かんなぎ 127柱目

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122名無しさん@お腹いっぱい。
(第6話)

「理・屈・と・は・そ・う・い・う・も・の・だ」

パパイヤ・マンゴーが名産の九州南東部に住む「彼」は、そう力強くキーボードを叩いた。

『論の正誤は、発言者に資格を問うことなく、論自体の妥当性によって決まる。
たとえ聖人君子が言おうと殺人者が言おうと、1+1=2である』

…これが彼のイデオロギーだった。
確かにこれはある意味正しい。ただし、それは「事実」に基づいている場合に限った話である。
「主義主張」や「解釈」のような、万人が必ずしも共有出来ない「価値観」の問題は、主観であり「事実」ではない。
それは人によって変わってしまう「真実」に属する問題だ。「(客観的)事実」と「(主観的)真実」は、同列に並べることは出来ない。
この彼自身の欺瞞は、実は彼自身が一番よく知っていた。

現実の世界においては、見せ掛けの理屈の正しさよりも、人間の価値が問われる。
例えば、学歴や職歴のような実績であったり、人徳であったり、若さや容姿や財産、素質であったり。
それらを一つも持たない「彼」にとっては、「2ちゃんねる」で書き込む「言葉」だけが唯一の拠所だった。

何の実績もない人間が、プレゼン能力だけで大仕事が任される、そんな世界は現実には存在しない。
何の人徳もない人間が、表向き正しいことを言えば尊敬される、そんな世界も、現実には存在しない。
現実世界は、常にその人間の人生の価値を問いただしてくる。

だが2ちゃんねるは違う。
自分の実際の価値と関係ない、言葉の内容だけの世界である2ちゃんねる。
彼の理想郷はここにあった。以来、彼はモニタの電源を一度もOFFにしたことがない。
電源を落として、モニタに現実の自分が映り込んでしまうことを恐れているかのように。