K'、ウィップ共に複雑な表情をする。その名前は、この二人の間では特別な意味を持って響く。
「そう。それだけ。ここに置くわね…それじゃ」
「待てよ…いいのか?軍の機密だろ?」
K'は立ち上がりかけたウィップの腕をつかんで止める。
「いいのよ、教官の許可はもらってあるから。非公式に、だけどね。
…でも、そんなことが訊きたくて止めたのかしら?」
「…わからねえ。ただ、お前はそれで…いや、うまく言えねえけど…」
セーラという女性の存在が最も大きいのは、自分ではなくウィップの方だ。K'はそう思う。
しかし、それを自分に伝えるウィップの胸の内が、K'にはうまく察することが出来ない。
切ないのか。
儚いのか。
それとも何も感じないのか。
K'には読み取ることも、うまく訊き出すこともできない。
しかしウィップの方は何事かを察したらしく、寂しげに微笑んでK'の方へ腕を伸ばした。
「平気よ。私はウィップ。他の何者でもないの。……誰かさんはムチ子と呼ぶけどね。
心配しなくてもいいわ。私は私で、大切な仲間もいる。それは――揺らがないわ」
「べ、別に心配なんかしてねぇじゃねえかよ。勘違いすんなって」
「相変わらずの天邪鬼ね。そうやって周りを困らせるのも、そろそろ卒業しなきゃいけないんじゃない?」
「……うるせぇよ」
「見た目はもう大人だけど、スネた時そうやってちょっと顔赤くしてそっぽ向くクセは変わらないのね」
ウィップは伸ばした手をK'の頬にそっと当てる。
「そんなあなたを、このままほっぺたつねって叱ったっけね」
「…余計なことまで憶えてやがる」
ふふ、とウィップは優しげに微笑む。どこか懐かしげな表情で。