【死屍】AC Character Battle Royal 3rd【累々】

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「……うっ」

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああっ!!」
アルルは、声を上げて泣いた。
顔を両手で覆いながら。
その手には、銀の十字。
少女がひたすらに祈りを捧げた、十字架。

リュウは思う。
俺は、正しかったのか。
彼を見捨てるべきだったのか。

『俺に頼るなよ』

どこからか、そんな風に言われた気がした。
しかし、目を開ける事は無く、ギュッと拳を握りしめていた。

真吾は、拳を見た。
自分はこの手から、何て多くのものをこぼしてきたのだろうか。
そして、その背に、何て多くのモノを背負っているのか。


だから、必ず生きぬこう。
真吾はそう強く思う。
なのに、涙が止まらない。

思うだけなら簡単なのに、
生きていくって、どうしてこんなに難しいんだろう。



【矢吹真吾(尖端恐怖症気味)
 所持品:竹槍、草薙京のグローブ(炎の力がちょっとあるかも)
 目的:1.仲間を集める 2.敵本部を探す 3.ルガールを倒す】
【リュウ 所持品:釣竿、ホアジャイ特製スペシャルドリンク(残り1本)、ママハハ
     目的:1.ルガールを倒す(スタンスは不殺 揺らぎまくり)】
【アルル・ナジャ(流血恐怖症気味) 
 所持品:1/10ウォーマシン(持ってあと2日の電池、充電は可能)、K´のアクセサリー

【現在位置:七区】
K´の思念が切れ、エミリオはしばらくそのままでいた。

でも、それじゃ駄目なんだ

だって、約束したんだから

楓さんに、必ず伝えるって

壊れた人形の行く末など子供でも判る。
しかしエミリオは立ち上がり歩き出した。
親友との約束を果たす為に。

【エミリオ・ミハイロフ(完全消耗 空は飛べないけどまだちょっと戦える)所持品:無し(探査機はコンビニに放置)目的:K´の言葉を楓に伝える】
【現在位置:8区】
【備考:自我を取り戻し、コントロールを受け付けなくなりましたが、かわりにほぼ戦闘力は皆無】
370カーテンコール 夢の続き:05/02/11 04:59:04 ID:???


───ここはどこだっけ

K´は、どこか知らない場所に居た。

───俺は今まで 何してたっけ

思い出そうとして、背後から衝撃。

「やっほー!ケイダッシュ!」
栗色の髪の少女が、後ろから抱き付いてきた。

─── お前

「?どうしたの?何驚いてるの?」
そして、もう一つ少女の声がした。

「あらら、もしかして照れちゃったのかしら」
保護者きどりの、栗色の髪の毛の、少女。

───    うるせえ

K´は、そっぽを向いてしまった。

「そうだ!K´ったら酷いよ!あの女の子にアクセサリ−あげたでしょ?クーラが泣いても触らせてもくれなかったのに〜」

───うるせえってんだろ

K´は、居心地悪そうにした。
371カーテンコール 夢の続き:05/02/11 05:00:17 ID:???
「K´」

───    何だよ

「あなた、立派だったわよ」

「うんうん!カッコよかったっよ!」

───気色悪いんだよ

K´は悪態を垂れたが、やがて三人は歩きだした。

ふと立ち止まり、K´は振り返り、そして最後に呟いた。


「楽しかったぜ」

あばよ


そして二度と振り返らずに、少女達に続いて歩き出した。

【K´ 死亡】
372舞台裏の策謀 Perfect world:05/02/11 07:54:40 ID:???
薄暗い部屋の中、男が1人コンソールに向かいながら誰かと通信を行う

「もしもし?ええそうです私です」
「ゲームの進行状態のほうですが…」
「ええ現在は3日目、フフフ…大変ですね、その様子では私に連絡を取るのも一苦労でしょうに」
「…ええ身分は時に人を縛る、身分が高いのも時には行動の妨げになってしまいますからね」
「はい…ガイルは2日目の時点で死にましたご安心下さい…」
「ハッハッハ…『追善供養』ですかフフフ面白い」
「はい…ええ解りました…」
「あと私が気になる人物としては…」

男はコンソールのキーボードを打ち込むと参加者のデータを参照し始めた

「ケーブルという男ですね…彼の力には少し興味があります」
「あと、椎拳崇という男も超能力者のようですが…」
「彼は超能力者としては並程度のようですから別に絶対に欲しいという事はありませんね」
「…ところで例の儀式の事ですが…」
「ええ、そんなおとぎ話のようなものにどれ程の力があるかは解りませんが
 どうやら全てが『流言飛語』とういう訳では無いようです…ええ解りました」
「…ええ、彼は未だに自分がプレイヤー…いや、ゲームマスターでいると思っているようです」
「ええ…ククク、実に滑稽なことです」

「最後に、エミリオ君についてですが」
373舞台裏の策謀 Perfect world:05/02/11 07:56:39 ID:???
「途中でルガールが彼の操作を行っていたようです」
「どうやら私の装置を元にイグニスさん達が別の
 エミリオ君を操作する装置を作っていたようです」
「ええ…そうですネスツの…しかし彼らが作ったその装置は
 もう1人のエミリオ君を解放するだけではなく私の装置よりも
 さらに強制的に彼を動かす事が出来るようです」
「結果は…ええ、そうなりました、まったくおもちゃを渡せばすぐ壊す…」
「しかし、あの装置があるにもかかわらずエミリオ君が戻ったということは
 もしかしたら本当の彼が目覚めるかもしれません…」
「ええ、もしそうなれば今まで以上のデータが取れるかもしれません」

「では次の連絡は…はい、2日後ですね…もっとも
 その時にはもう既にゲームは終っているかもしれませんが」

「それではまた2日後に、シュバルリッツ・ロンゲーナ将軍閣下」

男は薄笑いを浮かべながら通信を切った
374異端サーカス420 ◆1wxzbbwPmQ :05/02/11 17:55:40 ID:???
K´は、抱きしめようとして、自分の右腕が無い事に気付いた。
なんだ、あんな爆発で吹っ飛んじまったのか。
やっぱ、使えない腕だな。
そんな事を考えながら、K´は更に強く抱きしめた。
少年に、守れなかった少女の姿を重ねて。

───こんなにあったかいモンだったのか お前って

そう言ったつもりだったが、もはや唇も動かせない。
しかしエミリオは、その思念をしっかりと聞き取っていた。
「謝るから…!何でもするから!!だから……だから死なないで…」
375終幕訂正 420 ◆1wxzbbwPmQ :05/02/11 17:58:54 ID:???
上の>>374は、364と365の間に一文を付け加えた(というか、貼りそこねてた…)物です。
お手数ですが、まとめサイトの方は上記のように
【───こんなにあったかいモンだったのか お前って 】
の一文を付け加えてください。
重ね重ね申しわけありません
秋風に、すすきが歌う。秋風に、彼岸花が揺れる。

