>>152 将軍が替わっているのだから今の幕府にケンカを売るのは筋違いだの、お前のしようとしていることは先生は望んでいないだのとつらつら言葉を並べたが、
高杉は全く応えない。聞いているのかいないのか。
しかし、無言なのは苛立っていたからのようで、今の将軍は存外いい人だった・・・と言ったところで、高杉の怒りは頂点に達したようだ。
突然、「てめえは何にも分かっちゃいねえ!」といってつかみかかってきた。
が、はだけた桂の着物からのぞいた素肌を見て、一瞬とまどうような表情を見せた。
そこで、その隙を逃さず桂が顔面にパンチを食らわせたところで、高杉の中の何かが切れた。
翌日、起きてきた高杉の顔を見て、万斎は大げさに驚いた。
「晋助、どうしたでござる、その顔は・・・」
「ちょっところんでなァ」
顔には青あざがあり、腫れている。短い袖からのぞく腕には幾本のひっかき傷があった。ただごとではないと思ってはみても、口に出せない。
「月子殿とケンカでも?」じろりと高杉が万斎をにらんだとき、
来島が駆け込んできた。
「万斎!月子さんみかけなかった?いつもこの時間には朝食の準備で食堂にいるはず何だけど、いないっす!
寝室にも行ったけどいなくて・・・あつっ!晋助様、ど??????したんですか?その顔!誰にやられたっすか!!!
刺客がいるっすか??!晋助様を襲撃するなんて絶対許さないっす!」
「・・・きんきんとうるせぇな。転んだだけだ。どうもねえ」不機嫌にそう高杉が応えた。
そこへ、いつものメンバーが揃ったところで、いつものメンバーの欠けていた一人が現れた。「済まない、寝坊してしまってな・・・」
と、偉くこぎれいな月子がやってきたのだ。だが、違和感があるのは、いつも結い上げている髪が下ろされて、後ろで結ばれているところか。
男の時の桂を思わせる髪型だ。とたん、「大丈夫っすか??寝室にいなかったみたいっすけど?」のぞき込むように来島が駆け寄る。
やんわり曖昧な笑みで「嫌な夢を見て寝汗を掻いたので風呂を借りていたのだ。心配させて済まない」と月子が軽くお辞儀をした。
そのとき、あっと来島が声を上げた。首筋にぎりぎり紅い出血斑がみえた。
「虫に刺されたっすか?この時期、もうでるんすね。かゆいっすか?薬あるっすよ」
その言葉に、月子ははっとして首に手をやり、
「ああ、そういえば悪い虫に刺されたようだ。痛くも痒くもないがな」と笑った。
納得したのか、来島は話を変えた。晋助様が大変なんっすよ??と青タンのある高杉を示す。「転んだっていうんですけどね」と。
月子は、高杉の方をちらりと見た程度で、「おおかた、奴の部屋にも虫がでて、格闘して転んだんじゃないか」とさらりと言った。
その日の朝食ほど、重苦しい雰囲気だったことはない。高杉の苛立ちが半端ではないからだ。ひしひしとその不機嫌なオーラを感じた万斎は、
はてどうしたものか、とかんがえていた。これは、思っているより早く桂を売った方が良いのではないかと。
万斎の不安は、杞憂に終わらずその日の昼過ぎに確信に替わった。
桂が水菓子を作ったのだ。来島と。
そして、それは吉田松陰から教えてもらったものだという。
「高杉はあまり甘いものを食べないが、これだけは好きでな」と、来島に教えた。
来島は、自分の知らない高杉の話を聞きたくて仕方ないようだ。
「今日、元気なかったから、これで晋助様に元気を出してもらうっす!」と大はりきり。
そこへ、本人登場。高杉の前へ、自慢げに来島が水菓子を差し出した。「これ、月子さんと作ったっす!」どうぞ、と。
その瞬間のこんな表情の高杉を見たのは、おそらく、この場にいた桂以外全員はじめてだったろう。
懐かしそうな、寂しそうな、うれしそうな顔をした。
「お前、好きだったろう」と月子が言うと、「甘いものはすきじゃねえ」と素っ気なく応える。そのわりに、じっとその菓子を見つめているから、なんだか可愛い。
気をよくしたのか、月子が得意げにしゃべり出す。
「銀時の家にやっかいになったときも作ったんだ。うまいと言って・・・」と桂が言い終える前に高杉が、ドン!!と、机に水菓子をたたきつけた。
そして、そのまま無言で去っていってしまった。
ぽかんとするのは、みんな一緒だ。
万斎は、そのあと、ゆっくりと邂逅する。
あの反応、白夜叉の名前が出たタイミング。あれではまるで・・・(嫉妬ではないか?)
