仕置きしてやらないとなぁ?ん、何か顔が青くないかメイ?」
「え、えへへ、そ……そんな事ないよジョニー?犯人見つかるといいねー、ねーディズィー。あははは……」
「そ、そうだね!あはは……」
ほう、メイとか呼ばれた女の子は、小さいくせに馬鹿デカい錨を平気で担いでやがる。
ジョニーと言うらしい黒コートの男は、見るからに鍛え抜かれた身体だ。
わくわくしながら、シェンは内心で彼女たちを評する。
しかし、彼の闘争本能が最も強く惹かれたのは、ディズィーという少女だった。
何故か翼と尻尾があるが、それ以外は普通の華奢な少女にしか見えない。どう見ても弱そうなのだが……。
(ま、実際組んでみりゃあわかるだろ)
強い奴を見る目、というか嗅ぎ分ける嗅覚には自信がある。
シェンは彼女にタッグを持ちかける事にした。
「それよりもタッグだよ!何でジョニーと一緒に組んじゃいけないのよー!」
「私、ラスボスだった事があるから……組んではいけない人がいるのね」
「ディズィー、知らない人とでも一緒にやっていけるな?……っと、アンタ、俺たちに何か用かな?」
ジョニーが、軽く片手をあげながら近付いてきたシェンに問いかける。
「よう、アンタたちフリーかい?俺はシェン・ウーってモンだが、パートナーを探している」
どう見てもチンピラなシェンに、メイとディズィーは多少警戒気味だ。
ジョニーもこの手の暑苦しそうな人物は好まないのだが、だからと言って邪険に追い返したりはしない。
「ああ、三人ともまだ相手は決まってないが。アンタ、俺らの誰かと組もうって気か?」
「おう。……そっちの羽生えた嬢ちゃん。俺と組んでくれや」
まさか自分が指名されるとは思いもしなかったディズィーは、一瞬呆気に取られ、次いで慌てふためいた。
「え……ええ!?わ、私ですか!?」
慌てたのはメイも一緒だ。
「だ、駄目だよディズィー!こんな怖そうなおじさんと組んじゃ駄目!!きっとディズィーが可愛いからあんな事やこんな事やそんな事する気なんだぁー!」
「お、おい失礼なガキだな!俺はこんな純情そうな嬢ちゃん食っちまうほど飢えてねぇぞ!」
ディズィーを守るように彼女とシェンの間に割って入ってまくしたてるメイに、流石にシェンも反駁する。
こらこらいくらなんでも失礼だ、メイの頭を押さえるジョニー。
「特に下心が無いってんなら、何でこの子って決めてるんだい?」
三人の代表としてシェンに問う。
ニィッ、とシェンは楽しげに笑って答えた。
「こいつ、アンタたちの中で一番強いだろ」
彼のその言葉に、三人ともハッとしたような表情になる。
ディズィーの秘められた強さに気付くとは、ただのチンピラではない……ジョニーはシェンの評価を改めた。
「興味津々なのさ、こんな大人しそうな嬢ちゃんがどんな戦い方すんのか。俺は強い奴と戦うのが大好きでね、嬢ちゃんが楽しめそうな相手か、二回戦の間見極めてぇのよ」
シェンの台詞に、ディズィーの表情が曇った。彼女は、人を傷つけるのを大変に嫌うのだ。
「ごめんなさい……私、戦うのは嫌いなの……」
「あんだぁ?強いのに、戦うの嫌だってのか?」
悪気は無いのだがどうにもガラの悪いシェンの態度に、思わずディズィーは怯む。
が、それでも彼女は必死に言葉を返した。
「わ、私、望んで強くなったわけじゃない……誰かを傷つけるのは嫌なんです、私と戦えば、貴方もただでは済みませんよ」
俺をただでは済まないとこまで追い詰めるくらい強いってんなら、それこそ是非戦ってみたいんだが。
そう思ったが、シェンは無理強いする気は無かった。
何と言ってもわくわくゾクゾクする楽しい戦いがしたいのだ。嫌々戦われても、面白くない。
「そうかい。諦めるとするよ」
シェンが引き下がってくれた事に、ディズィーだけでなく、ジョニーとメイも安堵した。
「んじゃそっちの黒い兄さんよぉ、アンタが組んでくれ」
「……何だと!?」
いきなり矛先を変えられ、ジョニーは面食らった。
「アンタもかなり強そうだ、その刀で戦うのかい?拳だけでも結構いけそうだが――」
「待て待て待て!悪いが俺はアンタみたいなムサい男と組むのは御免だぜ?」
必死に断るジョニー。メイも、「そうよジョニーにはボクがいるもん!」などと反論し……知人同士は組んではいけない、というルールを思い出してへこんだ。
「贅沢ぬかしてんなよ。他の連中、どんどんタッグ組んでるんだぜ?早くしねぇと余るぞ」
「嫌だね。俺は、パートナーにするならビューティフルでグラマラスでクレバーなレィディ、と決めているんだ」
その少々豪華すぎる注文を聞いた瞬間、シェンではなくメイが、思いっきり反応した。
――他の女を、ジョニーと組ませてたまるかーーーっ!!!
「おじさん!ジョニーと組んで!」
突然詰め寄ってきたメイに、シェンは面食らう。
ジョニーも「何を言い出すんだ!?」と混乱気味だ。
「や、そりゃそうしたいけど、どうしたのよお前?」
「そ、そうだぞメイ、俺が何でこいつと組まなければならないんだ!」
「うるさいジョニーの馬鹿馬鹿馬鹿ぁ!浮気者ぉ!おじさんっ、ジョニーの足引っ張ったら許さないからねー!!!!」
大騒ぎしながらジョニーをシェンの方へと突き飛ばし、メイはやけっぱちのように錨を振り回しながら走り去ってしまった。
不幸なことに数人八つ当たりに巻き込まれた人物がいたらしく、彼女の去った方から悲鳴がいくつかこだましてきた。
ディズィーも慌ててメイを追って行ってしまい、その場にはジョニーとシェンだけが残された。
唐突な展開に、互いに顔を見合わせる。
はあ、と大げさな溜め息をついて、ジョニーは仕方ない、とシェンに手を差し出した。
「うちのお姫様には困ったもんだ……ここで言うとおりにしとかないと、ますます拗ねそうだな」
「何か知らねぇが大変そうだな。まあ、よろしく頼むぜ」
苦笑しつつ、シェンはその手を軽くはたいた。
とにもかくにも、タッグ完成。
さあ勝ち残ろう。この大会に長くいられれば、それだけ他の強い奴との遭遇の可能性も上がる。
「ゾクゾクするねぇ……」
不敵に笑い、シェンはジョニーと共に受付へと向かった。
【シェン・ウー ジョニー チーム結成 チーム名:S&J】
【メイ フリー チーム条件:ジョニーじゃないなら誰だって同じよぉぉぉっ!】
【ディズィー フリー チーム条件:優しい人がいいな……】