子供のころ、楓は泣き虫で、いつだって守矢に慰められていた。
師匠は忙しい身だったから、守屋が楓を背負ってやることもたくさんあった。
あの時は守矢とて楓とそう変わらない子供だったのに、きっと無理をしていたのだろう。
兄と姉は屈託なく笑いあっていて、
楓を泣き止ませるのはいつでもそんな二人の幸せそうな姿だった。

それも何時のことだか分からなくなるほどに昔のこと。
記憶に霞がかかるほど昔のこと。

そして今、
「…………」
こんな形で兄を背負い返すことになろうとは、楓は思ってもいなかった。
「勝手に濡れ衣被って勝手に消えて、今度は勝手に死んだのかよ。馬鹿やろ……」
肩に担がれた守矢は答えない。
かつて力強く地を踏みしめていた足はぼろ雑巾と変わらぬ有様で、
所在なさげにぶらぶらと宙を揺れていた。

「悪いな、守矢。ちょっと寄り道するけど、許せよ」
「…………」
「いきなり斬ったりはしねぇよ。向こうにも…何かあったかもしれないんだしな」
「…………」

見上げれば目の前には長い長い階段がある。
降りる途中に何度か転がり落ちかけたのだろう。響の血痕はあちこちで乱れていた。
この上に、響を斬った奴がいる。
楓は左手で封雷剣を握りしめ、歩を進めた。

幾重もの襖と、立ち並ぶ仏像に守護された異様な部屋。
かつてこの街を統べていた帝王の部屋で、ロック・ハワードは待っていた。
鎖をつけて逃がした手負いの獣が、狩るべき相手を自らの元に連れてくるのを。

「来い、楓。俺は、ここにいるぞ………」
緋色の瞳に映る街のどこかにいるであろう見も知らぬ青年に向かい、ロックは独白した。

隠し部屋という性質上、この部屋に窓は全く存在しない。
にもかかわらず、この部屋は閉塞感とは一切無縁であった。
主の要望があれば、壁面に設置された大型スクリーンは
サウスタウンの要所に取り付けられたカメラからの映像を即座に映し出してくれる。

今スクリーンはロックの要望で、
もしここに窓があったら見えていたであろう景観をそのまま映し出していた。
おぼろげな記憶の中に、
スクリーンを指差しなにやら楽しげに語らう父母の姿があったように思えるのは気のせいか。

自分が街の全景をいながらにして捉えられる環境にあるということは、
時に自分こそがゲームの主催者であるような錯覚を生じさせる。
ロックはこめかみを押さえて首を振った。

「………支配とか君臨とか、そんな趣味俺にはないはずなんだがな」

今でも血腥い殺し合いが繰り広げられているはずなのに、
日の光に照らされたサウスタウンはかつて見た時と何も変わらず緑豊かで美しい。
ロックは思う。ギース・ハワードがこの部屋を気に入っていたのは、
自分こそがこの街を手に収めているといった実感をもっとも容易に得られたからなのだろう。
血は争えないということなのか、ロック自身もこの部屋は嫌いではなかった。

「……………?」

どん、どん、どん、どん……がらり。

襖の一枚が引き開けられる音に、ロックは眉を潜めた。
無遠慮な足音から見るに、相手は身を隠すつもりがないらしい。
かといって、正面からロックを圧倒できるような苛烈な気配を発しているというわけでもない。

(誰が来た?また鼠か?)

そうであれば暗黒の力を振るうまでもない、銃一撃で片をつけてやる。
袖口に仕込んだデリンジャーを確認し、ロックは気だるげに立ち上がる。

――――油断スルナ!
「………何だ、と―――!?」

そして暗黒の血の……いや壁に突き立った八十枉津日太刀からの警告を受け、
弾かれたようにその場を飛び退いた。

がががががががががっ!

きらびやかな襖をまとめて消し炭に変えた雷光が、ロックの頬を掠める。
とっさに腕で目をかばったものの、閃光で視界が一瞬白濁した。
「―――ちぃっ!」
目を奪われようと、どちらから攻撃が来たか位は容易に分かる。
ロックは禍々しい暗黒の闘気を宿した手を振り上げた。
「烈風拳!」
青い炎のようにも見える気弾が、正確に白煙の向こう側の人影に向かって床を駆ける。
影と気弾が重なり、腹に響くような重い衝撃音がした。

どんっ!

気弾は確かに影に命中した。衝撃と共に旋風が巻き起こり、白煙を残らず吹き飛ばす。
だが、ロックが想像したように鮮血と悲鳴が飛び散るようなことはなかった。
代わりにどす黒い血餅と肉片が申し訳程度に辺りにばらばらと散らばる。

「………!」

お返しとばかりに飛んできた一塊の火花を首を振ってかわしたロックは、
炭化した襖を踏み潰しながら歩み出てきた黄金の髪の青年をまじまじと見た。

「――――――お前が、楓か?」
疑問の形を取ってはいたが、それは事実上確認と変わらなかった。

「お前が、楓か?」
出会い頭に己の名を呼ばれ、楓は少なからず驚いた。
(悪い、守矢)
ロックの烈風拳で下半身を吹き飛ばされた守矢の遺体を壁際に置くと、
楓は半身に構えて己の鏡像を睨み付けた。

「ああ、そうだ―――――お前が、高嶺響をやったのか?」
「あの女か。……そうだ、といったら?」
「聞くまでもないだろ、そんなこと」

封雷剣を相手のの眉間にぴたりと向ける。
「無駄な殺しは好きなわけじゃない。だが……」

「それなりの報いは受けてもらおうか。腕の一本ぐらいは覚悟しろ」
「報い、か」
報い。
その言葉は、ロックの耳にはやたらと空虚に響いた。


はたから見れば、自分達は三文映画のクライマックスを演じているかのようにでも見えるのだろう。
ずっと友の仇を追ってきたヒーローと、
それを頂点から睥睨していた悪の親玉との対面といった構図である。
強大な敵に立ち向かう悲劇のヒーローを、神は決して見捨てない。
与えられた聖なる剣をその手に、英雄は悪に挑むのだ。
慈悲深き勇者は倒れた仇敵に手を差し伸べ、魔王は感涙に咽びながら許しを請う。
悪の栄えたためし無し、世は全てこともなし。おめでとう、神は全てを知らしめす。
かくして物語はハッピーエンド、めでたしめでたし。


