【GREE】ここは飼わなイカ?ミニイカ娘 part3
ミニイカ娘と栄子の邂逅シーンを思い出してください。
@ 海岸で瓶の中を這いずり回るミニイカ娘、それを見つけた栄子。
A (タイトル文字「飼わなイカ」)
B 自分の部屋で瓶入りのミニイカ娘を観察する栄子。
…この流れから皆さんは「栄子が「海岸でミニイカ娘を拾い」→「家に連れ帰った」という展開を頭で
組み立てたことでしょう。
しかし、果たして本当にそうなのでしょうか。
もう一度あの映像を見てほしいのですが、ミニイカ発見のシーンと、部屋のシーンは「飼わなイカ?」のタイトル文字で
一旦途切れており、この映像で見る限り何も連続性はないのです。海岸のミニイカと部屋にいるミニイカが、全く同一の
個体であるという確証はそこに何も示されていません。
早い話が、海岸のシーンの直後に栄子が引きずり出してその場で焼き殺したとか、飼い犬の糞を投げ入れてまた埋め
戻したとしても不自然ではありませんし、部屋にミニイカがいるシーンにしたって、もしかして別の日に早苗に無理矢理
ワイロか何か渡されて預かった、全く別の個体なのかもしれないのです。
よく、推理小説で読者の先入観を利用したトリックがありますね。海岸に男女の遺体が転がっていて、警察は心中事件
として操作を打ち切ってしまったけれど、実は二人は別々の場所で殺害されてそこに並べられたに過ぎないといったような。
裏を返せば、ミニイカ娘の話もそうした先入観を取り除くことで、そこに新しいストーリーが生まれるのではないでしょうか。
後々のシーンも同じように考えて(これらも別に、前述の早苗から預かった同じ個体と考える必要はありません)、「チィッ!」
からエビのバカ食い、正露丸歯ぎしり、サメに墨吹き、カタツムリや花見、雪だるま、病院のシーンだってすべて同じミニイカ娘
と考える必要はないのです。
エビを求める金切り声にキレた栄子が頭をメスで引き裂いてはまた海岸で拾って補充し、食べすぎたミニイカ娘の腹を切開しては
早苗から一匹調達し、イカスミを吐き尽くして気絶したミニイカ娘に飽きて塩水に溺死させてはペットショップで新しい個体を買い求めて
いた…あくまで私の推測に過ぎませんが、見方を変えると、ニコニコとミニイカ娘を死ぬまで飼い続けた栄子の裏の顔には、激しく同意
…いや鬼気迫るものがあります。
栄子が死に際までミニイカ娘を飼っていたとするなら、邪魔になったり飽きたら殺して、飼いたくなったらまた新しい個体を調達してきたと
解釈する方が、ミニイカの餌代、異様に貧弱なスペックと150年といわれる寿命の相反性、無知無能さ、限りなく0に近い捕食能力や
狡猾な性格を考え合わせても、よほど合理性があるのではないかと私は思うのです。
以上の仮定を踏まえて、原作を全く描き直してみましたw
病室で最後を迎えた栄子の手から転がり落ちたミニイカ娘。
この個体は、いったい栄子が手にした何千、何万匹目のミニイカ娘だったのであろう…。今までは「別の意味」で栄子の手から幾多の
ミニイカ娘が転がり落ちていったが、このミニイカ娘は幸か不幸か、そうはならなかった。
ミニイカ娘は栄子の死を悟り、「ピィィ…」とか弱い声を上げて涙をこぼした。
ある日を境に仲間が不自然に次々と姿を消しては二度と帰らず、栄子に従わないものは容赦なく激しい拷問にさらされた恐怖の日々を
思い出して、己の身が助かった事に安堵するとともに、さりとて自分が栄子の手から離れた途端、その夜の餌を獲得する術も知らない己の
無力さに今更ながら気付いて、齢75歳のミニイカ娘はこの期に及んでメソメソ泣くより他なかった。
死にたくても、長々しいミニイカ娘の寿命はまだ折り返し地点に過ぎない。あと75年もどうやって自力で生きていけばいいのか。生きていくことに
なんの意味があるのか。また誰かに気まぐれに拾われて、気まぐれに愛されて、そして飽きられて虐待され…多分そんなこんなの繰り返しで
残りの寿命も尽きていくのだろう。散々人間に持ち上げられては裏切られて突き落とされ、また持ち上げられては裏切られて…考えただけで
ウンザリする。
もっとも、仲間の大半は人間と楽しく生きる希望などという妄想を捨てきれなかったために、かえって栄子の嗜虐心を駆り立てて、それこそ原型を
留めないほどズタボロにされていったのだが。
今朝嬉しそうに水槽からつまみ出された仲間が、夕方には全身針ネズミのように無数の縫い針を突き立てて水槽に戻ってきたり、寝ている間に
自分以外の仲間が全員脳を噴出して死んでいたり、顔を薬品で溶かされ壊死した触手を引きずってさ迷っていたり…。自身も、電気ウナギの水槽
に突き落とされたり、シンナーの風呂に入れられたり、コロコロで顔から踏み潰されたり、ファンヒーターのグリルに縛り付けられたり。金切り声をあげて
エビをねだっただけで凄烈な拷問を受けてきたことに。
軟体生物にしては不相応に発達した脳は、餌の確保より先に食いぶちにもならない屁理屈が堂々巡りするばかりだった。
(結局私の一生は、これまでもこれからも人間次第でゲソね…)
「プギュッ!」
ため息をついたミニイカ娘は次の瞬間、ベッドを片付けに来た職員にゴミと見間違えられ、シーツからバサッと床に払い飛ばされた。座りの悪いダルマの
ように床を無様に転がる生物のことなど、忙しく働き回る人間の視界に入るはずもない。
そのままシーツごとつかみ上げられ、使用済みリネンと一緒に病室を後にするミニイカ娘。恐らくは自分がどうなっているのか状況を把握できないまま、
洗濯工場でドライクリーニング液に浸けられて中毒死していくか、あるいは死人の使った寝具ということで、明日の朝には焼却処分されるかもしれない。
巨大な布地の中で墨を吹きながらカサコソもがくしかないミニイカ娘にとって、人間社会はあまりに冷淡で無関心だった。というより、全く忘れられていた。
ミニイカ娘の寿命はおよそ150年。人間よりよほど長生きする。
しかし人間の社会は、ミニイカ娘とは関係なく回っている。