○話題作を生み出す発想の源とその手法(山本寛(かんなぎ)×あおきえい(喰霊―零―))司会:白石稔
■話題の2監督に白石はどう迫るのか?
08年のアニメを大きく盛り上げた2作品の監督対談が実現!同世代で初対面という2人がついに出会う。
司会を担当したのは、なんと両監督の作品に参加経験のある、声優・白石稔!!2人にどう迫る?
白石:いやー、今回はありがとうございます、シリーズの監督を終えられた感想をおねがいします。
山本:僕から?TVシリーズの監督は大変なんだなと痛感しました。
最初はA-1Picturesさんをはじめ初めて組むスタッフばかりだったので「かんなぎ班」という
ひとつのチームを組むのに手探りな部分がありましたね。ただ結果として第1話から腕利きのスタッフに
窮地を救ってもらいまして本当に助かりました。
白石:あおきさんはどうでしたか?
あおき:監督としては、劇場版で一度、TVシリーズは二度目なんですが、いちばんつくっていて楽しい作品でした。
アフレコもチームワークがよくて一丸となっている感じがうれしかったですね
白石:声優としてそういってもらえてうれしいです!じゃあ大変だったこと、楽しかったことは何ですか。
山本:週の半分は大阪、半分は東京にいるんですけど……全部大変だった。週1の整体が週2に変わりました(笑)
ただ、後半はキャストが主体になってチームワークを発揮してくれてすごくうれしかったです。
あおき:僕も立ち上がりがつらかったですね。設定もシナリオもそろわないころがいちばんつらかった。
ただ、シナリオ打ち合わせが、楽しかったんです。シリーズ構成の段階で手ごたえがあって、
高山さんの書くシナリオがすごく面白くて、そのうえさらにアイデアを乗せていく充実感がありました。
山本:漫画の「喰霊」の前の話をつくっているんですよね?オリジナルは大変だったんじゃないですか?
あおき:設定(スタート)とゴールだけがあって、道筋はどんな道を行ってもいいという状態ですから。
ただそれがおもしろかったんですね。高山さんのアイデアが刺激的で。
山本:こちらにも倉田英之というオタクの中のオタクがいて(笑)。この濃さはすごかったですね。
>山本:僕から?TVシリーズの監督は大変なんだなと痛感しました。
いや、らき☆すたやった時で気づけよw
■作品の共通店はコントロール力
白石:お2人ともお互いの作品は意識しているんですよね?
イベント「かんなぎまつり」で山本監督は「最近見ているのは『喰霊―零―』だ」といったそうですし、
『喰霊―零―』のイベントのとき司会の僕があおき監督を呼んだら「監督の山本寛です」と名乗ったくらいですし(笑)
あおき:やはり同時期に放送してる作品はチェックするんです。まあ、僕自身がアニメオタクなんで(笑)、
アニメづくりに疲れてアニメを見ていやされる毎日を送っていまして。普通に見ちゃうわけなんですけど。
なかでも、「かんなぎ」は印象的でした。
山本:僕が慣れない監督業で、右往左往している中で、『喰霊―零―』をみて、
本当にクオリティコントロールが優れているなって感心したんです。
あおきさんの意志がフィルムの隅々にまで行き届いているな、と。
そもそも「劇場版『空の境界』第一幕」がすごかったですからね。
独特の陰りのある絵作りとシュールな世界。
僕は僕にないものを持っている人が好きなんです。
だからすごく興味を持っていました。
あおき:照れますねえ(笑)。クオリティコントロールについては、周りのスタッフのおかげです。
特に堀内修さん(キャラクターデザイン・総作画監督)であったり、鶴岡陽太さん(音響監督)であったり。
山本:たしかに堀内さん(「フルメタル・パニック!」シリーズっで同職)はすばらしいですよね。
あおき:ただ「かんなぎ」のほうがクオリティコントロールができている気がします。
絵コンテはどれくらい監督が直しているんですか?
山本:ほとんど直していないです。あがってきた絵コンテを尊重して、そのテーマに基づいてちょこと手を加えるくらい。
あおき:画面のコントロールで、監督がいちばん手を出しやすいのは絵コンテですよね。今回はPAN(カメラ移動)が多いですよね?