吐き気が、した。


神などいないのに。
テリーは殺されてしまったのに。
ハッピーエンドを保障する、優しい神などどこにもいないのに。


気がつけば、ロックは笑っていた。
「く、くくっ……くくくく……そうか、仇討ちというわけか」
「何が可笑しい?」

笑いが止まらない。哀れで滑稽で仕方がなかった。
楓もロックもここに至るまでにその手を血に染めている。
それもルガールが賞賛するほどの無慈悲な手段で。
命を刈った手は自分も楓も何も変わらないというのに、
己が本質に目をそむけてまで何を正義面する必要があるというのか。
目の前の男は真実自分の鏡像だ。
何よりも遠いようで、実のところ背中合わせのように、近い。

「上等だ、やってみろ。あくまで自分こそが正しいと言い張りたいのならな」
「………何?」
楓の神気と殺気を受け、ロックの内の暗黒は戦いの予感に歓喜する。
圧倒的な力を持つ神人を前にしてなお、彼は不敵に笑っていた。

「……来いよ。お前も殺してやるさ、そこの赤毛の剣士のようにな」
「――――――――――!!」

―――――赤毛の剣士?守矢を?
―――――殺した!こいつが!

震える声で、楓は問いかけた。
「お前が、ロック、か?」
「ああそうだ。俺の名は、ロック・ハワード」

ロックの静かな声は、楓の意識を奥底から揺さぶった。
それは、ずっと凪の水面のように静かだった楓の心に細波を立てるには十分であった。

「そうか、お前が守矢を……」
ばち、と空気を弾く音を立てて封雷剣が震えた。
封雷剣は脈動する。
今代の主の心のざわめきに耳を傾ける。

楓もロックも知らなかった。封雷剣は、異界の神器のかけらだということを。
強大すぎる力ゆえに八つに分けられた、その神器名を、アウトレイジという。
その力の本質は、自らが雷光を発することではなく、
           

持ち主の精神力そのものを増幅すること。


楓が違和感に気付いたころにはもう遅い。
「―――――!?」
激怒の、そして背徳の名を冠する武器の一部は、楓の戦意を確かに受け取り、
今まで黙って受け止めていた青龍の力を何十倍にも増幅して楓に叩き返した。


「ぐおあああああああああああーーーーー!」


断末魔にも似た絶叫と轟音がハワードアリーナを揺るがした。
指向性を失い荒れ狂った雷が、部屋中のオブジェを次々に舐め吹き飛ばしていく。
過剰な電気に打ち据えられた計器が悲鳴を上げ、耳障りな音とともにスクリーンが暗転した。

彼の城が崩壊してゆく中、壊れていく英雄を、魔王は微動だもせずに見つめていた。
今まで一度たりともこの青年と会ったことはないのに、
いざ彼が壊れるのを見るのには奇妙な感慨があった。

「………楓」

「………て、やる」


「……ああ、そうだ。お前はそれでいいんだ」
それでこそ、俺を俺として存在せしめるには相応しい相手だ。
それでこそ、俺を俺のまま消し去るには相応しい相手だ。


「殺してやる……殺してやる、殺してやる!ロック・ハワード!」

目の前に転がってきた守矢の死体を躊躇いも無く踏み潰し、楓は吼えた。
激情に支配されたその声は奇妙に歪んでいて、彼が以前戦った炎の神にどこか似ていた。


【楓(軽度の負傷) 所持品:封雷剣、探知機(有効範囲1q程度、英語表記)
          目的:ロック・ハワードを殺す】
【ロック・ハワード(それなりに消耗) 所持品:デリンジャー、ワルサーP99 火炎放射器 ワルサーPPK 
                   目的:1.楓を殺す 2.自分より弱いものは全て殺す】
【現在位置:3区ハワードアリーナギースの隠し部屋(半壊)】
【八十枉津日太刀は壁に刺さったままです】
>>327
『2日目、夕方』より下を以下に差し替え

『2日目、夕方。雨が降ってきた。例の、大規模な光線兵器だろうか、あの光をまた見る。その後、半裸の青年を助ける。
 民家に入り彼の手当て。今は葵君が隣で彼を見ている。目立った外傷もない。しばらくすれば目を覚ますだろう。』

「半裸の青年?」
「そこやおまへん。ここからどす」
溝口のことはあまり思い出したくないのだろう、先を続けようとする葵。なにか思い出し、せや、とつぶやく。
晶を手招きして自分の横に座らせる。二人でノートを覗き込むような形になる。
葵はチラ、と部屋の一部に目をやり、大きめの声で再び読み始めた。
晶がすこし怪訝な顔になる、葵の性格ならば、一緒に読む場合隣に来るのではないか。
それ以前に、隣に呼んでなお、朗読する意味があるのだろうか。

「葵・・・」
言いかけてノートの文字が目に留まった。晶の言葉は喉を逆流し、胸へ返る。
葵の澄んだ声が、ハガーの遺志を部屋に響かせていた。
>>329(順序は328の上)
以下に差し替え

『2日目、夜→放送が流れた。先ほどの彼はミゾグチというらしい。豪快な青年だ。それは置いて、
 今回の放送までで判ったことをこの機会にまとめよう。重要な点は3つだ』
『1.ジョーカー:これは前回もいた。主催の思惑を代行する参加者。今回もいるようだ。出会ったら戦闘になるだろう。彼らは主催者の
 指令なくしては動かないため、なんらかの目的がなければ接触してこないだろう』
『2.首輪:反抗勢力や、逃走する者を主催が殺す最後の手段。なんとかはずせないだろうか。外そうとすれば主催者側に伝わり爆破される
 この首輪には盗聴器かショックに対するセンサーでもついているのだろうか?』
『3.マーダーの公表:これは意外だった。しかしこの中にジョーカーはいないだろう。しかしなぜ?
 普通に考えたらこれはマーダーを避ける要因にしかならない。因縁のあるものでもいるのだろうか』
『絶望的な状況であることは間違いないだろう。打開策を見つけなければ、最後の一人になるまで・・・』

葵の声が止まる。残りのページをパラパラと最後までめくって見せる。
もう一度ページを戻し、噛み締めるように、黙って読み返す。それを終えると晶と葵は互いに顔を見合わせ。一つ頷いた。
晶は自分のノートの最後のページに、ハガーのメモの要点を書き写した。
ノートは晶の荷物袋の底に、用心深くしまわれた。
>>328
冒頭を以下に差し替え

