ドラえもんについて語ろう

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52風の谷の名無しさん
ドラえもんの最終回

のび太とドラえもんに別れの時が訪れます。それは、なんともあっさり
と...。

のび太はいつものように、宿題をせずに学校で叱られたり、はたまたジャイアン
にいじめられたり、時にはスネ夫の自慢話を聞かされたり、未来のお嫁さんであ
るはずのしずかちゃんが出来杉との約束を優先してしまう、などなどと、とまあ
、小学生にとってはそれがすべての世界であり、一番パターン化されてますが、
ママに叱られたのかもしれません。 とにかく、いつものように、あの雲が青い
空に浮かんでいた、天気のいい日であることは 間違いないことでしょう。そん
ないつもの風景で、家に帰ってドラえもんに泣き付こうとすると、

ドラえもんが動かなくなっていた...。
53風の谷の名無しさん:2001/01/29(月) 15:29
当然、のび太にはその理由は分かりません。喋りかけたり、叩いたり、蹴っ
たりしっぽを引っ張ってみたりもしたでしょう。なんの反応も示さないドラえもんを
見てのび太はだんだん不安になってしまいます。付き合いも長く、 そして固い
友情で結ばれている彼ら、そしてのび太には動かなくなったドラえもんがどう
いう状態にあるのか、小学生ながらに理解するのです。その晩、のび太は枕を
濡らします。

ちょこんと柱を背にして座っているドラえもん...。

のび太は眠りにつくことができません。泣き疲れて、ただぼんやりしています。
無駄と分かりつつ、いろんなことをしました。できうることのすべてをやったの
でしょう。 それでも何の反応も示さないドラえもん、泣くことをやめ、何かしら
の反応をただただ、 だまって見つめ続ける少年のび太。 当然ですがポケッ
トに手を入れてみたり、スペアポケットなんてのもありましたが動作しないので
す。

そして、なんで今まで気付かなかったのか、のび太の引き出し、そう、タイム
マシンの存在に気がつくのです。ろくすっぽ着替えず、のび太はパジャマの
まま、22世紀へとタイムマシンに 乗り込みます。

これですべてが解決するはずが...。
54風の谷の名無しさん:2001/01/29(月) 15:30
のび太は、なんとかドラミちゃんに連絡を取り付けました。しかし、 のび太は
ドラミちゃんでもどうにもならない問題が発生していることに、この時点では
気が付いていませんでした。いえ、ドラミちゃんでさえも思いもしなかったこと
でしょう。「ドラえもんが治る!」、のび太はうれしかったでしょう。 せかす
のび太と状況を完全には把握できないドラミちゃんは ともにかくにも20世紀へ。

しかしこの後に人生最大の落胆をすることになってしまうのです。 動かない
お兄ちゃんを見て、ドラミちゃんはすぐにお兄ちゃんの故障の原因がわかり
ました。 正確には、故障ではなく電池切れでした。 そして電池を交換する、そ
の時 ドラミちゃんはその問題に気が付きました。

予備電源がない...。

のび太には、なんのことか分かりません。早く早くとせがむのび太に ドラミち
ゃんは静かにのび太に伝えます。 『のび太さん、お兄ちゃんとの思い出が消え
ちゃってもいい?』 当然、のび太は理解できません。なんと、旧式ネコ型ロボッ
トの耳には電池交換時の予備電源が内蔵されており、電池交換時にデータを保持
しておく役割があったのです。そして、そうです、

ドラえもんには耳がない...。
55風の谷の名無しさん:2001/01/29(月) 15:31
のび太もやっと理解しました。そして、ドラえもんとの思い出が 甦ってきま
した。
初めてドラえもんに会った日、数々の未来道具、過去へ行ったり、未来に行ったり
恐竜を育てたり、海底で遊んだり、宇宙で戦争もしました。鏡の世界にも行きまし
た。 どれも映画になりそうなくらいの思い出です。

ある決断を迫られます...。

ドラミちゃんは、いろいろ説明をしました。 ややこしい規約でのび太は理解に苦し
みましたが、 電池を交換することでドラえもん自身はのび太との思い出が消えて
しまうこと、 今のままの状態ではデータは消えないこと、ドラえもんの設計者は
設計者の意向で明かされていない(超重要極秘事項)ので連絡して助けてもらうこ
とは不可能であるという、 これはとっても不思議で特異な規約でありました。
ただ修理及び改造は自由であることもこの規約に記されていました。

のび太、人生最大の決断をします。

のび太はドラミちゃんにお礼を言います。そしてドラえもんは「このままでいい」
と一言、告げるのです。 ドラミちゃんは後ろ髪ひかれる想いですが、何も言わず
にタイムマシンに乗り、去っていきました。 のび太、小学6年生の秋でした。
56風の谷の名無しさん:2001/01/29(月) 15:31
あれから、数年後...。

のび太の何か大きく謎めいた魅力、そしてとても力強い意志、どこか淋しげな目、
眼鏡をさわるしぐさ、 黄色のシャツと紺色の短パン、しずかちゃんが惚れるのに
時間は要りませんでした。 外国留学から帰国した青年のび太は、最先端の技術を
もつ企業に就職し、そしてまた、めでたく しずかちゃんと結婚しました。
そして、それはそれはとても暖かな家庭を築いていきました。 ドラミちゃんが
去ってから、のび太はドラえもんは未来に帰ったとみんなに告げていました。

そしていつしか、誰も「ドラえもん」のことは口にしなくなっていました。しかし
のび太の家の押入には「ドラえもん」が眠っています。あの時のまま...。

のび太は技術者として、今、「ドラえもん」の前にいるのです。
57風の谷の名無しさん:2001/01/29(月) 15:31
小学生の頃、成績が悪かったのび太ですが、彼なりに必死に勉強しました。
そして中学、高校、大学と進学し、かつ確実に力をつけていきました。 企業
でも順調に、ある程度の成功もしました。 そしてもっとも権威のある大学に招か
れるチャンスがあり、のび太はそれを見事にパスしていきます。 そうです、「ド
ラえもん」を治したい、その一心でした。 人間とはある時、突然変わるものなの
です。
それがのび太にとっては「ドラえもんの電池切れ」だったのです。 修理が可
能であるならば、それが小学6年生ののび太の原動力となったようでした。

自宅の研究室にて...。

あれからどれくらいの時間が経ったのでしょう。 しずかちゃんが研究室に呼
ばれました。絶対に入ることを禁じていた研究室でした。 中に入ると夫であるの
び太は微笑んでいました。 そして机の上にあるそれをみて、しずかちゃんは言い
ました。
『ドラちゃん...?』 のび太は言いました。『しずか、こっちに来てごら
ん 、今、ドラえもんのスイッチを入れるから』

頬をつたうひとすじの涙...。

しずかちゃんはだまって、のび太の顔を見ています。 この瞬間のため、まさに
このためにのび太は技術者になったのでした。 なぜだか失敗の不安はありま
せんでした。こんなに落ち着いているのが変だと思うくらい
のび太は、静かに、静かに,
そして丁寧に、何かを確認するようにスイッチを入れました。
ほんの少しの静寂の後、長い長い時が繋がりました。

『のび太くん、宿題は済んだのかい?』

ドラえもんの設計者が謎であった理由が、明らかになった瞬間でもありまし
た。
あの時と同じように、空には白い雲が浮かんでいました。
おしまい。