その日の夕方、西日がまぶしい時に、一仕事終えた高杉がデッキにたたずんでいる。
万斎は、たまたま通りかかったのだが、はて?と、違和感を感じた。
高杉がいる場所は、船の先端近くの端。手すりを越えれば空、と言うところにいる。
これは、いつも煙管をふかして悠々としている高杉の定位置だ。だが、おかしいのは、煙管を持っていない。かわりに、なにやら紅い・・・簪を持っている。
“あれは確か・・・月子殿の?”その表情は、ちらりと横顔しか見えなかったが、なんとも、つらそうな、切なそうな表情に見えた。
時折、手すりの向こうへ簪をかざしてみては、また手元へ戻す。そんなことを繰り返している。ただ、もてあそんでいるようにも見えるし、
捨てようかどうするか、悩んでいるようにも見えた。どちらにしても、その悲壮感あふれる光景は、万斎に見ては行けないものを見てしまったような気にさせた。
それから、二人の間に溝が深まるかと思っていたが、これまた意外なことに、そうではなかった。高杉にその後傷は出来なかったが、
月子が高杉の私室に泊まることが多くなっていたのだ。昔話に花を咲かせているのか、はたまた・・・
月子が来て、三週間が経ち、江戸はついに幕府が一人の女のために懸賞金をかけて捜索を開始した。もちろん、月子には伝えていない。
そろそろ頃合いかと万斎は高杉に話を持ちかけた。そして、どうしても気になった事も確認したかった。
「予定の変更もあるのでござろうか」
「万斎。もし、将軍がめとった女がすでに孕んでいたとしてよぉ・・・知らずに、幕府がその子を時期将軍にしたとしたら、面白いとおもわねえか?」
「・・・それが狙いでござるか」恐ろしい男だ、と万斎は思う。
「だが、それじゃあ、この世界をぶっ壊すことにはならねえよ。俺はそんなに気が長い方じゃねえ」
あえて確信を言わない話し方はこの男特有のものだ。もし、高杉の言った面白いこと、が、事実であったとしても、この男の望む形ではないだろう。
むしろ、桂のとく、体制を替えるだの、中から替えていくだのの方法に近い。ここ数日の、二人の関係が双方納得の上だったと仮定すると妙に現実味がある話だ。
同時に、幼なじみでかつての仲間であった関係を飛び越えてまで手に入れようとするものの為に動く、攘夷志士の奇妙な絆にぞっとする。
「折を見て、将軍に使いを出すが、今はまだその時期じゃねえ」クク・・・と高杉が低く嗤った。
今日は、何かの記念日だとかで、鬼兵隊の主要メンバーで宴会が行われた。万斎と高杉で三味線を弾く。そうしたら、月子が踊ると言い出した。
「てめえが踊りたあ・・・どうしたい?えらくあか抜けたじゃねえか」などど馬鹿にする口調なわりに楽しそうな高杉。
「事情合って、西郷殿に教えて頂いたのでな。」と、センスを片手に舞出す。元々が美人なだけに、立ち姿も舞姿も見事だ。みな、見ほれた。
万斎さえも。消すのは惜しい存在でござる・・・などと思ってしまった。
まるで、花のようだ。
すこしして、高杉が、歌を替えた。
突然、調子を変えた。
そして、詠んだ歌は・・・「あだしのの、たとえこの身は くちるとも・・・」
「とどめおかまし大和魂・・・」
月子の手から、ぽろりと扇子が落ちた。
その様子さえ、美しかった。
そして、くるりと高杉を振り返ったときの顔は、一生忘れることが出来ない。
悲しげで、寂しげで、儚い笑顔・・・
美しすぎて、この世の者とは、思えなかった。
交わし合う二人の無言の視線の中に、一度は切れたであろう絆が見えた気がした。