しかしながら以上は真実ではない。
真実は薄い薄い扉に守られていた。
すなわち、次のページ。

『注意:善意ある君よ。この先に真実がある。ここから先、決して声を出して読んではいけない。』

>>同じく328
2−2を削除、2−3を以下のように変更
2−2.結界:この首輪にはそれぞれ特殊な力で作られたフィールドに包まれているのだという。これを裏付ける事実を思い出した。
 前回、爆薬かなにかで死亡した参加者がいた。その死体を見た時、私は妙な違和感を覚えたのだ。
 かなり大規模な爆発の跡にもかかわらず、首輪の爆弾が誘爆するどころか、首輪だけ、傷一つなく残っていたのだ。
 マニュアルには、一定の衝撃を超えると全て無効化する、という説明があった。

>>330-331
以下に差し替え
『3.監視体制:気づいるだろうが、我々参加者の行動は監視されている。それは主に2種類。首輪による位置と生存の確認。
 もう一つは街中に配備された監視カメラによる。逆に言うと、首輪にはこちらの詳細な行動を把握する機能はついていない。
 現在いる家にもわかるだけで3つのカメラを確認した。数は半端ではないだろう。しかし、この広い街の全てをもらさず監視することは
 きわめて難しいと想われる。死角があるはずだ』

『4.主催者の所在:前回は空だった。巨大な空中戦艦というのだろうか、そういうものに乗ってゆっくりと優勝した私の上から降りてきたのを覚えている。
 しかし今回は違う。あの光線兵器の存在である。あれはおそらく衛星兵器、だとすればこの街の上空にいれば高度に関わらずあの光線を
 被弾する恐れがある。もちろん衛星の起動を確認してから移動することも可能ではあるだろうが、リスクが大きい。前回と違い大規模で
 何日かかるか判らないこのゲームで、ずっと空中にいるには燃料などの問題もあるだろう。次の候補は海。これも違うと考える。
 なぜなら船は沿岸からの発見が容易であること、また、空と同様、例の光線兵器のみならず通常の兵器でも大型の火器ならば狙われる可能性があるためだ。』
『5.推論及び今後の方針:
 5−1.首輪について、これをはずした場合、主催のとり得る行動はジョーカーによる処分、直接的な排除の2つしかなくなる
 これこそが参加者を縛る鎖であり、このゲームの崩壊の要でもある。以下に無効化の手段を記す。無効化すれば普通にはずすことが可能だ。
 1つは死ぬこと。といっても実際に死ぬことではなく、首輪のセンサーに死亡した、と認識させることである。しかしながら
 意図的に心臓を止め、蘇生する。そんなことが可能だろうか?

 もう1つは手順に沿ってはずすことだ。2−2で触れたとおり、この首輪は特殊なフィールドに覆われている。
 これを解除するには同質のエネルギーをもって中和するしかないらしいのだが、このエネルギーというのが厄介である。
 衝撃を無効化する故に、攻撃に向くエネルギー、炎や雷といったものは全て使えない。攻撃性を持たない純粋なエネルギーでのみ中和される。
 多くの武道を極めたものがいると考えられる今回だが、それゆえに「戦わない力」を探すのは困難を極めそうだ。
 運良くフィールドを消しても、次に必要になるのが解除プログラムである。これを作れるものを見つけることもまた、困難だろう。
 一部の兵士が持っている可能性、ハッキングによる入手、解析した上での作成、全てを考慮してもやはり・・・

 そして解除した後には例の監視カメラの問題がある。解除した場合主催側には死亡扱いになるはずだが、死んだはずの人間がカメラに写る、
 そのスタンスが反抗であろうと脱出であろうと、確実な妨害が予想される。カメラは多すぎて破壊しても焼け石に水である。
 監視のシステムそのものをなんとかせねばなるまい。

 5−2.主催者の所在に対する推論:4で書いた理由から、主催者は今回、地下のシェルターのような場所にいると考える。
 万が一の時に直接介入するため、必ずこの街のどこかにいるはずだ。もっとも、位置が特定できても首輪とカメラがある限り突入前に果てる可能性が極めて高い』
そしてさらにめくったページにある文が以下である。

『カメラのある場所で書いたため、このノートの存在は主催側にバレている。幸い内容が見えるような書き方はしてないが、前回優勝者の私が残したメモを主催側が放置するとは考えにくい。このノートを持った君に危険が及ぶだろう。
 そこでだ、君はこのノートの文を、真実のページを除いてわざとカメラと盗聴器のある場所で読み上げてほしい。
 このノートを、無価値な物であると主催側が認識すれば、少なくとも積極的に狙われる可能性は下がるだろう
 君の安全のためにも、よろしくお願いしたい』


そこから数十ページの白紙。


裏表紙の直前。

ノートの最後のページ

『幸運を祈る
    マイク・ハガー』

と書かれ、希望の扉は閉められていた。

知る者は2人。記された物は2冊。
1人の男から放たれた希望の光はゆっくりと確実に広がってゆく・・・

【結城晶 現在地:三区・建物内 所持品:大学ノート(死亡者の名前とハガーメモの要点写し)と鉛筆 目的:響を探し出し、葵と響を守る】
【梅小路葵 現在地:三区・建物内 晶と同行中 所持品:釣竿とハガーのノート 目的:響を探し、晶たちとともに生きて帰る。剛を倒す】

楓は吼えた。
守矢を殺したのが目の前の青年だと知って、もう何も考えられなくなった。
眼前で敵を討ってやろう、
そう思って持ってきていたはずの兄の遺体を自ら踏み潰したことにすら気付けないほどに。

「っがああああああ!」

激情の命じるままに封雷剣を振るう。青白い電撃が蛇のような軌道を描いてロックの元に殺到した。
少しでもかすれば、ロックの体は足元に散らばる仏像の残骸とそう代わらぬ有様になるだろう。


だが部屋のオブジェをいとも簡単に焼き砕いた雷光は、
その全てがロックの目前で奇妙に曲がり彼の元までは届かなかった。


「!?」
「……余計なことを」
ロックが不機嫌そうに鼻を鳴らす。
見れば、彼の斜め後ろの壁に、ロックのそれと同じほどに暗い気を纏った刃が突き刺さっている。
ロックに当たろうとした雷光は、全てそれに引き寄せられ漆黒の刀身の中に消えたのだ。

「常世の使いの剣……!何故こいつに味方する!」
猛る青龍を、八十枉津日太刀は嘲笑していた。
お前が無様に狂う様をじっくりと見たいだけだ、何が悪い、と。

「どうした楓。お前のその剣は飾り物か?」
ロックの声で、楓は我に返った。間髪いれず飛んできた銃弾を、封雷剣で受け止める。

「………馬鹿にしやがって!」

剣でなく、拳が飛んだ。虚をつかれたロックの対処が一瞬送れる。
ロックが楓の手を外すより早く、楓はロックを片腕で振り回し全力で床に叩きつけた。
細身の外見からは想像もつかないような腕力である。
肺の空気を無理矢理叩き出され、一瞬ロックの呼吸が止まった。
「死ねよ!死んで常世で守矢に謝れっ!」
床に縫いとめようと突き出された刃を、ロックは身をよじって避けた。
起き上がりざまに烈風拳を放ち、一旦楓と距離を離す。


