そっと、抱き寄せられた。
結い上げていて見えている項に唇が押し当てられたのが分かる。
ちりっと、鋭い痛みがした。・・・こいつの行動はおおよそ理解できない。
文句を言おうかと思ったそのとき、奴が耳元で、本当に小さくささやいた。
「大事にしてやってくれ」
それだけ言うと、俺の顔も見ずに、くるりときびすを返して歩き出した。呼び止めようと思ったが、ここで高杉の名を出すのもどうか。
逡巡ののち、「おい、待て!」と声をかけた。
顔だけ半分振り返った奴の、顔はいつもの憎たらしい顔で。
「今日のお前は、・・・存外悪くはない」
なんと言ってみようもなかった。
最後に、奴がいつものように、ニヤリと嗤ったのがかすかに見えた。