「せっかく東京に来たのだから、原宿で服を買いたい」。この言葉、地方から上京
した子が言ったのではない。フランスの高校生が今春、ホームステイ先の知人に
言って驚かせた。でも私は、驚かなかった。かつて日本人が「ファッションの都・パリ」
にあこがれたように、今や世界の若者にとって「ハラジュク」は、重要なファッション
発信地の一つだから。日本の大人たちが時にまゆをひそめる、若者たちのストリート
ファッションを、海外のデザイナーたちは異口同音に「創造力をかきたてられる
素晴らしいセンス」と絶賛している。戦後60年−−。日本のファッションは、
政治や民主主義などよりよほど成熟し、世界の尊敬を集める水準に達している。
が、当の日本人の多くが、そのことに気づいていない。ファッション担当記者として、
私はそれが残念でならない。(中略)
もちろん戦後、世界に勇躍した日本人デザイナーもいる。高田賢三さんや三宅一生
さんらは70年代、日本人ならではのセンスを生かした作品で、世界のファッション界に
大きな影響を与えた。コム・デ・ギャルソンの川久保玲さんや山本耀司さんらは今も
パリコレで活躍し、世界的な名声を得ている。しかし当の日本人が、シャネルやヴィトン、
ディオールなどの名前ほど、その重みを知らない。(中略)
だが戦後60年の今年、日本にも変化の兆しが表れた。内閣府の知的財産戦略
本部が「海外に誇れる日本文化」として、映画や食とともにファッションを挙げたのだ。
(中略)海外のブランド品には確かに伝統に裏打ちされた価値と品質があるが、そこに
1兆円も費やされる日本のファッション市場はいびつに映る。その100分の1でも
日本の若手デザイナーたちに向けば、もっと多くの才能が花開くはずだ。まずはこの秋、
日本ファッション・ウィークに目を向けてほしい。それは日本のファッション界を底上げし、
将来あなたが手に取る洋服を豊かにする。何より、未来に希望を持ちにくくなっている
この国の若者に、新たな夢を与えることにもつながるはずだ。
ソース(毎日新聞・記者の目、國保環氏・生活家庭部)
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20050923k0000m070154000c.html