呼ばざる客が来たのは、この翌日のことだ。
「ヅラいる???」
ご丁寧に、配達の海援隊の船でやってきた白夜叉。帯刀していないことを大げさにアピールしながら、のんきそうにやってきた。
考え抜いたあげく、自分を積み荷として、鬼兵隊に届けて欲しいと坂本に交渉したのだ。
血眼になって探している幕府のところへ、数日前鬼兵隊に月子がいる旨の報告が入った。
真選組を始め、幕府軍はいきり立ち、総出で鬼兵隊を捜す動きを強めていたのだ。親友?の沖田達から聞いた情報だった。
桂が万事屋にもどらず消えてから手がかりが何もなかったことから、早くも高杉に目を付けていた銀時であったが、確信がなかったのと、
相手が何処にいるか全くつかめない状況であるのとで動けずにいた。また、面倒なことになると言う覚悟も必要だった。何とか坂本に連絡を付けて、
ようやくたどり着いたのが、この鬼兵隊のデッキである。
「迎えに来ました??。うちの依頼人なんでね」
「帰るかどうかは、月子殿が決めることでござる。・・・もっとも、白夜叉殿がどんなに衣ツバメの巣を持ってきたところで、かぐや姫が帰るところはひとつであろうが」
いつも死んだような目をしている銀髪の男の、その目が鋭い光を帯びたのを万斎は見逃さなかった。
高杉は、私室で桂に言った。
「お前が決めろ」
「銀時のところへ戻るかどうかか?・・・ずいぶんと世話になってしまったし、お前にもみんなにもこれ以上迷惑をかけるわけにいかんしな・・・」
「そうじゃねえ。将軍をお前が殺るかどうか、決めろ」
「な・・・」
高杉は、桂に短刀を見せた。
「大和魂、まだあんのか」
「高杉・・・」
「将軍のとこへ嫁げば、その無防備な首に一番近くなる。お前もそれが望みだったはずだ」
「それが俺を抱いた理由か・・・」僅かに、桂の目に陰りが見えた。
「お前なら、大丈夫だ。どんな男でも夢中になるさ。俺が保証するぜ。一番無防備なときに側にいるんだ、確実にしとめられる」
桂は、勢いよく首を横に振った。
「だが、あの人は・・・先生を弾劾した将軍とはちがうのだ」瞬間、
「関係ねえ!!!」ぴしゃりと言った。
「いいか、ヅラァ・・・将軍の血は将軍の血よ。血統をつぶさなきゃならねえ」
「高杉・・・」
「できないってんなら・・・」俯いた高杉の表情は読めない。だが、狂気を感じる。
「・・・預かろう」
桂は、おとなしくその短刀を高杉の手から奪った。
「そのかわり、お前はもう江戸に近づくな。守れるか?」
「・・・てめえが成功した暁にはな」
後は、お互い無言だった。それは、暗黙の了解を得るようにも思えたし、お互いの本心をはかり合うかのようでもあった。
銀時と、高杉が会うことはなかった。
桂だけがその後姿を見せ、いなくなったときと同じ出で立ち、同じくはにかむような笑顔で銀時を迎えた。
結い上げた髪には、あのときの紅い簪が着いている。無事な姿を確認して、ほっとする。見送りに、来島が来ていたが、寂しそうに月子を見ていた。
桂が「来島殿、色々世話になった」とお辞儀すると、何か言いかけたが、「・・・この方が良かったのかもしれないっす・・・」と、銀時と月子にだけ聞こえるような声で言った。
銀時が、「じゃましたなあ」と言って、桂とともに去っていった。
5.幸せな花嫁
さて、殺気立っていた江戸の街は一転、お祝いムード一色である。
桂が万事屋に戻ったところで、真撰組にもそのことがしれたためだ。
鬼兵隊の捜索は緩くなり、変わりに桂が将軍家へ嫁ぐための準備に大忙しとなったのである。
