>>221 着物の袷をそっと開かれた。妙な気恥ずかしさがあって、高杉にこの行為の必要性の念押しをしなければと思う。お前の計画を知るためなんだ。ちゃんと、分かっているんだろうな。
「そうか・・・正直にはな」せよ、と言いたかった。
ところが、最後まで言えなかった。あろう事か唇を合わせてきた。
!!!!!!何をするのだ、貴様は??!!嫌がらせにも程がある。昨日そんなそぶりもなかったじゃないか。理解できない。俺相手に、貴様は一体何をしているんだ。
と、驚いていると、感触が変わった。どうやら、高杉が嗤ったらしい。
昨日の高杉とは別人ではないかと思うほどに、今日の高杉は俺にそっと触れてきた。まるで、こわれ物でも扱うかのように。
・ ・・なぜ、こんな抱き方をするのだろう。この男は。昨日のように、貴様らしく獣のように組み敷けばいいじゃないか。
自分の快楽のためだけに勝手に突き上げて、俺にはいっそ痛みだけ与えて、何も考えられなくしてくれればいいのに。
何故、そんな優しくするのだ。なぜ、そんな熱い目で俺を見るのだ。これでは、まるで・・・
勘違いしてしまいそうな、女々しい自分に哀しくなる。
昨日とは違った、感情、感触、そして、感覚。
優しくも激しい律動の中、やるせない思いだけが募る。
なんなのだ、一体・・・理解できない。
自分が快楽を感じていることは、せめて奴には知られたくない。
それが、奴の目論見のひとつであるのなら尚更。そこまで、思い通りにさせたくはない。
なけなしのプライドを奮い立たせて、絶対に声だけは出さないようにする。
最中、ずっと、こやつの視線を感じる。
そんなに、おかしいのか?俺のこの姿が・・・
貴様ごときに、組み敷かれて、反応してしまっているイカレたこの身体を嘲笑いたいのか。
そうだろうな、貴様はそう言う男だ。他人の弱みを握って喜ぶ男だよ。
どんなにか、さげすんだ目をしているだろうと、確認しようと目を開けると、思っていたより間近に奴の顔があって危うく悲鳴を上げそうになった。
・・・ああ、恥ずかしいのはお互い様か。
貴様のそんな顔、初めて見たぞ・・・
いつもの余裕綽々の高飛車な態度はどうした。
必死な顔で、そんなすがるような目をして。
何でそんな苦しそうな、つらそうな顔をしているんだ。
貴様にとっては作戦の一環だろうが。もしくは、ゲームみたいなものなんだろう。
この関係を、楽しんでいるんだろうが・・・。
限界が近いのか、
眉間に深くしわを刻み、隻眼を細めてやけに熱く、真摯に俺を見る。
せめてもの、仕返しだ。お前のその顔を見届けてやる。達するときの顔を見てやる。
普通男同士では見ることのない、知られたくないであろう顔。
けれど、その顔を見るたび、燃える瞳を見るたびに、
その熱に、焼かれてしまう。燃えて、燃え尽きて、灰になってしまいそう。
いや、それならまだいい。
燃え尽きあぐねたら、燻ったままの火を持たされたら、耐えられない。たまらない。
きっと、いつまでも火種が残る。
どうせ、お前は消してくれない。
勝手に火を付けて、そのまま去っていく。
悔しさと苛立ちで気持ちが高ぶったせいだ、快楽のせいじゃない。きっと俺は泣いている。
吐息とも、呻きともつかぬ言葉を発して、高杉がきつく俺を抱いた。
瞬間、痛いくらいにこいつの存在を感じる。
どうして貴様は、また今日も、・・・繋がったまま。
おかしな行為(だと思う)が終わった後
決まって奴は一服する。申し訳程度にざっと寝間着を俺に羽織らせ、とっとと窓の方へいってしまう。
こっちを見ているのかもしれないし、外の月でも眺めているのかもしれない。
俺はそれを見て確認する気力も興味もなく、目を閉じた。静かだ。
江戸上空を浮かぶこの船は、鳥のさえずりさえ聞こえない。
俺は、この時間が苦手だ。
だから、早く寝てしまおうと思う。
貴様の戦略を暴くために、利用されているふりをするだけなのに、あの熱いまなざしが頭から離れない。
まるで愛しいものを見るかのような・・・そんな錯覚に陥ってしまう。
訳の分からない感情を植え付けないでくれ。変な熱を残すな。
たちの悪い男だ。貴様は、なんて・・・
「ずるいやつだ、貴様は・・・」
あいつはどんな顔をしただろう。きっと気にもとめていないだろう。
貴様のせいで、俺はどうかしてしまいそうだ。
他人の心は分からない。
でも、自分の心も分からないときがある。
だから、この感情に、名前など付けられない。
俺たちが混ざり合うことのない水と油だとしたら。
火を付けたとたん貴様は簡単に燃えてしまう。
いや、貴様自身が既に熱された油だから、勝手に火がつくのかもしれない。
そんな油に、水が触れたら、蒸発して消えてしまうだろうか。
それとも、少しはその熱を冷ますことが出来るだろうか。
どちらにしても、放っておけば、貴様は燃えて、燃え尽きて、
勝手にいなくなってしまうだろう。
そうなる前に、俺が火を消した方が良いのか?
