「実のところ、冬木に顕れる聖杯が"神の御子"の聖遺物とは別物だという確証は、とう
の昔に取れている」
絨毯の上を滑るかのような二人の足運びを見据えながら、時臣は右へと流れた璃正よりもさらに
右へと移動する。三者は互いに渦を描くようにして、絨毯の毛足を踏み散らしつつ動き始めた。
回り込み、回り込まれ、つねに三者のいずれか一人を焦点に、残る二人が渦を描いて左右に
馳せる。吹き抜けの上から見下ろせば、それは奇怪な組円舞に見えたかもしれない。
"決して挟み込まれぬよう、つねに両者を同時に視界に収めるべし……"
時臣は彼らの戦術を知っていた。聖堂教会との対談は、つねに間合いの読み合いである。一方が
迫ればそれは嘘。むしろ残る一方を意識して、側面へ回り込まれるのを避けねばならない。
言峰親子――
彼らがその生涯を費やして会得した八極拳の功とは、一糸乱れぬ絶妙のコンビネーション殺法
だったのである。
「綺礼くん、君には派遣という形で聖堂教会から魔術協会へと転属し、私の従弟となって
もらう」
引き続き事務的な口調で、遠坂時臣は話を進めた。
百舌の早贄にあやかる戯れ言はここまでだった。次はまたあの超音速の声が来る。
叩きつけられるワインの芳香。疾風よりなお速く、雷鳴よりもなお轟々と、すべてを超越し
た時臣の体躯が再び奔る。