受け継がれる血
リ選手の祖父である故リ・スグンさんは、1923年、慶尚北道で生まれた。日本の植民地支配下で
幼い頃から辛酸を舐めてきた彼は、家族とともに日本に渡りボクシングを学んだ。プロボクシングの
道に進んだスグンさんはバンタム級で活躍、8回戦まで進み将来も期待されたが、当時の日本社会で
朝鮮人ボクサーに対する風当たりは強く、わずか一度の敗戦で選手生活をやめざるをえなかった。
「父は『木村正一』という名前でリングに上がっていた。自分が朝鮮人でありながら、日本名で
ボクシングをせざるをえなかったことが、生涯の心残りだと生前話していた」とキジュンさんは語る。
引退したスグンさんは、立命館大学でコーチを務めたあと、小さなジムを経営するかたわら、
京都中高教育会副会長、京都体協会長などを歴任し、63年朝鮮に帰国した。日本では不本意ながら
現役から退いた彼だったが、帰国後は後進の指導に力を注ぎ、76年モントリオール五輪で金メダルを
獲得したク・ヨンジョ選手を育て上げた。
息子のキジュンさんもまた、朝鮮でボクシングを学び、国内選手権をはじめ数々の大会で優勝するなど、
ボクシング一家の血は親から子へ連綿と引き継がれている。