それとも、お前は燃え尽きることを望んでいるのか?
油は一体、水に何を望むのだ。
(高杉視点)
その日、部屋に帰ると、どうやら桂が風呂に入っているらしい。
一瞬このままもう少し外にいれば、あいつに会わずに済むとも思ったが、
それも昨日のことをきにしているようでばかばかしいと思い直り、部屋に入った。
いつもその部屋でそうしているように窓枠に半分腰掛けた姿勢で煙管をくゆらせる。
昨日、何で俺ぁあんな事をしたのだろうか。
昔から桂は女のような顔立ちをしていて性格がねちねちしたところや保守的で女のようなところがあったが、
魂のありよう、生き様は男そのものだ。そのため、女を見るような目で見たことなど一度もない。
それなのに。
今の桂は、見ず知らずの女だと思えば、確かに美しい。
今まで見たどんな芸子よりも艶やかだ。だが、桂だ。かつて共に闘った仲間だった奴。幼なじみ。
自分は元来性的には淡泊なものだ。あのとき、男として、飢えていたわけでもない。別に女に不自由しているわけでも。
それに、何より、勢いだけで行為に及ぶほど、若くはないのだ。自分も桂も。
それなのに。
机の上に置いておいたはずの紅い簪がないことに気づく。いやに大切にするんだな。
銀時にもらったという簪を俺に触らせることすらいやがる。
昨日は、そんな奴の仕草が妙に頭に来た。昔から、あいつは銀時と共にある。どんな混乱の中も、信頼して、背を預けるのは決まって奴だ。
まあ、彼奴に着いていけるのは銀時くらいだったろうが。
俺は、そういう戦い方は好みではない。てめえの背を誰かに預けて、誰かを守り闘うなんざ、はっきり言ってうっとおしい。
自分の進みたいように進み、闘いたいように闘った方がどれほど良いか。足手まといになられるくらいなら、いない方が良い。
だが、奴らはそんな俺を単独行動だとか無謀な行動だとか言っていたな。
以蔵の奴を斬った後で、あいつらは揃って刀を向けて俺を斬ると言った。ああ、止められるものなら止めてみればいい。
狂っているのは俺か、世界か。そんなことも分からない奴らに俺が止められるはずも無かろうが。
そんな桂が、女になったという。会ってみれば、なるほど元来優男だっただけのことはある。華奢な身体、高い声。抑えつければ、簡単に組み敷かれる。
単純に興味があった。昨日は、あいつの説教めいた戯言にむかっ腹がたったこともあり、ちょっとからかってやろうと思った。
もう二度と、煩わしいことを喚かぬよう脅してやろうと。
あのとき、きっと桂は初めてだった。(女として)
震える身体、俺に触られて、なれない刺激にとまどう瞳。あの気位の高い奴が、どうにもかなわない俺に対して感じる絶望。悔しそうに、流した、涙。
それを目にして、今までないほどに興奮する自分がいた。どう抑えようも出来ない情動、征服欲。結局、そのまま、自分勝手に蹂躙してしまった。
しかも、抱けば抱くほど、自分の熱は上がっていく。どうにも止められないその熱のまま、行為を知りたてのガキのように何度も何度もその中で果てた。
その度に見せる桂の潤んだ目に見える困惑の光と淫猥な色に釘付けになった。
あの高ぶり、気持ちは一体なんだ。皆目見当が付かない。自分の感情をもてあます。
だが、一方で知りたくはないと思う。この葛藤自体が腹立たしい。
・・・それに、不思議なのはそれだけではない。
桂の態度。
あれだけ、最初は抵抗し、殴りつけてくるわ、蹴り上げようとするわしていたものを、一度行為が始まってからは、その最中も、後でも、怒るでもなく、
責めるでもなく、恨み言を一つも言わなかった。観念したからか、その潔さは桂らしいといえばらしいが、それだけでは納得いかないものがある。
なにしろ、あいつの気位の高さは半端じゃない。激高してもおかしくない状態なのだ。
・・・一体なんだってんだ。自嘲気味に嗤う。
どうでもいいことに、今日は振り回されすぎだ。ばかばかしい。
そこまで考えたところで、当の本人が風呂から上がってきた。頭には例の簪がついている。
俺にいることに気づいて、無意識に乱れてもいない襟を正した。
思わず、おかしくなってしまい、
「そんな、おびえんなよ」と、嗤ってやった。それをきいて、即座に「怯えてなどいない」と桂が偉くむっとした様子で言い返してきた。
その反応に気分が良かったので、
「そうかい。昨日は随分ふるえていたみたいだったが」いつになく返答してしまった。
「武者震いという奴だ。貴様相手に俺が怯えるわけがなかろう」などと負け惜しみめいたことを言う。愉快だ。そこで、さらに
「そうだったな、痛くも痒くもねえんだろ」とい言えば、桂が、低い声で
「お前の考えていることは、昔からわからん。俺は貴様のそう言うところが嫌いだ」と言った。
高揚した気分はそれで消えて、一つの疑問に思考が戻る。
「嫌いな男に」と言いかけて、さて、なんて切り出したものかと迷う。
考えをまとめようと煙管を一口。すると、桂が部屋を出て行こうとするので、呼び止めた。回りくどい聞き方はこいつに通用しねえ。
「何で責めねぇんだ?」
