用意された『道』は大迷宮であるが、それだけと言ってしまえばそれだけだ。
「左手を壁につけて歩く!ラックショーラックショー!」
左手を壁に触れさせながら、花郎(ファラン)はすいすいと走る。
この程度の競争、軍の特殊任務に比べれば朝飯前もいいとこである。
日々テコンドーの修行で鍛えているおかげで、足腰にも超自信アリ、だ。
幾度も角を曲がり、そろそろゴールかと思った頃。
「おや、そこを行くのは花郎君かな」
背後から声をかけられる。
振り返るとそこには、美しい銀の髪の男が迫ってきていた。
「おっさん何時の間に……」
その言葉を聞く者がいれば、怪訝に思ったかもしれない。
銀髪の男、李超狼(リー・チャオラン)は、せいぜい20代後半にしか見えないのだから。
「相変わらず口が悪いね、君は」
「おっさんは趣味が悪い。48にもなってそのメッシュの服、どーよ?」
「似合っているのだからいいではないか」
そう、超狼はすでに48歳。にもかかわらず体力、気力ともに全く衰えを見せず、肌も若者のようにピチピチ……と、世の女性が聞いたら羨みそうな男である。
何にせよ、このエレガントを信条とする少々エキセントリックな男は、のちのち厄介な相手になりそうだ。
とはいえ、今は一気に数少なくなる参加者枠に入り込むのが先決。
「この先また会う事があったら、そん時はぜってーブッ飛ばす!願いを叶えるのは俺だからな!あばよ!」
言い捨てて花郎はぐんっと速度を上げてゴールまで駆け出した。
願いは風間仁との、正真正銘本気での一騎打ち。
……いや、今の風間はいつなんどきデビル化するかわからない。それでは対等の勝負はできない。
「……じゃあ、あいつの中のデビルの血をなくせばいいんだ。待ってろよぉ風間!三島の因縁から解放してやるから、俺と勝負しろおお!」
気勢を上げて、花郎はゴールに駆け込んだ。
その後方。
「やれやれ、相変わらず暑苦しいというか、熱血というか、エレガントじゃないなあの子は」
まあいいか、と銀髪の悪魔もゴールに向けてラストスパートをかける。
野望は三島財閥総帥の座。それに願い事云々を抜きにしても、この私が醜態を晒すわけにはいかないとの思いもある。
そのさらに後方。
「う、嘘、あれで48歳アルか……?せっかくのイケメンだと思ったのに……」
超狼の美貌に目をつけ、ひっそり後をついて回っていた蔵土縁紗夢(クラウドベリー・ジャム)。
その狙っていた男性が中年を通り越してそろそろ初老にさしかかろうとする年齢だったことに、彼女は流石にショックを受けていた。
が、戦う料理人且つイケメンハンターである彼女は、それくらいではへこたれない。
「……フッフフフ、まあ顔がいいなら年齢は関係無いアルよ!さっきまで一緒にいたゴーグルのオニイサンも悪くないアルねぇ……みんなまとめて、ウチの従業員としてゲットアルヨ!オーッホホホホホホ!!」
迷宮を走り抜けながら高笑いするジャム。
その突如響いた不吉な笑い声を聞いた後続の幾人か――主に顔のいい男性――が、思わずびくっとした。
そしてその頃前方、ゴールで一息ついていた花郎と李超狼も、得体の知れない寒気に突如として襲われ、身を震わせていた。
【花郎 二回戦進出 願い事:風間仁からデビル因子を消し去る】
【李超狼 二回戦進出 願い事:三島財閥の総帥の座を得る】
【蔵土縁紗夢 二回戦進出 願い事:イケメン従業員のいる自分の店を開くアル!】