>>216 「貴様はそう言う男だ、昔から。だから、別に怒ってはいないし、責めるつもりもない。だが、なんの目的なのかが釈然としない。
俺と身体を合わせることで」何の得があるのか。そう言おうとしたら、最後まで言い終わる前に、話の腰を折られた。
「お前は、相変わらずなんだなぁ、ヅラ」
「人はそうそう変わらぬよ・・・狂ってしまう奴もいるようだが」じろりと奴を見ると、
何がおかしいのかクククと、また笑った。
「男が女に興味を示すのに、理由なんかありゃしねぇだろうが」
「得意の理屈付けか。そんな甘いものではなかったと思うがな」
キッと睨み付けると、高杉が嫌に真剣な面持ちで見据えてくる。なんだというのだ、一体。おおかた、俺をかくまったのは幕府にでも高額で売りつける気だろう事は予測していた。
しかし、俺に対してああいった行動に出る意図が今ひとつわからない。俺の理解を超えている。
超えているところで、こいつが良からぬ事を考えていて、その為に俺を利用しているのだとしたら、その計画を暴いてやりたい。
そして、阻止せねばならない。
「大体そんな理由だとしたら、俺などに手を出さずとも貴様は、昔から女には不自由していないではないか。不思議と女にはもてていたみたいだからな。
貴様のような男の何処が良いのか・・・その危険な感じがうけるのだろうか??俺のような誠実な男の方がよっぽど良いと思うが・・・・」
最後は、我ながらひがみっぽくなってしまったと思った。というか、別に俺だってもてなかったわけではないぞ。
うむ。国を救う大事に色恋などというものにうつつを抜かせなかっただけの話で・・・などと考えていると、奴がつぶやくように吐き捨てた。
「ほんとにな・・・お前は気持ち悪かった」
!!!なんたる暴言!!!!なんて男だ!!言うに事欠いて気持ち悪いとは!!!俺のせりふだ、それは!!!なぜか無性にカチンと来た。
「そうか?その割には随分良さそうな顔をしていたがな!!!」と言ってやった。
「・・・そっちの話じゃねえ」
どっちの話だ!!!全く意味がわからん!!こいつのこういう人を食ったところが、ああ、俺は本当に嫌いなのだと心底思った。
そして、もうこいつと話しても意味がないと思ったのでそうそうにその部屋を出て行こうと思った。ところが・・・・
「お前はどうなんだ」と腕をぎゅっと掴んで高杉がきいてきた。
「どうって何がだ」
「嫌だったか」
「はあ?なぜそんなことを気にするのだ?俺がどうだったかなんてお前に関係ないだろう」
高杉が腕を放した。なんだというのだ、一体。どうせ貴様の良からぬ計画とやらのただの駒なんだろうが、俺は。
そして、貴様という奴はその駒がどう思おうと、どうなろうと知ったことではないはずだ。何を今更、殊勝な面持ちでそんな事を聞いてくる?何を気にしているというんだ。
「・・・・いいはずないだろうが」貴様がよく分かっているくせに。貴様が気持ち悪いというのなら、こっちはそれ以上にはるかに状況的に気味が悪いわ!!
「・・・だろうな・・・」
「・・・・だが」ひとつ、考えが浮かんだ。
「・・・・」
お前のやることを知ることが先だ。そうでなければ、俺がここにいる意味がないのだから。その為ならば、この身体とてどうなろうと構わない。
だから、必要とあらばあえて乗ってやろうではないか、お前の作戦とやらに。
「必要ならば、別にかまわん」
喜ぶか、予想通りだとあの嗤いをするだろうと思っていたら、意外なことに、高杉は驚愕の表情を見せた。
演技などではない。これは、こやつが心底驚いたときの表情だ。
「?!」
「その代わり、貴様の目的を正直に話せ」これは案外、交渉としては上等ではないか。
「・・・・お前は」
そこまで言って、また高杉は口をつぐんだ。
あきれたように、だが、何か考える様子でしばらくすると
「後悔、すんなよ」と言って近づいてきた。
俺の肩を両手で掴んで、引き寄せる。髪をとめている紅い簪を、どうやらくわえて、落としたらしい。カチャンと、床に高い音が響いて、長い髪が散らばった。
気障なことをする・・・と思った瞬間、
「もう少ししたら、教えてやる」
耳元で、高杉が低くささやいた。その吐息と、声音にぞっとする。今まで聞いたことのない声だ。まるで、男が女を口説くようじゃないか。
俺相手に・・・好きにするが良いと言って覚悟を決めている俺相手に・・・なぜそんな声を出すんだ。