「気にしていないと言ったろう。昨日のこと、俺は別に怒っていない。ただ、不思議に思っていただけだ」
桂が振り向いたとき、今日初めて目があった。
「貴様は、昔から、派手で一見して無茶な戦い方をする男だ。だが、それは無鉄砲で考えなしというわけではない。貴様なりの緻密な計算合ってのものだったことを俺は知っている。
お前は、無謀に見えて、その実誰よりも計算高い。だから、俺とは戦略方法で衝突することも多かったが、半面、高杉のすることに間違いないと信頼もしていた。
けれど、一方で貴様は目的のためには手段を選ばない男だ。ひどく言えば、自分の目的、計画のために仲間をも平気で捨て駒に出来る奴だ。
俺は、貴様の、そう言うところが本当に嫌いだ」
あたらずとも遠からず。こいつは俺のことをそれなりに理解しているのだろう。
「・・・フン」
「紅桜に飲まれたあの男のことも、お前の計算のうちなのだろう。・・・哀れなものだ」
「あれは、奴が望んだことだ」
「そういうもっともらしい理屈付けをするところも嫌いなんだ」
「嫌いなとこばっかりだな」自嘲気味になる。
「昨日は、・・・俺のことも、あやつと同じなのだろうと思った」
「・・・・」なるほどな。だからか・・・。桂の行動に妙に得心がいく。
こいつは、こういう奴だ、昔から。自分の身のことなど何とも思ってはいない。以蔵に斬られたときですら、自分の斬られたことに怒ったのではない。
俺がしようとしていることに怒り、阻止しようとしてきた。大切なものを守るためならば、自分がどうなろうと関係ないのだ。国でも人でも。
目的のために手段を選ばない、という意味では、こいつは俺と似ている。ただ、犠牲にするのが他人であるか、自分自身であるかだけの差だ。
だが、その差は大きい。だから、いつも相容れない。
「貴様はそう言う男だ、昔から。だから、別に怒ってはいないし、責めるつもりもない。だが、なんの目的なのかが釈然としない。俺と身体を合わせることで」
「お前は、相変わらずなんだなぁ、ヅラ」最後まで言い終わる前に、言っていた。
「人はそうそう変わらぬよ・・・狂ってしまう奴もいるようだが」
お前は分かってるようで分かっていねえよ、ヅラ。何でもかんでも計画通り行くわけがねえだろう。他人もそうだが、自分自身さえ。思い通りにならねえことがある。
「男が女に興味を示すのに、理由なんかありゃしねぇだろうが」
「得意の理屈付けか。そんな甘いものではなかったと思うがな」
確かに、和姦じゃねえからな。
「大体そんな理由だとしたら、俺などに手を出さずとも貴様は、昔から女には不自由していないではないか。不思議と女にはもてていたみたいだからな。
貴様のような男の何処が良いのか・・・その危険な感じがうけるのだろうか??俺のような誠実な男の方がよっぽど良いと思うが・・・・」
どうでもいい話をしながら、なにやら考えている様子の桂。
そんなことは承知の上だ。承知の上で事に及んだのだ。それがどういう意味か、お前には分かるめえよ。
俺ですら分かりかねている。お前の言う、戦略の元でしか動かないだろう俺が、なんの考えもなくお前を・・・・ああ、ホントに。この感情は。
「ほんとにな・・・お前は気持ち悪かった」うんざりだ。
独り言のように呟いたのを、ちゃんと桂には聞こえていたらしい。
「そうか?その割には随分良さそうな顔をしていたがな!」と、意気込んで言ってきた。
ああ、勘違いすんじゃねえよ。
「・・・身体(そっち)の話じゃねえ」
桂は、気分を害したのか益々怒りだし、ずかずかと出ていこうとする。
まただ。
無意識に俺は奴の腕を掴んでいる。
「お前はどうなんだ」
「どうって何がだ」
「嫌だったか」
「はあ?なぜそんなことを気にするのだ?俺がどうだったかなんてお前に関係ないだろう」
確かにな。掴んだ腕を放す。ああ、本当に昨日から俺はどうかしている。
「・・・・いいはずないだろうが」ややあって、ぽつりと桂が言った。予想通りの答えだ。
「・・・だろうな・・・」
「・・・・だが」
「・・・・」
「必要ならば、別にかまわん」
「?!」一瞬、耳を疑った。何を言っているんだ、こいつは。
「その代わり、貴様の目的を正直に話せ」
「・・・・お前は」・・・そう言うことか。馬鹿正直でくそ真面目な桂。納得できないから、
あくまでも、理由を付けたいのか。あの行為に。
俺自身ですら付けようのない理由を。
だとしたら、
お前の望み通りにしてやろう。
その理由を知ったとき、お前はなんて顔をするだろうな。
その顔を見るのもまた一興。
そのために、
もう少しつき合ってもらうぜ。理由探しにな。お前が知りたいと言ったんだ。
「後悔、すんなよ」
奴の肩を両手で掴んで、引き寄せる。奴の髪をとめているあの紅い簪を、触るなと言った簪を、思い切り噛んで、抜き落とした。
カチャンと、床に高い音が響いて、桂の長い髪が散らばる。
あの、匂いがした。
「もう少ししたら、教えてやる」
耳元で、低くささやく。奴が小さく身震いするのが分かった。それだけで、俺は簡単に興奮するんだ。桂、お前は知っているのか?
