【流行の】On Your Mark 2【風邪にやられた】

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700月刊アニメージュ1995年9月号インタビュー
   〜 歌詞をわざと曲解して作りました 〜

AM 「警官」と「天使」なんて、まるで押井守さんの作品のようですね。

宮崎 押井さんが天使が生まれるの、生まれないのとか、もったいぶってやっているから、さっさと出しちゃった(笑)。
   といっても、天使だとは言っていないし、鳥の人かもしれない。それはどうでもいいんです。

AM 6分40秒の中に、映画1本分の内容が詰まっていると感じました。

宮崎 暗号のようなものは、いっぱい入れてあるけれども。音楽映画だから、見た人の感じたように受け取ってもらってかまわないんです。

AM 冒頭の、のどかな田園風景の中に建つ奇怪な建物は何ですか。

宮崎 どう解釈してもらってもかまいませんが。その直後に出てくる放射能注意のマークのついたトラックを見て、
   何となくわかってもらえればいいと思うんです。地上には放射能があふれていて、もう人間は住めなくなっている。
   でも緑はあふれていて、ちょうどチェルノブイリの周囲がそうだったようにね。自然のサンクチュアリ(聖地)と、化している。
   で、人間は地下に都市を作って住んでいる。実際はそんな風には住めなくて、地上で病気になりながら住むことになるとは思いますが。

AM このアニメは「On Your Mark」の、音楽映画作品として作られていますね。

宮崎 「位置について」という意味のタイトルだけれど、その内容をわざと曲解して作っています。
   いわゆる世紀末の後の話。放射能があふれ、病気が蔓延した世界。実際、そういう時代が来るんじゃないかと、僕は思っていますが。
   そこで生きるとはどういうことかを考えながら、作りました。きっとそういう時代は、ものすごくアナーキーになっていく一方で、
   体制批判というようなことについて、ものすごく保守化しているんじゃないか。それはまだ失うものがあると思っているから。
   何にもなくなると、ただのアナーキーになっていって、のたれ死にが始まるんです。
   そういうものを紛らわしてくれるのは「ドラッグ」や「プロスポーツ」や「宗教」でしょう?それが蔓延していく。
   そういう時代に、言いたいことを体制から隠すために、隠語にして表現した曲と考えてみた。ちょっと悪意に満ちた映画なんです(笑)。

AM 例えば「いつも走り出せば、流行の風邪にやられた」という歌詞の、「流行の風邪」というのは、放射能や病気に覆われた世界のことでしょうか?

宮崎 (否定も肯定もせず)地球全体の歴史から見れば、人間の問題なんて流行の風邪みたいなものですからね。

AM ……二人の警官が救い出す天使は、混沌とした世界の一筋の希望のようにも見えます。
  「僕らがそれでも止めないのは……」という歌詞の通り、天使を救出するシーンが何度も繰り返されていますが。
  何度かの失敗の後、混沌とした世界から、一筋の救いのように彼女は青空に飛び立つ。でも、警官たちは地上に取り残されて……。

宮崎 彼女が救世主だったり、救出を通して彼女と心の交流があったというわけではないんです。
   ただ、状況に全面降伏しないで、自分の希望、ここだけは誰にも触れせないぞというものを持っているとしたら、
   それを手放さなければならないのなら、誰の手にも届かないところに放してしまおうという。そういうことですよ。
   放した瞬間に、心の交流がちらっとあったかもしれないけれども。それでいい、それだけでいいんです。
   ……きっとまた彼らは警官の仕事に戻るんです。戻れるかどうか知らないけれど(笑)。

AM 戻る世界は、また「流行の風邪」の世界。

宮崎 結局、いつもそこから始まるしかない。メチャメチャな時代にも、いいことや、ドキドキすることはちゃんとある。
   ナウシカの「我々は血を吐きながら、繰り返し繰り返し、その朝を越えて飛ぶ鳥だ」です。