銀魂’〜ぎんたま〜第二百九十二訓

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315風の谷の名無しさん@実況は実況板で
***数ヶ月後***



子供が生まれて、三ヶ月くらい経った頃だろうか。

桂が買い物から帰ってきてから少し様子がおかしい。



松之助を預かりながら、

「どうした?」と聞けば、

「なにも?」と応える。

俺の腕の中で、松坊が暴れる。



「そういや、出かけるとき、髪結ってなかったっけ?」

どうでも良いことなのに、妙にそのときは気になった。

「風が強くてな」妙といえば、こいつも妙だ。

「何かあったろ」俺の追求に、観念したのか口を割った。

「・・・高杉に」
316風の谷の名無しさん@実況は実況板で:2012/11/29(木) 14:06:24.72 ID:Vd9RFk0D0
「はあ?あいつ、最近おとなしいみたいだったけど、江戸にいんの?」

「ああ、今日会った」

逢い引きですか、オイ!!きっと俺はものすごく嫌そうな顔をしたのだろう。



「会って、ただ立ち話をしただけだ。それ以外何もない」と、俺の目をしっかり見て言う。

ふーん。と、興味ないようにそっと桂の髪を上げる。



「・・・」

「・・・」

ピキッ。



「ヅラく??ん、ヅラ君。この跡なあに?」

「なにかあるか?ではきっと虫にでも刺されたのだろう」わざとらしく奴が言う。

「うそつけやああああ??????!!!!何したの、あんた達!!??まさか浮気したんじゃねえだろうなあ!!!!ちょっと、これは問題ですよ??!!

夫婦の危機ですよ!!!俺、元彼とまだ会う彼女とかも絶対許さない方だから!」取り乱す俺を見ても、ヅラは動じない。

「あいつは元彼でも何でもない」しれっと言い切る桂を、ぽかっと殴った。もう妊婦でもないしね。頭を抑えてなにやら文句を言っていたが無視した。てめえが悪い。
317風の谷の名無しさん@実況は実況板で:2012/11/29(木) 14:07:12.36 ID:xoMtphYr0
嫌々ながらも、あの隻眼の男を考える。



高杉よぉ。

何コレ。どういう事?

宣戦布告って奴?

それとも嫌がらせ?



どちらにしても、この子のことを知ったって事だよな。と、腕の中の松坊を見る。

でも、残念。うちの子ですから!!あいつも、俺のモンですから!!



そうなんだ。ずっと疑問に思ってた。あの計算高い奴が、子供を作るなんて芸当、考えなしにやるとは思えない。だったら、答えはひとつだ。



どうしても、欲しかったんだろ?桂との子供が。絆が。それを自覚しているにしろしていないにしろ、お前は望んだんだ。



そのくせ、桂には合意を得ていない、いや、それ以前に気持ちすら伝えていないんだろうから手に負えない。
318風の谷の名無しさん@実況は実況板で:2012/11/29(木) 14:11:35.33 ID:mp9udDQj0
高杉、俺はお前の気持ちが分かるよ。認めたくない気持ちが。

こいつ相手に、本気になるなんて自分、恥ずかしすぎて穴に入っちゃいたいよ。豆腐の角に頭ぶつけて記憶喪失になりたいよ。

でも、穴に入ろうが記憶喪失になろうが、こいつを無くすよりははるかにましだ。



桂は、元々頭の切れる男だ。変なところ鋭いし、聡い。だが、半面、

疎いところはとことん疎い。特に恋愛に関しちゃ、中学生レベルだよ。だから、

てめえの気持ちなんかも、桂は気づいちゃいねえよ。

「元彼でも何でもない」ってさあ。ざまあみろ。

ああ、それは幸いか。

むしろ、お前はそれが望みなのかもしれないな。


だがよ、だったら認めちまえよ。

計算高いあまりに、負けるとわかってる戦に出るのがいやだったんだって。

怖かったんだって。

それが出来ない奴に、俺たちの関係に割ってはいって欲しくない。

やっと手に入れた家族なんだ。

もう、誰にも、奪わせない。
319風の谷の名無しさん@実況は実況板で:2012/11/29(木) 14:12:28.50 ID:xysbIvTq0
俺は、夕食の支度を始める桂の方に向かった。



「なあ、桂」

「・・・なんだ?」

ばっと、大げさに身構える。なにしろ、おれが“桂”なんて呼ぶときはそうそう無い。



「お前と俺ってどういう関係?」

「夫婦にきまってるだろ」

「期限付きの?」

「・・・決まっている」

そうなんだ。そうなんだけどね。



「でもさあ、」

桂は不審そうな顔をしている。多分、何が言いたいか分からないんだろう。


「俺、お前のこと好きだよ」

「!!!!!」
320風の谷の名無しさん@実況は実況板で:2012/11/29(木) 14:20:41.50 ID:lVmhIcAl0
かあーーーっと、奴の顔が紅くなる。超驚いているに違いない。