着物の袷をそっと開く。そこには、紅い跡がいくつもあって、滅多にしない自分の愚行にあらためて驚く。
と同時に、妙な熱がこみ上げてきて止まらない。
「そうか・・・正直にはな」
最後まで言わせない。口づける。
驚いたのか、なんなのか、桂は見開いたまま目を閉じない。その不慣れな様子がまたおかしくて、笑みがこぼれる。
この日は、今までのどの女にもしたことがない程に、そっと、丁寧に桂に触れた。
ばかばかしい話だが、昨日の乱暴な行為が自分の全てだと思われたくなかった、
何とも複雑なプライドだったのかもしれない。(同じ男としての沽券に関わるからだ)
桂は終始とまどったような表情を見せたが、存外、感じているのではないだろうか。(そう思いたいだけか)
昨日もそうだが、目を潤ませて、やるせない表情をする割に声の一つも上げないのは、奴のプライドのなせる技か、他の目を気遣ってのことか。
はたまた・・・。
行為に没頭していると、体も心も燃えてしまいそうだ。
体温の低いこいつが、俺の熱を冷ましてくれるかと思ったが、それは逆で高められる。
俺の熱が移ったのか、こいつも燃えるように熱い。熱いくらいの、熱と熱が合わさって、何とも言えない気持ちになる。
どうして、こいつはこんなに心地良いんだろう。
だから、どうにも加減がきかない。
じっとこいつが俺を見る。ああ、それだけで俺はもうとっくに限界を超えている。
今までの癖で、ここで抜けなきゃ行けないと頭で分かっていても、
どうしてもこいつから離れられない。
結局、最後の最後まで、こいつの中に捕らわれる。
そうして、俺が絶頂を迎えた時、極まったのかぽろぽろとまたこいつが泣いた。
たまらず、その身体を抱きしめる。
名残惜しいが、体を離した後、
奴にざっと着物を着せると、煙管片手に窓へ向かった。
どうにも、さめない熱を風に晒して落ち着かせたい。
頭を冷やしたい。明るい月夜に、あいつの肌がやけに白く光る。奇麗だ、と思った。
今宵は満月。
満月は人を狂わせると言うが、じゃあ狂ってしまうのは人だという証か。
寝ているのか、起きているのか、桂は身動きひとつしない。そのうち、
「ずるいやつだ、貴様は・・・」
小さく呟いた。その言葉は、やけに響いた。部屋にも、心にも。
そんなことは、言われなくても知っている。
だが、今、この行為に理由を付けられないのと同じように、
この感情に、名前を付けることは出来ない。
桂よお、どんなにあがいても、混ざり合おうと思っても、俺とお前は所詮水と油。相容れない存在だ。共通点は、液体と言うことだけ。
だとしたら、銀時の奴は、氷だよ。液体じゃないが、水とは融点さえ合えば解け合える。お前らは、そんな関係だ。
ただ、今まで、融点の折り合いが付かなかっただけだろう。
俺と銀時は・・・似ても似つかない。
たとえ俺が凍ったとしても、あいつが解けたとしても、決して混ざり合うことはねえ。
けれど、
きっとお前達も、これから先、混ざり合うことはないと俺は思っている。
なぜなら、水、油、氷。それぞれのその形が、俺たちのありようなのだから。
それぞれの、人生そのものだから。
なにより、俺たちは。
そうでなくては、生きていけない。
余談:蜜月
桂(月子)が鬼兵隊に来て何日か経った頃、万斎にそろそろ桂を売る時期じゃないかと持ちかけられた。
おそらく、俺と桂の中を察しているのだろう。こいつは騎兵隊の中でも一番聡い。その上で、あえてこう聞いてきた。
「予定の変更もあるのでござろうか」
桂共々、迎えに来るであろう将軍を爆破。
それでいいのかと言っている。
「万斎。もし、将軍がめとった女がすでに孕んでいたとしてよぉ・・・知らずに、幕府がその子を時期将軍にしたとしたら、面白いとおもわねえか?」
と、冗談めいて言えば
「・・・それが狙いでござるか」と返してきやがった。
お前には分かるまいよ。俺たちのことなんざ。
「だが、それじゃあ、この世界をぶっ壊すことにはならねえよ。俺はそんなに気が長い方じゃねえ」
万斎、聡いお前のことだ。ここまで言えば、きっと桂側に考えが合っての情事と納得するんだろう?
