テムジンは血が逆流するのを感じた。
次の瞬間、自分でも驚くほど俊敏に体が動いた。
格闘界から既に遠く離れた身ではあったのだが。
《成る程、これが火事場の馬鹿力・・・か!?》
昔、出場した大会で僅かではあったが賞金を手に入れ
それを元本に、母国では夢が叶う約束の地と囁かれた
異国の地で、テムジンは長年の夢であった事業を起こした。
だが、格闘界では向かう所敵無しのテムジンだが
此処の世界では赤子同然であった。
信じていた同朋の代理人にも裏切られ、事業は頓挫する。
増え続ける借金、それに追打ちする様に
人種差別の壁が立ちはだかる。
自由の国と信じていたかの地でも、
弱い者は徹底的にいたぶられる。強い者によって。
しかし、テムジンは諦めなかった。
持ち前の粘り強さで、試練に耐え、問題を克服していった。
やがて、テムジンの努力は地元のマスコミに取り上げられ
最初は冷ややかな目で見ていた住民達も彼の事業に
協力?する事になった。無論、この頃には
法律の後押しもあったのだが、取り敢えず彼の夢は叶った。
醒めない夢として。
赤色灯が惨劇の起きた現場を照らす。
野次馬を掻き分けて一人の勇者が運び出される。
その勇者の顔には布が掛けられていた。
これは不幸な事件に遭遇し、まだショック状態に
陥ってる彼の学園の児童からマスコミが強引に聞き出した事だが
『オロチの血が騒ぐんだよオおおお!!』
と、訳の解らない事を口走りながら刃物を振り回す長身の男に
テムジン園長が一人で勇敢にも立ち向かったという。
逃げ出した子供達の緊急連絡で駆け付けた警官と
騒ぎを聞き付近の住民達の協力もあって
その長身の男は逮捕される。大きな犠牲と引き換えに。
奇跡的に子供達は誰一人として怪我は無かった。
出迎えてきた里親達と抱き合う光景が溢れる中で
この瞬間より孤児として新たに生きる事になった
テムジンの息子がいた。今は只、養父の亡骸に
縋り付いて泣きいるのだけれども。しかし
彼がその涙を拭う時、必ずや強く生きて行く事が出来る。
その瞳にも映る筈だ。養父が命懸けで守った孤児が
そして何よりも、誇り高き養父の記憶が彼の勇気の証となるだろう。
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