「紹介しますわお父さま、こちらがわたくしのパートナーになってくださった風間葉月さん」
「うむ、はじめましてミス葉月。一回戦はローズと一緒に突破されたそうだが、
私の不肖の娘がなにかご迷惑などおかけしませんでしたかな?」
「いえ、迷惑なんてとんでもないです。右も左も解らなくて途方にくれてた私に、ローズさんが
『一緒に行こう』って声をかけてくれて…一回戦を突破できたのも、ローズさんのおかげです」
そろそろ結成済みタッグも増えてきてパートナーの競争率も高くなってきたころ、
ルガール・ローズ父娘と風間葉月はそんな大勢とは関係のない自己紹介を交わしていた。
「もう、お父さま!ローズは迷惑なんかかけませんわ。まるでお兄さまみたいな言い方をなさって…」
その言葉を聞くと、ルガールは不敵な笑みを浮かべ、赤い右義眼を煌々と輝かせた。
「そういえばユリアンはアーデルハイドと組んだそうだな。…ふん、小物の考えそうなことだ。
大方私への意趣返しのつもりだろうが、果たして小物にヤツが御せるかな?」
ローズもまた、赤く染まった両の眼を細めて邪悪に微笑む。
「まったくですわね。ふふ、でもあんな小物でも実力だけはそれなりですから、
きっと自分のためと勘違いしたまま兄のために働いてくれることでしょう」
「イグニスは三島平八の養子と組んだようだ。いやいや全く、類は共を呼ぶということかな。
ローズもあの二人から美容と若さの秘訣でも聞いてきたらどうだ?」
「いやですわお父さまったら!あんな金にモノを言わせた不自然な若作りなんて頼まれたって御免です。
あら、そういえば、えーとバイソン将軍、でしたかしら。あの方は矢吹真吾と組んだそうですけど、
どうしてあんなただの学生なんかと組んだのでしょう?」
「バイソン?ああ、ベガの事か。…くくく、あの男はな、本来なら組織の長などという器ではないのだよ。
サイコパワーで洗脳したか、自分の遺伝子を用いた改造兵士か、でなければ馬鹿者しか扱えん低脳だ。
だというのに組織を作り部下に頼りその頂点に自分を置きたがる、なんとも救いようのない男だな!」
「まあ、そうでしたの。そんな下らない男と組まされたなんて矢吹真吾もお気の毒だわ。
とは言っても下らないのは矢吹真吾も同じですから、お似合いかも知れませんわね?アハハッ!」
「それは違いない話だ!ハァッハッハッハ!」
他の参加者をこきおろして怪しく笑う礼装の紳士と、それを受けて妖しく笑うドレスの少女。
(ローズさんって、お父さんとも仲がいいんだなあ…)
そしてその怪奇で奇妙な気配に満ちた父娘の会話を、親子の団欒と認識して微笑む和装の少女であった。
少年のような短髪をオレンジに染めた袴の少女、睦月ヒカリは会場をさまよっていた。
情緒不安定の電波娘を演じる?ことで一回戦を破竹の勢いで突破した彼女だったが、
情緒不安定の電波娘と周囲が本気で信じ込んでしまい、誘っても誘ってもパートナーが出来ないのだ。
「おまえはオ〜レを信じなさい、それ信じなさい♪」
それでも彼女は対象年齢不明の歌を歌い、情緒不安定の電波娘のフリ?をまだしている。
なんというか、この大会中はこのキャラで通さざるを得ないような気がしてならないからだった。
「まさか二回戦がタッグ戦とは…これは何かの陰謀か!」
あと、自分でも少し楽しくなってきたらしかった。
ヒカリは考える。一体誰をパートナーにするべきか。
主催者のサタンだか佐藤だかから提示されたルールは、
「昔からの知り合い同士はダメ」「ボスキャラ同士はダメ」
の二点である。
昔からの知り合い…彼女の豹変振りからして、むしろ昔の知り合いほどドン引きしている可能性が高い。
なので禁止されるまでもなく、昔の知り合いと組むことは出来ないだろう。
ボスキャラ同士…ヒカリはボスキャラではない。つまりどのボスキャラとでも組めるということになる。