いや、今一番そう思いたいのは、俺の方かもしれねえが。
桂との関係に、何でも良いから理由を求めているのは、万斎、てめえより俺の方なんだよ。
「・・・折を見て、将軍に使いを出すが、今はまだその時期じゃねえ」と言って、話を終わりにした。これ以上、こいつといると痛くない腹を探られそうだったからだ。
毎晩のように、桂を抱いた。
何度か身体を重ねても、奴が声を立てることはない。
「この部屋には誰もちかよりゃしねえよ」と言っても、何の反応も示さない。
だが、俺には分かる。
徐々にこの身体に馴染んできているお前は、もうとっくに快楽を知っている。
知っていて、認めまいと、俺に悟らせまいとしているんだ。
桂、今日ばかりは俺の我が儘につき合っちゃくれねえか。
もう、時間がないんだ。
何度も何度も角度を変えてはその身体を探る。
お前の反応するところ。
「っ!!!」
探り当てた、そこをしつこく責めれば、お前は泣きそうな顔をする。
「やめろ!高杉」
「あァ?もっと、の間違いだろ」と言ってやれば、その顔に絶望の色が浮かぶ。
残念だったな、聞きてえんだよ、こっちは。
お前の声を。心の声を。本音を。
奴が、耐えようと自分の腕を噛もうとしたので、その腕を捕った。させねえよ。
その腕を俺の背中に導き、さらに激しく揺さぶる。
心底悔しそうな顔をした一瞬、あいつは堕ちた。
「!!ああああ・・・!!!」
心の叫び。
ギリッと、俺の背中に爪が食い込み、奴の身体が痙攣する。俺をぎゅうぎゅう締め付ける。
くっ・・・俺も耐えるので精一杯だ。
ああ、その顔。見たくて見たくてたまらなかったモノが、やっと見れた。
一度あふれたものは止まらない。ぽろぽろ涙を流しながら、何度も喘ぐ。
「ああ・・・」そんな切ない声がとにかく聞きたくて。だが、夢中になればなるほど、自分の首をも絞めている。
もっと、この時間が続けばいいのに、自分の熱に耐えられない。
俺が達したとき、こいつは震えながら俺に「変態」と吐き捨てて、気絶した。
その様子が、おかしくておかしくて。知らず笑いがこみ上げる。
最高だ、てめえはよ。
俺なんかに逝かされて、喘がされて、さぞかし悔しかったんだろ。
気位の高いお前のことだ、刀でもあれば簡単に腹でも切ってしまいそうだな。
俺を変えたあの日・・・あの人が居なくなってから、こんなに気分が良い日はない。
安っぽいが、これが征服感というモノなのかもしれねえ。
眠る桂の胸もとにそっと顔を埋めて口づける。そのまま、きつく吸えば、紅い跡が付いた。
肌が白いから、余計に紅く見える。奇麗だ。
そう。
あの、簪よりも、きっと紅い。
(桂視点)
何度目かの同衾を経た夜、
「この部屋には誰も近寄りゃしねえよ」と奴が言った。
その時はどういう意味か測りかねていたが、この日の奴の行動でその言葉の真意を察した。
やけにしつこく、俺の反応を伺っている。
「っ!!!」
突然、変な感覚を覚える。いやだ、この感覚は怖い。思わず、今までしたことのない懇願をする。屈辱的だが仕方ない。
「やめろ!高杉」
それに対して、奴はやはり無慈悲だった。
「あァ?もっと、の間違いだろ」
そういって、さらに激しく俺を揺さぶる。・・・ああ、もう、ダメだと思った。
せめて、と思って自分の腕を噛もうとしたら、あっさりあいつに捕まれ、その手を背中に回させられる。
瞬間、
「!!ああああ・・・!!!」
何とも言えない感覚に襲われ、達した身体がのけぞる。声を抑えることも出来ない。
つらくて悔しくて、ギリッと、奴に爪をたてる。身体が痙攣するのを止められない。
「ああ・・・」言いようのない達成感と、恥ずかしさのなかで、知らず涙があふれる。
くやしい、こんな男に・・・俺は。負けた。
それからは、奴が律動を繰り返すたびに快感が襲ってきて、変な声を上げていたと思う。
繋がったまま、低く呻いて、奴の動きが止まった。
だから、荒い息の中で、恍惚とする奴に言ってやった。
「変態」・・・。
自分でも分かるほど、ひどくかすれた声だったから、伝わったかどうかは分からない。
でも、言い直す気力もないし、
なにより、
そこで意識を失ってしまった。
白濁した意識の中で
こいつが女にもてるのが、少しだが分かった気がした。
あんなにも横暴で、荒々しく、燃えるような身体と情熱を流し込むくせに、
いつもどこかに、優しさと哀しさを垣間見せる。
こんなに、切ない気持ちにさせる男はそういない。
どうにも、たまらない。
つなぎ止めたくて、たまらなくなるんだ。
それが、なんて言う感情なのか、
考えたくもないけれど。
銀時が、迎えに来てくれた日。
高杉が、俺に将軍を寝所で殺せと、短刀を押しつけてきた。
今までの行為が、その為だったのかとそこで悟った。
貴様は、俺を男に馴染ませるために抱いたのか。だとしたら、ずいぶんと見くびられたものだ。だが、いかにも貴様らしいよ。
駒の気持ちなどどうでもいいのだろう。貴様の世界は貴様中心に回っているのだろうからな。
だがな、高杉。
そうだとしても、俺にはひとつ解けない疑問があるんだ。
ただただ男を教え込むための行為ならば、なぜ貴様は・・・
あえて子供が出来るようなことをする?
