★ ゲーセンで起きたちょっといい話スレ *復活* ★

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スト2が世に出て半年くらい経った頃だったか、地元の店で初めて
「対戦大会」が開かれた。

CPU戦をプレイするだけでも行列が出来ていたようなこのゲーム、
当然普段から対戦をしている人から興味本位の人まで、ものすごい
数の人がエントリー。
田舎の小さいゲーセンなのに、40人以上集まっていたと思う。
俺も興味本位からエントリーをした一人だった。


大会が始まると、当然のように対戦経験豊富な奴、そして使っている
キャラ性能の高い奴が勝ち上がって行く。
ガイル、ダルシムなどが筆頭だった。
余談だが、スト2では同キャラ対戦が出来なかったため試合前のキャラ
選択権を決めるジャンケンに泣かされた奴もいた。


友達同士でエントリーしている奴が多かったせいか、一人でエントリー
した俺は場の雰囲気に完全に飲まれ、また、取り残されていた。


俺の番が回って来た。
俺の使用キャラはザンギエフ。対戦経験などほとんどなく、せいぜい
固めスクリューが出来る程度の腕だ(それもCPU相手に)。
そしてよりによって、相手の使用キャラは最強の一角、ガイルだった…
272/7:03/06/02 15:22 ID:???
ラウンド開始直後、相手のガイルが奇妙な動きを見せた。
バックジャンプで間合いを離したかと思うと、画面端を背負って
垂直ジャンプ大キックを繰り返しているのだ。
そう、まるで対CPUザンギエフ攻略法のように。

俺の頭の中は真っ白になった。
(こんな戦法見たことないぞ…!)
(しかしCPUが全く太刀打ち出来ない戦法だ…どうすればいいんだ?)

対人戦のノウハウもなく、また、当時中学生の俺には今となっては
( ´,_ゝ`)プッ と笑ってしまうような戦法に対抗する手段が思い付か
なかったのだ。


近寄って相手の着地に足払いを重ねようとして蹴られ。
ジャンプして叩き落そうとして蹴られ。
必殺技なら何とかなるのか?と思いダブルラリアットを出してみたが、
当然頭の停止スイッチを蹴られ。

…パーフェクト。
俺のザンギは、本当にCPUザンギを倒すかのような「作業」によって、
なすすべもなく地に這ってしまったのだ。
283/7:03/06/02 15:23 ID:???
2ラウンド目がスタートした。
当然相手はこちらに対抗する手段なし、と読んで開幕から間合いを離し
にかかる。
そして垂直ジャンプから大キックを繰り出すのみだ。

どうする、どうする…!?
俺はなかばパニック状態に陥った。
歩いて間合いを詰めることも出来ない。


「チョップだ!踏み込んでチョップを使え!」

!?

「間合いを詰めて立ち小パンチだ!それで落とせる!」

!!?

今まで話したこともない、顔もよく覚えていないような(試合中だから
見ている余裕すらないが)ギャラリーから声が上がったのだ。
見ず知らずの俺を応援してくれる声が。
294/7:03/06/02 15:23 ID:???
俺は「ままよ」とばかりに踏み込み、小パンチ(近距離でチョップに
なる)を出してみた。

ペチッ

…落ちた!


今まで何も対抗手段がないと思われていたガイルの垂直ジャンプ大キック
が、いとも簡単に落とせたのだ。

そのまま俺はガムシャラに間合いを詰め、足払いからスクリューパイル
ドライバーを決める。

「そこだ!ハメろ!」

そんな声が聞こえたような気がしたが、おそらくその時の俺には届いていな
かったと思う。
無我夢中に、足払いからのスクリューパイルドライバーを繰り返した。
(※スト2初代のスクリューは間合いが離れないのだ)

今思えば、よくぞ連続で成功したものだと思うが…
今度は俺のザンギが、ガイルをパーフェクトで倒したのだ。
305/7:03/06/02 15:24 ID:???
よくよく見れば相手も素人だったようだ。
ソニックブームと中足払いを盾とした俗に言う「待ちガイル」戦法も
知らなかったようで、唯一の戦法(垂直ジャンプ攻撃を繰り返す)が
破られると非常に脆かった。

3ラウンド目も懲りずに垂直ジャンプに固執したところをチョップで
落とし、そのままスクリューハメに持ち込んだ。
不思議と、このラウンドでも一度もスクリューハメを失敗しなかった。

3度目のスクリューを決めた時、ガイルは動かなくなった。


…勝った?
…勝てたのか?俺…
ふらふらと立ち上がって、ふと手を見る。
緊張のためか、びっしょりと汗をかいていた。

「いいぞザンギ!」
「よくやった!」
316/7:03/06/02 15:24 ID:???


肩を叩かれた。
先程声をかけてくれた人達のようだ。

「あ…いや…」
言葉が出てこない。また頭の中が真っ白になる。

「ああいうガイルでも対処知らないとキツいっしょ?」
「でもスクリューハメ上手かったねー」

「あ…ありがとうございました」
小声ではあるが、ようやく言葉にすることが出来た。


その後、普段どんなキャラを使っているのか、どんな店で
遊んでいるのか、など世間話をしたように思う。
試合を見ながら、そのポイントも説明してくれたように思う。
…よく覚えていないのだ。

ただ、その人達が熱っぽく語る姿だけは目に焼き付いている。


俺のザンギは2回戦でダルシムに完封された。
悔しさは全くなかった。
とても…楽しかった。
327/7:03/06/02 15:25 ID:???
それから、大会を通じて知り合った人達とは店で会った時などに
挨拶を交わしたり、対戦待ちの時間に話したりするようになった。
そう、俺は対戦デビューをしたのだ。

自分と同じゲームを好きな人がいる。
色んな思いでゲームをしている人がいる。
そんな人達と、思いをぶつけ合えるゲームがある。
嬉しかった。ものすごく楽しい時間だった。



いつしか時は流れ、対戦ブームもいったんの落ち着きを見せる。
当時知り合った人達も、学業や就職、引っ越しなどの都合で
だんだんと疎遠になって行った。

ただ、今でも街のゲーセンで対人戦に興ずる若者たちを見ていると
胸に熱いものがこみ上げて来る。
あの時の記憶が甦って来ているのだろう。


…まだ、消えちゃいないのかな。
心の中でくすぶっている闘争心にちょっとした誇りと照れとを
感じつつ、俺は夕飯の献立を考えながら家路を急ぐのだった。