ならばここは是が非でも、心技体に優れ文武両道なボスキャラを味方につけるべきだろう。
「クッククク、ルールはこの私に味方しているようね」
どの点を拾ってそう結論したのかは解らないが、ヒカリは己の勝利を確信した。
「ってまずはボスキャラと組んでから確信しろっつーの!このオチャメさん!」
とっくにどこかに消えたアランの代わりに自分で自分に突っ込みを入れる。ドン引きの周囲の参加者。
「アラン…惜しい男を亡くしたわ」
もちろん死んでないし、アランがいても結局ドン引きされていただろうが。
父と娘とその友人の団欒の時間を終えたルガールは、ようやくパートナーを探すため歩き出した。
彼の求めるパートナーは、有能な秘書である。
彼はかつて、自分と敵対するオロチ一族の女をそれと知っていながら秘書として重用したり、
新しく雇った秘書を勝利ポーズ時に自慢げに見せびらかしたり、秘書に対して並々ならぬ情熱を捧げている。
何か秘書にコンプレックスでもあるのかも知れない。秘書が欲しくて今の地位を築いたのかも知れない。
なんにせよ彼は秘書を欲しがっていた。秘書でなければ自分のパートナーである資格はないと考えていた。
ユリアンが自分の息子と組もうが、ベガとイグニスが揃って若本則夫声でパートナーを自慢してこようが、
彼にとってはどうでもいいことだったので、ルガールは余裕の態度を崩さずにいられた。
彼の余裕にはもう一つ理由がある。実は彼はすでにパートナーの目星を付けていたのだ。
ルガールが狙っている秘書候補は二人。
一人は運動服姿の学生「委員長」、もう一人は袴を履いた少女「睦月カヤ」だ。
委員長は名前?の通りに気の回るタイプであり、カヤは仕事をそつなくこなせ志も高い。
できれば二人とも雇いたいくらいだが、委員長はすでに新撰組の格好をした参加者と組んでいるという。
だがルガールは焦らない。睦月カヤが現在フリーだということは確認済みである。
どうやら一回戦で行った金的攻撃のためになかなかパートナーが決まらないでいるらしい。
そこに自分が声をかければ、カヤも断ることはないだろう。
脳裏にベガ、イグニス、ユリアンの顔を思い浮かべ、そしてそれらをボロボロに引き裂く。
彼らと比べて目立っていないが、ルガールも彼ら同様に世界制覇を狙う野心家である。
「長く足踏みをしてきたが…今大会の優勝を持って世界制覇の足がかりとしよう!
ハァッハッハッハ!待っておれ、睦月カヤよ!」
内容も声量も壮大な独り言を言いながら、眠れる獅子は睦月カヤの名を呼んだ。
「…クスクスクス、聞いーちゃった聞いちゃった…くすくす笑うのって難しいな」
爪を隠す能ある鷹に、それを聞かれているとも知らずに。
タッグ登録の受付前にて、ついにルガールは探していた少女を発見した。
綺麗に切り揃えられた黒髪に袴姿。間違いない、この少女が睦月カヤだ。
ルガールは丁寧に、しかし威圧感も残したままに勧誘を開始した。
「やあお嬢さん、はじめまして。私はルガール・バーンシュタインというものだ。
二回戦のパートナーを探しているのだが、これがなかなか見つからなくてね。
見たところお嬢さんも似たような状況のようだが、よければ私と組んでいただけないかな?」
左目で笑みを作りながらも、空洞の右目で少女を睨みつけるルガール。
「ええ、実は私も困っていたところで…それでは、私からも是非お願いします」
少女は簡単に了解した。
どうだ見ろ、私の読みに間違いはないのだ。ルガールは心の中でライバルたちに勝利宣言を発した。
「おお!これは光栄です。では早速登録のほうを…」
そうして受付にて登録を済ませた二人。チーム名は「希望のヒカリ」。少女の強い要望によるものだ。
両眼を伏せて、こみ上げてくる笑いをかみ殺すルガール。求めていた最善の結果を得てまずは満足なようだ。