色町でも、街娘でも、女に不自由しなかった貴様がそんなヘマをするとは思えない。
将軍を俺が殺したとき、俺は確実に死ぬだろう。
将軍を俺が殺せなかったとき、腹に子供がいたら堕ろされるかもしれぬし、将軍家から出されるかもしれない。
どちらにしても、お前にメリットはないはずだ。
どう考えても、俺にお前の子を宿す理由が分からない。
??????高杉、お前は一体何を考えているんだ?
6.5 夫婦の絆
(銀時視点)
夫婦として暮らすことになった手前、以前のように桂をソファーに寝かせるわけにはいかない。
なにより、妊婦にそんなことをした暁には、周辺の女共に殺されかねない。
というわけで、例の寝室に二つ布団を引いて寝ている。
桂は、当然のごとく夜の仕事をしていない。つまり、のんきな専業主婦というわけだ。いいですね??コノヤロ??!
しかし、妊娠にも驚かされたが、その相手にもまたびっくりだ。一体全体どういう経緯でそう言うことになったのか、桂はともかく、あの高杉が!!
聞きたいことは山のようにいっぱいあるが、何となく聞けずにいる。どうせ聞いてもあの調子じゃぁ、応えてくれないだろうしな。
この桂にねえ????。
たまたまこちらを向いて寝ていた奴の顔をちらりと見た。ちゃんと目を閉じて寝ている顔は、まあ、可愛いと言えないこともない・・・って、おいおいおい!!
別にやましいこと考えている訳じゃないからね!!!
でも・・・
でも、もしも。
こいつが見ず知らずで出会った女だったら。自分はどうだろうとちょっと考えてみる。最初、依頼に来たとき、「やべ??、超好み!」って不覚にも思ってしまった。
でも、後にこれが電波野郎だと分かったら俄然そんな気持ちは萎えたわけで・・・。
っつ??か、高杉と桂がねえ・・・とまた思考が戻る。
お互いを知りすぎているだけに、どうにも想像しそうになる。いやいやいや、ナイナイナイ!!ないから!!気持ち悪いから!!マジで!!!
・・・う????ん。どうしたもんかねえ。
再度、桂に目をやる。相変わらずよく寝ている。
ていうか、子供が出来るってどんだけよ??
一回や二回じゃないよね?
もう毎日って感じなの?
そんなに桂っていいわけ・・・・って、だから、ないから!!ナイナイナイナイ!!
再々度、桂を見る。うっすら唇が開いた。
なんなの。あんた。隣にこんないい男がいるのに、何の危機感もなく、熟睡ですか。そうですか。
一発ぶん殴ってやろうかとも考えたが、女でしかも妊婦なので、思いとどまった。
ていうか、何で俺があいつらの子を育てなきゃなんないわけ?
あいつが男に戻って子連れで党に戻ったら(恐らくそうなる)
俺は奥さんと子供に逃げられた、ただのマダオだよ?!
俺があの獣の子の面倒を見ないと責められて、
当の野郎はおとがめなしのやり逃げですか?!
納得できねえ??????!!
いや、そういや、それ以前にあいつは、こいつの妊娠知ってるの?
しらね??だろうな。知ってても、きっと俺の子だとか思いそうだよな!
んだよ??????!無責任なマダオじゃねーか、あいつの方が!
くっそ????、何で俺ばっかりこんな外れくじ引かなきゃならないわけ??
だって、だってさ、この先 結野アナとかさ、きれいなお姉ちゃんと知り合ったとしてさ、もしかしたら交際・・・ってなことになるかもしんないじゃん!!
それなのに、そんなことしようもんなら、“不倫”になっちゃうんだよ!!
手も握っちゃいない、この電波な奥さんがいるせいで!!!
あ????やってられね??よ!
と、桂を再び見た。
「何をさっきからぶつぶつ言っているのだ、うるさい」
ギャッ!!!と、あやうく悲鳴を上げてしまうところだった。
桂がしっかり起きていて、あの黒い目でこっちを凝視している。
「貞子か!!!お前は!!」
「貞子ではない、桂だ」
「今は坂田でしょ」
「あ、そうだった、坂田だ。あほではない。」
「アホは余計だ、ボケ!!」
「言いたいことがあるなら、俺にはっきり言え。ぶつぶつ文句を言われながら俺の顔を見られるのは耐えられん」
いつの間に起きてたの!!マジで気持ち悪いこいつ!!
心底嫌そうな顔を桂がするので、誰のせいだ!!!と、正直はったおしたくなったが、偉い俺はぐっと耐えた。
「じゃあさ、言わせて頂きますけど、」
と言ったら、桂が、うむっと偉そうに相づちを打つので、
「高杉と何発やったの?」と言ってやった。そしたら、
ものすごい剣幕で殴られた。
「てめ????、言えって言ったのてめえだろうが!!この借りは、男になったら倍返しだかんな!!いや、十倍返しだな!!!」
「ああ、男になったら好きなだけ殴りかかってこい。返り討ちにしてくれるわ。大体、貴様は無粋なことをづけづけと・・・」
「だってさあ。気になるじゃん。夫としては」
うっと桂が言葉に詰まる。
一応、迷惑かけているという自負は、義理堅いこいつには人一倍だ。
「そんな回数が知りたくて、文句をたれていたのか・・・仕方のない奴だ。そんなの聞いてどうする」
「気になるって言っただけです??。別にどうするもこうするも」あれ?いやいや、どうするつもりだったんだ、俺は。そもそも何でこんな話してんの?