帰ってきた桂は一転して、結婚を承諾した。
銀時には釈然としないところが多かったが、まあ、コレで悩みの種も消えてめでたしめでたしなのかという気持ちもあった。
誰よりも、さっちゃんがなぜがこれを祝賀していた。(その話をしていたときも、突然天井からやってきて、「そうよ、それがいいわよ!」と大絶賛したのであった。)
新八と神楽はどことなく不満そうな顔で、
「それでいいんですか、銀さん」
などと言うのだが、お尋ね者より良いでしょうがと銀時が軽く返すので、それ以上何も言わなかった。
たが、その実、銀時の心情は複雑だった。
別に、ヅラがどうなろうと、俺の知った事じゃない。あいつがやりたいようにやり、生きたいように生きれば良いだけだ。
俺たちは、元々昔からそうやって生きてきたじゃないか。それは、男であっても、女になった今も替わらない。
ただ、そうやって生きてきた中で、たまたま交わるところがあったと言うだけの話だ。これから先、交わることがないとしても、それはそれで仕方のないことだ。
だが・・・なんだろう、この釈然としない思いは。
あいつがまっすぐ生きていくことに、俺は立ち入ることはしたくない。あいつが曲がったときに俺が叩き斬るだけだ。そう言う関係だ、俺たちは。
なのに・・・何でこんなにもやもやするんだろう。
嫁入り前夜、なんだかよくわからないが、そう言うものだと思ったのか、桂は万事屋の面々の前で三つ指ついて深々と礼をした。そして、
「長らくお世話になりました・・・」と言った。
「おおおおおい!ヅラ君、気持ち悪いよ!やめてやめて!お父さんじゃないからね、俺たちは」
「ヅラ、ふつつか者だったけど、将軍によろしくしてもらうヨロシ。あ、そよちゃんにあったらこの酢昆布渡して欲しいアル!後、手紙も!」
「桂さん、本当に良いんですか?」新八だけは、最後まで確認している。
「いいんだ。もう、きめたことだ。きっと逃れられないだろうし、これはこれで・・・ひとつの生きる道だ」
その夜、珍しく銀時が一緒の部屋で寝て良いからと、ソファーじゃなく自分の寝室に二組の布団を引いた。
「最後に、ずいぶんと優しいんだな」
「お前、本当は何企んでるんだ?」
「何も企んでなどいないさ」
ふう、とため息をついて銀時が正面から桂を見据える。
「お前、嘘つくとき、鼻の穴広がる癖があるぞ」
「まじでか!?」って、鼻を押さえてしまったという顔をする桂。
「・・・鬼兵隊に迎えに行ったとき、偉くお前は馴染んでいたな。あの高杉相手に、つかまって、逃げようとせずにいたのも、考え合ってのことなんだろ」
「今の将軍は・・・茂茂どのは、誠実でいい方だ。この国の未来を、あの方なら本当にいい方向へ導いて下さるやもしれぬ。
だが、高杉は、そんなことは関係ないと言った。その血筋に責任を取らせると。説得できればよいかとも思ったが、あやつ相手には無理な話だ。
そうそう、人の考えなどは変わるわけもない。」
「そりゃそうだ。人の考えなんかかわらねえよ。特に、頭の固いお前らはな。・・・なのにどうだ、おまえは。もどって来るなり結婚にあっさり承諾。
一体、あいつのところで何があったんだよ。」
お前の考えを変えるほどの、なにがあったんだ。
銀時がこういう目をしたときは、言い逃れできないことを桂は知っている。
ある種の確信の元で聞いてきているからだ。
「女になれば、考えも変わる・・・ということか。お前も、一度女になって見ろ。世界が替わるぞ。物事の見え方が替わってくる。新しい発見の連続だ。