山本:増やしています。「原作が要求した」というのかな……まあ、女の子の全身を写したかったっていうだけなんですけど(笑)。
「かんなぎ」は禁欲的じゃなくて楽しく描こうと意図的にPANを増やしています。
最近気づいたんですが、FIX(カメラ位置固定)を増やすと僕らしい絵づくりになるんですね。
特に、ナギが押入れに引きこもる第7話は、ずっとFIXで僕の地が出てしまったんですけど(笑)。
■これぞ監督の個性?話題になった話数秘話
あおき:第7話は監督から提案した話なんですか?
山本:あれは倉田さんとバカ話をしているときに「『かみちゅ!』」のコタツの回
(第13話、主人公がこたつの中に入りっぱなしの話)を手がけた倉田と「涼宮ハルヒの憂鬱」の
「サムデイ イン ザ ライン」(※放送第9話、隠しカメラで部室をのぞき見する話)を手がけた
山本が組む以上、押し入れのエピソードをやるべきだろう」と。
ナギと仁のひとつ屋根の下生活の蜜月ぶりも描けるし……ということで、あの話ができました。
あおき:密室の話って、演出家は燃えるじゃないですか。
山本監督主導じゃないかと思ったんですけど。
山本:確かに、シナリオの話ができたときには、絵がもう見えていましたね。
それより「喰霊―零―」の第1話ですよ。ショッキングでした。
あおき:第1話は最後の5分(黄泉が第1話の主人公を殺す)をやりたかったんです。
いわゆるギミックやアクションで視聴者をつかむ第1話ってアニメではやり尽くされていますよね。
だったら、技術ではなくて、発想の部分で驚かせるような第1話が必要だと思ったんです。
ただ大変でしたね、普通のTVシリーズの設定が2倍いるわけですから(笑)。
山本:僕もいたるところで「釣り師」と言われていますが、新手の「釣り師」が現れたな、と(笑)。
白石:(笑)。最後に、今年09年のお2人の抱負をどうぞ!!
あおき:一度充電したいですね。ほかの監督さんのもとで演出をやってみて、
自分の仕事を見つめ直してみたいと思っています。
山本:僕はスタジオをもっているので……次の仕事が決まってしまいました。
びっくりするような仕事ですので、楽しみにしてください。
■ライターの対談の感想
初対面でのあおき監督と山本監督だが、対談は和やかな雰囲気で行われた。
それぞれ気になっていることを、お互い質問しあう姿が印象的だった。
実はこの対談、2監督の話がおもしろそう!と思った業界人が大集合。
10人以上のギャラリーが目の前に……。緊張するのも当然です。
■白石稔の両監督の印象
(らき☆すたの白石みのる、喰霊―零―では
桜庭一騎を演じ2監督となじみがあるということを紹介)
二人ともそれぞれ完璧主義。あおき監督はアドリブを入れる隙がない。
山本監督はアドリブを入れる箇所が『わかってるよね?』
といわずもがなであけてあるんです(笑)
■山本寛の演出力
○隅々まで意志がこめられた作品づくり
「山本監督の『かんなぎ』は画面がしかりコントロールされていると思います。
作画に入る前の絵コンテの段階で監督の目がしっかりと行き届いてるからじゃないでしょうか。
必ず太モモのあたりをとらえてから、顔を映すとか(笑)
カメラの動きも意図が明確です」(あおき)
綿密に設計された演出と、明確な意図をもったカメラワークで
緊張感あふれる映像をつくる山本寛。
今回の「かんなぎ」では、原作を尊重しながらも、
遊び心満点の演出とカメラワークを各話に詰め込んでいる。(ライター)
「原作を尊重しながらも」…?
■あおきえいの描写力
○人間の心理の奥底を描き演出に注目
「『SHUFFLE!』」の『空鍋』であおき監督を知ったんです」(山本)
あおきが注目を注目を浴びたのは、05年放送の「SHUFFLE!」19話。
あおきは絵コンテと演出を担当。ヒロインが精神的に追い詰められ、
空っぽの鍋をお玉で延々とかき混ぜるというシーンを最古サスペンス的に演出した。
(ライター)
「人間の心理をえぐるようなホラーやサスペンスを描ける演出家は、
人間というものを理解しているんだと思います。実際にお会いしたら、
ご本人がとてもマイルドなお人柄なので、それを実感しました。」(山本)
以上、『2009年2月号の月刊ニュータイプのキラッ☆とクリエイター2009』より