確かに、どうでも良いことだよな・・・。うん、どうでもいい。なのに、なんで。
と、考えていると、なにやら横で桂が眉間にしわを寄せながら指折り数えている。
「いち、にい、さん・・・」
「はっ、ちょ、辞めて辞めて辞めて!!!いい、そんなん知らなくて良いから!!お願い、辞めて!!!」とあわてて止める。焦った??!やだこいつ。
くそまじめな奴はこれだから困る。マジ、リアルな数教えられてもどうしていいかこまるだろ??がああ!つーか、思い出されるのもいやだっつーの!!
「なんだ、貴様が教えろと言ったのではないか」と、むっとする桂。
マジこいつ、何なの。
天然とか言うレベルじゃないんですけど。
「しかし、お前相手に・・・高杉もすごいね!尊敬しちゃう!ある意味クララが立つよりすごいことだよ、これは!!」
「さっきから、やたら高杉、高杉と・・・お前は、一体何を言いたいんだ」
・ ・・たしかに。俺は一体何を言いたいんでしょう。で、どうしたいんでしょう。
「文句がないなら、もう寝ろ」
といって、布団をかぶり直す桂。
くそ??、俺がこんなにもやもやしているというのに、こいつは気にもとめず熟睡しやがるんだよな、と思うと無性に腹立たしい。
「まてい!!」
俺は桂の布団に滑り込んだ。
「何なのだ、一体」自分の後ろにいる俺に振り向きもせず、うんざりしたような声を出す。その細い身体を、初めて抱きしめた。何とも言えない匂いがする。
「確かめさせて」
「何を?」
「・・・夫婦の絆?」
「はあ??」
いや、実際。
こいつの布団に入った俺は、やばかった。
自分でも信じられないと思う。
でも、これが真実だ。
なんでこんなに高杉のことが気になったのか。
なんでこいつに腹立たしさを感じていたのか。
こんな俺もいたってことなんか知りたくもねえ。
なのに、その半面、ものすごく知りたいんだ、お前のこと。
馬鹿正直で、くそ真面目で、電波野郎なのに、
まっすぐな魂を持つ、自己犠牲型の理想家。
昔からひとつも変わってない強い意志と、生き様。
それでいて、なんだか支えてないと倒れちゃうんじゃないのと思うくらい華奢で。儚げで。それなのに、一人でいろんな事全部抱え込む。
俺も高杉も知ってた気の抜き方を、こいつは知らない。いつも走り続けている。
いつか、倒れちまうんじゃないの?っておもってた。
もっと、周りに頼って良いのに。
そんな不器用さが、女になっても変わらなくて、なんだか妙に感心してしまう。
こんな女が本当にいたら、たまらないよなあ。
「俺も、クララが立つ気持ち、分かったかも」
「だから、クララっていったい何のはなしだああああ!!!」
桂は、仕方ないと思ったんだろう。
それとも、お詫びにとでも思ったのだろうか。驚くほどまったく抵抗しなかった。
どころか、なんだかうっすらと笑ったような気がする。なんだか、これって。
(本当の夫婦みたいじゃないか?)
桂の裸を初めて目の当たりにして、沸騰しそうになる意識の中で、前に進もうか、やっぱりよすか、巡回する。
こんなに迷ったことは生まれて今までないって言うくらい。
何度も、その白い身体を指や唇でなぞる。細くて、壊れそうな女の身体。触れて、その感触を確かめる。反応を見逃さない。
途中で、あの片目のニヤリ顔がちらついた。男だったときの桂の顔も浮かぶ。子供の頃のあいつらや、あの人の顔だって。
少し離れたところに神楽だっているし、ストーカー忍者もいないとは限らない。
こんなに、今まで頭の中がゴチャゴチャになったことなんかないってくらいに、いろんな事が頭を巡る。何してんだろう、俺、というさめた自分もいて。
でも、それを、全部ひっくるめても、
なんだかこの腕の中の細いからだが大切なもののように見えて、
ああ、何でこいつの身体知ってるの俺だけじゃないんだろうなんて訳の分からない嫉妬まであって、たどり着く結論はいつも同じ。
やっぱり、こいつとつながりを持ちたいと思う。
そして、この頭が沸騰しそうなほどの熱が、一体どこから来るのかも確かめたい。
だけど、俺はどうしてもここから先に進めない。
どうしても、あと一歩が踏み出せないでいる。
口づけすら、戸惑って出来ないでいる。
今まで築いてきた、何か。関係?絆?友情?
何かが壊れてしまいそうで。
それで、壊れた後はきっと元には戻らない。
でも、・・・・それでも。
この先を、知りたくて、知りたくて仕方ない。
どうする、・・・どうしたら?