こいつには、これくらいストレートに言わないとダメなんだ。


「もちろん、月子が、だけどね」

「俺は、俺だ」

「そうなんだけどね??・・・」


桂が男に戻る日は近い。ということは、この、ままごとが終わる日が近いと言うことだ。

そんな間際になってこんなこという俺は、ずるいんだろうか。



「今更だな・・・」

「ん?」

「俺だって、好きだぞ。知らなかったのか?」

「マジ・・・!!!!」


ああ、やられた。

今度は俺が紅くなる番だ。

そんでもって、こういうときに限って余計な奴らが帰ってくる。
321風の谷の名無しさん@実況は実況板で:2012/11/29(木) 14:21:53.02 ID:wy5C5zAq0
「ただいまある????!!」

「あれ、銀さん、顔赤いですよ。熱でもあるんじゃないですか?」



うるさいうるさい。

今、俺はいいところなの!



人生で、一番、いいところなんだから!
322風の谷の名無しさん@実況は実況板で:2012/11/29(木) 14:27:40.89 ID:z+QNywAS0
*** さらに一ヶ月後 ***



ところが、人生で一番良いところは、さらにその後やってきた。



ヅラに俺の子供が出来たのだ!!!



深刻な顔しちゃってさ、「話がある」だって。

苺牛乳を注ぎながら、聞いてたら「・・・子供が、できた」



だなんて!!うは!!



「は!!!???俺の???!!!!マジで・・・・・・!!!!」

うわ??????!!!信じらんねえ!!!うれしすぎる!!!キャッッホウ!!

ヤバイ、神様、いたとしたら、感謝します!!!生まれて、はじめて!!もう立ち上がってアルプス踊りを子ヤギの上でしたいくらい!!

いや、自分で思うくらいだから、そうとう、このときの俺はだらしなくにやけていたと思う。でもしかたない。
323風の谷の名無しさん@実況は実況板で:2012/11/29(木) 14:28:29.23 ID:/Tzeh7Wu0
だが、そのすぐ後、低い声でヅラが言った言葉で、高揚した気分が吹き飛んだ。



「どうする?」



一瞬、意味がわかんなかった。

「え?いや、どうするって何???産んでどっちが育てるかって事?それとも、なんて名前にするかとかそう言う相談???」本当に、分からなかったんだ。



まさか、

「いや・・・産むか産まないか」そんな選択肢を言っているなんて。



思わず、というか、一瞬でかっとなった。同時に、ダン!!と大きい音がした。

「どういう意味?」自分でも怖い声だと思うが抑えられない。

「・・・もう一年、男に戻るのが遅れる・・・」

「だから、その子を犠牲にするってのか??」

こいつの言っていることが理解できない。こればかりはさすがに頭に来る。本気で怒る。
324風の谷の名無しさん@実況は実況板で:2012/11/29(木) 14:33:37.86 ID:AVNYGhX10
「男に戻りたいから、殺すのか?!」

「そう言う意味ではない」

「じゃあなんだ!あいつの子は産めても俺の子は産めないってか?!」

「ただ、これ以上は迷惑になるかと思ってだな」

「もういいよ」



本当に、もういい。こいつは最悪な天然野郎だ。

お前は、産みたくない訳じゃないんだ。

ただ、これ以上万事屋に迷惑をかけたくないと言っているんだ。そうだよな?

こいつには、はっきり言わなきゃ分からない。

どんなに俺が、うれしくて、喜んでいるかも。迷惑なんて思っているはずもないことを。



つっと奴に近づく。怯えたような顔をする桂。

なあ、桂、頼むから。拒まないで。

「迷惑じゃないから、産んで欲しい・・・」
325風の谷の名無しさん@実況は実況板で:2012/11/29(木) 14:34:40.41 ID:6ig0+gVb0
お願い、お願いだから。

俺に家族をちょうだいよ。

俺に、幸せをちょうだいよ。

きっと、同じだけ、返すから。



この、凍てついた氷のような心を、

溶かしてくれるのはお前しかいないんだよ。

昔の俺を知っていて、今の俺を知っている。

そして、側にいて、分かり合える奴は、家族のいない俺にはお前しかいない。



だから、お願い。

一緒にずっといれないのも分かってる。

この夢がいつか終わるのも。

お互いの道が違うのだから。


でも、だからこそ、夢が終わるその最後の一瞬までのお前は、

俺にちょうだい。