「誰かと似たようなこと言う奴だぜ…」
床を転がったロックの視界の端に、
そろそろ胸の悪くなるような臭いを発し始めた金髪の女の死体がちらりと映った。
弾けたざくろの様な顔面は、ロックを恨めしげに見つめている。
あわよくばあの轟雷の中で消し炭になっていてくれればいいと思ったのだが、
世の中そう上手くはいかないらしい。
あるいは、死者の怨念という奴か?
―――――それにしても、次々厄介な剣に出会うもんだ。

ロックは己の運の悪さに苦笑する。
常時電撃を纏ったあの剣に、あの女や侍を退けたような戦法はうかつには使えない。
下手に刀身に触れるようなことがあれば、感電死するのが落ちだからだ。
剣の直撃こそ避け続けているが、その太刀筋がロックを掠める度に、
彼の身体や衣服のあちこちに痛々しい焦げ跡がひとつふたつと増えていく。


―――ダカラ言ッテイルダロウ、アノ雷ニ勝チタクバ我ヲ使……
「黙れよ」
魔剣の誘惑を、ロックは一蹴した。


状況は明らかにロックに不利だったが、それでも彼の心はこれまでになく高揚していた。
「どうした…」
太刀筋の一つ一つに込められた楓の敵意、殺意。
「来いよ」
剥き出しの心で向き合わねば意味がない。
「俺を…」
そうでこそロックは、
「……殺してみろ!」
ほんの少しの間だけでも全てを忘れて飛んでいられるのだから。
翼のような鈍い光をその背に背負い、ロックは雷の化身に向かって疾駆した。


――――殺せ、殺せ、殺せ、殺せ!己から全てを奪ったこの男を殺せ!
――――認めるな、その存在を認めるな!常世の瘴気にも等しき闇の存在を認めるな!


楓の意識は、限界を超えた激情の奔流に耐え切れず漂白し続けていた。
脳の内側で、ただ青白い火花が乱舞している。

「―――――!」

心を占めるのは唯一つ、この男を殺さねばならないという圧倒的な義務感のみ。
楓は目の前に迫ってきたロックに対し、半ば本能的に剣を振りぬいた。
「!」
封雷剣が薙いだのはロックの残像だけだった。
すれ違い様に身を沈め剣尖を交わしたロックの手が、楓の衣に伸びる。
投げられる、彼がそう自覚する前に視界が凄まじい勢いで一回転し、その体が宙に舞った。

「っらぁ!」
「――――!」

暗黒の気を宿した拳が、隙だらけのまま落下してくる楓に叩きこまれようとする。
だが、その拳が楓の体を貫く前に、楓の放った雷撃の刃がロックを打ち据えた。
「………っ!」
集中できない状態からのごく弱い雷撃ではロックを消し炭にすることは適わない。
それでも、彼の全身の筋肉に悲鳴を上げさせるには十分であった。

だぁん!

電撃を受け一時動けなくなったロックの横で、楓は背中から床に落ちた。
二人とも意識ははっきりしているが、すぐには次の攻撃には入れない。
荒い息をつきながらロックが体勢を立て直し、楓が幽鬼のように立ち上がる。

「…………殺してやる」
「………やってみろって、言ってるだろ」

触れれば切れるような殺意を宿し、二対の緋色の視線が交錯した。


楓が袈裟懸けに剣を振るう。
ロックが横に軸をずらしてそれを避ける。
剣を空振りして出来た隙に、ロックが突進し拳を叩きつける。
楓が空いている左手でそれを払いのける。
ロックの放つ銃弾は、ことごとく神剣に払われて楓の元までは届かない。


呪われた舞台の中心で、英雄と魔王は舞踏する。


銃声が響き、雷鳴が轟き、
剣と拳が交錯し、閃光と暗黒がぶつかり合った。


秋風に、さざなみが歌う。秋風に、リコリスが揺れる。


子供のころ、ロックは腕白で、いつだってテリーに諌められていた。
喧嘩をしてぼろぼろになって帰って来て、テリーに叱られることもよくあった。
彼とて父親の経験があったわけではなく、
自分を育てるのにはきっと苦労していただろう。
テリーの周りには何時だってサウスタウンの楽しい仲間たちがいて、
ロックを憧れさせるのはいつでもそんな彼等の楽しそうな姿だった。


それは、己と養父の血で塗りつぶした遠い思い出。
もう思い出せないほどに壊れた、遠い遠い思い出。

己の手で破り捨てた筈の、なによりも悲しい思い出。




『いいえ、あなたはテリーの息子。いくら頑張っても、ハワードにはなりきれない』

『………あの世で、テリーと待ってるわ』


闘い続けるロックの耳に、聞こえる筈の無い女の声が聞こえた。
「―――――!」
舞うように楓の斬撃を避け続けていたロックが、その時ぐらりとバランスを崩した。
何度目になるか分からない斬撃を跳んで避けられた楓が、
転がっていた女の死体をロックの着地点に向けて蹴り入れたのだ。
ただの障害物であればそうも行かなかったろうが、
踏み潰され飛び散った脳漿と脳髄が、ロックの足を滑らせる。

「てめっ………」

ロックが膝を突く。耳を塞ぎたくなるような嫌な音がして、
赤とも白とも突かない飛沫と金の髪の残骸がロックの服を汚した。
転倒こそしなかったが、それがロックにとって致命的な隙であることは
その場にいた二人ともが承知していた。

「終わりにしてやる……」

天井を破り、天から一条の雷光が下る。
それは楓が担ぐようにして背に回した封雷剣を直撃し、刀身に鮮やかな青白い輝きを添えた。
「―――――!」
神の怒りに、空気が白熱する。
その全身に全てを焼き砕く雷光を従え、楓はロックに向かって突進した。


青龍の咆哮を聞きながら、ロックは無意識のうちに右拳を引いていた。
拳に、陽炎のような気が宿る。
それは、闇を打ち払う輝きの拳。もう二度と使うまいと思っていた、テリーの教えてくれた技。
格闘家の拳が言葉ほどにものを語るというなら、
結局それがロック・ハワードの本質だったということなのだろうか。

