-チャリン!
暗闇に微かな音が聞こえる。
「け、剣士!」
何やら悲痛な叫びにふと見ると、ラシャラが真っ青になって震えていた。
「ど、どうしたんですか?」
「か、金を落とした」
「ええ?お金、持ってきてたんですか?」
「いや…持ってきてはおらぬ…じゃが落としたのじゃ!」
一瞬、冗談かと思ったが、ラシャラの表情は真剣そのものだ。
「嫌じゃ!ここでは落としたが最後、探せぬ」
-チャン、チャリーン!
再び微かな音が響く。
「落ちた!落ちてしもうた!深い穴じゃ…もう取れぬ。我の手には届かぬ」
ラシャラの口調は幼子のようだった。どうやら何かのトラウマが蘇ったようだ。
情報を総合するに、お金を落として拾えなくて、何やら大変な目にあったらしい。
(…ラシャラ様のお母さん絡みかな?前にもの凄~い…守銭…じゃない、お金
にうるさい人だったみたいだし…)
似たような知り合いを大勢知っている剣士は、同情的な目でラシャラを見つめた。
「いやじゃ!もうここにいるのはいやじゃ…帰る…帰るのじゃ!」
暗闇の中へとラシャラは突如走り出した。
「ラシャラ様!」
と、剣士がラシャラを追いかけようとした時、
-ドゴン!
暗闇の中に大きな音が響く。それはラシャラが壁にぶつかった音だった。
梶島正樹 (2009).
異世界の聖機師物語 富士見書房
P.215-216.