「希望」などという偽善的なチーム名は気に入らないが、それくらいの我侭は聞いてやってもいいだろう。
「これで晴れて私たちはパートナーになったということか。では改めて宜しく頼む、睦月…」
そして野心を隠したルガールが向けた視線の先には、
「へいガッテン!」
短髪をオレンジ色に染めた少女が、傲岸不遜な面構えで立っていた。
「……って誰だ貴様ァ――――――――――――――ッ!!!?」
今まで出したこともないような大声を出して、ルガールは驚愕した。
「天知る地知る人が知る…」
驚愕の声に応え、少女は粛々と語りだす。その右手には黒髪のカツラが握られている。
「私の名は睦月ヒカリ!間違いなく睦月だから安心おし、オメガさん」
「オメガ言うな!」
先ほどのルガールの壮大な独り言を立ち聞きしたヒカリは、どこからか調達したカツラでカヤに変装し、
見事ルガールを騙してタッグを組ませたのだった。
「貴様、確か睦月カヤの妹だったな。何のマネか知らんが私は貴様なんぞ…」
「シャラップ!ビィー・クワイェット!!」
強烈な殺気を伴ったルガールの抗議を、一喝のもとに静めるヒカリ。
「外国の方のために英語で言ってみました」
「いらん気遣いをするな!」
「あんさんがどういうツモリかは知りまへんが、わてかて本気どすえ」
「どこの方言だそれは!」
「細けえこと気にしてんじゃねえよこの大金持ち!!」
「金持ちは関係ないだろう!?」
「どこの方言かだの、姉だの妹だの、全く細かいことだとは思わないかねブラックジャック君?」
「本間先生気取りか!?」
「だいたい天真爛漫元気一杯の私でなく、どこか陰のある芸風の姉のほうになびくだなんて!
世の殿方の女性に求める価値とは神秘性ということなのかしら?
つまりアナタは世の男性の見本のような人ってワケね!この男の見本!男の代表!男の中の男!!
そういうわけで、アナタを男の中の男と見込んで私のパートナーと決めさせていただきました」
「おいおいなんか理論展開おかしいぞ貴様!!」
「それにもうとっくに登録は済んでるんでゲス。破棄は基本的に認められないでありんす」
「語尾くらい統一しろ…ってどうでもいいわそんなこと!」
こうして、ルガールは不本意な相手をパートナーにすることになり、
ヒカリは望みどおりにボスキャラをパートナーに射止めたのだった。
「くっくっく、この私とアナタが組んだからには大船に乗ったつもりであなたに頼ります」
「貴様も働けよ!」
怒涛のボケに翻弄されるルガールだったが、ふと冷静になって考えてると、あることに思い至った。、
――もしかしてこの女、かなり有能なのではないか?
相手を自分のペースに巻き込むこの手腕、このルガールさえ騙し通す手練手管と度胸。
どちらも自分に対して発揮されったのが腹立だしくはあるが、逆にそれだけ信用できる技量とも言える。
ひょっとすると、これはものすごい拾い物かもしれない。間違っても秘書として側に置きたくはないが。
「ふん、まあ決まってしまったものはしょうがない…ヒカリとやら、
せいぜい私の足を引っ張らないように気をつけるのだな!」
憎まれ口を叩きながらも、ルガールはすでにヒカリの利用価値を認めていた。
「ふふん、あなたこそ私の手を引っ張って優勝まで連れて行ってください」
「だから!貴様も働けって!!」
相変わらずボケながらも、ヒカリもまたルガールのツッコミの切れ味を認めていた。
ある意味で阿吽の呼吸のタッグと言える。果たして彼らは、二回戦を突破することが出来るのか?
(アラン、あんたの犠牲はムダにはしませんことよ…)
だから死んでないって。
【睦月ヒカリ 願い:姉に下克上を食らわせ帝王となる】
【ルガール・バーンシュタイン 願い:世界制覇】
【睦月ヒカリ ルガール・バーンシュタイン チーム結成 チーム名:希望のヒカリ】