「シャイン――――」
「おおおおおおおお―――――――っっ!!」
「ナックル!」


極限まで膨れ上がった二つの光が炸裂する。
閃光が、吹き飛ばされたロックの身体と、そして彼に弾き飛ばされた雷の剣を一瞬だけ照らし出した。


秋風に、彼岸花が揺れる。




「―――――――」


ロックは全身から煙を上げながら、壁に寄りかかって座り込んでいた。
あの瞬間、楓の纏った雷はロックの横にあった魔剣に吸い寄せられわずかに彼から軌道をずらした。
結果として一瞬で消し炭になるのは免れたものの、全身の火傷は既に致命的なレベルに達している。
もうどう足掻いても助かる見込みはないだろう。

肩越しに見れば、かつて魔剣が刺さっていた壁面は完全に崩壊し、
今までスクリーン越しにしか見れていなかった風景が見えている。

痛む身体に鞭打って深呼吸をした。
隠し部屋にこもっていた時間はそう長くなかった筈だが、
外気を吸うのは随分と久しぶりのような気がした。
「――――――?」
目にかかる前髪をかきあげようとして、右腕が根元からなくなっていることに気付く。
溜息をついて左手で前髪を上げたところで、かすれ気味の弱弱しい声がかかった。

「…………何故だ」

ふらふらと立ち上がった楓が、ロックの元に歩み寄る。
楓は怒りも悲しみも使い果たしてしまったのか、心底疲れきったような顔をしていた。

「…………」
「………なぜ守矢と響を殺した、ロック・ハワード」

なぜ、と聞かれても答えられるわけが無い。
守矢の死因を作ったのは、本当はロックではないのだから。
「………答えろよ」
口を動かすのも億劫だったが、それでもあえてロックは答えてやった。
「――――弱かったからだ。だから、そいつらは死んだ」
「それだけかよ」
「ああ、それだけだ。……どうした、何故殺さない?」
「……謝れよ」
楓がロックの胸倉を掴んで無理矢理引き起こす。
「謝れよ、謝れよ、謝れよ!………死ぬ前に守矢に謝れよ!」


言っていることがさっきと真逆だ。いまさら人を殺すのが怖くなったのか。
がくがく揺さぶられながら、ロックは心中で苦笑した。
それに、謝って済むものならば、最初から謝って終わらせている。
それが出来ていれば、テリーは死なずに済んだのだ。
テリーの命を踏み倒してまで自分はこの道を選んだのに、
最後の最後で道を逸れるような真似が出来るわけがあろうか。



焼けた唇を吊り上げ、ロックは笑った。

「……楓、そういえばあんたに言っておくことがあった」
「何?」
「まだ生きている者に止めを刺さないのは、傲慢なんだそうだぜ?」

「――――!?」

あいつの言うことは正しかったさ。
そう甘い態度でいるから、お前は目的の一つも果たせずに終わるんだ。
現実を知ったお前がこの先どうなるか、地獄の底から見ていてやるよ。


「あばよッ!」


どん!

ロックの焼け残った左腕が、楓を突き飛ばす。
予期せぬ抵抗に不意を討たれた楓は思わず手を離し、そして目を見開いた。
反動で仰向けに倒れるロックの背後には


――――――空が。


「ロック!貴様ああああああああ!」


楓は絶叫した。

「はははははははははははははははははははははははははっ!」


世界が反転する。視界いっぱいに青空が広がる。
気がつけば、ロックは狂ったように哄笑していた。
楓に対する嘲笑と、己のふがいなさに対する自嘲と、
復讐の連鎖から逃れられたことの歓喜がない交ぜになっていた。



道半ばだったが、これで終わりだ。
結局、自分は生き残れなかった。それだけでなく、最後の最後で結局テリーに甘えてしまった。
情けないことこの上ない。約束違いも甚だしい。




―――だからさ……

瞳を刺す太陽のまぶしさに、ロックは目を細めた。

―――だからさ、地獄に落ちる前に、一度だけでいいから思い切り叱ってくれよ、テリー






全身で自分の頭蓋を打ち砕く鈍い音。それがロックの聞いた最後の音になった。

楓はへたりこんだまま、呆然と虚空を見つめていた。

ばさばさばさ――――

ねぐらを乱された烏が数羽、楓の目の前を下から上へと舞い上がっていく。

「何でだよ」

追い求めた仇敵までもが、楓の手の届かないところに行ってしまった。
もう楓に守矢と響の敵は決して討てない。ロックに、何を償わせることも出来ない。

「何でこうなるんだよ」
「俺のせいかよ」

楓の言葉を否定してくれる相手は何処にもいなかった。

『生きている者に止めを刺さないのは、傲慢なんだそうだぜ?』
ロックの残した言葉が、楓の空ろな心にしこりのように引っかかっている。


「―――――――」


暫くして、楓は立ち上がった。
暗赤色の瞳に、理性の光は無い。人間としての心はとうに灼ききれていた。
このまま死ぬまでここにいてもいいとさえ思っていた。

だが、彼の内の青龍は望んでいない。
瑣末な、仁を忘れた一部の人間達のために、自らが常世に逝く事を望んでいない。

だから楓は殺すだろう。
ただ純粋に、悪意のかけらもないままに、目に映る人間たちを殺すだろう。
自分が生き残るために。


ロック・ハワードと、同じように。


秋風に、枯れ果てた金色のすすきが歌う。秋風に、不吉に赤い彼岸花が揺れる。

それは、昏い悪夢に塗りつぶされた遠い思い出。
もう思い出せないほどに壊れた、遠い遠い思い出。



楓は封雷剣を片手に、おぼつかない足取りで半壊した部屋を出て行った。



【楓(自我喪失、覚醒状態) 所持品:封雷剣、探知機(有効範囲1q程度、英語表記)
              目的:参加者を全て殺し自分が生き残る】
【現在位置:3区ハワードアリーナ】
【八十枉津日太刀はハワードアリーナのどこかに落ちています。
 ロックの所持品は全て放置、但し銃器類はほぼ全て弾丸切れです】