そう言う意味では、この経験も悪くはなかったかもしれぬ。もちろん、戻れるのであれば今すぐにでももどりたいが」
「答えになってねえだろ」
「そうか?」
「俺は、高杉と何があったかって聞いてるんだよ」
「しつこいな、貴様は・・・何もなかったと言っているのに。さては嫉妬か?男の嫉妬は見苦しいぞ」
「嫉妬じゃねえええええ!!!気持ち悪いこと言うな!!!!」ぽかっと桂の頭を殴った。しかし、以前に比べるとその威力はすこぶる弱い。
「ともかく、もう遅い。輪は回り始めたのだ。止めることなどできぬよ。・・・もっとも、結婚などと考えたことはなかったが・・・
というか、自分が嫁ぐ立場でなんて全く考えたことはなかったが」
「当たり前だああアアア!」
「こんな俺をもらいたいだなどと、あの方も奇特な方だとおもわんか」フフと、桂はさもおかしそうに笑った。その顔を見るのは、ああ、久しぶりだと思った。美しいとも。
「なぁ、銀時。俺たちは俺たちだ。それ以上でも以下でもない。昔も今もだ。替わらぬ関係があるのではないか。たとえ、もう二度と会えないとしてもだ」
大奥の御台所なんてたいそうな地位、ちょっとやそっとでは外に出ることはかなわない。
一度入ったら、ツレが死ぬまで(将軍が死ぬまで)、いや、死んだ後だってそうそうでれないだろう。
「いやいやいやちょっとまって。お前さ、子供産んだら男にもどっちゃうんじゃなかったっけ??何でずっと大奥ですみたいな事言ってンの??」
「う??ん。そうだな、まあ、今のはもののたとえだ。子供がいつ出来るか分からないし、もし出来なかったら一生このままか・・・。
いや、俺は男にもどらねばならないし、もどったらまた攘夷活動をするだけだ。和田月子がこの世からいなくなるだけだな」
「よく考えたらさ、・・・それってマジやばくね????もし、子供が出来ても、お前、置いてくの?それともつれて?どっちにしても両親いない子になっちゃうよ!
っつーか、将軍の子連れて行ったらお前ただの誘拐犯だからね!男にもどった暁には、切腹なんてモンじゃないよ、コレ」
「・・・血など関係ない。生みの親より育ての親がしっかりしていれば、子は育つ。それはお前がよく知っているじゃないか」
「そうだけど・・・って、おいいいいいい!!!そういう問題じゃない!お前、ダメだわ。全然ダメ!男として、女としてか?無責任すぎる!!
そして、なにより将ちゃんがかわいそうすぎる!!!」
といったところで、いきなりふすまが飛んできた。
「うっさいある!!!ねろ!!!!」
神楽がつり上がった目をしてふすまごとけっ飛ばしてきたのだった。
まあ、銀時の言うことには一理あるが、もとより、目的は違うところにあるわけで・・・なんとか桂は銀時をなだめて、落ち着かせようとした。
「も??銀さんはしりません。」銀時の最後のせりふはそれだった。
その日は、いきなりの、歌舞伎町からの嫁入り行列。
見物人も、警備員もすごかった。
見送りに銀時の姿はない。朝桂が起きたときからいなかった。
そんなものだろうな。と、昨日のケンカを思い出す。
そして、そっとみんなに笑顔で手を振ってからかごに乗った。
屋根の上で、その様子を見ながら、銀時は考えていた。
・・・あいつは、分かってるはずだ。
この結末がどういうものになるか。あいつは、子供を見捨てられるような薄情な奴じゃない。孤児だった俺のことさえ、あいつが一番気にしていたのだ。今でも。
なぜ、あいつがあっさりと結婚を受けたのか。
なぜ、あいつはこっそり腰に懐刀を差していたのか。
答えはひとつじゃねえの?