あいつも、こんな事考えたんだろうか。
多分、長い沈黙の後、桂が儚い声で
「銀時」俺の名を呼んだ。
そのとき、俺は心を決めた。
初めて、その唇に口づける。
でもどうしても、そこから先は、
一人よがりで進みたくない。
いやならいやって言って欲しい。いいなら、いいって確認が欲しい。
だから。
「・・・いい?」と聞いてしまった。こんな状況で、ひどく間抜けだと思ったが。
コクリ、と、桂は頷いた。
ごめん、ずるい俺は、共犯にしてしまった。
ながい困惑の末に、
たどり着いた桂の中は、恐ろしいほどに熱くて、
本当に解けてしまいそう。
それとも、俺がずっと冷たかったから、そう感じるのだろうか。
どうしようもない、熱が引かない。
あいつの熱が伝わって、どんどん体中が熱くなって、本当に沸騰してしまううんじゃないかと思う。
こんな気持ち、初めてで、なんだかよく分からない。
すがるように奴の腕が伸びてきて、俺の腕を掴む。
なんてこった、・・・繋がっているんだな。どこもかしこも。
心までひとつになって、このまま解けてしまえたらいいのに。そうだ、俺を溶かしてくれよ。そして、お前の一部にしてくれよ。
解け合ってひとつの物質になってしまったら、もう、離れることもないんだから。
体中が沸騰して、
ああ、おかしくなってしまいそう。
いや、実際、既に俺はおかしくなってまったかもしれない。
このまま。
こいつと、本当の夫婦になるって言うのも、案外悪くないと考えるほどに。
ああ、きっと、ずっと、俺は家族が欲しかったんだな・・・・と頭の片隅で僅かに思う。
“大切なものは、亡くしてから気づいても遅いんですよ。だから、大切だと思ったら、そのとき、大切にしなくてはいけません”・・・あの人の言葉が浮かぶ。
熱くて、熱くて。
奧にしまいすぎて、凍てついていた心が溶かされていくようだ。
溶けて、溶けて、俺の顎から滴がぽたぽた流れ落ちた。
だからか、桂は、うっすらと目を開けて俺を見た。
その、瞬間
ぼろり、と桂の目からしずくが伝う。
・・・なんだ、俺が流していたのはきっと汗じゃない。
お前と一緒だよ。
それがうれしい。
いや、これが、幸せという感覚なのかもしれない。
翌日。
すでに寝室にあいつの姿はなく、
なんかきっと、怒られるか、嫌みを言われるんだろうな??なんてちょっと気まずい思いをしながら起きると、いつものように桂は既に朝食を作っていて。
いつものように俺と神楽を起こしに来て。
「おはよう」いつもと変わらず、凛とした笑顔を見せた。
一瞬、あれは夢だったのか?と思ってしまうほど、変わらないいつもの光景だった。
なんかちょっと・・・・
少しくらい、照れて俺の顔見れない????!みたいなそぶりがあって欲しいような・・・
俺だって・・・昨日のことを思い出したら、恥ずかしいよ!久しぶりだったから・・・イヤイヤ、そう言うわけでもない(わけでもない)けど、
ちょっと余裕なくて、あんまり、いや相当、かっこわるかったんじゃないかと思う。あいつ相手にかっこつけるのも気持ち悪いが、何か・・・
あの、普段は僕こんなんじゃないんで!!!って、もっとすごいから!!って言ってやりたいくらいだけど。いや、相手が男だった奴なだけに、
なんか男としてのプライドがね・・・・・て。
ああ、ばかばかし。何考えてんだか。
「あ??新聞・・・」と、取りに行こうかと思ったとき、丁度桂が捕ってきてくれて、手渡してくれた。「ど??も」と、
何気なく(本当に何気なく)奴の顔を見たら、ばっちりと目があった。
その瞬間、
なんと、奴の顔が、かあーーーーーっつと、真っ赤になったのだ。
えええええ????どゆこと???!!!
幸い、神楽は定春に気を取られていて見ていなかったようで幸いだった。
よかった。つられて、俺の顔まで紅くなったところ、見られてないだろうなぁ・・・
ああ????高杉君、ごめんなさい。もう、俺、こいつは誰にも渡さないわ。
お前にも絶対渡さない。
残念だったな。あとで、やっぱ大切なんで返してくださいっつっても無理だから。
銀さんは、一度守ると決めたら守るから。お前も知ってると思うけど。
それに、俺は独占欲強いからね。
「おはようございま??す!」と新八が入ってきて、また、桂はいつものやんわりとした笑顔に戻った。
この日、
みんなにとってはいつもの朝かもしれないが、俺にとっては、特別な朝になったんだ。
桂。
もし、俺たちが、水と氷なら。
解け合えなくとも、お前の上に浮かばせて。
そうしたら、半分はお前に包まれて過ごせる。
残りの半分は、俺が俺であること、曲げられない生き方だけど。
半分は、お前と共有できるんだ。
もし、高杉が油だったら。お前とは絶対に混ざり合わない。
俺と混ざり合うこともないだろう。
でも、知ってるか?
水と油と氷を一緒にしたらどうなるか。
水と油の合間に、氷が浮くんだよ。
不思議な関係だよな。
お互い、その形を保ったまま
水、氷、油の順で静止する。混ざらずに。
俺たちは、三人とも相容れない。
誰の生き方にも誰も沿えない。
今回は、神のいたずらか気まぐれか
めちゃくちゃに攪拌されたけど、
少し立てばまた元通り。
おれたちは、それでいい。
それがいい。