私が一番手ひどいダメージを受けたのは、とあるシューティングゲームをプレイしているときだった。
比較的難易度の低い(オタクの基準でだが)シューティングだったが、その最大の要因は"覚えゲー"だったということだ。
"覚えゲー"というのは、プレイヤーの反応速度・器用さよりも、敵の攻撃パターンを知っているか否かで勝敗が決まるゲームのことだ。
例えば、突然画面をほとんど埋め尽くす攻撃が来る。
突然すぎて、知らないプレイヤーは反応する間もなく殺される。
だが、安全地帯(攻撃のあたらないところ)を知っていれば助かる。
要するに暗記力が重要なのだ。
そして覚えるためには何度もプレイするしかない。
私はそのシューティングゲームを何度かクリアしていた。
その時も非常に良い調子でゲームを進めていた。
突然、背後から声が聞こえた。
「うっわー、やり込んでるよ。こいつ。」
女、それも高校生くらいの声だった。
「なんか、これにカケてる!って感じよね。」
別の声、恐らく連れだろう。
面クリア時、画面が暗転し"鏡"の状態になったときに確認すると、少し離れて"コギャル"が二人、私のプレイを見ていた。
ゲーセンの雑音に紛れ、時折彼女らの声が耳に届いた。
「完全に覚えちゃってるよ。これ。」
確かに私のプレイは洗練され、敵の攻撃を前もって避けている風だった。
「これしか頭にない!ってこと?」
「きもー。」
「結構、いい年だよね。」
「うん、おっさんだよ、おっさん。」
「おっさんのオタク?すくえねー。」
「ほんとうに上手いよね。うますぎ。」
「たぶん、これが自分にとって一番輝いてる瞬間!みたいな?」
「ゲームしてるときが?イケてねー。」
真っ黒な気持ちで私はそのゲームをノーミスでクリアした。
エンディングのスタッフロールが始まったが、私は急いで席を立った。
一刻も早く、この場から逃れたかった。
振り向いた瞬間、そのコギャル共と目があった。
足早に通り過ぎる。
少ししてから、背後で爆笑が沸き上がった。
たぶん、彼女らはデブで若ハゲで醜い30歳のおっさんゲームオタクがやりこんだプレイをしたことに、この上もない滑稽さを感じたのだろう。
「こいつ、絶対女からも世間からも相手にされてないよね!だからゲームにうちこんじゃうんだ!カワイソーなやつ!」
彼女らの爆笑には、そんな響きが含まれていた。
最悪だった。
ゲーセンにおいて、ゲームが上手いということは"格好良い"ことだったはずなのだ。
もし、ゲームオタクがギャラリーだったなら、きっと私のプレイに感心し、ノーミスクリアを賞賛してくれたに違いない。
その価値観が一般客やコギャルに、全く正反対に捉えられるとは。