【ロック・ハワード 死亡】
403ゲームセンター名無し:05/02/16 04:00:46 ID:???
『……ミリア・レイジ、譲刃漸。以上12名だ』
納品所宿直室の片隅で、アランは5回目の定時放送を聞いた。
ゼンが死んだ。
数時間前に送られてきた重要人物リストに彼の氏名が記載されていなかった時点で予測はして
いた事だ。今更驚きはしない。
ただ気体のように漠然とした喪失感だけが脳裏に滲んだ。
日守剛は分解したウージーの銃身を胴着の袖で隅々まで磨いている。行動一つ一つに全くと
言っていい程余念がない男である。
アランは机を挟んでその様子を眺めながら、ゼンが脱落したのはきっと剛のような賢しさとも
呼べるしたたかさが欠けていたからだと思った。
視線に気付いたのか、剛は手を止めずにアランを一瞥した。
「坊ちゃん刈りの奴はどうしてる」
「拳崇か。まだ表で見張りやってるよ。もう少ししたら戻ってくるだろ」
「そうか」
404ゲームセンター名無し:05/02/16 04:06:46 ID:???
しばらくの沈黙の後、剛は再び口を開いた。
「12名か。順調なペースで死んでるな」
「順調どころか早過ぎる。序盤の死亡者数が以上だっただけだ」
「まあ今日明日以降はそうも行かなくなるだろう。俺達の仕事もそれまでだ」
「……不思議なもんだな」
ふっとアランは笑った。剛が微かに眉をひそめる。
「何なんだいきなり」
「あんたと喋ってると毎日ここで人が死にまくってる現状への違和感が薄くなる。二日前まで
は想像もつかなかった事だ。こうやって慣れていくんだな、自分でもわかる」
「環境に巧く適応した者が常に勝つ。順応性も一種の才能だ」
「その意味ではあんたに勝る奴はいないだろう」
「どうだか。俺の知ってる連中はまだほとんど生き残ってる。奴らも”適応”しているんだ。
そっちの知り合いは生きてるか」
「一人死んだよ」
「ほう。残念だったな」
「そうでもないさ」
倦怠そうに椅子から腰を上げる。
「何処へ行く?」
「外気に当たってくるだけだ。ずっと引きこもり状態だったせいでもやしになりそうなんだ。
何かあればすぐ戻る」
「死体になって帰ってくるなよ」
「はは、冗談きついぜ」

405ゲームセンター名無し:05/02/16 04:11:14 ID:???
裏口から朝日が光り輝く外に出ると、涼秋の冷気が頬に当たった。
夜半の雨は上がり、広がる空は何処までも青く透明だった。所々水溜まりの残るアスファルト
の路面に、暖かい陽光が繊細な模様の影を描き出している。
街は静謐さに満ち溢れていた。
こんな清々しい天気の元で、今日も皆が互いに殺し合う。あまりにも醜悪なブラックジョーク
だとアランは思う。
北へ向かってしばらく歩いた後、彼が足を止めたのは商店の焼け跡の前だった。
忌まわしい墓場。
数箇所で未だくすぶる黒い煙が、あの陰惨な争いが決して幻ではなかった事を主張していた。
彼がここを再び訪れた理由は、エリ・カサモトの遺留品である封雷剣を回収する為だった。常識外の力を秘めたあの
武器がエリのような無差別殺人派の手に再び渡った場合、アランだけでなく参加者全体の脅威
になる。不安要素は事前に取り除いておきたかった。
当然ながら自分が殺した人間の死体が転がる建物に入るのは並ならぬ抵抗があったが仕方ない。
アランは意を決して半壊した入口に近付いた。
その時彼は積もった灰の中に一組の靴跡があるのを見つけた。
406403:05/02/16 04:25:31 ID:???
後程続き貼ります(;´Д`)
407終盤戦開始の朝 1/7 ◆u.An6buUuk :05/02/17 17:33:54 ID:???
『……ミリア・レイジ、譲刃漸。以上12名だ』
納品所宿直室の片隅で、アランは5回目の定時放送を聞いた。
ゼンが死んだ。
数時間前に送られてきた重要人物リストに彼の氏名が記載されていなかった時点で予測はして
いた事だ。今更驚きはしない。
ただ気体のように漠然とした喪失感だけが脳裏に滲んだ。
日守剛は分解したウージーの銃身を胴着の袖で隅々まで磨いている。
行動一つ一つに全くと言っていい程余念がない男である。
アランは机を挟んでその様子を眺めながら、ゼンが脱落したのはきっと剛のような賢しさとも
呼べるしたたかさが欠けていたからだと思った。
視線に気付いたのか、剛は手を止めずにアランを一瞥した。
「坊ちゃん刈りの奴はどうしてる」
「拳崇か。まだ表で見張りやってるよ。もう少ししたら戻ってくるだろ」
「そうか」
408終盤戦開始の朝 2/7 ◆u.An6buUuk :05/02/17 17:35:16 ID:???
しばらくの沈黙の後、剛は再び口を開いた。
「12名か。順調なペースで死んでるな」
「順調どころか早すぎる。序盤の死亡者数が異常だっただけだ」
「まあ今日明日以降はそうも行かなくなるだろう。俺達の仕事もそれまでだ」
「……不思議なもんだな」
ふっとアランは笑った。「何なんだいきなり」
「あんたと喋ってると毎日ここで人が死にまくってる現状への違和感が薄くなる。
二日前までは想像もつかなかった事だ。こうやって慣れていくんだな、自分でもわかる」
「環境に巧く適応した者が常に勝つ。順応性も一種の才能だ」
「その意味ではあんたに勝る奴はいないだろう」
「どうだか。俺の知ってる連中はまだほとんど生き残ってる。奴らも”適応”しているんだ。
そっちの知り合いは生きてるか」
「一人死んだよ」
「ほう。残念だったな」
「そうでもないさ」
倦怠そうに椅子から腰を上げる。
「何処へ行く?」
「外気に当たってくるだけだ。ずっと引きこもり状態だったせいでもやしになりそうなんだ。
何かあればすぐ戻る」
「死体になって帰ってくるなよ」
「はは、冗談きついぜ」
409終盤戦開始の朝 3/7 ◆u.An6buUuk :05/02/17 17:36:29 ID:???
「……?」
先客がいるのだろうか。
アランは屈んで、足跡を子細に観察した。
大きさからして男物の靴だ。靴跡に付着した泥が乾燥しているところからすると、何時間か前の物らしい。
そうなるとここを訪れたと見られる人物は既に立ち去っている可能性が高かったが、念の為
ワルサーの安全装置を外して中へ踏み込んだ。