俺は、どうしたらいい?
お前を止めればいいのか?
それとも、知ってて見ぬふりをすればいい?
・ ・・・
あ??もう!
「がらじゃねえんだよ・・・」がりがりと頭を掻いた。
俺はお前の考えなんか知らない。
俺は俺のやりたいようにやるだけだ。
華やかな花嫁行列。きっと高杉も見ていることだろう。
行列が、大通りに出たところ。
人混みの中をかき分けて、籠に走り寄る銀髪の男がいた。
大声で、叫んだ。
「ヅラ??????!!!!やっぱ、俺のところに来い!!!」
なんとも、大胆なプロポーズ?であった。
「お前がいないと生きていけない??????!!!おれと結婚の約束したじゃないかあああ??????!!!」
取り押さえられながらも、一歩も引かない。
なんなのだ、一体。どういう設定になっているのだ。と、考えを巡らす桂。
「好き合っているのに、俺たちの愛は、権力にまけるのか?」
くそ恥ずかしいことを大声で言うな。
「お前がいれば俺はそれだけで良いんだアアア!!!」
そういうことか・・・
まったく。
どいつもこいつも肝腎なところは変わらない。
俺だって、
変われなかったよ。
高杉。
ようやく、その声に反応して籠から顔をのぞかせた桂は笑って言った。
「私も、貴方を愛しています!!!貴方となら、何処へでも!!!」
大げさな、茶番だった。
正式に、桂と銀時は将軍にごめんなさいと謝罪をした。
あろうことか、将軍は、「好きな方がいたから、迷っていたのですね。正直に打ち明けて下されば良かったのに・・・」と笑顔で祝福してくれた。
それどころか、それはそれは金の刃履きと留め具のある立派な刀を持ってきて、「これは私が元服した折り、先代から頂いたものです。
これをふるうことは今後ありますまい。その誓いとして、貴方に祝いを兼ねて贈ります。もし、誓いが破られるようなことあらば、
この剣で私を斬るのも良し、金策に困ったら売って下さっても構いません」と付け加えて。
なんとできた人だろうと、桂は感服した。
それを聞いていた銀時は、最後の“売って金にする”という言葉に思いをはせていた。
そうした事情合って、何週間か経った頃、万事屋で結婚式が開かれることになった。(というのも、そうしなければ納得されなかったためだ)
まあ、形式上の結婚式であったが、万事屋に何人かがお祝いに来てくれた。
事情を知らない万事屋以外の面々は、(特にさっちゃんの攻撃はすごかった)非常に驚いていたが。
なんやかんやとにぎやかな祝いの席で、桂が突然、気分を悪くしてトイレに立った。
それを見たお登勢がすかさず
「おやまあ、銀時、あんたって人は、結婚前になにやってんだい」
と言ったので、「はあ?何言ってンだ、ババ・・・」と言いかけて、
突然その言葉の真意に思い当たったところがあったのか銀時は、青ざめてトイレに駆け込んだ。
案の定、うずくまった桂は吐いていた。・・・・・・・
「ヅラく??ん、ヅラ君・・・どういうこと?」
「あ・・・すまない。どうやら何かにあたったらしくて・・・」
「いやいや、みんな同じもの食べてるからね、コレ。っつーか、昨日もその前も同じモン食べてるからね!!!!」
「そうか・・・?」
とぼけたような桂の肩を掴み、ゆする。
「ていうか、なんだそりゃ??????!!!!てめえ、結婚式当日に誰の子を身ごもってるの???!!ひどくない??!!
コレって何、成田離婚じゃなくて結婚式離婚かああああ!!!!」
ドカーッ 蹴り倒された銀時。
「うるさいアル!」