>>445 地の文は手紙の内容に関する部分だけ抜粋
「悪魔払い(エクソシズム)宣言。
これは、邪悪な悪魔の力に取り憑かれた人間を浄化し、
真の人間性の回復をもたらすための決意表明であり、究極の悪に対する聖戦の宣戦布告文である……」
そこに書かれていた内容とは、恐怖に取り憑かれて偏狭な信仰に救いを求めた人間が、どこまで狂気に走れるかという実例だった。
「……悪魔の巧妙さは、贈り物に対価を求めないことである。
人類に対し、何の見返りも要求せずに、念動力という恐るべき力を付与したのは、
千年先が見通せるという横長の虹彩を持った山羊の目で、人類の末路を正しく予知したからにほかならない。
力は腐敗を招き、絶対的な力は絶対的な腐敗をもたらす。
これは政治的権力に限った話ではない。
身の丈に合わない過大な力は、早晩必ずや、その持ち主を破滅させ、周囲にも多大な惨禍をもたらすのだ」
「……まさしく、この力自体が悪なのであり、念動力が宿っている人間は即、悪魔、魔女とみなされなければならない。
その意味で、六世紀近く前に記された先駆的な名著である『魔女の鉄槌』の汚名は、今こそ返上されなくてはならない。
魔女狩りは、巷間喧伝されたがごとき集団的狂気の産物ではなかった。
科学が未発達な時代においても、直感的に、念動力の存在と危険性を正しく認識した人々は存在したのであり、
そうした先見者たちによるサイコの悪しき種子の排除は、不幸な巻き添えや濡れ衣があったにしても、
全人類的観点からは、正当な行為であったと言えるだろう」
その後は、延々と、呪力を獲得した人間に対する聞くに耐えないような呪咀が続いたが、ついに、核心部分に入った。
「……したがって、悪魔の力に支配された人間に対しては、殺害、浄化して、それ以上の罪を重ねないようにする以外の選択肢はない。
そのための、きわめて有効な手段の一つが、強毒性炭疽菌、通称サイコ・バスターである。
これこそ、まさに神の祝福と言えるだろう。ハレルヤ。神は、どんな時にも、我らに必要な糧をお与えになるのだ」
ここから、ひとしきり、宗教的な熱狂に満ちた文章が続いてから、ようやく、使用法についての説明があった。
「聖粉は、かつて異教徒が政治目的のテロに利用したがごとく、封筒に入れて送ったり、ターゲットに直接噴霧することも可能である。
だが、我らが悪魔払いの聖戦においては、聖ベネディクトのメダイのような聖具を用いることこそが、ふさわしい」
「これは、正義を行い、罪をあがなうための十字架である。
悪魔の足下に叩きつければ、不活性ガスとともに封入された聖粉が飛散する。
それは、たとえ千年期(ミレニアム)を経ても復活し、
極微量であっても、吸い込んだ悪魔の邪悪な死命を制すであろう。ハレルヤ……」
以上