鉄筋コンクリート製の外壁とは正反対に、内装はほぼ全焼だった。
焦げた臭いが辺りに充満している。
あの時もし部屋の窓が閉まっていたら、今頃自分も黒炭と化していたと思うと複雑な心境になる。
アランは注意深く店内を歩き回ってみたが、封雷剣とおぼしき物は何処にも見当たらなかった。
そんなはずはない。
エリとの戦闘中、弾き飛ばされた封雷剣が1階に落ちるのをこの目で確認した。床に落ちる音も聞いている。
となると残された可能性一つ。
持ち去ったのはおそらく例の足跡の人物と見て間違いないだろう。
(まずい事になったな…)
もっと早く来るべきだったと後悔しながら何気なく足下を見やると、倒れた商品棚の下から
レンズのような小型の機械が覗いているのに気付いた。ひしゃげて内部の部品が飛び出している。
410終盤戦開始の朝 4/7 ◆u.An6buUuk :05/02/17 17:38:39 ID:???
アランはそれを拾い上げると指で軽く煤を払った。
超小型の監視カメラである。
多分本部が仕掛けた物だろう。表面は熱で溶解して形が崩れている。
他にも店内にはまだ至る所に設置されているはずだが、この火災では全て機能を失っているに違いない。
中からコードを引きずり出す。
色々いじり回した結果、高精度の集音マイクが内蔵されたカメラである事がわかった。
1台で盗聴器の役割も兼ねているわけだ。
今まで首輪に盗聴器が埋め込まれていると予想していたが、どうやら違うらしい。
有益な発見である。ここを訪れたのも全くの無駄足ではなかったようだ。
(……そろそろ出ないと怪しまれるかな)
あまり長居をしても本部からあらぬ疑いを掛けられる。
店内の監視カメラは機能していなくても、外のカメラはアランが建物に入る姿をしっかり映しているはずだ。
後で製造メーカーでも調べてやろう、と分解したカメラをポケットにしまい込んでその場を立ち去った。
銃のメンテナンスを終えた剛は壁の時計を見上げた。
8時50分。
アランはまだ戻らない。
「何処をほっつき歩いているんだか…」
彼の行動は予測がつかない。
会話の中でも色々探りを入れてみたが、何を考えているのか全く読み取れなかった。
自分自身の事は一切語らない。こちらが尋ねれば巧みにはぐらかす。厄介な手合いだ。
その点拳崇の方はかなり扱いやすい。思考と行動がダイレクトに直結している。
当人は一応隠しているつもりなのだろうが、剛には彼の思惑など手に取るようにわかっていた。
そう言えば昨晩から彼の態度が急に堂々としていた。
どうせアランに適当な事を吹き込まれて有頂天になっているのだろう。
まぁ捨て駒の事などどうでもいい。妙な真似をしたら殺すだけの話だ。
剛は携帯を取り出し、登録された番号をプッシュした。
短い呼び出し音の後、オペレーターの若い女が電話口で応答する。
「ルガールに繋いでくれ」
ややあって本人が出た。
――お前の方からとは珍しい。何かあったか。
声にやたら張りがある。シナリオ通りにゲームが進行していて御満悦と言った様子である。
剛は挨拶抜きで単刀直入に切り出した。
「頼みがある。始末させて欲しい奴がいる」
――ふむ、誰だ。
「梅小路葵と結城晶。
特に梅小路には俺の役割が知れている。今後生き残られると都合が悪い」
言ってはみたものの、まず拒否されるだろうと半分諦めていた。
死に損ないの葵の動向には、賭博に参加しているVIP達の期待が集まっているらしい。
それを主催側で簡単に殺してしまえば彼らの不満が噴出するのは明らかだ。
数秒間沈黙の後、ルガールから返ってきたのは意外な反応だった。
――構わんだろう。実はその2名は少々面倒な事になって来ている。
「と言うと?」
――彼らに本部の内部情報が漏れている。
  どうも女の方が例のハガーと言う男と接触したのが原因らしい。
  今のところ大した情報は把握されていないようだが、危険な芽は早めに潰すに越した事はない。
「成程…だが”連中”は文句を垂れないのか」
――彼らもゲームの内情が世間に露見する事を恐れている。自分達の地位が脅かされる可能性が
  あるとすれば呑気な事ばかりも言っていられまい。
413終盤戦開始の朝 7/7 ◆u.An6buUuk :05/02/17 17:42:17 ID:???
「いちいち自分勝手なものだな、金持ちとやらは」
――そうして姑息に振る舞いながら彼らは地位を築き上げて来たのだ。お前も少し見習うといい。
「反吐が出る。…じゃあ2人に関しては俺に一任でいいんだな?」
――許可しよう。だが連中を消しても気は抜けないぞ。
  特にヒメーネはお前には死んでもらうつもりらしいからな。
「そりゃどう言う事だ」
――何やら裏で色々小細工をしているようだ。
  私が関知していないと思っているのかね。あれの処遇は後程考える。
「ふん。いざとなればあの女にも首輪付けて会場に放り込んでくれてもいいんだぞ」
――くくく…なかなか言うな。
剛は電話を切る前に一つだけ質問をした。
「そうそう。禁止エリア発動の件はまだ先になりそうか?」
――ああ。この調子なら生存者数が20人を切ってからでも充分だろう。
「…わかった。また連絡する」
短く答えて電話を切る。

ひとまずはこれで目障りな邪魔者が消える。
待ってろ雑魚共。
暗闇のようなマカロフの銃身を見つめながら剛は1人で呟いた。
414終盤戦開始の朝 ◆u.An6buUuk :05/02/17 17:43:25 ID:???
【日守剛 所持品:USSR マカロフ、ウージー、コンドーム、携帯電話(アランの連絡先登録済) 
 目的:J6の意向を受けゲームを動かす
 現在位置:1区ショッピングモール内宿直室】
【アラン・アルジェント 所持品:PPKワルサー(残り7発)、携帯電話(剛の連絡先登録済)、折り畳みナイフ
 目的:ゲームを内側から壊す、プローブの情報を盗む為に本部へ潜入
 現在位置:1区北部商店の焼け跡】
415終盤戦開始の朝 ◆u.An6buUuk :05/02/17 17:45:15 ID:???
>>408-409間に以下挿入

裏口から朝日が光り輝く外に出ると、涼秋の冷気が頬に当たった。
夜半の雨は上がり、広がる空は何処までも青く透明だった。所々水溜まりの残るアスファルト
の路面に、暖かい陽光が繊細な模様の影を描き出している。
街は静謐さに満ち溢れていた。
こんな清々しい天気の元で、今日も皆が互いに殺し合う。あまりにも醜悪なブラックジョークだ、とアランは思った。
北へ向かってしばらく歩いた後、彼が立ち止まったのは商店の焼け跡の前だった。
忌まわしい墓場。
塗装が剥げ落ちて煤けた外壁や、数箇所で未だくすぶる黒い煙が、あの陰惨な争いが決して
幻ではなかった事を主張していた。
ここへ再び足を運んだ理由は、エリ・カサモトの遺留品である封雷剣を回収する為である。
常識外の力を秘めたあの武器を現場に放置しておくのは危険極まりなかった。
もしエリのような無差別殺人派の手に再度渡った場合、アランだけでなく参加者全体の脅威に
なりうる。不安要素は事前に取り除いておくべきだ。
自分が殺した面々の死体が転がる建物に入るのは些か抵抗があったが、我慢せざるを得ない。
下を向いて半壊した入口に近付いた時、積もった灰の中に泥だらけの靴跡を見つけた。
416ゲームセンター名無し
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