風呂から出ると、いなかったはずの主が戻ってきており、いつもその部屋でそうしているように窓枠に半分腰掛けた姿勢で煙管をくゆらせている。
無意識に乱れてもいない襟を正した。
「そんな、おびえんなよ」クク、と、高杉がこちらを見もせずに笑うのが分かる。反射的に、「怯えてなどいない」と言い返していた。
「そうかい。昨日は随分ふるえていたみたいだったが」
「武者震いという奴だ。貴様相手に俺が怯えるわけがなかろう」
「そうだったな、痛くも痒くもねえんだろ」と、いつになく饒舌な風情に苛立つ。
「お前の考えていることは、昔からわからん。俺は貴様のそう言うところが嫌いだ」
と言えば、
「嫌いな男に」と何か言いかけて、また煙管を吸い始めた。気にはなったが、その場から立ち去りたいと思う方が強かった。
部屋を出て行こうとすると、珍しく呼び止める声がある。「何で責めねぇんだ?」と言った。
回りくどい言い方はこの男の特徴だと思うが、言いよどむのは珍しいことだ。この男なりに、罪悪感を感じているのかもしれない。
「きにしていないと言ったろう。昨日のこと、俺は別に怒っていない。ただ、不思議に思っていただけだ」
振り向いたとき、今日初めて高杉と目があった。